ギネヴィアさん、矛盾してません?性格歪んで、面倒くさすぎて草。
この話を読んでそう思っていただければ、作者の書きたいギネヴィアが書けているという不思議。
ちょっとした性描写があります、ご注意を。
私の半生は、その始まりからして順風満帆とはいえないものだった。
確かに、家柄や財政などに一切の不備も不足もなかった。王族なのだから、それは当たり前と言えるだろう。
だが、私は男として生を受けてしまったのだ。
既に長子がいる時点で、悲劇的と言わざるをえない。
望むと望まずに拘らず、低くとも継承権を持っているのだから。拍車をかけるように、その頃のブリテンは内乱の状態。血みどろの抗争は避けられないと考えてもいいだろう。
そうしたことから、私は対外的には女と公表されることになった。
嘘がばれてはいけない。その結果、私は城の一室から一歩も出ることなく、一人のメイドをあてがわれての生活を余儀なくされた。
充実感などまるでなく、ただ生かされているだけの生活。慰めと言えばメイドのメルウィンド、メルの語りのみ。ある意味、今の幽閉生活に何も感じていないのはこの経験があるからかもしれない。
元来、感情が揺れにくい事と、幼いながらも状況の判断が出来た事から諦観の境地へと至っていたからかもしれないが。
自己に限って言えば平和、と呼べる生活も長く続きはしなかった。仮に続いていたら、私の半生は順風満帆だったと冒頭を書き換えなければならないから。
十五の頃だろうか、城の中が全体的に慌ただしかった。正確には、慌ただしくなっていった。
外の事には一切の興味が無かったが、メルの落ち着きがない様子や、近衛たちの鳴らす鎧のこすれる音が頻繁に聞こえることから、何かが来ていることだけは理解した。
私には関係の無い事だと高を括っていると、ある時、メルが血相を変えて飛び込んできた。大事だとすぐに理解できた。
「ギネヴィア様、早くお逃げの準備をなさってください!」
逃げる、とはどこに逃げれば良いのだろうか。
私は場違いにも笑ってしまった。
「負けてしまったのかい?」
「ご存じなのですか?」
メルの表情はより硬くなっていた。
「いや、分からないよ。
ただ最近、城の中は随分と騒がしかったからね。
戦いをしたのか、それともされたのかまでは分からないからね」
「…現在、この城は異邦人共に攻められ陥落も時間の問題となっております。
ですので、一刻も早い退却を…」
理解はできた。納得した。既に言うべきことは決まっていた。
「断る」
「ギネヴィア様!」
「ねぇ、メル。
僕は所詮、情けで生かされているだけなんだ。
肉親の情なんて言う薄っぺらい物のせいで、首を斬り損ねた、死にぞこないなんだよ。
何か、重要な理由があって残るわけじゃない。
これは小さな子供の癇癪みたいなものさ」
存外、自分のことは自分ではわかっているようで、分かっていなかったらしい。
諦観の念で蓋をして、平和と嘯き欺いていようとも、恨みというものは腹の底にあったらしい。
「奇麗な言葉で飾るのは止めようか。
これは僕から送る彼らへの祝詞だよ。
異邦人に屈した一族だと、生き恥を晒せばいい」
彼女はため息をついた。
「ならば私はそんな一族に使えることになった、可哀相な一族とでもしましょうか」
「驚いた、君はもっと冷酷だと思っていたよ」
「冷めてはいますが、慈悲を持たぬほど酷薄ではありませんので」
「さて、行こうか」
優雅にテラスから見える光景を目に焼き付ける。
「生まれて初めて異邦人を見たけれど、なんとも妙な人たちだね」
鎧などは着ておらず、何かの葉で作った腰布に、盾と槍を持っている。これでは異邦人というより蛮族と言った方がしっくりくる。そんな連中に、憐れにも騎士たちは押されている。
「…本当に逃げるつもりが無いのですね」
「城の玉座で死ぬ、ロマンスでも感じないかい?」
「手に取る王子がいればこその話です。
…最後くらいは元の恰好をしてもよろしかったのでは?」
「男なのに女装していた、変態野郎。
後世に伝えるなら、ちょうど良い塩梅じゃない?
そんな一族だから、蛮族に屈したんだと思われても変じゃないだろう」
「糞が抜けています。
知的で美人のメイドを道連れにした変態糞野郎、が正しいかと」
「ふむ、違いないね」
彼らが城内に入ってきているのを見届けて、空の玉座に腰を掛ける。
「座り心地が悪いね」
私に出てきた感想はこの程度だった。私にとって、価値の見いだせるものではなかった。必然として、人がこの椅子を手に入れたがる理由は理解できそうもない。
「メル、彼らは何を求めてこの城を攻めたのだろう」
目下、私の一番の疑問だ。勿論、分かった所で何かをするつもりもないが。
「さぁ、私にはわかりかねます。
宴になる度に死人が出るなど、我々も中々に野蛮ではありますが、理由ありきの野蛮ですので」
「それは、どちらも蛮族だと言っているようなものだよ」
くだらない話も終わりらしい。城を揺らしながら、彼らはこの玉座にまでたどり着いた。
「ようこそ。
と、言っても大したおもてなしはできないけれどね」
彼らの中から、一人の男が出てきた。その体格は、彼らの中でも頭抜けて大きかった。どうやら、頭領ということになるらしい。
「貴様が王女か?」
「その答えには答えられないね」
彼はその大きな体を揺らし、こちらへと歩みを進めた。それに合わせて、前に出ようとするメルを私は手で制した。
男の武骨な指が、私の顎を掴んだ。嘗め回すかのような視線に、覚える不快感を押し殺す。
「ほう、噂は誠であったようだ」
「噂、噂ね。残念ながら、世俗には疎くてね。
良ければ教えてくれるかい?」
「黒い髪をした妖精のような姫君がいるという話だ」
「ほう、それなら訂正するべきだね。
残念ながら、こんななりでも僕というのが正解だからさ」
このまま、怒りに任せて殺してくれるだろう。そう予想していたが、それは甘かったらしい。思い通りには進まない。
男は唇を舌で湿らせると、下卑た笑いを上げた。
「だからどうした?
その程度、些細な話だ。
お前は黙って、捧げればいい」
それはある意味で、予想出来ていたことだった。楽には死ねない…いや、死なせてもらえなさそうだ。
「そうかい。
なら取引、いや戦の倣いと行こうか。
言わなくとも分かるだろう?」
「いいだろう。
惜しいな、本当に」
男の手を払いのけ、私はメルの方を向いた。
私はメルの手をそっと握った。手には生暖かい感触があった。
「そう言うことだからさよなら、メル」
「ギネヴィア様!」
「何、死に場所が変わっただけの話さ」
「私は、貴方とともに…」
「最後の奉公ってことかな?
でも、それは受け入れられない。
ほら、渡すべき御恩が無いんだよ。
だから、少ないかもしれないけど、これをもって終わりとしよう。
次の主人を探すのは大変かもしれないけど、君なら上手くいくさ」
離すまいと強く握られた手から、徐々に力が抜けていく。
「どこへなりと、連れて行くがいいさ」
私は飼われることとなった。
結局、自ら死を選ぶこともできず、愚かにも二年も生き恥を晒し続けた。
その選択が最悪の結果を生むことになる、いやそうなるよう決まっていたと言えるだろう。
補足としましては、
戦の倣い と略した部分はあれです。手っ取り早い、征服の証の事です。
日本の戦国時代でもノッブの皆殺しが異質で、秀吉殿が普通というアレです。
何故、異民族と普通に会話できてるの?とは聞かないでください。
不思議なパワーが云々というやつです。
俺たち、ピクトはノンケだって構わず食べちまうぜ!
ΩΩΩ<な、なんだってー!?
本当にすいません。