墓標あるいは墓場   作:痛み分け

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あべこべ要素はほぼ皆無と言っても過言では無いです。

やっふー。






開幕

 

 僕、という人間がどこかズレていることは何となく分かっていた。家の外へ一歩も出たことが無く、親の言うとおりに魔術の研鑽に励む日々。唯一の外界と繋がる手段は、書庫にある無数の本だけ。とは言え、それらの本もどこかの英雄たちの伝記ばかりだったが。

 

 そういう生活をしている僕にとってはその伝記から得られることが全てだった。僕は伝記に書かれていたことを事実だと信じていたし、間違いはないと確信していた。だから、僕は女性に対して優しくするのが当たり前だと思っていたし、男女の性差について理解するべきだと思っていた。それが僕の誤った常識だった。

 

 いずれ過ちは正されるもの。故に正されるのも時間の問題でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契機となったのは第三の特異点の修復が完了した頃だった。封鎖終局四海オケアノスと名付けられたこの特異点では、立香たちは海賊の力を借りて船に乗って右へ左へ舵を切り海原を駆けた世界だった。

 

 だった、とは言うものの、僕は別にレイシフトをして実際にそれを見たわけではなかった。相も変わらず、時折管制室へと出向きスタッフへ差し入れをしたり、立香たちと通信したりする以外はただただ彼女たちの無事を祈るだけ。

 

 そして、彼女たちはいつものように元気に生還を果たし、僕は自身の仕事に従事した。所長に用意された仕事部屋で、彼女たちの話を聞いて事の顛末を纏めていく。オケアノスにて友誼を結び、召喚された新規サーヴァントたちとひと悶着はあったが、些細な問題でしかなく恙無く業務は終わった。

 

 第四の特異点が見つかるまで、僕は専ら新規のサーヴァントたちと交友を深めていた。コルキスの女王、メディアの幼い頃に当たるリリィと細やかなお茶会をしたり、二人で一騎のサーヴァントであるアン・ボニーとメアリー・リードに連れられてお宝探しに付き合ったり、茶目っ気の強いエドワード・ティーチと理想の女性像について語り合ったりなど有意義な時間を過ごしていた。

 

 家にいた頃の僕には予想が出来ない程、楽しい時間だった。一方で、それは嵐の前の静けさでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日は突然のアナウンスがカルデアに鳴り響いた。珍しい事態に困惑しながらも耳を傾けてみると、新しいサーヴァントが召喚されたとのことだった。それを聞いて僕は少しワクワクしていた。僕の仕事は特異点の編纂だけではない。歴史上の偉人との接触は後世への貴重な資料となるため、彼ら彼女らについて資料を纏めることも含まれていた。僕はこの仕事が好きだった。経験は己を成長させる糧となる。僕はそう信じて疑わなかった。

 

 僕は自室を出て、仕事部屋へと向かった。向かっている途中で、色々な担当のスタッフとすれ違ったが一様に表情が硬い。そのことに一抹の不安を感じていると、アーサー王に出会った。

 

「こんにちは、ペンドラゴンさん」

 

「ええ、こんにちは」

 

 いつもと同じ挨拶のはずなのに、やはりどこか硬さがあった。僕にはそれがどうしても気になった。

 

「えーと、何かあったんですか?」

 

「何もありませんよ…とはいきませんね。少し厄介ごとです」

 

 そう言うアーサー王は苦虫を潰したような顔をしていた。触らぬ神にたたりなし、そう思い、僕はそうですかと言ってその場を去ることにした。

 

「金ぴかには気を付けてください。私たちも細心の注意を払っているつもりですが、何を考えているかまでは分かりませんから。勿論、分かりたくないというのも本音ではありますが」

 

 彼女は僕の去り際にそう言った。何一つ理解できていない僕はその言葉を流すほかなかった。

 

 

 

 

 仕事場の前に辿り着き、扉を開けようとしたとき、中に何かの気配を感じた。扉越しからでも分かる程の濃い神秘の匂いから、僕は中にサーヴァントが居る事が分かった。もしかすると、待たせてしまったのかもしれない。僕は四回ノックをして出方を伺うことにした。

 

 入れ、と甲高い女性特有の声が耳に入った。その声は、僕があったことのあるいずれのサーヴァントにも該当しなかった。

 

 失礼します、と言って部屋に入ると一人の女性が席についていた。

 

「遅い。我を待たせるなど家畜の分際で良い身分ではないか」

 

 女性は長い金色の髪をかき上げ、鋭く赤い眼光が僕を貫いた。

 

 僕の気分は蛇に睨まれた蛙だった。僕は動くことさえできなかった。格の違いという言葉があるが、僕と彼女の場合は位相が違うように感じた。僕は確かにこの瞬間、彼女にのまれていた。

 

「まぁ良いだろう。今日、我の気分が良い。あの嬲りがいのある小娘に免じて赦してやるとしよう」

 

 女性は鼻をならすと、僕から視線を外した。僕は急に溢れ出した冷や汗を拭き、彼女の対面にある椅子に着いた。

 

「何の用だ、家畜。我の顔を見る事さえ不敬に当たるにも関わらず、目の前に座ることが何を意味するかは言わずとも分かるだろう。理由の如何によっては容赦せんぞ」

 

 僕はあまりの重圧に意識が飛びそうになった。それでも寸での所で耐えていた、いや、耐えなければならなかった。

 

「仕事ですので」

 

 上擦った声で、何とか喉から絞り出した。

 

「ほう、死ぬかもしれないと分かっていても、なお責務を果たすか」

 

 僕を突き動かすのはちっぽけなプライド…対抗心が妥当だろう。僕はただ所長に、オルガマリー・アニムスフィアに負けたくなかった。たった一つ取り残されたフィニス・カルデアで、必死に人理を守らんとする少女の隣に立ちたいのだ。僕は立香ちゃんの様に高いレイシフトの適性を持っているわけでもない。マシュちゃんの様にサーヴァントを降霊したデミ・サーヴァントにもなれない。医療チーフのドクターの様に適切な医療を行えるわけでもない。ダ・ヴィンチちゃんの様にみんなの役に立つ発明が出来るわけでもない。

 

 結局、僕は何の取柄もないただの魔術師でしかない。編纂なんて他の誰でもできる仕事だろう。それでも、所長は僕に仕事を任せてくれたのだ。態々仕事部屋まで用意してくれたのだ。僕には僕の仕事を全うする義務がある。

 

「貴様は取るに足らない家畜だ。そのことに変わりはない。所詮、男など女に媚びる豚でしかないのだからな。が、家畜をいつ屠殺するかを決めるのは主人たる我が決めることだ。

故に、今は殺さないでおいてやろう」

 

 彼女から発せられていた暴力的な圧は鳴りを潜めた。

 

「まぁ気は抜かぬことだ。我の不興を買えば言わずとも分かるであろう」

 

 助かったのだろうか、そう安堵する間もなかった。漸く他の表情を見せたと思ったら、不敵な笑みを浮かべ、いつ殺されても文句を言うなよ、と言われればひとたまりもない。引きつりそうになる口角を抑えて、必死に笑顔を浮かべた。

 

「一度しか言わぬから覚えて置けよ、家畜。

我はギルガメッシュ。英雄王ギルガメッシュである」

 

 アーサー王が言った厄介ごとはこの事だったのかと、僕は終わった後に気が付いた。

 

 

 

 

「英雄王、何時にもなく上機嫌ですね」

 

「この我を呼んで運を使い果たしたとばかり思っていたが、存外そうでもないらしい」

 

 アルトリアの剣呑な雰囲気を何でもないように受け流しながら、ギルガメッシュは鷹揚に言った。

 

「彼に何かあれば、私は私の全力を以て貴女を打倒します」

 

「打倒す、フン、大言を吐いたな雑種。そも貴様のそれは切り殺すの間違いであろうが」

 

 自身の言葉とは裏腹に特に気分を害した様子はなかった。

 

「あらゆる贅を尽くしてきたが、ああまでするとは魔術師とは我が思う以上に業が深い生き物らしい。実に見事というほかない。」

 

 その言葉にアルトリアは眉をひそめた。

 

「薄々勘付いているであろう、雑種。いや、騎士殿と言うべきか。貴様が自身を騎士と名乗るのならば、過ちを正してやるのも一つの務めではないか」

 

 ギルガメッシュは口角を上げ嗤う。

 

「ええ、そうかもしれません。ですが、主の為に口を開かぬ事もまた騎士の務めといえるのではありませんか」

 

 アルトリアの言葉に、ギルガメッシュは一層笑みを深めた。

 

「言うではないか、雑種。貴様がそのような詭弁を弄するとはな。家畜というより愛玩動物(ペット)という方が正しいのかもしれん。作られたものとは言え、あの気骨は愛嬌と言えなくもない」

 

「いづれにしても貴女に渡すつもりは在りませんので」

 

「ぬかせ、この世の財は全て我の物よ。あの玉は原石。未だ我の蔵に入れるかは未知数だが、磨いた末に鈍色に輝くか、金色に輝くかを裁定するのもまた我の務めよ」

 

 アルトリアは奇麗に笑い、ギルガメッシュは不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 英雄王ギルガメッシュの資料は殆ど作れなかった。下手なことを聞くと殺されかねないという恐怖と、彼女は名乗り以外何も語ろうとしなかったから。

 

 精々書くとすれば、僕の知っている叙事詩では彼女ではなく彼となっていたため、その齟齬くらいだろうか。あとは幼少期が名君で、青年期が暴君、壮年期が賢君とされており、サーヴァントは性質として全盛期の姿で召喚されることから、彼女にとって青年期がそれにあたるのだろう。

 

 纏められるだけの資料を纏め終わると、僕は立香に向けて静かに合掌した。

 

 それにしても疲れた。倦怠感が凄いのだ。あの王様と少しの時間とは言え向かい合っていた気疲れだろうか。あそこまでプレッシャーをかけてくるサーヴァントが居なかったから、比較はできないがきっとそうなのだろう。英雄王クラスはそうそう居ないだろうが、貴位の高いのが来たら同じくらい疲れるのか、と考えると憂鬱になってきた。神性なんて物を持っているのはろくでもない、なんて方程式が立たないことを祈るばかりだ。

 

 そうして、片づけをしているとドアからノックの音がたった。どうぞ、と言えば所長があの時と同じように必死の形相で入ってきた。

 

「大丈夫だった!何もされてない!?」

 

「何とか無事でしたよ」

 

 僕の言葉を僅かに訝しんだものの、彼女は落ち着きを取り戻し、何もないなら良いわ、と言った。

 

「…英雄王の相手、お疲れ様」

 

「いえ、僕の仕事ですから」

 

「そう…ね。貴方ならそういうと思っていたわ。でも、無理はしないでね」

 

 そう言いながら、所長は僕の右手をそっと握ってきた。心配を掛けたのだろうか。普段なら大げさな、と笑えるが事が事だけに大げさでもなかった。

 

 所長はぽつりぽつりと言葉を零した。

 

「きっと、いえ、今以上にサーヴァントたちは増えるわ」

 

 それは仕方のない事だ。僕らに失敗は許されない、敗北も許されない。少しでも戦力を多く確保することは急務と言っても過言では無かった。

 

「今日みたいに危ないことになるかもしれない」

 

 それも仕方のない事だ。英霊となりサーヴァントという器を得て現界しているとはいえ、彼ら彼女らも哲学があり、信念がある。それがあるからこその英霊である。存在証明と同義だ。それを捨てる、それは自身の英霊としての在り方を否定するようなものだ。

 

「本当は辞めて欲しいわ。でも、これが私情であること位は分かっているつもりだし、貴方の事だから私が辞めてと言っても辞めるわけがない事も分かっているつもりよ」

 

 彼女の言葉は正しい。僕は辞めろと言われても、この仕事を続けるだろう。

 

「一つ約束をして」

 

「無理はしないって」

 

 僅かに潤む彼女の目が僕の視界に映った。僕は左手で僕の右手を掴む彼女の手を覆った。

 

「分かった」

 

 ああ、オルガマリー・アニムスフィア。君の強さを見る度に、僕は自分が情けなくなる。それでも、僕は君の隣に立ちたいんだ。ちっぽけな僕でもいつか胸を張って君の隣に立とうと思うよ。ところで、どうして君は僕の左手を見てなわなわと震えているんだろうか。

 

「貴方、誰かサーヴァントと契約したの?」

 

「え?」

 

 場を和ませようとしたジョークだろうと思って、左手を見れば令呪があった。きっちり未使用のまま三画分、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

――ふははははははははは、と笑う金色の彼女がふと脳裏に過った。

 

 

 

 





上手なオチがつけられなかったの…ゆるして(懇願)


ここからは黄金Pによる主人公の切開もとい、才能の開花が始まります。

Fate/zero の黄金Pの手腕レベルの質の高い文章を書きたいのですが、

無理でしょうね(確信)

デッドコピーには変わら無いと思いますが、できる限り抑えます。



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