では、その正論を実行できるような出来る奴が聞いた場合は単なる有能上司の有難い教えになるのでは……?
結論から延べればアルフレッド・ベルグシュラインはどこまでも模範的と言える優等生であった。見合い相手であるキリガクレの女性と出会って瞬く間に恋に落ちるーーーという事にこそならなかったが、自分よりも優秀な妹を持ち大切に想いながらも時折疎ましく思ってしまう事、そしてそんな己を嫌悪してしまうという彼女に
---アルフレッド様はご立派です、何も持たぬ身から己を磨きついには使徒にまでなられたのですから。
そしてそんな女性の世辞等一切込められていない自分に対するどこか羨望の込められた賛辞がアルフレッド・ベルグシュラインに他者から見た己がどのように見えているのかを否応なしに突きつける。重ねて言うが、《洗礼》という栄誉を神祖から賜ることが出来るのは限られた極一部の者だ。神祖にその素質を見込まれて役に立つと判断された限られた者だけが使徒となる。当然使徒となる事を目標として励みながらも叶わぬ者とてごまんといる。
理解しているはずだったーーー理解しているはずだったというのに千年に一振りの神剣の輝きにその目を焼かれていた名剣は自らが放つ輝きを真の意味で自覚していなかった。アルフレッド・ベルグシュラインはこの時ようやく神祖がたびたび自分に対して言っていた自らを卑下する事は周囲を貶めるも同然だという言葉を真の意味で理解できたのだ。
「やあアルフレッド、どうやら交際は順調のようだね」
感心感心とにこやかに笑いながらこちらの心を見透かしながら告げられる言葉にアルフレッドはただただ恐れ入るばかりであった。
「……恐縮です」
「おっと、年寄りが余り若者たちの恋路に口を挟むものじゃなかったね。まあその調子で大いに青春してくれたまえ若人よ」
完全に解消されたわけではないがそれでも確実に効果が表れている事を確認し神祖スメラギはにこやかに微笑む。一方のアルフレッドの心境と言えば複雑であった。なるほど確かに神祖の勧めに従い彼女と出会った事でアルフレッドは久しく味わっていなかった安らぎを得る事が出来た。だがそれは同時に心の中で猛り燃え盛っていた炎が消えていくような感覚をアルフレッドに与えた。きっと自分が彼女と会っている間も弟は自らを練磨しているのだろうーーー等とそんな後ろめたさが拭えないのだ。
「これで良いんだろうか?って顔をしているね。良いんだよ、それで。むしろ君が弟を超えたいと思うのならそちらこそが正解なんだ」
そしてそんなアルフレッドの心理をまたもや完全に見透かし神祖は使徒を導く神託を下す。
「それはどういう……?」
「まず大前提としてこれはもう他ならぬ君自身が骨身に染みてわかっているとは思うけど、戦闘という分野においてアルフレッド・ベルグシュラインはウィリアム・ベルグシュラインに勝つことは出来ない。なぜかと言えばこれは全く以て無情な事に才能の差という他ない。君の弟が己の才能に溺れて競走中に居眠りするような間抜けな兎ならば君にも勝ち目はあったんだろうけど、そんな慢心とは無縁の本物の天才と来たものだ。これじゃあ才能に劣る側にはどう足掻いたところで勝ち目はない、此処までは理解できるね?」
懇々と告げられる言葉、それはアルフレッドも嫌と言う程に実感させられたことであるが故に頷く以外にはない。
「まあ中には気合でその辺の条理を粉砕してしまう
何故ならば不滅の神祖が統べるこの国に於いて既存の秩序を破壊し変革を齎そうとする者というのは即ち神祖への反逆者に他ならないのだから。
故に神祖スメラギは入念に目前の逸材が万一にもそちらの方向へと行ってしまわないように巧みに誘導をしていく。
「話を戻すけど君は確かに戦闘という分野において弟を超える事は出来ないだろう、まずはそれを認めなければならない。その上で君がどうしても弟を超えたいというのであれば方法は至って簡単、戦闘以外の分野で弟を超えればいいのさ」
ね、簡単だろう?とにこやかな表情で告げられたその言葉にアルフレッドは虚を突かれたような気分になる。そしてそんなアルフレッドの様子を確認しながらも教皇スメラギは迷える子羊を導くべく続けて行く。
「確かに君の弟はグレンをして千年に一人と称した逸材だ。戦場に於いてはまさしく無双の神剣となって活躍してくれるだろう。でもはてさて戦場以外の分野でだったらどうだろう?グレンが見込み仕込んでいる以上将として無能という事は無いだろう、だけど果たして挫折を一度たりとも味わったことのない最強無敵の絶対剣士は真に兵士の心を理解することが出来るかな?やらなければいけないとわかっていながら、気分が乗らない、明日やろう、そんな怠惰へと流されてしまう凡人の気持ちがわかるものかな?---断言するがまず以て無理だ。故に剣士としては無双の神剣であったとしても将としてはどうしても限界が出てくるんだよ君の弟は」
長所と短所は表裏一体。剣士として比類のない強さを誇る無双の存在は一度人を纏める将として見た時にその傷一つない完璧な在り方が逆に欠点になってしまうのだと最強等と言う称号へのこだわりをとうの昔に捨てた神祖はどこまでも無情に告げるーーーただグレンファルト・フォン・ヴェラチュールという全てにおいて優れた手腕を持つ万能型の極みのような存在にとってはそうした特化型の方がある意味では重宝するのだという事は現状伏せたままに。
「まあこれに関しては君も大概
そして希少というのは何も良い事ばかりじゃない、希少というのはすなわち共感できる普遍性がないという事でもあるのだから。だけど君は既に知っただろう、同じ経験をしたものが
アルフレッドの蒙を啓く為に告げられる数々の言葉、それをアルフレッドは首肯する他ない。これが彼女と出会う前であればそれでもと心の中の幼稚な自分が叫んだだろう。胸の内で燃え盛る炎がその身を焦がしただろう。しかし、神祖の狙い通りに愛情によって絆された事でアルフレッド・ベルグシュラインの心の中で猛っていた炎は燻る程度にまで鎮められた。ならばこそその聡明さゆえに理解出来る神祖の教えは蒸発する事無く、その胸へと染み渡っていく。
「常々言っている事だけど、この世はあればあるほど良いんだ。そして既に君は弟が持っていないいくつかのものを持っているーーーそら、この時点で君が弟を超える事が出来る見込みが十分に出てきたと思わないかい?」
妬心によってその精神が拗れてねじ曲がり爆発しないようにしながらも神祖は若人の健全な競争意識を煽る。それこそが人の成長を促すのに極めて有効だと理解しているが故に。
「君の弟が
ならばこそ如何なる経験も決して無駄にはならないという啓示に
「仰せのままに教皇猊下!」
アルフレッド・ベルグシュラインは万感の思いを以て言葉と両眼に覇気を漲らせながら応じる。与えられた啓示はアルフレッドにとって
挫折と言う苦悩を味わったからこそそれを知らぬ弟に勝つことが出来るという理屈はその痛みを知っているアルフレッドからしてみれば
「うん、素直でよろしい。そうと決まればこれからガンガン働いて貰うから覚悟するように。君は何といっても
出来ない奴に出来るようになれ等と神祖は言わない。何故ならば出来ない奴は出来ないのだから。必死に出来る奴にしようと宥めて煽てて丁寧に導いたところでそれでようやく半人前が一人前になっておしまいなのだから。零細企業の社員ならばいざ知らず一国のトップがやるものとしてはとてもではないが払うコストに対してリターンが見合わない。神祖直々に手塩にかけて育てるような者はそれをするだけの価値があると認められた一部の才人だけなのだ。
そしてアルフレッド・ベルグシュラインは数多の使徒を導いた神祖スメラギをして麒麟児と呼ぶに相応しい模範的な優等生であった。才能がある。それに胡座をかかずに鍛錬を続ける向上心と精神力がある。人らしい欲求がちゃんと存在し、それを律することの出来る強固な理性がある。神祖にとっては極めて優良な
教皇直属騎士という立場で教皇スメラギの有能にして忠実な手足として文武問わず奔走し、懐刀として順当に頭角を現し始めたアルフレッド・ベルグシュラインがキリガクレの令嬢マヤ・キリガクレと正式に夫婦となったのはそれからわずか3年後の事であった。
マヤ・キリガクレさんはリナさんの伯母を想定。
つまりアルフレッド卿はリナさんの義伯父になります。
ベルグシュライン卿は多分嫉妬とかそういうの全くなしに「敵を斬る事しか能がない俺などより兄上の方がはるかに神祖のお役に立っているさ」とか言う。
アルフレッド卿の結婚相手はアンジェリカちゃんの伯母にしようかと思ったけどそうするとイザナにやられていてなおかつそれを至高の栄誉だと思っているような女性にしないといけないので……うん、ちょっと描いてみたけどSAN値チェックが発生して止めておいた方が良いなこれってなったんだ。