今日もいつものようにホセの下へ行く。ホセは昔、魔法王国アルテナにその人ありと謳われた大魔導師だったらしい。そんなホセの下でだったらきっと、…きっと魔法が使えるようになると信じて。
…だけど、ホセの下で学んでいても未だ魔法を使うことが出来ない。内心で焦る私にホセは毎回やんわりと説教をしてくる、格好ばかり気にしているからだと。肝心の心が伴わないといけない、でなければ魔法は使えないと。…そうは言うけれど、私を見てくれない皆が悪いんじゃない! こんなんじゃ心なんて疲弊するだけ、…伴える筈がないじゃない。
そこで私はいつも反発をする、ホセの下から逃げ出すのが日常。そして逃げ出した先にいるヴィクター、彼は弄ると面白い。嫌なことがあった時は彼にイタズラをする、その反応が好き。…でもその後の困ったような微妙な顔、その顔は大嫌い。怒りたければ怒ればいいじゃない! …どうして距離を取るの? 私はそんなの望んでいない。イタズラをしたんだから怒ってよ…、私を叱ってよ……。何で憐れむの? 私は………。
そんな日々の中で、この魔法王国アルテナに不穏な空気が流れている。発端はマナの減少による結界の弱体化、そのせいでここは勿論のこと大陸全体の天候が悪くなっている。アルテナはまだましだけど、零下の雪原とその先にある雪の都エルランドは最悪の天候らしい。常に猛吹雪で人々が難儀しているみたい、このままでは凍死で全滅する可能性もあるとか。
そんな未来を防ぐべく、アルテナは草原の国フォルセナへ戦争を仕掛けようとしている。…私の嫌いな紅蓮の魔導師を総指揮官に、お母様の号令でその準備が進められている。…自分達の為ならば他国がどうなろうと知ったことではない、…以前のお母様や皆ならばこんな考え方はしない…と思う。とても…とても厳しいお母様だけど、その一線は越えないと思っていた。…それがこんなことになるなんてね、…紅蓮の魔導師がこの国に戻ってから流れが変わった。…私が何を思い考えたとしても、お母様達は紅蓮の魔導師を信用しているから何も言わない。…落ちこぼれなんてお呼びじゃないもの、私よりも戦争だもの………。
私自身、魔法を使えないということに思い悩んでいたある日。ヴィクターから、お母様と紅蓮の魔導師が私を呼んでいると伝えられた。更にお母様がいよいよ、草原の国フォルセナへ侵攻を開始するらしい。…何か凄く嫌な気がする、…私を呼び出したのもその関連じゃないだろうか?
…でも私は魔法を使えない、侵攻の役には立たないと思うんだけど。………それ以外で私に何の用だろうか? 言葉では言い表せない確かな不安、それを胸に秘めて女王の間へ向かう。…何故だろう? 歩を進める度に言い知れぬ恐怖に襲われる。女王の間へ向かう私に向けられる視線が私を孤独にする、このまま進んでしまったら私は自分の立場を嫌でも理解してしまう気がする。
……………だけど、もしかしたら何かしらで私を必要としてくれるかも? 大きな不安と小さな希望。私の運命が決まる、その結末は……。
…そして、向かった先の女王の間にて、
「お前の命と引き換えにすれば、マナストーンのエネルギーを放出することが出来る。王家の恥であるお前が役に立つのだ、光栄に思いながら散りなさい。…せめてもの情けとしてその名を残してやる、女王の娘に相応しい散り様であったと。」
お母様の口から残酷な言葉が紡がれた。…私は王家の恥、生け贄にしかならない者。…やっぱり私は生かされていただけだったんだ、この日の為に生かされていたんだ。当然…誰も助けてくれない、冷たい視線が私に注がれる。
必要なのは私の命だけ、…だから私を見なかったんだ。私がイタズラをして迷惑を掛けても怒られなかったのは、…生け贄の為に生きる私を憐れんでいたから。落ちこぼれの私が追放されなかったのは、…生け贄にする為だったんだ。お母様に愛情を向けられなかったのは、…死ぬ運命にある者だったから…なんだね? …希望はなかった、死ぬ運命にある私が持ってはいけないもの。
絶望する私に向かいお母様、…理の女王は、
「…さぁ、こちらへいらっしゃい。」
冷たい…無機質な表情でそう言った。横に控える紅蓮の魔導師は笑みを浮かべている、…役立たずにはそれしか価値がないと言いたげな目だ。周囲の兵達も同じ、…きっとホセやヴィクターもそう思っているに違いない。
…誰も私を見てくれないのね? 私のことを認めてくれないのね? 私の価値は命だけなのね? ………分かった。私の居場所はここにない、もっと早く気付けばよかった。この国に拘るのはもう止めよう、認められるよう私なりに頑張ったんだけどもね? …全部無駄だったんだ。
………貴方達の思い通りにさせてあげない、私はここで死なずに生きる。生きて見返してやるんだから、貴方達以上の力を身に付けてみせる! こんな所で終わるもんですか!!
「………いつか後悔させてやるんだから!!!」
私は力の限り叫んだ。それと同時に身体の底から何かが溢れて、…私の視界を白く染めた。
…意識を取り戻し目覚めた先は雪の上、…ここは零下の雪原? …私は城の外に出ることが出来たの?
意識がはっきりとした時に気付く、…物凄い吹雪だ。
「………寒い。」
素直な言葉が出てきたけど、この状況を何とか出来る程の力は私にない。…よって少し遠いけど雪の都エルランドを目指そう、ここにいたら死んでしまう。せっかく命の危機を抜け出せたんだから、ここでも足掻いてやる。何もしないで凍死するよりも、無理をしてでも雪の都エルランドへ。
寒さに震えながら進み見付けた女神像、…まさかここまでとはね。もう歩く力がない、私はここで終わり。………でも、生け贄で死ぬよりましよね? 私が自分で示した結果の死…なのだから。
…確かな満足と、ここで終わる無念を思いながら私は再び意識を手放した。
あれ?
アンジェラの様子が……。