本作は独自設定を大量に含んでいます。
トサカ頭との不幸な出会いから少し経って、俺は寝るときにはあの城から取ってきた服を着るようにしていた。盗品を使っているようで忍びないが、毎度毎度あの城から服が一着ずつなくなっていくよりはまだいいだろう。
なにより、寝るときにしわがついたとしても、着物よりも直しやすいのだ。
毎日あの謎の城に飛ばされるわけではなかったが、いつそうなるのかとひやひやして眠っている。
目が覚めると、またあの場所に飛ばされていた。今回も城内の一室。
部屋から出た直後、不幸にも誰かにぶつかってしまった。前みたいに怒りの沸点が低い人でないことを祈ろう。
「大丈夫ですか?」
「ああ、次からは気をつけるように」
よかった。優しい人だった。さっさと立ち去ろう。見ない顔だなんて疑われたらたまったものじゃない。
「いや、待て。貴様、
「えっと、なんのことですか?」
呼び止められて見上げると目が怖い。だれだこのお爺さん。スーツを着ているってことは、ここの偉い人なんだろうけど。それに、ノスフェラトゥとはなんだ?もしかしてこの姿の人と知り合いなのか?
「かつてのように陛下の脅威とならぬよう、ここで仕留めさせてもらう」
目の前から爺さんが消えると同時に左腕が熱いと実感する。動かないことからすると、どうやら関節を撃ち抜かれたらしい。断定できないほどに相手は速い。いや、行動の前後に隙がないのか。強い敵意を向けてきているので霊力と血の吸収はできているが、これじゃあ行動不能にするより先に倒される。
「手緩いな。随分と不調なようだ」
幼女の身体で戦うなんて慣れてないに決まっているだろう。俺の知らない俺の何を知っているというんだ。むしろ教えてほしい。そもそも、あんたは誰だよ。
「あなた、誰?私にはあなたと戦う理由がないのに」
「どういうことだ?私を忘れるとは思えないが」
あまりにも強すぎる。会話をする暇さえ与えてくれない。血を流しすぎたせいかだんだんと意識もぼやけてきた。
「あっけなさすぎる。罠か?まあいい、とどめだ」
こめかみに銃口が突きつけられた。こんなところで死ぬだなんて……
「このままでは私がしんじゃう。交代こうたーい」
銃口が逸らされ、彼女の纏う雰囲気が変わった。見た目通りに戸惑っていた幼女から、高みから他者を見下すことに慣れきっているそれへ。副隊長相当だった霊圧が総隊長にすら匹敵しかねないほどに高くなる。
「久しぶりだね、ロバートのおじさん。あ、もうおじいちゃんか」
「ああ、こちらは会いたくもなかったが。貴様は変わらんようだな」
「昔に戻ったみたいだね。それだとおじいちゃんがまた負けちゃうけど。
「呼べば全て貴様の糧となるだけだろう。だからこそ、以前も私単騎で貴様と戦ったのだから」
「大正解。まあ、ここで引っかかるほど耄碌してないか。じゃあ、はじめるよ。縛道の七十三、倒山晶。縛道の二十六、曲光」
ノスフェラトゥは自分ごと周囲の空間を固定し、隠し、視認できないようにする。あの吸血鬼もはじめはただの死神だった以上、できて当然のことだった。場が整えられ、これで互いに増援は望めなくなった。
「一対一の決闘だよ。滅却師の誇りとやらにはもってこいでしょ。すぐに砕かれるだろうけどさ」
「一応名乗ろっか。私が
純白の城に紅月が上る。
「
直後、
「The Heat」
逆四角錐の空間内を炎が満たす。放たれた銃弾は全て融け落ちた。
「それは、バズビーの──」
「全部吸えなかったのは残念だったなー」
ロバートの着ていた軍服には焦げ目すらない。吹き出た炎の合間を縫って躱していた。
「おじいちゃんは前にこれで負けたんだよね」
「啜れ、嗜血花」
周囲の霊子が綻んでいく。彼女が何千もの滅却師の血を吸って得た霊子の隷属能力。極大の霊圧を放ち、一か所へと収束した霊子は今にも破裂しそうだ。
「今回はどうするの?」
全方位への同時攻撃。瞬間移動であろうと躱しようのないそれに。
「
「へ?」
「
ロバートは旧式の道具で対応した。予め霊力を込めておいた銀筒から霊子の膜が発生し、ノスフェラトゥを包み込む。これを五つ重ね掛け。全て攻撃に回せばどんな虚であろうと容易く屠れるそれを以てしても、外界と隔てられるのは一瞬。だがそれが限界まで収束した霊子の炸裂直前ならば、攻撃に使うよりも甚大な効果を与えることができる。
力は全て内側に向かい、溜めた霊力全てが彼女自身に返る。
霊子を焼き尽くす蒼い爆炎の中から声が聞こえた。
「まさかそんなに古い道具を使うなんて、ほんとにおじいちゃんになったんだね。銃を使っているからてっきり心は若いとか言っていると思ったのに」
「千年間我々は研究し、進歩し続けたのだ。使えるものを使うのは当然だろう。まったく、ここまでやってまだ死なないあたり、貴様は化け物だよ」
見るからに重症だ。焼け爛れてはいないが、火傷の深度はかなりのものだろう。それでもノスフェラトゥは平然と炎の中を歩いてくる。
再び銃を構える。背後を取ろうと動いたところで、彼女の張った結界が崩壊した。
「決着が着くまでは壊れないはずだったんだけどな。私の過小評価だった。あなたは強いよ。見くびってました。ごめんなさい」
「貴様に褒められるなど、怖気が走る」
ここは引かざるを得ない。このまま多くの血を吸われては、それこそ手が付けられなくなる。
「残念だけど、私もそろそろ帰る時間なんだ。尸魂界に来ることがあったらよろしくね」
そう言うや否やその場から消え去った。霊圧の反応はない。
舌打ち。品のない仕種だとはわかっているが、そうでもしないと苛立ちが抑えられなかった。
「陛下への進言が必要だ」
再び
気がつくと俺は布団に戻っていた。死んだかと思った。身体はなぜか治っていたが、記憶がないというのは不気味なものだ。
もうすぐ真央霊術院を卒業し、初めての入隊試験を控えているというのに、今までで一番精神をかき乱された。
精神の安定を図るためにも、日課となっている刃禅をしようと思い立った。
始解を体得してからは階段を上る必要もなくなり、最初から神社の境内にいるようになった。ただ、今日はそれとは別に大きな違いがあった。
本来は晴れ渡っていた空は夜となり、赤い月が中天に浮かんでいた。
「またきたんだね」
境内に腰かけていた嗜血花が俺の方に向き直る。そういえば、彼女の着ている服はあの城(確か銀架城といったか)に置いてあったものと同じだ。
「なあ、これは一体……」
あまりの変わりようになにがあったのかと聞くが、彼女はそれに答えない。一度それっぽいことを言っていたが。
「だいじょうぶ。たのしいことがあったから、きょうはつきがあかいの」
と的を射た答えではなかった。ただ、紅い光に照らされて、白い服が真っ赤に染まっている様はまるで血に染まったようで、恐ろしいのにどこか魅力的でもあった。
そのあと、それは自分の姿でもあることに気づいたが。
八番隊。隊花は極楽鳥花。花の意味は【すべてを手に入れる】
次回、初めてわからせられます。