陽毬の髪は風に靡いていた。
陽毬の目からは希望はもうなくなっていた。菫に会いたくないという気持ちと会いたいという気持ちが半々だった。菫の怒った顔。思い出すと、胸が締め付けられる。もう前のように菫とは仲良くできないんだなと不安を感じた。
その時だった、陽毬の体から黒い煙が黙々と空に上がった。陽毬はそれに気づき叫んだ。
そして、その黒い煙は陽毬を包み込み、黒く丸い大きなものへと成長した。陽毬はただ、ただ目を閉じた。
頭に浮かぶ母の顔。
嫌いなのに、嫌いなんて言えるはずない。
『陽毬、こっちよ。』
何処かで私を読んでいる気がする。そんな気がした。
『お母さん?』
濁った川の向こうに母はいた。
『貴方は、私がいるこっちの世界に来るの。』
両手を伸ばしていた。
空は暗く濁っている。
地面は草が生え、ピンクのベーバナが咲き誇っていた。そして真ん中には、石畳の道があった。
『お母さん...。』
『陽毬、貴方が大人になったんだから。今度こそ上手くやれると思うわ。だから、こっちにきて一緒にずっといましょ。』
『嫌よ、なんで今更。』
『あの頃は、まだ貴方は中学生だったじゃない。』
『私は現実に戻らなければならないの。まだ、何も解決してないわ。』
『そんな事、どうでも良いのよ。貴方が生きやすい世界はこっちなのだから。あっちの世界を気にする事はないわよ。』
「こんなの違う。私がいたい場所はここじゃない!ちゃんと、自分の生きていた世界よ!」
頭を抱えて泣きそうになっていた。
視界に入っていた風景に、ひびが入り粉々に割れた。そのまま下に落ちた。
下に落ちると、懐かしい匂いがした。
顔を上げると、中学生の頃に住んでいた自宅だった。
母はその頃の姿で、料理をしていた。
「お母さん?」
立ち上がり料理をする母に近づいた。母はくるっとこっちを向いた。
「あら、お帰り。陽毬、今日の学校どうだった?」
「お母さん?何言ってるの、私は...。もう、大人よ。」
「社会人でも、中学生でもそんなのどうでも良いわよ。ご飯支度してるから待っててね。」
今更、気がついた。
これは、私の理想の母なんだと。
私がずっと、求めていた光景だったんだと。
「これも違う!!」
また、視界に入っていた風景にヒビが入りバリンッと、音を立てて粉々になった。そして、また今度は下に落ちる事はなかったが、その場から動けなかった。
「どう?求めていた幻覚は。」
隣に、もう1人の自分がいることに気が付いた。
「貴方は..私?」
「そう。貴方の中の貴方よ。」
「私の中の私?きゃ!」
もう1人の陽毬が、陽毬の頭に手を当てると陽毬は目を瞑った。
「ふふふ、暫く眠っていなさい。もう、貴方は誰にも助けられないから永遠の眠りにつくのよ。」