役立たずのフルンティング   作:ライアン

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今話は本編及び後書きにラグナロクのかなり大きなネタバレを含んでいます。
ラグナロク未クリアの方はクリアしてから読む事を強くお勧めします。


役立たずのフルンティング

「ふむ、つまりは君の統括する北部で不審な動きをしている貴族達がいると」

 

「は、このタイミングでの蠢動。直接かあるいは間接か、そのどちらかは不明ですが十中八九ルーファス卿を殺した者達の関与がある事は明白かと」

 

 平民の希望の星第一軍団(ダイアモンド)副団長ルーファス・ザンブレイブの死亡。それは大多数の者にとっては大いなる悲劇であったが神祖の忠実なる使徒であるアルフレッド・ベルグシュラインにとっては単なる凶行では終わらない。ルーファス・ザンブレイブはアルフレッド・ベルグシュラインと同様に神祖によって選ばれた使徒であった。すなわち通常では殺せない不死者であったという事だ。だからこそその死は重い。今回の敵はともすると神祖にさえもその牙を届かせ得るという事なのだから。

 

「君をこちらの援軍に来させない為の仕込みだろうね。未だに正体が掴めていない辺りかなり周到に準備して来たんだろう。そして使徒の中では最弱のルーファスを最初に狙って諸々試して、事後についても抜かりなしと来たものだ。やれやれイザナも言っていたが今回の敵はつくづく優秀なようだ」

 

 ともすると傲慢にも見えるスメラギの態度だがその実油断や慢心とは無縁だ。何故ならば彼こそ神祖の中でも究極のたたき上げ。神祖四人の中で最年少で在り、一度は全てを投げ出した挫折の経験がある。ならばこそ今この時も愚直に、真面目に、どこまでも油断なく疑い続けて考え続けているのだ。

 

「いっその事リスクを覚悟で北部を部下(副団長)達に任せて精鋭を率いて私がそちらに向かうというのは?こちらの蠢動が私をくぎ付けにするのが目的である以上、確実にそれで敵の狙いを外す事は出来るかとーーー目下最も脅威となるのは御身より賜りし不死を突破した神殺し。それを始末した後であるのならばその他の不穏分子が如き如何様にも料理できるかと」

 

「ふむ……」

 

 20年以上の付き合いとなる現代の腹心(アルフレッド)の言に一理ある事をスメラギは認めた。戦いの基本はとにもかくにも相手の土俵に乗らない事にある。それはつまり相手の思惑を外すように動くべきという事だ。リスク覚悟での最優の使徒の皇都への参戦、それは確実に目下潜んでいる神殺し陣営の意表を突けるだろう。

 

「いや、君はそのままでいてくれ。今回の敵はかなり周到に準備してきている、アンタルヤとアドラーのどちらか、あるいはその双方かな。まず間違いなく後ろ盾に付いていると見て良いだろう。となれば現状潜伏している神殺し達はあくまで先遣隊に過ぎず、本格的な援軍が後から送り込まれてくる可能性は高い。正面の相手に注力しているところを横から思いっきり殴りつけられるというのは御免だからね。君には予備戦力としていざという時に備えておいてもらいたい」

 

 そのうえで神祖スメラギが下した判断、それは時期尚早というものであった。敵の思惑に乗らないようにする事は戦いの鉄則だ。しかし同時に常に予備戦力を用意しておくのもまた同様に戦いの鉄則なのだ。それは遠い昔神祖スメラギがまだ駆け出しの単なる超常の力を()()()()()()()子供に過ぎなかった時に信頼していた初代使徒(エドワード)に教わった事。そしてスメラギ自身それから潜り抜けた幾多の修羅場でその正しさを実感した教えでもある。

 

「単純な戦力という点であればこちらには君の弟とグレンが居るし、遠からずアメノクラトの量産も叶うからね。ならば無理をして君を戦線に投入するよりは想定外に備えて貰う方が良い」

 

「御心のままに」

 

 かつてであれば心に荒波を巻き起こした戦闘力に於いて自分が弟の後塵を拝しているという言葉、それを受けてももはやアルフレッドの心には小波も巻き起こらず。粛々と主君の命令を受け止める。

 

「うんうん、君も成長したものだ。かつてであればこんな事を言われればわかりやすいほどに顔に出ていたというのに」

 

「これも偏に猊下のおかげです。未熟者を根気強くここまで導いて頂いた事、誠に感謝の念が堪えません」

 

「何、教え子が優秀だったからね。僕としても大分やりやすかったよーーーなんにせよそちらは任せたよ、アルフレッド。あるいはこちらからの指示が途絶える可能性もあるが、その時は君が最善と思う決断をしてくれればいい」

 

 アルフレッド・ベルグシュラインが歴代最優と評されるのはその総合値の高さ故だ。ならばこそ神祖スメラギは信じる、自らが手塩にかけて育て上げた歴代最優の使徒(フルンティング)の性能を。単純な戦闘力という点に於いてはウィリアム・ベルグシュラインに譲れど、別動隊を率いる将として見ればアルフレッド・ベルグシュラインこそが最優なのだから。

 

「御心のままに」

 

 そしてそんな主君から寄せられる()()にアルフレッドは確かな喜びを感じる。自らの主君の持つ人間離れした冷徹さ、それをアルフレッドは当然承知している。自分が早々替えの効かない駒であることを自負しているが、それでも自分という有用な駒を失った場合の損失(コスト)に対する戦果(リターン)が勝ると判断すれば神祖は躊躇う事無く自分を犠牲にするだろうと。そしてその事を知りながらもアルフレッドの主君への忠誠心は揺らがない。それは弟のように自らを道具として規定しているからではない。今日の自分の幸福、それが神祖のおかげでありその事に対する感謝の念があるからだ。犠牲にされた者は悪神と思うだろう、しかしアルフレッド・ベルグシュラインにとって神祖はそのまま行けば野垂れ死ぬしかない自分達兄弟を拾い育て、そして今日まで導いてくれた恩神なのだ。

 無論アルフレッドの中に存在するのはそうした()()()()()だけではない。一度敵に回してしまえば自分と家族は破滅するしかないという恐怖や保身の感情も当然存在する。しかし、だからこそアルフレッド・ベルグシュラインが神祖へと背く事は無い。逆らえばタダでは済まないという畏怖と従い続けたからこそ今日の幸福があるという信頼、そして育てられた恩義。その三つが強固な柱となり忠義の心を支えているが故に。アルフレッド・ベルグシュラインは所有者たる神祖にとって幾多の勝利を齎す歴代最優の使徒(フルンティング)足りうるのだ。

 

・・・

 

「そう、その位置だーーー()()()()()()()守護竜殿(ニーズホッグ)

 

 結論から言おう。結果として神祖スメラギの備えは無駄に終わった。人の持つ優しさによって牙を抜かれた邪竜(ニーズホッグ)絶対神(ヴェラチュール)の掌から逃れ出る事は無く。

 非常時の備え(アルフレッド)を投入するまでもなく、絶対神が作りし神天地(アースガルド)が産声を挙げる。そして絶対神(ヴェラチュール)に選ばれなかった用済みの名剣(フルンティング)は数千万の臣民と同様に物言わぬ結晶の樹木と化す。そして誰もが神となれる神天地(アースガルド)絶対剣に成り損ねた人間(アルフレッド)は自らの運命の相手と邂逅する。アルフレッド・ベルグシュラインの運命の相手、それはかつて超える事を切望した弟(ウィリアム・ベルグシュライン)でも孤児である自分を拾い育ててくれた親(グレンファルト・フォン・ヴェラチュール)でも自分を最優の使徒にまで導いてくれた主君(神祖スメラギ)でもない。

 

「君と巡り会えた事、それこそが私の人生における救いだマヤ」

 

 それは自らに愛を教えてくれた最愛の妻に他ならない。何故ならば彼は現実と折り合いをつけて完全なる主君の道具となる道を選ばなかった人間だから。神祖へ捧げる忠義に嘘などない。だがそれでも彼の中にある一番強い想いは家族への愛情に他ならない。そしてそれは妻であるマヤ・キリガクレも同じ事。神祖への畏敬の念は存在する。しかしそれでも彼女の中にある一番の想いは夫と我が子ーーーすなわち家族への愛情に他ならない。ならばこそアルフレッド・ベルグシュラインとマヤ・キリガクレが導き出す勝利の答えは極めて平凡なものとなる。すなわちそれは新西暦(現行世界)の存続に他ならない。何故ならば彼らは幸福だったのだから。愛するものと家庭を作り、子宝にも恵まれてその成長に一喜一憂する日々。今がずっと続きやがてどちらも皺くちゃの老人となって孫たちがその死を悲しんでくれる位の年齢でその生涯を終える。そんなささやかでされど現実で叶えられるものはそうはいないありきたりな願いに他ならない。

 

「ああ、いいとも。それがお前たちの思い描いた勝利だというのならば俺は当然祝福しよう。アルフレッド、これまでご苦労だった。一足先に(マヤ)共々神天地(アースガルド)で幸せになると良い」

 

 かつてその剣となる事を夢見た絶対神からの寿ぎ、それを受けてアルフレッド・ベルグシュラインは神々の最終戦争(ラグナロク)に参戦する事無く完全に舞台から退場する。

 

「諦められるか。それでも僕はッ―――!」

 

 忠義を捧げた主君が交わした約束を支えに最期の突撃を敢行する時に力になる事もなく

 

「……無念だ。初めて口惜しい」

 

 幼き日に共に助け合うと誓った弟の最期に居合わせる事もなく

 

「邂逅せよ、まだ見ぬ運命。汝ら衆生が欲する明日を比翼連理とするが良い」

 

 今の幸福な世界の存続を願うが故に絶対神の宿敵足る人奏者を否定する事もなく

 

「はは、久しぶりだなお前たち……見ているか?ようやく俺はここまで来れたよ。無様なほどもがいて、足掻いて、おまえ達との出会いと別れを糧にして」

 

 今を生きる人間であるが故にかつての主君の窮地に駆けつける忠臣の列に加わる事もなく

 

「御意ーーー我が刃、どうか存分にお振るい下さい。それを以て、俺は邪竜に一矢報いたとしましょう」

 

 最期の最期まで主君の力となり続けた万象断ち切る無双の神剣(ティルフィング)とは対照的に。

 ならばこそその身はフルンティング。どれほど名剣と謳われていても真なる強敵との戦いに役立つ事は無かったコケ脅し。役立たずのフルンティングなのだ。

 




役立たずというよりは蚊帳の外のフルンティングじゃないかって?それだとどういう結末になるのかタイトルでわかっちゃうし……

道具で在り続けたが故に最期まで主君にとっての理想の剣であった弟
道具ではなく人間となったが故にそれまで幾多の敵を斬りさき名剣と謳われたが肝心の大一番で役に立つことはなかった兄
ベルグシュライン兄弟はそんなどこまでも対照的な存在。

ちなみに当作はミサキルート想定なので流石にこいつ騙す自信はないと判断したシュウさんとリナさんが真相打ち明けながら協力を求めて「まあ肝心なところで役立たずだった自分が今さら敵討ちどうこう言える筋合いでもないか……仮にそんな事しても単なる内乱になってアドラーやアンタルヤに付け込まれるだけだしな」と現実と折り合いをつけられる大人なアルフレッド卿は姪であるリナさんとその夫であるシュウ君の補佐として総代聖騎士代行みたいな立場になって神祖が消えて大混乱となったカンタベリーを支える想定。

セシルルートだとアドラーが本格介入してくるタイミングで「やはり来たか!」とばかりにそれを阻止すべく動くわけだけど当然アドラーも兄上が使徒である事は知っているのでチトセネキが原作よりも一足早く出陣して兄上率いる第二軍団とチトセネキ率いる天秤が激突。単純なスペックでは凌駕しているチトセネキだが兄上の不死を突破できない為膠着状態に。互いに部隊を率いて激戦を繰り広げるけどスメラギ君が死んだことで兄上が使徒ではなくなり、動揺したところをチトセネキに突かれて死亡。「所詮私はウィリアムに遠く及ばぬナマクラか……申し訳ございません猊下……」みたいな事を最期に言い残して後は原作通り(主君であるスメラギ君に殉じはしたが負けているのでやっぱり肝心なところで役に立たない役立たずのフルンティング)

アンジェリカルートでは死んだ神祖があんまり関わりなかったイザナで恩義あるスメラギ君とグレンファルトが行方をくらますので、声をかけられず置いてかれた事にショックを受けながらも、家族が居るのでそれらを放り捨てて付いて行く事も出来ずアンジェリカ達を筆頭とする諸勢力と交渉等の結果アマツの人間をトップに据えた上で自分がそれの補佐役として事実上カンタベリーの纏め役になるみたいな想定(果たしてスメラギ君がアルフレッド卿を連れて行かなかったのは役に立たないと思ったからだったのかそれとも……)

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