役立たずのフルンティング   作:ライアン

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皆さま多分お判りでしょうが当作は鬼滅の刃の継国兄弟に多大な影響を受けています。ヤベェ級の超天才の弟を持ってしまった天才の兄……良いよね……
ラグナロクのネタバレを当然含みますが今話ではまだ致命的なネタバレはないと思います。多分。


挫折

 

 ---人を妬まぬ者は運が良いだけだ。出会った事がないだけだ。神々の寵愛を一身に受けた者に。

 

 

 あるところに二人の兄弟がいた。二人は端的に言えば孤児と呼ばれる存在であった。身寄りは存在せず、物心ついた頃には親も無く、そじて自分たちの名前すら知らずに彼らは二人きりであった。何故自分達が孤児なのかを彼らは知らなかった。彼らが知っているのは互いが兄弟であるという事だけであった。

 

「俺たちは互いに血を分けた兄弟だ。だから親や大人が俺たちを見捨てたのだとしても俺たちだけは絶対に互いを裏切らないようにしよう。お互い支え合って生きていくんだ」

 

 そう告げる3つ年上の兄に弟は無言のまま頷いた。兄弟はその言葉を実践し互いに助け合い、生きていた。身寄りがない孤児である二人にとってみれば頼れる者はお互い以外に居ない以上、それは必然だっただろう。助け合わなければ生きていけなかったのだから。それでも庇護者のない子供が二人きりで何が出来るわけでもない、程なくすれば路上に子供の死体が二つ転がる事になっていただろうが、しかし()()は彼らを見捨てはしなかった。聖教国に於いて最大の名門とされるヴェラチュール家が運営する施設、そこに二人は程なくして拾われたのだ。そして兄の方にはアルフレッド、弟の方にはウィリアムと名前も与えられた。

 そこまでであればよくある美談で終わっただろう。富める者が上に立つ者の責務として貧しき者に手を差し伸べてそれに二人の哀れな孤児は救われたーーーと良識的な貴族が他国に比べて多いカンタベリーに於いてはそう珍しい話でもない。そうした孤児院や救貧院を運営している貴族は腐敗と停滞が進んできている軍事帝国アドラーや弱者救済の考えが薄いアンタルヤ商業連合ならばいざ知らず、信仰と教義を奉ずるカンタベリー聖教皇国にはガラハッド家を筆頭に多数存在するのだから。しかし兄弟を引き取ったのがヴェラチュール家の運営する施設であったが故に話はそこでは終わらない。端的に言えばそこはただの養護施設ではなく国家のーーー否、神祖の手足となる人材を養成する一種の修練場であったのだ。ただしそこに引き取られたものが不幸であったかと言えばそうとは断言出来なかった。

 課される訓練は確かに血が滲む程に厳しいものであったが、命や四肢を失うような理不尽な者は皆無。優秀な手足を育成するための施設であるが故に他の施設に比べればはるかに潤沢な資金を注いで運営されるそこでは何時だとて暖かな食事と清潔な寝具と衣服が提供されたし、遊興に耽る事も推奨された。

 

「この世はあればあるほど良い。極論すればこの世には効率の差はあれど無駄な時間などというものは存在しないのだよ。何も訓練だけが自分を磨くための時間ではない。よく学び、よく動き、そしてよく遊びなさい。同じ釜の飯を食った仲間というのは中々どうして諸君の人生を彩ってくれるものだぞ」

 

 施設を運営する最高責任者にして子供達にとっては厳しくも優しい教師にして親でもある絶対者グレンファルト・フォン・ヴェラチュールは常々そう唱えていた。そこに互いに蹴落とし合う蟲毒が如き凄惨さは存在しない。切磋琢磨させる為に互いに競い合う事こそ推奨されたが、それもあくまで蹴落とし合うのではなく自らを高めることによって相手を超える事を求める健全な競争関係。そして勝負の結果負けた側への配慮もグレンファルトは決して欠かさない。

 

「落ち込むなとは言わん。その悔しさは自らをより飛躍させる為に必要な感情だからな。だが自分には価値がないなどと決して思うな。俺にとってお前たちはみな等しく大切な愛弟子であり、そして我が子だ。競争の結果優劣は必然として発生するだろう。だが一度の敗北如きでお前たちの価値がなくなってしまうわけでは断じてない。忘れるな、お前たちは決してもう無価値な存在などではない。他ならぬこの俺、グレンファルト・フォン・ヴェラチュールがそれを保証する」

 

 語りかける言葉とその眼差しは我が子に接する父の如き慈愛に満ちており、故にこそ子供たちは歪む事無く奮起して訓練に精力的に取り組む。基よりこの施設にいるものは兄弟がそうであったように、身寄りもなく、当然満足に他者からの愛情を受けた事もないような者ばかりなのだから。物質的な充足は勿論、愛情と信頼という精神面での充足も与えてくれるグレンファルトは彼らにとってはまさしく神に等しい存在となる。己を磨いて忠義を示し御恩を返すのだと奮起し、誇りを抱きながら同じ思いを抱く仲間と共に修練へと明け暮れる日々。そんな環境下で弟ウィリアムよりも3つ年が上であったが故に身体が出来上がるのも早かったアルフレッドは弟よりも一足先に本格的な修練を行い始めーーーそして順当にその頭角を現し始める。なぜかとその理由を言えばひどく簡単であり陳腐なもの。アルフレッドは天才であったのだ。

 

「やはり何時の時代にも麒麟児と言う奴は居るものだな。励めよアルフレッド、奢る事無く磨けばその剣あるいはお前が50になる頃には俺の積み重ねた千年にさえも届くかも知れん。お前が我が片腕にまで昇り詰める日を心待ちにしているぞ」

 

 かけられた期待の言葉はアルフレッドにしてみればまさしく神からの啓示に等しくーーー当然アルフレッドはより一層の奮起を誓い訓練へと励む。才能があり、それを磨くための環境が与えられ、精力的に磨く動機(モチベーション)が存在した。ならばこそその剣は順調に研ぎ澄まされて行く。そのまま行けばそう遠くない内に《洗礼》という至高の栄誉を授けられる事となるはずの未来はーーー他ならぬ実の弟によって閉ざされる。アルフレッドから遅れる事三年、弟であるウィリアムもまた10歳となった事で幾多の同輩と共に本格的な修練へと励みだす。そして適性を見るためにと最高責任者たるグレンファルト直々に行われた最初の模擬戦闘の結果はーーー

 

「ここにきて最高傑作の誕生か、やはり人間は凄まじい」

 

 アルフレッドがいずれその片腕となる事を夢見た主君が発したのは()()の言葉。千年もの間生きる神をして今まで見たことがなかった神域の天才を見つけた驚きの言葉であった。それはありふれた話ではあっただろう、何せ最強の異名を冠する事が出来る者はいつの時代もたった一人だけなのだから。単に今まで幾多の同輩がアルフレッドを相手に抱いてきた想いを今度はアルフレッドが実の弟を相手に味わう事になったというそれだけの事。100年に一人の天才足る兄が霞む1000年に一人の才を弟を有していたという、ただそれだけの話である。

 そしてそれは別段気に病むようなことではない。他ならぬ主君が常々言っていた事だ、競争の結果優劣は必然として生じるものだと。そしてそのうえで負けただけでその価値が消滅するわけでは断じてなく等しく自分たちは大切な存在なのだと、そう父であり師でもある偉大なる神は言っていた。ならばこそ落ち込む必要はない、至らぬ者は至らぬ者なりに主君の力となれるよう努力すれば良い。実際今まで自分に負けた数多の同輩達はそうして来たではないかーーーと、そんな理屈を理解できる程度にはアルフレッドは聡明であったが、同時にそうした理屈のみで自らの心を納得させられる程に大人ではなかった。

 

「まだだ、ウィリアムの才が俺を上回るならば俺はその才を上回るだけの努力を重ねれば良いだけの事」

 

 そう己を叱咤してアルフレッドは死に物狂いで修練へと明け暮れた。これでウィリアムが己が才に慢心するような驕った天才であれば重ねた努力を以て才能に勝利するという大衆好みの物語が演じられたかもしれない。しかし、神祖グレンファルトが見出した千年に一人の神剣はそんな生易しい存在などではなかった。努力する事を苦と思わず当然のように常人であれば数日どころか数時間もすれば音を上げるような修練を己に課し、自らを磨く事に余念がない。そして当然のようにどれだけ己を磨こうとしても一日は24時間しかない。ならばこそ努力の量を以て相手を上回ろうとしても物理的にそれは不可能となる。ならば量ではなく密度によって差をつけようとしてもそれもまた同様に不可能であった。何故ならば天才とは1を聞いて10を学ぶ成長速度を持っているからこそ天才と称されるのだから。努力の量が同じなのであれば、当然のようにより才能を備えている方がより成長していくのは当然の事。アルフレッドが唯一持っていた3年先に修練を始めたという弟を上回る要素もその才能を前に瞬く間に覆されていく。誓ってアルフレッドは怠けてなどいない。しかし、それでも才能という余りに残酷な差はアルフレッドに無情な現実を突きつける、すなわちどれほど自分が最善を重ねようとも弟には敵わないのだと。それでもまだだ、まだだと吠えようとしたところで絶対の忠誠を捧げた主君がそれを制止する。

 

「まず最初に言っておこう。俺は今でもお前の事を違わず評価している。アルフレッド、百年に一人の才を持つ我が愛弟子よ。お前がその才に驕る事無く重ねた修練を俺は余さず理解している。そして父として誇りに思う。よくぞその年でそこまで練り上げた」

 

 告げられる言葉は常と変わらず慈愛に満ち、その視線は春の陽射しのように暖かかったーーーしかし常ならば喜びを齎してくれるその言葉が今のアルフレッドには死刑宣告も同然に聞こえた。

 

「その上でお前を俺の使徒とする事は出来ん。理由はお前もわかるだろうが、お前の弟ウィリアムがお前を上回る才の持ち主だからだ。いやこればかりはめぐり合わせが悪かったという他ない。何せお前の弟と来たらこの千年、俺をしてお目にかかった事がないほどの才を持っていたのだからな。俺がスメラギの奴位《洗礼》を施すのが上手ければ、兄弟揃って使徒とする事もやぶさかではなかったのだがーーーあいにく俺はアイツ程に上手く無くてな。同時に二人以上の使徒を作ってしまうと、俺自身の力が大きく減退してしまうのだよ」

 

 告げられる言葉は予想通りのものであり、アルフレッドは足元が崩れる落ちるような気分になった。しかし、同時に心の底でどこか安堵している自分が居た。もうこれ以上無理をして弟を超えようなどと分不相応な事をしなくて良いのだと、そんな風に。

 

「無論人間は可能性の怪物だ。常軌を逸した精神力で以て、才能の差を覆すという事例をこの千年俺は飽きるほどに見てきた。ならばこそお前が弟を超える可能性も0とは言わん。しかしその可能性を生み出す事が出来るのは光に焦がれ、狂気と呼べる領域に手を伸ばすどころか躊躇いなく突っ込む事が出来る破綻者だけなのだよ。そして俺は我が子の幸福を願う一人の親としてお前にそうなって欲しくはないんだ、アルフレッド。重ねて言うが俺はお前を今でも違わず評価し、誇りに思っている。アルフレッド・ベルグシュラインは俺の誇る愛弟子であり愛し子だ」

 

 ただ実弟であるウィリアム・ベルグシュラインと比較すればどうしても前者の方に軍配が上がってしまうのだと告げられた言葉を前にアルフレッドは

 

「……仰せのままに、我が主君(あるじ)

 

 やっとの思いで絞り出した一言を告げると共に、己が挫折を受け容れるのであった……

 

・・・

 

「ーーーといわけでだスメラギ、お前には手間をかけて申し訳ないが我が()()()アルフレッドへのフォローを頼みたい」

 

 居並ぶ千年の付き合いとなる仲間たちを前にグレンファルトは総代聖騎士としての仮面を脱ぎ捨てて告げる。

 

「はいはい了解。確かに件のアルフレッド君は弟君からしばらく遠ざけた方が良さそうだーーー彼が諸々折り合いをつけられる大人になるまではね」

 

 そしてそのリーダーからの頼み事を聞き終えた教皇スメラギは納得と共に頷く。なるほどなるほど、確かにこれはしばらく自分が預かった方が良さそうだ。彼にとってはグレンファルトと弟が共にある光景を目にするだけでしばらくは毒となるだろうからと。

 

「でも珍しいわねグレン、あなたがその辺の塩梅を誤るだなんて」

 

 オウカ・鳳・アマツは自分が仲間の中で一番使徒の扱いが下手だという自覚が存在する。そしてそんな自分に比べて三人は方向性は異なれどよくもまあそれぞれああも上手く扱うものだと評価していたが故に。その筆頭たるグレンファルトが使徒候補の取り扱いを誤ったというのはオウカにとってみればかなり意外な出来事であった。

 

「いや、こればかりは俺の気が逸っていたという他ないな。何せアルフレッドの奴はこれまで育て上げた歴代の片腕達と比べてもなんら遜色がないどころか、順調に育てば屈指と言えるだけの才を持ち合わせていたのだから。まさかその実の弟が兄を超えるどころかこの千年の中でも文句なしに最高の才を持っているなどと言うのは流石に予想外だった。つくづく人間の可能性という奴には驚かされるよ」

 

 苦笑と共にグレンファルトは自らの誤りを認める。人間は与えられたものを奪われるを事強く恐れる生き物だ。アルフレッド以上の才を持つ者が生まれる事を想定せずに己が使徒とすることを示唆してしまったことが早計だったと素直に認め、反省をする。どれほど経験を積んでも自分は無謬とは程遠い未熟者なのだと、驕る事無く失敗を己が成長の糧とし続ける。

 

「まあ確かに失敗ではあるがそう深刻になる事はあるまい。何せ件の者の悩みなどありふれたものに過ぎぬのだから」

 

 イザナ・フォン・ザンブレイブが告げるようにアルフレッド・ベルグシュラインの悩みと挫折など世に於いてありふれたものだ。最強を夢見たが、自分をはるかに上回る才の持ち主がいた。そしてその才の持ち主は実の弟だったとそんな程度の話だ。変わったところがあるのは単に弟の持つ才能が神祖達をしてこの千年の中で最高と言えるほどのものであり、兄の方も生まれるのが後100年早ければ挫折する事無く夢を叶えられるだけの才を持ち得ていたというだけの話。ならばこそ幾多の者を導いてきたアルフレッド・ベルグシュラインの新たな主君教皇スメラギにとってみればその悩みを取り除く事など余りにも容易い事である。

 

「とりあえずアルフレッド君には早いところ身を固めて貰うとしよう、陳腐な手ではあるけど多分それが一番手っ取り早い」

 

 つまるところアルフレッド・ベルグシュラインが思い悩んでいるのは彼の視界に映っているのが現状忠節を尽くす事を誓ったグレンファルトと本来自分が就くはずだった場所を奪ったように見える血を分けた弟の二人だけだから。ならばこそ、彼の世界をそれ以外の価値で以て彩ってやればいい。家庭を持たせて愛を教えてやるのだ。それが人を挫折から立ち直せるのに最も有効だと、皇悠也は自らの体験から知っていた。

 

「イザナ、彼と相性が良さそうな娘を適当に見繕ってくれるかな。自分よりも優秀な妹が居る、彼より数歳年上の子なんかがちょうどいいと思うんだけど」

 

「同じ境遇から来る共感か、ありきたりではあるがそれだけに有効ではある。あいわかった、適当に数名ほど見繕っておくとしよう。めぐり合わせさえ悪くなければ総代聖騎士殿の片腕が十二分に務まった貴重な人材をみすみす潰すなど勿体ないにも程があるしな」

 

 重ねて言うがアルフレッド・ベルグシュラインの悩みも挫折も神祖から見ればありふれたものだ。ならばこそ規模こそ違えど似たような悩みを持った者にも当然心当たりは存在する。

 

「何から何まですまんな、やはり持つべき者は頼れる仲間だ。俺も親として肩の荷が降りたというものだよ」

 

 ならばこそアルフレッド・ベルグシュラインは順当に挫折から立ち直り再起するだろう。偉大なる神祖の導きによって彼らの狙い通りに愛を知り、やがて抱いた苦悩と挫折を若気の至りとして昇華させるのだ……

 

 

 




ベルグシュライン卿と比較して「ウィリアムを金とすれば自分は銅とすらいえない鉄屑」とか言う使徒居たらいい具合にルーファス君の心えぐれそうだよね!→神祖達がそんな奴をそんなめんどくさいメンタルのまま放置するか?上手い具合に折り合いつけられるように誘導するんじゃねぇか?→あ、スメラギ君なら所帯持たせるなりして落ち着かせようとするわ。

神祖本当に隙が無くて困っちゃう。
グレンファルトさんのアルフレッド君への息子云々は多分演技ではなく割と本心から言っている。
そしてそのうえで本心から我が子のように思っているような愛弟子はいざという時に使い捨てられるのがグレンファルトさん。
全3話位を予定。今回は流石にそこまで長くなることはないと思います。きっと多分おそらく。
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