行間を開けるのも、やめたので読みにくくなっているかもしれません。
行間は空けるんだよ!
という方は感想板にてお願いします。
書き方はまだまだ研究中なんですよぉ…
横読みだと見やすいかもしれません。
彼らに飼われてから、私は幾度となく死のうとした。生き恥を晒すくらいなら、いっそのこと死ぬべきだとはわかっていたから。
結果だけを言うのなら、出来なかった。それは情けない話、私には未練があったからだ。
死にたくない。未だ生きていたい。そういう生物の根源的な生理欲求が、心の奥でこびりついていた。
その上、生に縋っていればいつか私を救ってくれる人がいるのではないか、この出来損ないの私を必要としてくれる誰かがいるのではないか、そういう浅ましい思いがあった。
どっちつかずの私に呆れるばかりだ。
私は自身を男だと定義するのなら、潔くこの命を絶つべきなのだ。他人の情けで生かされているのを惨めなことだから。
一方で、私は自身を女だと定義するのなら、嘲りを受けようと厚かましく生きるべきなのだ。それが娶られた女の在り方だから。
そうして、悩むふりして先延ばして答えを出せぬまま、二年の歳月が過ぎたのだ。
その日は、いつもと違っていた。
動物の餌と見まがうような食事をもって来て、乱暴に叩かれる扉の音がしなかった。代わりに聞こえるのは、いつもの下品な笑いを上げる口から出る苦悶の絶叫だった。
そして、それに混じるように聞きなれない声もあった。
それはもう聞かなくなって久しい声だった。その声は次第に大きくなり、聞こえなくなると、次は部屋の扉に何かを打ち付ける音になった。そんな乱暴なノックとともに入ってきたのは、懐かしき元メイドの姿だった。とは言え、その時の彼女はメイド服ではなく、急所のみを守る鎧姿だったが。
「やぁ久しぶりだね、メル。
愚かにも生き恥を晒してしまったよ」
私は極めて冷静に、いつもとかわら無い調子で言った。だが、それが逆効果だった。彼女の目には、私の様子が普通とは映らなかったらしい。
「ギネヴィア様、髪の色が…」
その言葉で納得した。
確かにあれほど黒かった髪が真っ白になっていれば、驚くのが普通か。
「似合わないかい?」
私は真っ白になった髪を掴んで、少しおどけて見せた。そうすることで、暗に気にするなと意思表示したのだった。
「いえ、ご無事で何よりです」
伊達に仕えていたわけではないようだ。彼女はそれで読み取った。
「積もる話はあるが単刀直入に聞くとしよう。
何故来た?それも騎士団なんて連れてきて」
メルは姿勢を正し、臣下の礼を取った。
「私が使えるべき主は、貴方一人を除いておられぬゆえに」
今、考えてもわからないのが、私はこの時どういった表情をするべきだったのだろうか。歓喜を示して、よくぞ来てくれたと言うべきなのだろうか。苦虫を潰したような顔をして、去れと言うべきだったのだろうか。
「君の忠誠心には困ったものだ。
私を生かして何になる?助けて何になる?
よくわからないよ」
ついて出てきた言葉が嫌味だから、自分に笑いが出る。そこまで言うなら、死んでおくべきだから。
そんな態度に彼女は苦笑で返した。
「助けてもらえてやったー、とか無邪気に言えないんですか?」
「無邪気さは腹の中に置いてきたよ」
「まぁ減らず口と、中途半端な欠陥具合が貴方の良い所ですからね」
「それは貶しているのかい?」
「褒めているに決まっているでしょう?」
その時の彼女はうっすらとした笑みを浮かべていた。
今思えば、彼女のサディズムを満たす
主従そろって欠陥品とは笑えない話だ。
かくして、救われた私に待っていたのは、なんとも面倒な扱いだった。
なんでも、あの時の城で行った交換条件は酷く美化されており、臣下の為に命を投げ売った姫君となっていた。そんな献身的な姫君が敵に捕らわれながらも生き延びていたとなると、臣下の者たちは私を歓待した。
その一方で、私と血の繋がった彼らは私の扱いに非常に困った。
普通であれば、純潔を失った姫に価値など無い。だから、前と同じような生活をさせれば良かった。それは同時に、私の本来の性別を誰にも知られることなく、隠し通すことが出来る。
今回は普通ではなかった。負けた国の姫が、勝った奴らに嫁ぐのは戦の倣いだから、純潔など無くなっていて当たり前だ。だが、何と天秤にかけたが問題だった。私がはからずも天秤にかけたのは生き残った多くの臣下の命だったのだ。
言い訳をさせてもらうのなら、私はメルだけを掛けたつもりだった。確かに、他にも生き残りはいるだろうとは思っていたが、そこまで多くいるとは思っていなかった。
話を戻そう。そう言った事から、私は自らの幸せよりも臣下の命を助けた慈悲深い姫君となっていた。
最終的には、幻想的な容姿をした正しく妖精のような美しさを持つ慈悲深い姫君、という評価で広まっていた。あまりの美化されように放心していた私を、メルはサドスティックな笑みを浮かべながら見ていた。
厄介ごとは更なる厄介を運んだ。弱り目に祟り目とでも言うべきだろうか。
婚約話が舞い込んできた。
どうも、私の評価は留まるところを知らなかったようで、隣国にまで広まっていた。
―――私、実は姫君じゃなくて王子です
と言えたら、どんなに楽だったろうか。
外交上、断り切れないお見合いに引き出され、のらりくらりと躱す日々。時に自分よりも一回り年をとった人の相手をし、またある時は同い年位の人の相手をする。
一様に、私を見て僅かに染まる頬の色に辟易しながら、蛮族から学んだ手練手管を使う。苦しむ私を見て、嗤うメル。地獄のサイクルだった。
それでも、ある意味では平和な日々だったのだ。運命に出会うまでは。
あれは運命だと言えるのだろう。酷く陳腐、いや斬新な言い方をすればそうなる。
陳腐な言い方をすれば、台本通りとなるのだから。
アーサーと名乗った、目の前にいる人がこの日の最後のお見合い相手だった。
ただ正面に座っているだけなのに、思わず頭を垂れてしまいそうだった。だから、小柄とは言え、その風格は王と謡うに足る物を備えているように感じた。
気圧されないために、私はいつもの質問をして、平静を取り戻そうと考えた。
「アーサーは、何故私と見合いをしようとお考えになられたのですか?
こう言ってはなんですが、噂には遠く及ばない、残念な女なのです」
これは純粋な疑問だった。自分には噂のような魅力があるとは思えなかった。
ただこれはある意味、意地の悪い質問だった。こちらから見合いを申し込んでいない以上、相手から否定的な意見など出て来る筈がなかったのだから。
「それは違うと思います」
さて、どのような美辞麗句が飛び出すのか、と私は分かったような気でいた。
「私は他の騎士たちに比べて小柄です。
ですので、初めて私を見る者たちは嘲りや疑いの目を向けます。
本当に、あの剣を抜いたアーサーなのかと。ウーサーの後継者なのかと」
それは当然の疑問だった。私も騎士なんて職に付いていれば、そう思っていた。残念なことに、私は姫君なんて職に付いている。性別を容貌と仕種で覆い隠して。
「確かに、貴女が噂通りに慈悲深いかどうかは分かりかねます。
ですが、貴女はそう言った目を向けなかった。
それを信用したいと思います」
なんとも面白い意見だった。確かに、良く知りもしないのに分かりはしない。
「いや、噂通りではないとは言えないかもしれません」
「それはどこかしら?」
「貴女の美しさを妖精と例えた理由が分かります。
月並みではありますが、それ以外の言葉思いつきませんので」
「そこまで言われると、なんだか気恥ずかしいですね。
では、アーサーの見合いの理由もそこにあるのかしら?」
こうも実直な人は珍しかった。そこに、いたずら心が少し顔を出した。揶揄う様な気持ちで問いかけた。
「ええ、そうなりました」
アーサーの頬に朱色がさした。それは揶揄われたことに対する恥ずかしさだと私は思っていた。
「まずは非礼を詫びます」
そう言って、頭を下げた。今まであった威圧感は鳴りを潜めた。
「ええっと、何をなさったのですか?」
頭の中は色々な思考が入り乱れ、ぐちゃぐちゃとなっていた。どれだけ思い返しても、非礼、無礼な行為など見当たらないのだから。
「私に欲しいのは、貴女ではなく、貴女の国なのです」
「つまり、後ろ盾が欲しいということですか?」
「そうなります」
私は苦笑せざるを得なかった。
「それを私に言ってもいいのですか?」
「普通は言うまでもないことだと思います。
それから、言わずに隠すのが普通だと思います」
「でしたら…」
「いえ、目を逸らすのは止めにしようかと思いまして」
私にはアーサーの真意が読めなかった。蓋を開ければ単純な話だったものを複雑に考えていた、というだけのことだった。
「貴女が欲しい」
一瞬、耳を疑った。この人の口からそんな言葉が飛び出るとは思えなかったから。
「え?」
化けの皮が剥がれるところだった。
今までとは打って変わった、初々しい雰囲気にこちらまで恥ずかしくなりそうだった。
「ギネヴィア、私の妻になっていただきたい」
その言葉に、私が感じたのは嬉しさや微笑ましさではなく、重くのしかかる罪悪感だった。
返事に詰まる私の様子を見て、返事は今でなくとも構わないと、そう言ってあの人は立ち去ったのだった。
「ギネヴィア様、どうするのですか?」
「いつからそこに?」
「アーサー様がお帰りになられるのと、同じ頃かと」
聞かれてなくて、良かったと安堵をしたのは間違いだった。
「見事な告白でしたね」
「うるさい」
私はそう返すしかなかった。
あれから、度々アーサーは私の下へ訪れるようになった。それに対して、私は無碍にするわけにもいかず、相手をしていた。
こう言うと、嫌々相手をしているように聞こえるが、実際には時にお見合いを無視してもあの人との付き合いを優先していた。
何というか、それ程までに付き合いやすかったのだ。あの頃は、その付き合いやすさの理由が分からず、非常に不思議だった。そもそも、アーサーが不思議な人だったのだ。
それは恰好がとか、性格がとか、そう言った事ではない。雰囲気が不思議だった。
意志の強そうな黄緑色の瞳に、小柄とは言え、騎士の王と謡うに足る風格。その外面のどこを見ても、男性的と言える。にもかかわらず、私にはないモノを感じたのだ。
ナニカが合っているようで、合っていない。どこかちぐはぐな感じを受けた。
理由の分かる今だから言えることだが、きっとそれは私だからこそ、理解できたことなのだろう。
そうした生活をしていて、問題が起こらないわけがない。
勿論、外交的な問題はあるにはあるが、それ以上に大きな問題だ。
「ギネヴィア様、いかがなさるおつもりですか?」
メルの言わんとしていることは分かっている。分かってはいても、やはり難しい物は難しいのだ。
「いい加減、アーサー様には本当のことを言うべきでは?」
その時の私は情けない、いやいっそ無様と言うべきか。罪悪感に押しつぶされそうになっていた。
「それをすれば申し訳がだね…」
「本当に豚みたいにわめきますね」
「メル、君はもう少し寡黙じゃなかったかい?」
「ええ、そうです。今でも、寡黙ですよ。
ですが、私はメイドです。
調理して欲しそうに台の上にある最上級の豚を見たら、最高の料理が出来そうだと興奮くらいしてしかるべきだと思いますが?」
今では考えられない程、彼女は生き生きしていた。彼女は、変わらず頭を抱える私を見かねたのだろう。
「それに根拠がないわけではないのですよ」
「え?」
「アーサー様は、きっと真実を告げたところで大丈夫だと思いますよ。
まぁ、根拠は私の勘ですがね」
「それは根拠とは言わないと思うけどね」
「強いて言いうのであれば、あの方のご意見番が何もしていないわけがないということでしょうか」
「ご意見番?」
「おや、アーサー様から何も伺っておられなかったのですか?」
本当にその時は、私は何も知らなかったのだ。あの人は、あまり自身の周りの人のことを言いたがらなかった。今も思うが、ソイツのことを知らずにいれば、私は幸せにいられたのではと思わないでもない。考えても栓の無い事ではあるが。
「一般では色情魔で通ってはいますが、さる界隈では一流の魔術師として有名です。
その彼が、何もしないということは大丈夫だと考えても良いと思います」
「時には従者の事にも耳を傾けるべきか…。
酷い目にあったら慰めてね?」
「おや?それは、それは…」
「あ、今のなしで」
ここから先は、語るまでもないだろうが、収まりが悪いから少し語りをいれるとしよう。
何も性別を偽っていたのは、私だけではなかった、という話だ。
私が感じた違和感とはそこにあったわけだ。
それはある意味で、奇跡のような出来事なのだろう。
性別を偽らざるを得なかった二人が出会い、恋をして、結婚をする。
三文芝居のようだと、きっと文豪たちは笑うだろう。
でも、そこには確かな幸せがあった。その幸せを感じられた。
この選択に間違いはない、そう信じられた。―――信じていた。
故に、この選択が間違いだとは分からなかった。
嫌いな嫌いな魔術師よ、
特に理由の無い、一目惚れが青ペンを襲う!
好きになる理由はこれでいいの、いいの、ヘーキ。
アーサー王妃物語でも特に理由は書かれていなかった気がするので、ヘーキヘーキ
次回位にギネヴィア様が幽閉される原因に触れられたらと思います。
なお、そこに触れたら後はクライマックスまで疾走するだけです。
小刻みに分けてるだけで、分量はショート・ショートみたいなもんなので、
短編部門にいさせてヒヤシンス。