一話は前回とほぼ変わりません。
二話以降の空白期の完全補完をしていこうと思います。
しばし、お付き合いください。
何というか、遠い所まで来た。
自分の境遇を振り返り、そう思った。そこで、僕は報告書を書く手を止め、少し自分語りをすることにした。
僕の名前は山田 太郎。性別は男。年齢は今年で二十歳。見た目は可もなく不可もなく平凡。特技は特に無い。趣味は読書。
自分で言うのもなんだが没個性ここに極まれり、である。だが、一点だけ普通では無い事がある。
僕は魔術が使える。何も無い所から火とか水とかを出す、さながらタネも仕掛けも無い高尚なマジックが使えるのだ。だが、正直使い道は無い。生きていく上では不要、正しく無用の長物である。
ただ、そのお陰で僕は今の職に就けていた。
僕の仕事は歴史の編纂事業。真実の歴史を書にしたためるという非常に重要な仕事である。
それと魔術がどう関係するのか、というと、この歴史を垣間見るために魔術を使うのだ。正確には魔術と科学の二つを利用するのだが、細かい事は無視する。つまり、魔術を認識している人じゃないとこの仕事はできないのだ。
なら、一般人でも魔術を理解すればできるんじゃないのか、って。それは出来ない。魔術には秘匿義務がある。そのため、みだりに一般人に吹聴はできないのだ。
僕が今の職に就くことが出来る理由は分かってくれただろう。次に動機について話そうと思う。
非常にベタな話だが、僕は昔から偉人が好きだった。彼らの為した偉業に思い馳せ、夢想する。だから、将来そうした仕事に就きたいと思っていた。だが、現実は非情だった。
僕の家は何代も続く魔術師の家系で僕はその直系。
家の跡を継ぐ、それ以外許されはしなかった。そもそもの話、学校にも通わせてはもらえなかった。最低限の教養は全て家で教えられていた。
カレンダーが十五回変えられた頃、十五歳の時、本格的な魔術の訓練が始まった。やりがいは無く、僕はただ親の言う通りに動く機械でしかなかった。
肉体的にはともかく、精神的に死人のような日々を過ごして二年後、僕に思わぬ転機が訪れた。端的に言うと、僕は廃嫡された。
理由は単純で僕より優れた後継ぎが生まれたからだ。
僕は親から見放され、放逐された。傍から見れば、非常に可哀想な出来事であるが、僕にとっては真逆の出来事だった。面倒な債務から解放されたのだ、これで僕は好きに生きていける。
ただ一方で困ったのも事実だ。先立つものが無い。僕は無一文で放り出されたから仕方ないと言えば、仕方ないのではあるが。
途方に暮れる僕に、一枚の紙が風で飛ばされ目の前に落ちた。それは一枚の求人広告だった。僕は藁にも縋る思いで目を通した。
内容は要約すると、国連保障の機関で歴史の編纂員の募集だった。僕は一も二も無く飛び付いた。もしかすると、僕の夢に一歩でも近づくかもしれない、そう思ったから。
僕は紙に書かれた電話番号に、辛うじて通信が生きていた携帯で電話を掛けた。結果は即採用だった。僕はただただこの幸運に感謝していた。
…今、思えばこれは罠だったのだ。いくら何でも、都合が良すぎたのだ。それに気付いたのは機関に着いてからだった。
流れ的に僕がここに着いた当初の話をしようか。
電話をした次の日、僕は電話で指定した場所に向かった。向かうと、そこには異様な雰囲気を醸し出している黒服の集団がいた。
僕は無性に帰りたくなった。無意識で回れ右をした足に習って、僕はその場から逃走を図ることにしたが、いつの間にか黒服の集団は目の前にいた。何が起こったのか、全く理解のできないまま、集団に囲まれて僕は気絶した。気絶させられたが、正しい言い方だろう。
次に目が覚めると、施設の中に居た。背中から感じる柔らかい感触から、ベッドの上であることは分かった。体を起こし、辺りを確認する。最低限の調度品以外、何もない殺風景な部屋だった。同時に気付いたが、僕はいつの間にか着替えていたようだ。いや、きっと着替えさせられたが正しいのだろう。全体的に白い服。所謂、制服のようなデザインの服。僕はぶるりと体を震えさせた。何もされていませんように、と願いながら。僕は気を取り直し、体は自由が利くため、部屋の扉から外へ出ることにした。
廊下も部屋同様に殺風景だった。汚れ一つなく真っ白な壁や床。綺麗すぎて逆に気味が悪い。
僕が適当に廊下を歩いていると、オレンジ色の髪をしてシュシュで一部を括っている女の子が一人、床に寝そべっていた。彼女の服装は、今僕の着ている服によく似ていた。そのため、僕は彼女を起こそうと思い少女の肩辺りを揺すった。
少女は身じろぎ一つすると、起き上がり僕の方をぼうっと見た。きっとまだ頭に血が昇っていないのだろう。よく顔立ちはを見ると非常に可愛らしかった。だから、いつまでも不躾に見るのはどうかと思い、僕は声を掛けることにした。
あのう、と声を掛けると半開きだった彼女の茶色の瞳はぱっちりと見開かれた。
「ご、ごめんなさい!見ちゃってすいません!お願いだから警察だけは…」
と、非常に早口で謝り始めた。彼女の態度に釣られて僕まで、落ち着いてくださいを連呼していた。
怒ってないんですか、という一言に何に怒るのか、と問い返すと彼女は落ち着きを取り戻した。僕はこの彼女の態度の理由に気付かず、気の弱い子だなぁと見当違いな感想を抱いていた。ちょっとは疑問に持つべきだった。
落ち着きを取り戻し、一呼吸おいて僕は彼女と簡単な自己紹介をした。彼女の名前は藤丸 立香。僕の記号みたいな名前より、非常に可愛らしい名前だった。だから、僕は思った通りに良い名前ですねと言うと、彼女は顔を少し赤く染めながらこくりと頷いた。
その後は、取り留めも無い話をしていると、僅かに紫がかった少女が新たにやってきた。楕円形のフレームレスの眼鏡を掛け、髪が掛かり片目は隠れていたが見える瞳の色は紙の色と同じだった。言うまでも無く、整った顔立ちの少女だった。なんだ、ここには美男美女しか居ないのかもしれない。
僕が自分の容貌に悲しみを抱いている間に、彼女は立香と打ち解けて、先輩後輩と呼び合っていた。顔か顔なのか、と僕は更なる悲しみに叩き込まれていると立香から声を掛けられた。彼女に自己紹介を、という事らしいかった。
彼女の名前はマシュ・キリエライト。ここの職員だった。が、扱いは訓練生と同等との事だった。そうしてマシュから分かる範囲でこの施設について聞いていると、突然胡散臭いおっさんが話しかけてきた。
そして、そのおっさんに促されるままに大部屋に案内されて中に入ると、地球儀のような機械と沢山の人が居た。どうやら偉い人の演説のようだった。おっさんも何か説明していたように思うが、この頃の僕はこの人の放つ胡散臭いオーラの方が気になって仕方がなかった。
演説の立ち位置は決まっているようで、僕は後ろの方なの対して立香は一番前だった。立香は顔を若干歪めながら、位置へと向かって行った。
立香の立ち寝など色々あったが演説は恙なく進行し終わった。
大部屋から出て、僕は指示された部屋に向かった。本当は施設をウロチョロしたかったのだが、演説していた人、ここの所長に名指しで行くように言われたのだ。
指示された部屋に入ると、前髪の左側を三つ編みにした長い白の髪、金色の瞳。服装は一昔前の貴族が来そうなデザインだが、彼女には非常に似合っていた。彼女はここの所長で僕の雇用主、オルガマリー・アニムスフィア、その人。僕は彼女を前にして緊張し、同時に疑問を持っていた。何故彼女がここに居るのだろうか、と。
なので、僕はストレートに質問することにした。
「ああ、それは…あれよ!職員の顔を確認しておくのも所長の役目でしょ!」
この回答に僕は納得したものだった。
…自分の仕事を魔術で作った人形に代行させてまでここに来ていた事実が後に判明した。そんな事は露も知らない僕は、所長は末端にも気配りのできる出来た人なんだと勘違いしていた。
僕は彼女から当面の仕事内容を聞きいていると、突如サイレンが鳴り響いた。
僕はサイレンの意味を殆ど理解できておらず茫然としていたが、所長は僕に部屋から出ない様にと言って颯爽と何処かへ行ってしまった。僕は急に手持ち無沙汰になったので、何をするまでも無く、ベッドへ横になることにした。まぁ、何かあれば連絡が来るでしょうと楽観的に構えながら。
こうして、僕が適当にグダグダしている裏では面倒くさい事態が進行していた。
それでは、サイレンが鳴り引いたその後を語るとしよう。
サイレンが鳴ってから二日が過ぎた日、僕は施設の厨房に立っていた。
何でもあの胡散臭いおっさんが施設内に爆弾を設置していたらしく、あのサイレンは施設の爆破による火災の警報だった。それに伴い、施設の生活環境を担当していた職員が逃げ出したらしい。まぁ、間近に命の危機が迫れば誰でも逃げ出すのは当然だろう。で、困ったことに残った職員は研究一筋の畑から来た人ばかりで生活能力が皆無らしい。今でも眉唾物だが、洗濯しようとして一帯を泡まみれにさせるレベルらしい。何をどうしたのだろうか。
そうした経緯から炊事洗濯を一通りこなせる僕に白羽の矢が立ったという訳だ。確かに現状仕事は特になく、穀潰しの居候のような気分を味わっていたので、渡りに船だった。
ただこの時は未だ気付いていなかった。やけに職員に女性が多く、僕の料理を泣いて食べている人が多い事実に。僕が如何に世間知らずかを嘆くべきなのだろう。
僅かに残ったレシピと格闘して食べれるレベルになり、和風と洋風に中華風とレパートリーを着実に増やしていると、ついに僕の本来の仕事が回ってきたのだった。
厨房になってから二日、事件から四日経った日の昼頃に僕は召喚室へ来るようにアナウンスが掛かった。指示に従い、召喚室へと行くと凄く真剣な顔をした職員たちがいた。マシュに立香、所長、それから事件の後知り合ったゆるふわ系ドクターのロマニ・アーキマンにモナリザの出来損ないの見た目をした万能の天才ダ・ヴィンチの計五名。
今から何をするのか不思議に思う僕を尻目に、立香は部屋の中央にある機械に金平糖の形を高濃度の魔力水晶を投入した。すると凄まじい魔力が迸り、同時にスパーク音が辺りに響き、光を放った。光は数瞬で収まり、そこには一人の女性が顕現していた。
「サーヴァント、セイバー召喚に応じ馳せ参じました。
問おう、貴方が私のマスターか?」
そこにあったのは、一種の暴力的ともいえる圧力。
断言出来た、彼女は僕らとは存在の骨格からして違う生き物だ。
誰もが飲まれてもおかしくない中で、立香だけは違った。一切の気負いを見せず、気丈にも彼女に答えを返していた。マスターは私であると。
女性はその返答を聞き、威圧を緩めた。
「試すような真似をして申し訳ありません。
セイバーとして現界しました、アルトリア・ペンドラゴン。
アーサー王、と言った方が宜しいでしょうか」
そう言って、彼女は見事な騎士の礼をした。僕はそんな光景に腰を抜かしてぼんやりと眺めているだけだった。すると、アーサー王と名乗った少女は僕に気づき、手を伸ばした。
「お手をどうぞ、ジェントルマン」
僕はおずおずと彼女の手を受け取り、立ち上がって、お礼を言った。
「いえ、礼には及びません」
僕は彼女の態度に感心して、僕にできる事ならいつでもお手伝いします、と笑顔で言った。すると、彼女は僅かに顔を赤らめたが、すぐに気を取り直して、その時が来たらお願いします、と言った。
ここで、僕は自分の仕事を思い出した。僕は非常に申し訳ない気持ちになりながら、彼女に後で僕の部屋へ来ていただけませんか、と聞いた。
「いいですよ!」
彼女は瞬きの間すらなく、答えた。言い換えるなら、即答だった。僕はその答えに安堵して、お待ちしておりますと答えた。
あの時、俄かに室内が殺気立ち、アーサー王はドヤ顔を周りに振りまいていた。少しは勘付くべきだったのだ。
僕の仕事は冒頭で言ったように、歴史の編纂だ。ただ、それは書に歴史を書き連ねるのではなく、人物の歴史を書き連ねるのだ。言い換えると、編年体ではなく紀伝体ということだ。
で、その記念すべき第一号がアルトリア・ペンドラゴン、通称アーサー王なわけだが、彼女は最初、非常に緊張しており僕の部屋に入るなり、せわしなく視線を動かしていた。男の部屋に呼ばれて、落ち着かないのだろう。そう思い、一刻も早く終わらせようと僕が仕事について説明をすると、非常にがっかりした表情をしていた。…今なら分かるが、えっちいことを期待するな。
まず、僕は自身の知っている彼女の歴史を語った。次に、その歴史についての訂正や彼女の思いを聞いていき、書にしたためていった。
正直な話、辛い作業と言わざるをえなかった。僕のやっていることは、彼女の心を切開しているようなものだったから。
彼女は非常に真面目で、答えづらい事にも答えてくれた。モルガンとの関係、モードレットとの確執、ブリテンの滅亡。時折、涙ながらになる彼女を慰めながらの作業だった。この時の僕は彼女を慰めるために、肩を抱いたり、胸を貸したりと距離間の近すぎるスキンシップを行っていた。彼女は自身の辛い過去に味を占め始めていたことに、何故気が付かなかったのか。僕の匂いを嗅いでいたりと、露骨な行動をしていたというのに。
そんなこんなで、初めての自分の仕事を終えて、レポートにまとめ、所長に提出した。彼女はしきりに何もされなかったとか、襲われたら言うのよとか、僕を心配して声を掛けてきたのが印象的だった。
で、現在の僕はというと、自身の立場を理解して非常に危険な立ち位置にいるというわけだ。
色々あって、僕は常識というのを獲得もとい、思い知らされたのだ。どうやら、昔からこの世界は男性の絶対数が少なく、庇護の対象とされていたのだ。そのため、どうも男性は非常にプライドが高く傲慢な人か、ひ弱で意志薄弱な人が多いらしい。
つまり、僕のような人は非常に少ない、むしろゼロらしい。そう言ったことを僕は外に出ることの一切を禁じられて居た為に、何も知らなかったのだ。あの頃の僕の常識は主に本によって構成されており、男性が女性に対して優しくするのは当たり前だと思っていた程だ。
ちなみにそれを行うと、基本的には気があると勘違いされ、襲われるようだ。恐ろしすぎない?
それなのに、僕が家を放逐されたのは、理由があったのだ。早い話、アニムスフィア家に婿養子に出されたというわけである。つまり、あの奇跡的なビラも黒服も全て仕掛けだというわけである。恐ろしいマッチポンプである。
つまり、僕はオルガマリーの婿、手つきなわけだが、彼女らには一切関係が無かった。そう英霊たちである。ただでさえ、性が非常に広い、開けっぴろげな彼女らからすれば略奪愛もスパイスらしい。その上、あの立香ちゃんやカルデアの一部職員からも狙われている。これには、僕がオルガマリーとの結婚に積極的ではないことと、彼女と性交渉を一切行っていないことも関係しているが。いや、正直誰も蓋を開ければ残念系過ぎて少し…というわけだ。例えば、オルガマリーは隙があれば既成事実を作ろうと薬を仕込んでくるし、立香ちゃんは過激なスキンシップをしてくるし…。安牌そうなマシュちゃんだって頭の中ピンクのようだし…。
そうした日々ギリギリの攻防をしているが、終わりが見えない。戦力拡大のため仕方ないとはいえ、サーヴァントがガンガン増えているのだ。むしろ、僕の防御に不安しか感じない。
ああ、神様助けて!
―――ご用とあらば即参上! 貴方の頼れる巫女狐、キャスター降―
チェンジで。
次回は、まだ常識を獲得していない太郎君の話になります。
立香、マシュ、アーサーに迫られる話です。