役立たずのフルンティング   作:ライアン

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今話で完結の予定だったんですが完結するのは次回になりました。
理由は大体スメラギ君のせいです。


悲願

 

 マヤという伴侶を得た事でアルフレッドの栄達は加速していく。何しろ伴侶となったマヤは代々貴種(アマツ)へと仕える名門キリガクレの人間。言葉や立ち振る舞いに礼儀作法を武器とした交渉という分野に於いて一族ぐるみで重ねてきたノウハウがある。故に当然のように学ぶ事は数多いし、そんな名門の令嬢を妻に娶ったという事はすなわちアルフレッド自身が表の立場に於いても正式に上流階級の仲間入りを果たしたという事に他ならない。栄達を果たしていく()()()()()()()()()()()()()という事で好意に悪意、抱く感情は様々なれど必然的に増える裏の事情(神祖の存在)を知らぬ海戦山千の権力者との交流(暗闘)の日々。

 

「君も知っての通り上達の一番の近道は出来る奴を真似する事だ。奥さんを頼り、上流階級の出来る子たちを教科書にして積極的に学んでいきなさい。そして叶う事ならば奥さんのように単なる打算を超えた友人を作る事だ。曲者ぞろいではあるが、それだけに彼らは彼らで胸襟を開いて付き合える友人に飢えているものさ。何せ彼らにとっては交流の場こそがある種の戦場と言って良いからね。当然、市井の一般人のような付き合いなんて見込めないわけ。敵を倒すのではなく増やさないように、そして味方を増やすように心がけて振る舞いなさい。それが政治という分野での戦い方さ」

 

 栄達に伴い次々と齎される難題。次の戦場次の戦場次の戦場ーーー万能型(ジェネラリスト)としての究極を目指すというのはそういう事だ。しかし、それらに折れる事無くアルフレッド・ベルグシュラインは成長を遂げていく。主君への忠誠があった。心を癒してくれる愛情が存在した。偉大なる神祖(かみ)による導きがあった。何よりも自分よりもはるかに優秀な存在()を超える為に死に物狂いになった過去(経験)があった。未来の希望と過去の絶望、それらすべてがアルフレッド・ベルグシュラインの糧となり、より良き明日を目指して進み続ける原動力となる。そして伴侶を得てから3年、齢24となったアルフレッドは己を支える更なる宝を得る。

 

「私はお前が誇れる父であろう。愛しき我が子よ」

 

 自らの血を引く嫡男の誕生。それによりアルフレッド・ベルグシュラインはかつて抱いた弟への妬心を昇華させる。無論それは完全に消え去ったわけではない、人間である以上自らがかつて思い描いた憧憬(ヒカリ)への焦がれは心の何処かに残り続けるのだから。しかし自らがその理想へと焦がれ手を伸ばし続けていれば腕の中で抱く愛おしく大切な小さな宝へと巡り会える事が出来なかったのも事実。ならばこそ此処に神祖スメラギが告げた神託は達成される。その手の中にある確かな幸福が彼に真の意味で現実(いま)を肯定させる。

 

 ーーーもしも自分があらゆる忠告を無視してそれでもなお弟を超えようと挑み続けていたら、あるいは自分も神祖が日頃言っているあらゆる条理を精神力によって粉砕する光狂いとなってそれは実現したのかもしれない。

 

 だがそれは即ち自らの全てを(弟超え)に捧げる人生を選ぶという事だ。当然妻と巡り会う事は無かっただろう。当然今この腕に抱く愛おしい宝と出会える事も無かっただろう。

 

 ---故に私はこの道を選んでよかったのだ。

 

 心の中で今もくすぶり続ける憧憬(ヒカリ)への焦がれを自覚しながらも、現実(いま)を肯定するという事、それは即ち真の意味でアルフレッド・ベルグシュラインが大人になったという事である。故に神祖スメラギの神託は此処に成就され、神祖にとって理想的な歴代に於いても最優の使徒が誕生する。

 

 後の事はもはや子細を語るまでも無いだろう。歴代最優の使徒は神祖の忠実なる手足として理想通りの働きを示し続ける。私事に於いては27で第二子を授かり、公事に於いてはその功績と能力を認められ31という若さにて聖教国の北部を統括する第二軍団(オプシティアン)の団長を拝命する。聖教皇国に存在する七つの軍団の内の一つの頂点、その地位は軽いはずもなく実績、運、人脈、そして神祖からの信用、そのすべてを兼ね備えた者のみが到達できる聖域に他ならない。当然ただ強いだけの人間がなれるはずもなく、部下の統率、部隊の運営、後進の育成、各所との折衝能力、そして緊急時の決断能力ーーーそれらすべてを兼ね備えたと神祖に判断された者のみが就ける地位なのだ。

 皇都からは離れる必要があるがそれは決して左遷する意味ではなく、むしろ神祖からの最上級の信頼の証とさえ言ってもいい。何故ならばそれはつまり神祖の補助がなくともやっていけるだろうという能力への信頼、そして神祖の下から離れたとしても神祖へと敵対的な事はしないだろうという忠誠心への信用、その双方を認められたという事なのだから。

 

「元気にやりたまえ、アルフレッド。そうだね、今度は15年位務めて貰ったら更なる上、グレンに次ぐ聖教皇国軍のNO2にでもなって貰うつもりだ。---無論、これは君が奢る事無く励み続ける事が大前提だけどね」

 

 冗談めかしながら告げられた釘差しに対して勿論ですと応じてアルフレッド・ベルグシュラインは皇都を後にする。そうして第二軍団(オプシティアン)の団長となった後もアルフレッドの為すべき事は変わらない。偉大なる神祖から与えられた数々の恩義、それを返すべく誇りと共に職務に精励する日々。それは騎士団長としての任が無論大半であったが、時に使徒としての()()()()が与えられる事もあった。そう神祖がカンタベリーを建国し運営しているのは何も慈愛と善意によるものではない。全ては神祖(かれら)の悲願、旧暦文明の再建を果たす為に大規模な実験場を確保するために他ならない。故に神祖は躊躇う事無く適当に見繕った、あるいは意図的に用意した村落に住まう無辜の民草を人柱として大規模な実験を行う。そしてそんな実験を行えば必然として隠蔽工作を行う必要があり、忠実で優秀なる使徒(しもべ)であるアルフレッドへと白羽の矢が立つ事も当然ある。

 

「承知いたしました。委細お任せを。然るべき措置を取りますーーーしかし何故そのような実験を?」

 

 アルフレッド・ベルグシュラインは神祖の忠実なる手足である。故に下された命に対して別段躊躇う事無く頷く。自らの仕える偉大なる神祖が無用な殺戮などするはずなく、そこには明確な目的と理由が存在しているが故に。しかし、だからといって全く感情がない道具でも自分の頭で考えるという事をしない案山子でもない。故に下賜された専用の通信機越しに主君へとその目的を問うーーーそれはあるいは彼自身も気づいていない精一杯の主君に対する請願であったかもしれない。アルフレッド・ベルグシュラインは弟とは異なる道を歩んだ。妻や我が子という愛しい存在を見つけた。友誼を抱く友も出来た。ならばこそ私情を一切交える事の無い剣とは異なり、当然のように心は時に惑う。無邪気な様子で自らを慕う部下や我が子の姿、それらが彼らに誇れる自分であらなければならないという想いを生みーーー無辜の民草を犠牲にするという行為への忌避感情を生む。何せそれはこれまでも行ってきた国家を回す為に必然的に発生する必要最小限の犠牲とは決定的に異なるのだから。

 

「君からすれば当然の疑問だね。無論理由はちゃんとある。そしてそれを説明するためには神祖(ぼくら)の悲願について教えなければならないーーーこれを知っているのは神祖(ぼくら)以外は本当に極一部の限られた人間だ。他ならぬ()()()()()()信頼して話す、そのつもりで心して聞いて欲しい」

 

 そしてアルフレッドの煩悶、それらすべてを神祖スメラギは正確に洞察している。何故ならばそれは他ならぬ自分自身もかつて抱いた想いなのだから。旧暦文明の再建という目的の為とはいえ、果たしてそんな人倫に悖る行為をして許されるのか?最愛の妻(ヘレン)がそんな所業をする自分を見たらどう思うかーーーと悩み悔やみ時に立ち止まり、それでも尚神祖スメラギは歩み続けた。だからこそアルフレッド・ベルグシュラインが妻を娶り、子を持った時からこうなる事を当然のように予見していた。故にどういう言葉をかければ良いのか、それも熟知している。

 

「今の世界は第二太陽によって作られた地球規模の牢獄なのさ。大破壊(カタストロフ)が教訓になっているんだろうね、どう足掻いても文明が一定レベルで打ち止めになるようになってしまっているんだ。そして一番その被害を被っているのは誰かと言えば、他ならない世を構成する大多数の弱者に他ならない。文明と技術が発達していなかった時代に於いて社会的弱者の救済なんて概念はなく、放置されるがままに野垂れ死ぬだけだったり、あるいは積極的に口減らしなんてものまで行われた事を想えばこれは理解できるだろう?衣食住足りて礼節を知るという言葉があるが、自らの身を削っても他者に尽くすような人間はどうしたって少数派だ。多くの人間を救うには当然のように多くの資源(リソース)とそれを効率的に使う技術が必要なのさ」

 

 これまでと同様に神祖スメラギは迷える己が使徒を神祖(自分達)にとって都合の良いように導くべく優しく神託を下していく。

 

「だからこそ、それらを打ち破り世界と人を前へと進ませるためにも天に輝く第二太陽を掌握するーーーそれこそが神祖(ぼくら)の目的であり悲願に他ならない。そしてその為に必要なのが君達使徒に対しても授けている翠星晶鋼(アキシオン)に他ならず、その翠星晶鋼(アキシオン)を精製する為に必要なのが他ならぬ()()なのさ。

 勿論どれほど理由をつけようとも犠牲にされる方にとっては溜まった物ではないだろう、その罪深さを神祖(ぼくら)全員余す事無く理解しているとも。だけどその上でこれこそがこの新西暦(セカイ)の未来を拓くと判断した。彼らの犠牲を決して無駄にはしない。そうして第二太陽を掌握して文明再建を成し遂げればーーー多くの人間が救われるんだ。理解できるだろうアルフレッド、指導者はより多くの人間を救うために時として少数を犠牲にしなければならないという事が、他ならぬ()()()()

 

 故にこそ未来の10を救うために今を生きる1を捨てるのだと告げる神祖(かみ)の言葉に歴代に於いても最優と評価される傑作は

 

「我ら神祖(かみ)の御心がままに。改めて御身の為そして御身が作る未来の為にこの身を賭すことを誓います」

 

 どこまでも神祖の期待通りの言葉を以て応じる。

 

「ありがとうアルフレッド、君ならばそう言ってくれると()()()()()よ。これからも頼りにさせてもらう」

 

「ただ私の身に何かあった際には残された妻子についてはーーー」

 

「ああ、安心すると良い。功労者の遺族を無下に扱ったりはしないさ。もしもの時は当然何不自由のない生活が送れるように取り計らおうーーー尤も君にもしもの事があるなんてのはそれこそ万に一つ以下だろうけどね」

 

 そう神祖達は目的の為ならば忠実なる使徒でさえも時として犠牲にする冷徹さを宿している。だがだからこそ報酬は惜しまないし、犠牲となった者の遺族への補償を疎かにはしない。それこそが最も怨みを買わずに済む方法であると同時に神祖の為にその命を賭す忠臣を作る術だと知っているが故に。

 ならばこそ歴代最優の使徒(フルンティング)が所有者である神祖へと背く事は未来永劫訪れない。主君の為にと斬り捨てた血を己が糧としてどこまでも強くなっていくのだ。




下手に殺すと自分にとっては優しい大切な父だったんだ!って叫ぶ息子だったり娘がポップアップしてくる上に国へのダメージもデカい系使徒。まさしくジェネリック神祖。
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