すまんが全5話位になりそうだ。
教皇猊下とか神祖の方々を描くのが想いの外楽しくて筆が乗ってのう。
「さてそれではアルフレッド・ベルグシュライン、汝のその忠節に報いる為にこれより教皇スメラギが祝福を与えようーーー君にして見れば我が片腕足る総代聖騎士からではなく僕から受ける事に忸怩たる想いがあるとは思うが、まあ理想通りにはいかないのが人生というものだ。その辺は今すぐにとは言わないからおいおい折り合いをつけてくれたまえ」
威厳と親しみ易さ、相反するはずのそれらを同居させた若き少年教皇はそう忠実なる手足へと語りかける。
「不満などと滅相も御座いません。弟には到底及ばぬこのナマクラが教皇猊下直々に《洗礼》を与えて頂ける栄誉、身に余る光栄だと重々承知しております」
幼少よりこの国を統べる四人の神祖こそがこの世に降り立った現人神だと教えられ、それを自然と信じるようになったアルフレッドからしてみればそう答える他ない。何せ目前に居る人物もアルフレッドが忠節を捧げる事を誓ったグレンファルトと同様に神祖なのだから。
「無理に取り繕う必要はないさ。君が
今日初めて会った僕にグレンと同等の忠誠なんてものは捧げられなくて当然だし、そんな無茶を言うつもりもない。周囲に咎められない程度に礼節を守って課せられた責務を果たしてさえくれれば君の内心まで束縛するつもりはないさ」
駆け出しであった頃ならばいざ知らず今この場にいるのは人生の酸いも甘いも散々に味わった不滅の神祖スメラギ。表向きは媚びた態度を取りながらも裏でこちらを出し抜かんとする連中と散々に渡り合ってきた彼にしてみればもはや内心での不敬など咎める気さえ起きない些事でしかないものだ。
むしろそうした油断ならぬ者達に比べれば目前の素直な若者ははるかに扱いやすく、そして好ましい存在だ。最もかけた言葉は本心であると同時にそうした寛容な態度をとる事こそが結局のところ一番速やかに心からの忠誠を獲得する事が出来るという長年の経験に基づく計算によるものでもあったが。
「ただ二つ程君に言っておくことがある。まず一つ目、これは君の新たな主君としての
そんな君が自らを殊更貶めるのは周囲を追い詰める結果にしかならないし、君に敗れて来た者達、そして君を見出し育てたグレンをも侮辱する事になる。何より自虐は癖になって君自身の成長をも阻害する。端的に言って百害あって一利なしだ、以後慎みなさい」
「……承知いたしました」
心情で言えば反論したい気持ちがアルフレッドにはあった。しかし神祖スメラギの言う事はどこまでも正論であり、それを理解できるだけの思慮がアルフレッド・ベルグシュラインには存在した。故に肯定以外の選択肢はなかった。
「うん、素直で結構。内心ではまだまだ折り合いをつけられてはいないのだろうが、何、理解が出来ているのならばそう遠くない内に出来るようになるさ。なんといっても君はあのグレンが見出した逸材なのだから」
そしてそんなアルフレッドの内心を正確に推し量りながらも神祖スメラギは満足気に頷く。やはり正論を素直に理解して呑み込んでくれる
「そして二つ目だがこれはグレンの友人としての言葉だ。グレンファルト・フォン・ヴェラチュールは決して君に見切りをつけたのでも見捨てたわけでもない。むしろその逆、君の幸福と栄達を師として願えばこそ友人である僕に君を託してくれたんだ。
その事をどうかわかってやって欲しい、これはグレンの友人としての
「それは無論……」
理解している。偉大なる神祖グレンファルトが自分を疎んじて神祖スメラギに預けたというわけではないことを。注がれた愛情と信頼、それらはアルフレッド・ベルグシュラインの心にしかと刻み込まれている。その恩義を返すためにも片腕となる事を切望したのだから。そしてその片腕に見出されたのは自分ではなく弟だという結論が他ならぬグレンファルトから下された以上、いつまでもそれに拘泥し続ける事こそ不忠なのだという事も。アルフレッドの同輩達も皆《洗礼》を施されて使徒となる事を夢見ながら、それがかなわず、それでも立派に忠節を果たしているのだから。片腕となる事を自らが夢見たグレンファルトではなくとも、現人神足る同じ神祖から《洗礼》を施されるという至上の栄誉は歓喜に咽び泣いて然るべき事であるーーーと頭では理解している。
「では、神託を授けようーーーアルフレッド・ベルグシュライン。
「---ッ!!!!!」
齎された恩寵によって迸る激痛、それをアルフレッド・ベルグシュラインは修練により培った胆力によって耐える。絶叫が木霊する事は無く、されど流石に堪え切れずにアルフレッドはその場に膝を突く。
「無理はしない方が良い。その精神力は中々に見上げたものだけど、それも時と場合によりけりだ。苦痛に耐えれば必ず成長につながるというわけではないのだから、この場は素直に意識を手放しておきなさい。それを無様だと笑ったりなどしないさ」
与えられた許しの言葉、それを受けてアルフレッドはその意識を手放すのであった。薄れゆく意識の中で
・・・
「さてそれでは我が使徒アルフレッド、君に最初の命令を与えよう。君、お見合いをしたまえ」
「……は?」
意識を取り戻し参上したアルフレッドに対して告げられたのはそんな予想だにしていなかった言葉。さしもののアルフレッドも全くの慮外の自体に呆けた様子を浮かべる。
「お見合いだよお見合い、要は早いところ良い相手を見つけて身を固めなさいって事さ」
「それは一体……?」
「まあ特に隠す必要もないからぶっちゃけて話しちゃうけどーーーこのまま君が弟に対する劣等感だとかを変に拗らせちゃうと
こちらの内面を完全に見透かした主君の言葉、それに感服しながらアルフレッドは無言で首肯する。そう理解できている、頭では主君のいう事が正しいと認められているのだ。だというのに心の中で幼稚な自分がそれに異を唱えているのだーーーそしてそれがまたあの完璧な弟ならばこんな煩悶は抱かないだろうと自己嫌悪へと繋がっていく。
「うん、そこで素直に頷ける辺りやはり君はとても優秀だし出来る奴だよアルフレッド。
神祖スメラギは自分たちの真実を知っている使徒の前で己と言葉を取り繕おうとはしない。「君の為なんだ」などというお決まりの言葉は本心からそれを言える聖者でもない限りお為ごかしにしかならないと知っているが故に。こうして腹を割って
「そしてそんな悩める君に最もオススメなのが所帯を持ち家庭を作る事なのさ。君が真実その辺全く興味ないというのならば話は別だけどーーー君はそういうタイプではないはずだ」
神祖スメラギの言葉はまたもやアルフレッド・ベルグシュラインという男の正鵠を射抜いていた。アルフレッドは一般的に見れば大よそ無欲と言って良い。少なくとも彼を指して欲深い等と称す者はまず以ていないだろう。しかしそれでも、剣として完成され真実その手の欲求が絶無と言って良い弟とは違い、アルフレッド・ベルグシュラインは人間であった。人間であるが故に名誉欲に食欲ーーーそして性欲とて存在する。そしてそんな点がアルフレッドからしてみればまた忸怩たる想いを抱かせる所以でもあったーーー何故自分は弟のように欲望を超克した理想の剣で在れないのかと。
「その表情、きっとまた君は弟と比較してどうして弟のようになれないんだと思い悩んでいるんだろうけど
だって考えても見なよ、どれだけそれを望む者が多かったとしてもそれを与えられるのはたった一人だけでそれを君に与える事は出来ないんだから。完全無欠に無欲な聖者よりも俗な部分があってくれた方が僕たちとしては有難いのさ。ま、余りに欲深で理性とのバランスが取れないような俗物だったらそりゃ今度は別の意味で困るんだけど、その点君は俗な部分がありながらも極めて理性的だ。
俗であることそれは決して悪い事ではないのだと千年生きた支配者は青臭く未熟な若者を教え諭していく。
「まあつまるところ今の君は弟という
ほんの一瞬超然とした神祖からかつての幸福な思い出を振り返る一人の男へと立ち返り皇悠也は目前の若者へと告げる。
「というわけで
「……仰せのままに、教皇猊下」
どこまでも慈悲深い態度で
ルーファス君:元が出来ない奴だから教皇猊下の正論責めに耐えられない
アルフレッド君:比較対象がヤバすぎるだけで一般的に滅茶苦茶出来る類の人間なので教皇猊下の台詞を素直に受け容れる。
これにはスメラギ君もニッコリ