Tales of the Force -lyrical Crisis- 作:天羽々矢
新暦75年、広域次元犯罪者“
その影響は未だ強く、この事件で大きな被害を被った時空管理局は体制の見直しと修正を余儀なくされている。
だがその中でも、“あの出来事”を忘れずにいる人間はいる・・・。
――――――――――――――――――――
復興中の街中を歩く1人の女性の姿。
栗色の髪を左側でサイドテールに纏め白い制服に身を包んだその女性は“高町なのは”。
彼女はこの世界で時空管理局と呼ばれる治安維持機関に属する人間であり、我々の国で言う自衛隊と同じ階級で言えば一等空尉とかなり高い地位にいる。
そんな彼女だが今その腕の中には花束を抱えている。別に誰かへのプレゼントという訳では・・・否、今の彼女の目的を考えればある意味そうかもしれない。
『なのは(ちゃん)』
そこになのはの背後から声をかける2人の女性が。
豊かな金髪にモデルのように整ったスタイルで、管理局では“執務官”と呼ばれる管理職の証である黒い制服に身を包んだ女性“フェイト・
少し小柄な体形で茶色のショートボブで地上勤務の茶色の制服を着た女性“八神はやて”。
2人もなのはと似たようにその手に何やら紙袋を持っている。
3人は互いに見合って頷くと、すぐに何処かに向け移動を始める。
――――――――――――――――――――
時空管理局からは第97管理外世界と言われる地域・・・、我々の言葉では地球というその場所。
その一角、日本の海鳴市と呼ばれる海に隣接した街の外れにある小高い丘。そこになのは達3人は来ていた。
そして彼女達の目の前には交差するように地面に突き刺さっている2本の剣。しかしその剣は剣身に大きくヒビが入っており見て取れる程ボロボロで今にも折れて崩れてしまいそうだ。
その少し手前の地面には黒曜石のプレートが置かれておりそこにはミッドチルダの言語に似る言葉、英語で文字が彫られていた。
“
そう、目の前に刺さっている2本の剣と黒曜石のプレートは墓標代わり。
なのは達にはもう1人仲間が・・・“彼”がいた。
出会ったのは10年ほど前。“彼”はなのは達と違いロクな訓練もせずいつも出たとこ勝負と、少々爺むさくどこか不真面目ささえ感じられる事もあったが義を重んじる熱い部分もあり、なのは達がそれに後押しされた事も少なからずあった。
そして・・・なのは達はそんな彼に淡い想いを寄せていた。その想いをなのは達3人が互いに認識しあった時、“学校を卒業したら皆で想いを伝えよう、誰が選ばれても恨みっこなし”、そんな約束もしていた。
・・・だが、それが果たされる事は無かった。
8年ほど前、地球ともミッドチルダとも違う異世界から来た来訪者達が引き起こした事件。黒幕の最後の足掻きからなのはを守るべく自ら身代わりを買って重症を負った。それでも彼は諦めず文字通り死力を尽くし己の全てを出し切りなのはを守り抜いたが、その代償はあまりにも高すぎた。
あの場にいた時空管理局の面々も彼を必死で捜索するが現実は非情な物。ボロボロになった彼の愛剣と千切れ飛んだ彼の左腕が見つかりその事から生存は絶望的であろうと判断され、その1ヵ月後に正式に戦死報告が行われた。
あまりにも非情な現実に、未だ幼かった当時の彼女達は泣き崩れた。
受け入れられない、受け入れたくない、こんなのは嘘だ、悪い夢だ、早く覚めてほしい、そう願わずにはいられなかった。だが起きた現実は決して変わる事など無い。
なのは達は後悔した。
自分たちには力がある、そんなのは嘘だ。たった1人、大切な人も守れず何が天才だ。
彼女達は唯々後悔し、苦しみ、絶望した。今すぐ死んで彼を追いたい、彼に会いたい。そう思い始める程だった。
だが、それでも彼女達は前に進まなければならない。それが生きとし生ける者の果たす責任、何より彼に胸を張っていけるように。
それでも彼女達は迷ってしまう。本当に自分達は正しい事をしているのか、彼に胸を張っていけるのか・・・と。
当然答える人はいない、仮に答えられる人間がいるとすればそれは彼しかいない。しかしそれを確かめる術は無い。・・・もう会う事も叶わないのだから―――――。
そして今日は彼の墓参り。正確な命日は不明ではあるが彼が消息を絶ち戦死報告された日とされている。今年は自分達の仕事の都合もあり大きく遅れてしまったがこうして来れただけでも良しとすべきだろう。
なのはは持参してきた花束、フェイトとはやてはミッドチルダで購入した彼の好物を目の前の墓標に供え、両手を合わせ祈りを捧げる。
彼への想いとあの時の後悔からか3人とも目じりに涙が浮かんでいたが堪える。もしここで泣いてしまえば穴の開いたダムのように止まらなくなってしまうだろうから。でも、それでも思わず、願わずにはいられなかった。
(レッ君・・・会いたいよ・・・)
(レクサス・・・帰ってきてよ・・・)
(レクサス君・・・ほんまにごめんな・・・)
そう思ったが最後、目じりから涙が零れ、ついに3人は声を押し殺しつつも泣き始めた。
――――――――――――――――――――
同時刻:ミッドチルダ
ミッドチルダ南東部に位置する、地球で言えばアメリカ・フロリダ州マイアミを彷彿させるその街の名は“バイスシティ”。
ミッドチルダ有数のリゾート都市ではあるが、その社会の裏ではミッドチルダに限らず管理世界と呼ばれる世界にて違法とされている銃火器等の質量兵器や麻薬を始めとした違法薬物の売買、街には至る所にギャング構成員が蔓延っている娯楽と腐敗に満ちた街。
ギャング同士での
何処かのバカが管理局にパクられた、アホがギャングのボスを怒らせた、娼婦の誰かがギャングの女になった等、この街では当然のようにありふれた話である。
バイスシティ東島最南端部、オーシャンビーチ。その更に南の方にあるオーシャンハイツ・アパートメント。その1室に青年・・・“彼”の姿はあった。
背中まで届くほど綺麗に伸ばしたコバルトブルーの髪、まだ少し幼さが残る整った顔立ちに黒曜石のような黒い
上は寝起きのままなのか白いTシャツ1枚のままで、左腕には包帯が巻かれている。下は普通の黒いジーンズだ。
その彼は今、部屋の窓縁に腰を下ろし外を眺めていた。
「開いてる~?入るよ~」
すると部屋の入口のドアから女性の声が聞こえ、間髪入れずにドアを開け部屋に入ってきた。
腰辺りまで伸ばし、その1部を後頭部上方で黄緑色のリボンでポニーテール風に纏めたハーフアップ、赤い瞳に少し小柄でありながらモデルのように整った体形。
白のブラウスにピンクのカーディガン、茶色のスカートを身に着けた女性だが、少し小柄な事と髪型、リボンの色等違いこそあれどその雰囲気はフェイトに似ている。
「も~またそんな恰好で、ホントに風邪ひくよ
「分かってるよ。それと
「だいじょ~ぶ。私、口堅いから♪レクサスこそ私の名前バラさないでよね?」
青年にレクサスと呼ばれた青年は少しムッとしたのか、自分がアリシアと呼んだ女性を部屋の外へ追い出すと歯磨きと洗顔を済ませ、ハンガーにかけてあるデニムジャケットを羽織り部屋の外へ。アリシアと合流してアパートを出る。
OP:幻想の輪舞/黒崎真音