墓標あるいは墓場   作:痛み分け

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幽閉される理由に触れると言いましたが、できませんでした。

難産でした。

急ぎ足で書き過ぎたので、急展開に感じると思います。

それでは、どうぞ。







綻び

 

 

 私は不幸というものを理解していた。しているつもりだった。

 

 それは今までの私の人生を、他人が見れば同情に値すると認識していた。だから、その感情を示す言葉を不幸だと学んでいた。そして、幸と不幸は表裏一体のものだと分かっていた。

 

 私は幸と不幸の認識を間違っていたのだ。

 

 確かに幸と不幸は表裏一体だ。だが、それは個人に対してのみ、言えることではないのだ。

 

 つまるところ、世界で誰かが幸せになっている反対に、その人以外の誰かが不幸になっているということだ。

 

 私はその意味を理解してはいなかった。

 

 これは私に課せられた罪であり、その告白だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーサーと出会い、結婚したことは私にとって幸せな出来事だった。

 

 それは秘密の共有者が出来た事と、私のような人間であっても人を愛し愛すことが出来た事の証左に他ならなかったからだ。

 

 それを私は当然の様に享受した。きっと今までの不幸せの埋め合わせだと信じていたために。

 

 勿論の事ながら、それは誰かの不幸を背景にした幸せだった。

 

 

 

 

「姉君がいたのですか、アーサー?」

 

「今は二人きりですよ」

 

 その言葉で私は口調を直した。

 

「失礼しま…まだ慣れないね」

 

 これでも、公私の分け方は上手だと思っていたが、そうではなかったらしい。というより、この時は未だ気恥ずかしさが残っていたのだと思う。

 

「時間はまだあるので、追々直していけば良いんじゃないでしょうか?」

 

「そういう割には、度々注意してくるのは何故かな?」

 

「分かっていて聞いてくるのは、意地悪かと思いますが」

 

「お互い様じゃないかな」

 

 これが私たちの会話の始まりだった。

 

 あの頃は飽きもせずに、こんなやり取りを良くしていた。

 

「話を戻そうか。姉君がいたなんて知らなかった。

それでアルトリア、どんな人なんだい?」

 

 アーサー、――アルトリアは少しむくれた。

 

「少し妬けますね。

貴方の口から私以外の女性が出て、その人柄を聞かれるというのは」

 

 出会ったときと変わらず、独占欲が強かった。

 

「一応は家族なのだから知らないふり、とはいかないだろう?」

 

「分かっています、分かってはいますが、納得できるかは別問題ですよ」

 

 私にとってその独占欲を向けてもらえる、という事実が心の中では嬉しかった。だから、度々それを言葉にしてもらっていた。

 

「まぁいいです。いいことにします。

姉の名はモルガンと言います」

 

 その時、初めて聞く名前だった。

 

「モルガン様ね…、記憶が正しければ披露宴には来ていなかったね」

 

 そう言うと、彼女は少し顔を暗くした。

 

「そう、ですね」

 

 姉弟、いや姉妹の間で何か確執があるのだろうと私は何となく察した。

 

 触れない方が良いだろうと思い、口を噤んだが、彼女は自分から切り出した。

 

「姉、モルガンは私の結婚に反対でした。

理由を尋ねても口から出るのは、貴方の誹謗や中傷ばかり。

てっきり、私には言えないような事が貴方とモルガンの間にあったのかと思いましたが、そうでもないみたいですね」

 

 何故、モルガンはそれほどまでに私との結婚を嫌ったのか、その理由は非常に気になっていた。私の記憶違いでなければ、彼女の言う通り、私はモルガンと会ったことも無ければ名前も知らなかった。そもそもの話、彼女と結婚をする前は軟禁生活をしていて、外界とはほぼ繋がりの無い生活をしていた。

 

 唯一考えられることとすれば、あのお見合いに来た男の人の中に意中の人が居て、という様な典型的な嫉妬だろうか。そうだとしても結婚を反対するのも不自然な話だった。

 

 私はこの時、この話に不気味さを感じていた。

 

「…一応、僕の口からも言っておくけど、一切会ったことも話したこともないからね」

 

「ええ、大丈夫ですよ。

貴方が私に嘘をついていれば分かりますから」

 

 そう言うアルトリアの笑顔は不思議で、目だけが笑っていなかった。

 

 その結果、モルガンの話の不気味さが消し飛んでしまったのは仕方ない事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちの生活は幸せの連続だった。

 

 万事上手く回り、目に見えるような大きな失敗というのは無かった。

 

 いや欲を言うのであれば、子供を作ることが出来なかった。

 

 それは私たちだからこそ、抱える問題だった。

 

 どのような手を尽くしたところで、私とアルトリアの性別がひっくり返るわけではない。

 

 そのため、子供を身籠るのはアルトリアになる。それは王としての政務に差し障るだけではなく、アルトリアの地位が揺らぎかねない。

 

 人造の生命であるホムンクルスを、疑似的な子供にしようと考えたこともある。私たちにはメルと言う魔術に造詣が深い私のメイドと、メルよりも能力のあるアルトリアの相談役であるマーリンがいた。だから、この案は完全に無理ではなかった。

 

 だが、人道的な観点と未だ王としての政務が忙しい都合から見送られることになった。

 

 そうは言っても、後継問題が深刻なことに変わりはない。故に、もしもの時の対処をするために私は魔道の深淵へと片足を入れた。

 

 

 

 そうした幸せは、薄い薄氷の上で成り立っている。

 

 そのことを理解しているようで、理解できていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は彼女の王としての顔を見たことが無かった。

 

 それは私が意図して見なかったのも理由の一つだ。でも、大きな理由としては彼女が私に見せたがらなかったからだ。

 

 私はそれを駄目だとは思わなかった。

 

 夫婦だから、愛しているから、全てを見せ合い受け入れる。それは大変素敵なことだと思う。だが、私にしても彼女にしても、色々なものを偽って生きてきた。

 

 それは性別だけではなく、本来の性格や志向、おおよそ自己を決定付けるものを偽ってきた。そうした仮面を作り、磨き、身に着けていた。

 

 故に、私たちは全てを晒すことの恐怖を知っていた。

 

 愛しているからこそ、仮面を見られることを拒んだ。

 

 仮にそれを見せたとしても、お互いに受け入れることはできたと思う。それでも、虚偽にまみれた醜いもののせいで幻滅されるかもしれない、そんな不安を抱いていた。

 

 私たちは、いや私は覚悟するべきだったのだ。

 

 隠し通せるものなど、この世には無いことを。

 

 

 

 

 

 それは遅いか早いかの差でしかない必然だった。

 

 例えどこに居ようと、市井の声や騎士たちの声は耳に届いた。

 

 曰く、かの王は清廉潔白な騎士の鏡である。

 

 曰く、かの王は公明正大な人柄である。

 

 曰く、かの王は騎士道の体現者である。

 

 曰く、曰く、曰く、――――

 

 それは正しく、完璧な騎士、完璧な王の姿だった。同時に酷く歪な王の在り方だった。

 

 

 

 

 

 人は人で在るが故に完璧ではいられない。

 

 人は神ではないのだ。人には領分があり、限界が存在する。何より、人は不完全過ぎる。

 

 心と言う余分な機構がある故に、人はいつも合理的ではいられない。

 

 仮に全知全能であったとしても、己の心には逆らえない。

 

 人は人でしかいられない。

 

 そのはずなのに、それが分かっているはずなのに、誰もが理想を他者へと押し付ける。

 

 その結果が、彼女の王の姿だと言うのだろうか。

 

 人であるはずなのに、人としての在り方を否定される。

 

 それは何と身勝手だろう。それは何と歪なのだろう。

 

 何よりも、王の近くに侍る彼以外の円卓の騎士たちは、何も思わないのだろうか。

 

―――私にはわからない、わからない、わからない。

 

 

 

 

 

 

 あの日以来、歯車が一つ、ずれてしまったような違和感があった。

 

「ギネヴィア、どうしたんですか」

 

 いつもと変わらないはずの彼女の顔がそこにはあった。

 

 その微笑みはいつもと変わらないはずなのに、私には儚いものにしか映らなくなった。

 

「いや、なんでもないよ。

幸せな生活を送りすぎて、夢と現実の区別がついていないだけさ」

 

「そうですか…。それならいいのですが、何かあれば言ってください」

 他愛もない日々が変わって見えていく。

 

「ねぇ、アルトリア、君は無理をしていないかい?」

 

「していませんよ、いつも通りです」

 

 それは嘘で事実と言うちぐはぐなものだった。

 

 理想を体現するという、人でありながら人を止める行為は彼女の負担になっている。

 

 その一方で、私と会うときの彼女は本来の姿でいられることが拠り所となっている。

 

 彼女の言葉を否定するのは簡単だった。ただ一言、仮面を捨てろと言えばいいだけだ。

 

「そう、なら良いんだ」

 

 私はそう返した。

 

 捨てろ、という言葉に何の意味があるのだろうか。

 

 もう既に戻れないところまで来ているというのに。

 

 彼女には理想を体現し続けるしか道は残されていなかった。

 

 

 

 

 彼女が公務に行った後、私は近くに居た侍女に問いかけた。

 

「メル、僕は一体どうするべきだと思う?」

 

「どうしようもないかと」

 

「僕が動いたところで何も変わらない、ということか」

 

「聞かずとも分かっていたことを聞くなんて、ギネヴィア様らしくありませんが?」

 

「ねぇメル、僕は彼女の伴侶に相応しかったのだろうか?

彼女の王としての姿は分かりきっていた、そのはずだった。

耐えきれる、そう思っていたんだ。

でも、結果はこのザマだ。本当に笑えるよ。

僕は一体何を根拠にしていたんだろう」

 

「ギネヴィア様、それ以上は―――」

 

「たまらなく憎いんだ、この国が。

誰かの犠牲の上にしか、成り立たない。それはこの世の真理さ。それはきっといつの時代も変わらないのだろう。

でもね、どうして彼女なんだ。

たった一人の華奢な少女を犠牲しなきゃならない。それはあんまりじゃないか」

 

 そこまで言って、私は漸く冷静になった。私はメルに何も言わずに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 部屋を出て、私は城内にある庭園に居た。小さい机と椅子、自分で注いだワイン。

 

 ここは基本的に誰も寄り付かなかった。花を愛でる男性がほとんどいないことと、アルトリアが私以外の妻を囲っていないことが理由だった。

 

 気分が滅入ると、よくここにいた。

 

 ここは城の中にあるにも関わらず静かな場所で、私は非常に気に入っていた。

 

 と言っても、その時ばかりはそうならなかった。

 

 白を基調とした鎧を着た、女性と見まがう顔立ちの男が一人近づいてきた。

 

「ベディヴィエール卿、何か用ですか?」

 

「メルに様子を見てくるように頼まれただけですよ、そこまで邪険にしないでください」

 

「さすがの円卓の騎士殿も妻の尻に敷かれている、という訳ですか」

 

「酷い言い草ですね…」

 

 隻腕となりながら、なお勇名を轟かせる騎士。それがベディヴィエール卿。

 

 彼はアルトリアが私の下に来るときに連れていた供回りだった。

 

 主人は主人どうしで何かをしていると、自然と従者は従者どうしで何かをしていた。

 

 その結果、主人どうしが結婚すると、従者どうしも結婚した。それだけの話だった。

 

 とは言え、私が彼のことを知ったのはメルの結婚式当日だったが。

 

「ベディヴィエール卿、アーサーは無理していないですか?」

 

 僅かに顔に陰りが出た。

 

「無理はきっとしていると思います。

王は外に何も漏らしません。

辛くとも、苦しくとも。少なくとも弱音を吐いている姿を見たことなどありません」

 

「そうですか」

 

「あまりご自身を責めないでください。

あの方の拠り所は、ギネヴィア様なのです。

…本来は、我々円卓の騎士がどうにかするべき問題ですが、もうどうにも無い所まで来ています。

いえ、違いますね。

もう我々ではどうにもならない。そこまで追い込んでしまった。

王を、我が王をお願いします」

 

「いえ、貴方のような騎士が円卓に居る。

それは大きな救いになっていると思います。

貴方こそ、ご自身をあまり責めてはいけませんよ」

 

「ええ、分かっています」

 

 そう言って、去っていく彼の後ろには少量の血が付いていた。

 

 

 

 

 

 

 小さな綻びはやがて大きな綻びへと形を変える。

 

 それは仕方のない事なのかもしれない。

 

 

 

 

 






色々と書き方を変えてみたりと、読者に無理を強いていくスタイル。

剣豪七番勝負が配信されましたが、史実が事実なら割とヤベェ奴の義輝様がいそうにないので、

ほっとしていいのか、なんでやぁーと言えばいいのか。

卜伝先生くらいは出ると思っていたんですけど、見当たらないですね。

まぁシナリオはやっていないので蓋開ければいるのかもしれませんが。

次は漸くモーさんのゴタゴタへ突入ですよっと。

まぁそれが終われば、エンディングなんですけどね。

コレが完結すれば、オマージュに挑戦してみたいZOY・・・パクリが関の山感ありますが。


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