なので、NSXもシビックもS2000も出てこないです。
全部で三話を予定しています。
導入部分。
始まり
オレが中学2年生の頃だから、今からだいたい1年前に亡くなった祖父、じいさんはよくオレに昔の話をしてくれた。その時の話の始め方は一貫していた。
「わしは昔、峠の走り屋だった。
時間、場所を問わずありとあらゆる峠に出かけてはその土地を縄張りにする走り屋に喧嘩を吹っかけていった。そして、勝負が終わればそのまま去っていく。
勝負、とは言ってもそこにただの勝ち負けという優劣だけをつけようなんてもんじゃない。
かっこよく言えば、己の腕とプライドをかけた決闘。
まぁ、ただの男どうしの意地の張り合いとも言うがな。
それでも、わしにとってその日々は楽しかった。今でも夢に見るほどに。」
じいさんはそう言ってよく窓から空を眺めた。眺めた後に過去に勝負をした走り屋についての話がゆっくりと始まり、最後にこう締めくくる。
「命を懸けて走るのは、きっと馬鹿げていると人は言うだろうさ。
―――それでも、駆け抜けた先にこそ、得られるモンは必ずある」
じいさんの持病は年々悪化していて、定期的に病院へ通っていた。ついには入院を勧められるほどになり、病室のベッドにその姿はあった。
オレは暇を見つけては病室に顔を出していた。じいさんが特別好きだったわけでも無ければ、家族がじいさんだけという訳もなかった。ただ、過去の話に惹かれるものを感じていたからだと思う。
そうして、じいさんのもとに通う日々はもう残り少なくなっていることが分かった。医者が言うにはもう治すことはできない、そういう話だった。余命が宣告され、その日は徐々に徐々に近づいていった。でも、不思議とじいさんはケロッとしており、本当にその日に死ぬのかに疑問を持った。
余命まで後三ヶ月、その頃になるとじいさんは残りの余生は好きにすると言って、痛み止めを受け取って勝手に退院した。そして、オレは自主的にじいさんの家に行き、介護をしていた。
その生活がひと月経った頃、じいさんが何かを思い出したようについてこいと言った。いつになく、上機嫌な足取りのあとをついていくと見慣れない一台の車があった。
白と黒の二色の車。まるでパンダみたいだった。
「こいつはわしの愛車。
ハチロク。正確にはAE86型スプリンタートレノ。
まぁ、お前に見せるのは初めてだがな。」
じいさんはまじまじと車を見るオレに対して微笑んでいた。
「本当はお前にはわしの車の技術を全部叩き込んでやりたかったが、神様はそこまで待ってはくれないらしくての。
仕方がないから基本事項までを教える事にした。
では、一つ一つ教えていくとするかの」
そう言って、じいさんはオレにこの車を実例に車の内部の機構から動作、制御に至るまでの技術を叩き込んでいった。常識的に考えれば、頭がイカれているとしか思えない。中坊に車の整備やら運転技術を覚えさせるとか正気の沙汰とは思えない。
飯時とか関係なく、四六時中車について考える日々にオレがどうと感じることはなかった。それはしごかれるのが好きだとか言うわけではなく、何となく車について何かするということが、性に合っていたから苦に感じるどころか、楽しくなっていた。
オレの意欲的な態度の結果、半月ほどで終わり、予定よりも早く基本事項は身に着けてしまった。予定では死ぬギリギリで終わると思ってたようだ。
早く終わったからラッキーなんてことはなく、何か余計なスイッチを入れてしまった。今度は本格的な車の運転技術、いわゆるテクニック面へと指導の方向性が変わった。
今思えば、意味不明というか気狂いにしか思えない。普通に運転するのに必要なことといえば、ハンドルを切れば曲がり、アクセルを踏むと前進あるいは後退し、ブレーキを踏めば止まる。これさえわかれば充分である。にもかかわらず、車のアクセルワークやらステアリングワークやらを叩き込んでいくのだ。そのためだけに、どんな伝手を利用したのかわからないが、サーキット場を一部借りてくる始末だった。
サーキットライセンスなんて持ってない上に、無免で走らせるという暴挙であるに車を走らせる喜び以上に、色々と考えて慌てた。その様子に、しいさんの要請でサーキットの都合をつけてくれた人はニヤニヤと笑うばかりだった。ふいに口を開けば、おちょくるような言葉を投げるたちの悪いおっさんだった。それでも、ガードレールに激突することや、死にかけるような事故にも遭わなかったことから、きっとセンスはあるのだろう。
じいさんから技術を吸収するのにひと月かかった。残りの半分は只管に学んだテクニックを自分に馴染むように昇華させることに費やして、ついにその日はやってきた。
医者の宣告通りの日に息を引き取った。その顔は晴々とした物だった。周りが悲しみの涙を流す中、オレは涙を流さぬように我慢した。
一度だけ、じいさんはオレを隣に乗せて、峠を攻めたことがあった。
圧巻の走りだった。オーバースピードで駆け抜けているのに、表情には焦りや恐怖なんて微塵もない。それどころか口角を上げて、呑気にタバコをふかしながら鼻歌交じりに駆け抜ける。その姿を見て、この人とオレは血がつながっていると思うと、誇らしくなった。でも、その一方で負けたくないと思った。この人を超えなくちゃと思った。
オレはそこで自分が走り屋であることを自覚した。
この人が生きている間に超えたかった。
それを果たせなかった。つまり、オレはあの走り屋に負けたのだ。
だから、オレは涙を流さなかった。
これで流せば、それは悔し泣きだ。
オレは勝って流したうれし泣きをもって手向けとしたい、そう決めたから。
じいさんは周りにオレの事を車に愛された子と語っていたらしい。じいさん曰くの基本事項を、さながら真綿が水を吸う様に吸収する様を見てそう思ったらしい。あれならば、わざわざ横について教える必要もなく、自分がそうであったように勝手に技術を学んでいくだろう。そんな話をしていたとおっさんから聞いた。
だったら、あとは腕を磨いて超えるだけだ。天国にオレが行くまで、せっせせっせとドラテクを磨いておくといい。いつまでも土をつけられたままではいられない。
次は勝つ。
六月から八月までのたった三か月の、短くとも密度の濃かった祖父との日々は終わりを告げた。同時に平凡な中学生活へと逆戻り。それでも、親に隠れてたまにはサーキットへ行き、ノーライセンス、無免という違反の役満を犯して走っていた。
それでも時間は流れていき、高校への進学を考える月日が徐々に迫っていた。
今、世間は学園艦の話題で持ちきりだ。
あの学園艦が非常に素晴らしい。いや、こちらの学園艦の方が将来に期待が持てる。と言った会話がよく飛び交っていた。
学園艦とは、子供の自主性や独立意欲を上手く成長させる機関として、考案された学校のスタイルである。軍艦の中の空母をもとにしており、生活ができるように甲板に居住区を作り、日常生活を送れるようにしたものだ。もちろん、基になっているのが空母なので、海上を自由に移動でき、現に稼働している学園艦はそれぞれの航路に則って移動している。それによって、他ではできない色々な体験が在学中にできるというのが非常に強みになっている。無論、物資の補充に本土に寄港するので、一年中船の上ということではない。
そんな学園艦への進学がオレの進路の一つにあった。親との約束で高校の進学及び卒業は絶対なので、進学以外の選択肢は今のところないが。簡潔に言えば、本土つまり陸の学校に行くか、学園艦という海の学校に行くかの二択あるわけだ。正直に言えば、親との約束がなければ進学なんぞはしないわけで。端的に言って、どちらでも構わなかった。
なるようになるだろうとか考えていたら、既に夏が終わり季節は秋になっていた。
「未だに希望用紙が白紙なのは君だけなのだけど?」
そう言って担任の教師はオレを呼び出した。
「こればっかりは私がどうこう言うのは間違っている、と思って口出しはするつもりはなかったけど、流石に限度があるわ。
本当にやりたい事とかしたい事は無いの?」
やりたい事がないわけじゃない。なりたいものがないわけじゃない。が、言えば、面倒なことになるのが目に見えている。だから、ないと親にも教師にも言っていた。
車の運転技術を磨くのは、陸だろうが海だろうが問題ない。今でこそ一般教養と言われなくなった、戦車道という己の信念を戦車による闘争をもって示すとかいう物騒極まりないカリキュラムがある。基本的には学園艦でのみ履修できる科目ではあるが、戦車の運転などの面から特例として自動車免許の年齢が下げられている。ただし、海の上でかつ、艦のサイズの都合上、サーキットなどは期待できない。陸の学校ならば、規定通りの年齢にならないと免許が取れない。だが、サーキットには行けるので、今と同じ生活を続けられる。
学校を選ぶ必要が無いのだ。
「困ったわね…。」
それはこちらのセリフと言いたい。
先生はだんまりを決めるオレにため息をついて、机の引き出しからいくつかのパンフレットを取り出した。
「正直あまり出したくなかったんだけれど、一応こちらで君の学力で行ける高校をピックアップしたものよ。
高校生活って人生で一番重要な時期だから、本当は自分のやりたい事を中心に選んで欲しかったのよね」
渡されたパンフレットの数は四冊。陸の学校が二冊に海の学校が二冊。
「勿論、絶対に渡したパンフレット学校に行けという事ではないわ。
他にやりたい事やしたい事が見つかって、行きたい学校が見つかったのならそちらに切り替えなさい。ただし、その場合は一声私にかける事」
先生との話は一応の決着がついた。
結局選ばないといけないことに、ため息をつきたくなった。
先生から渡されたパンフレットを家に帰って全部に目を通したが、行きたいと思えるまでの物は無かった。強いて挙げるなら、車関連の部活をやっている所が良いことを思い、絞り込めば、陸の学校は選択肢から省かれ、海の学校になった。それで二校になったが、どっちの学校にも自動車部はあった。
理由としては戦車道の影響だろう。陸は別に戦車の整備士は簡単に手配できるが、海となると難しいものがある。勿論、艦ごとに技師は配備されているとは思うが、学園艦には女学生が多い実情がある以上、おいそれと外部の技師を入れるわけにはいかない。それに技師も人である以上、休みなどで整備できないときはある。
そうした理由から、ある程度は自分たちで戦車の整備が出来るように授業の一環で教えられる。それでも実際に整備するという場面は万が一だろうが。
今だから一般教養ではなくなったものの、依然として戦車道は色々なところに根深く浸透している。戦車道は競うという性質上、試合があり勝ち負けがある。それこそ流派があって、それに伴い派閥がある。派閥があるから人が集まり、中には政界やら財界やらに精通している人もいるから、そういった界隈に影響を与えてたりしている。
ただ勝った、敗けた、では終わらない。めんどくさいものだ。
そういった背景があるので、学園艦が手配する人材とは別に、お抱えの整備士を用意しているところもある。
その影響で、整備の授業として戦車以外を教えるものもあるようだ。
そんな環境だからこそ、授業から趣味へと至ったモノ好きたちが免許の取得が特例により容易であることも手伝って、自動車部が設立されるわけである。勿論、戦車部などを設立したところで、維持やらを考えると自動車の方が軍配が上がる。
とグダグダと関係ない情報を整理したところで、学校を絞り込めるわけではない。いっその事サイコロで決めるべきだろうか。そうすれば一瞬で片が付くし、先生に聞かれても、適当な事を言っておけば何の問題もないだろう。いや、サイコロは面白くないな。オレはギャンブラーじゃないし。
どうしたもんかと悩んでいる内に、足は自然と例のサーキットへ向かっていた。こういうときはあのおっさんに聞いてみればいい。
そんなもん知るか、の一言で済まされた件について。言い方を考えろよ、マジで。
パンダトレノに無言で乗り込むオレに、おっさんはニヤニヤしながら、自己べ超えるか超えないかで決めればいいじゃねぇかとのたまった。それなら二者択一だし、どうせ二つの学校で違いがあるんだろ。
言われて逡巡すれば、自動車の整備についての授業があるかないかの差があったのを思い出した。それを言えば、なら自己べ超えたら授業のあるところに行きなと言った。理由を聞いたらこんなことを言い出した。
「超えられなけりゃお前は車に向き合うにゃまだ足りないことがあるってこった。
そういう授業があって来るのは車好きにゃ違いねぇだろうよ。
そんな奴より、ないとわかってるにも関わらず、来る車好きの方がよっぽど面白いし、お前のためになると思わんか。
―――何、心配するな。お前が自己べを超えられるとは思ってない」
「君は本当にここで良いの?」
担任の念押しに対して、何の気負いもなく頷く。
「そう、少し勿体ない気がするわね。」
その言葉に首を傾げた。
「だって、ここには自動車の整備に関する授業は無いのよ?
それでもまぁ、自動車部はあるみたいだから、君の運転の腕をいつか披露してね」
ん?オレはいつ先生に車のことを言っていただろうか?
必要最低限の会話しか今までしていなかったはずなので、ばれるはずがない。
「知っていることが不思議?」
知られたら割と困ることには違いない。警察に言われたら面倒になる。
先生は笑ってこう言った。
「何、そんなことを心配しているの?
生徒の不利益になるようなことはしないわ。
―――だって私は君の先生よ」
茶目っ気たっぷりに先生は答えた。……大人って本当にずるい。
いつの間にか秋は過ぎて、冬に入って入学試験を受けて、春になった。オレは志望校に無事合格を果たした。入ると決めた以上、手を抜く気はないし、学力的にも無理がある所ではないというのもあり、何事もなかった。それに勉強だからといってもサーキットには欠かさず行っていたが。
今現在トランクに荷物をまとめており、学園艦への引っ越しの準備をしている。免許はどれだけ早く取れても来年になるので、ハチロクは学園艦へは持っていけない。親に頼んで持って行ってもらおうかとも一瞬脳裏をよぎったが、あくまでもあの車のオーナーはあのおっさんである。色々な言い訳は思いつくが、ボロが出ても面倒なので、我慢することにした。いつもサーキットで保管しているので、環境が大きく変わるということはない。せいぜいエンジンをふかす程度が極端に落ちるだけだ。
少し残念に思いながら、いざ学園艦のオレの借りた部屋に入ると、何かがポストに入っていた。ポストを開けると、そこには封筒が入っており、開けると見覚えのある鍵が出てきた。
驚いて部屋を飛び出した。将来を見越して予め借りたガレージを見れば、見慣れた白と黒のパンダ。まごうことなき何度もサーキットを共に走ったハチロクだった。
慌てておっさんに電話をかけると、オレの慌てぶりにゲラゲラと笑っていた。合格祝いの選別らしい。一応、潮風対策の塗装はしたが、それでもきちんと整備をしろとのことだった。ついでに免許手続きはしといてやったからさっさととってこいとも言っていた。合格後にサーキットで撮らされた写真やら書かされた資料なりはそういうことだったらしい。言い方やら言動やらはむかつくおっさんだが、感謝はしているので、礼を言ったら更に爆笑していた。
いつか覚えていろよ。
ハチロクのボンネット軽く撫でていると、胸をじいさんとの思い出が過った。まだまだあの走り屋の背中は遠いけれど、コイツとならきっと超えられる否、超えることができると思っていた。
超えた先に、得られるものにオレは期待していた。
「これからもよろしくな、ハチロク。」
任せておけ、そう言わんばかりにブウゥン、とエンジンの音が聞こえた気がした。
主人公の名前、性別、所属校は未定なのは、
別枠でやってた導入部分を改稿したんですが、
結局、入れるところが無かったので省きました。
話の流れは、
1話(これ、導入)
2話(戦車に乗る話)
3話(自己べを更新して祖父の背が近づく)
こんな予定です。
作者はリボンの武者以外知らないので、
ゆっくりアニメを視聴してから戦車道を主軸の話にするか、
タンカスロンを主軸にするかを決めようかなぁと考えています。
このキャラが混ざっても違和感のないような学校を教えてもらえると助かります。