君のヒーローになれたなら   作:明鏡止水

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※第4話からの閲覧をお勧めします。

この作品が面白そうだなと思ったら、時間があるときにでもこの話を読んでいただけると幸いです。


波紋

 

受験当日の朝、あくびを噛み殺しながら受験生で人が一気に増えた道路を気怠く歩き、会場のある雄英高校へと向かっていた。

 

誠にありがたいことで、家の徒歩10分県内に雄英高校が存在する。理由を聞いたときは本気で呆れたものだが。

 

両親ともに雄英高校を目指し挫折、ヒーローにこそなったが鳴かず飛ばずで警察に再就職。

 

息子にもヒーローを目指してほしい両親は、そもそも雄英高校の近くに住めば自ずと雄英高校に行きたがる筈だという短絡的思考に驚いた。

 

子供の意見を完全無視した願望にあきれ果てたが、実際問題雄英のヒーロー科に入ればエリートコースが開けているわけだし、この先とても生きやすいことに間違いはないことには同意しよう。

 

少しばかりぶっ飛んでいるけれど、その点を除けば、マジでいい両親ではあると思う。事実身寄りのない子を引き取ったわけだし。

 

初めの方は遂に気が触れたかと(未だに思っているが)原因を作ったのは自分かもしれないと流石に少しだけ反省した。

 

息子に悲願を託したいのはわからない事でもないけど、僕はレールを敷かれるのが大っ嫌いだ。敷かれたレールを進むのが嫌で嫌で仕方なく、ひじょーに、とっっても不服だけど、行動だけ見れば両親の言いなりになってしまう事がほんっと無理だけど、結果として雄英高校への進学を決意してしまった。

 

おかげさまで紆余曲折あり道を逸れたりしたこともあった。どうでもいいことはさておいて、この学校の倍率の高さは嫌というほど知っている。

 

ヒーローになりたい理由というのは賛同しかねるけれども、確かにこれだけの捨て石があるなら選ばれた玉は1級品だってことくらい一目瞭然だ。

 

簡単に言えばこの日本で、個性ありで喧嘩した時の上位40人。戦闘能力は間違いなく高いことがわかる。

 

その点も含め、どう考えても目的を達成するなら雄英高校ヒーロー科に行くのが正解だという事に間違いない。

 

理由は充実した戦闘訓練、プロヒーローから手ほどきを受けれること、強個性のヒーロー志望達と合法的に殴り合えることの3つ。

 

あと、免許が取れるから個性を使っても犯罪にならない事。

 

とにかく受からないと話にはならない、一応世間体とか、紫音のことも考えて正規ルートでは雄英が最適だけど、落ちてしまったら非正規ルートでやるしかない。

 

本音を言えば裏の方がやりようはあるし、ちょっとだけ顔も知れている。

ただ、無責任な行動はなるべくしたくなかった。

 

こんなどうしようもない人間を変えてくれた2人のためにも可能なら真っ当に、胸を張って目的を遂行したい。

 

勉強の方はおそらく問題はない、だろう。

 

ただめちゃくちゃ心配なのは内申書。若気の至りをどこまでカバー出来るかが大切。噂では実技試験で歴代最高得点を叩き出せば無条件で合格って都市伝説もあるからそれを狙って頑張るしかない。

 

大きな声じゃあんまり言えないけど、実戦だったら割と自信あるし。

 

 

鬼燐士燈夜は個性だけで判別するのなら、紛れもなくプロヒーローになる人材だ。

 

超人たちが吐き捨てるほどいる社会で、然るべくして強個性を、例え私利私欲のためであっても社会的に正しく扱えるものはヒーローへ、個性を私利私欲のため、人を傷付けるため……つまり、社会的に悪く扱う者は敵としてヒーローから駆除される立場になるのが今の社会だ。

 

プロのヒーローに求められるのは身に宿した能力を、世間一般で言われる“正義”に使えるかどうかが重要な点になってくる。

 

そう言った意味では鬼燐士燈夜はヒーローになるべきではない個人だった。

 

彼の根っこは雄英高校ヒーロー科を目指す今でも変わることはなく、褒められたものではない。

 

良くも悪くも鳴神姉妹の影響で社会とは相容れないエゴが、一時的に偶然にも同じ方向を向いたに過ぎないのだから。

 

―やっと終わった。ほどほどに出来たかな

 

燈夜は筆記テストでおそらく事故を起こすことはなく、隣の受験生がブルブル震え、泣きながら問題を解いていたことに動揺はしたものの、いつも通りの実力を発揮できたと安堵をした。

 

続く実技試験に入る前に受験生は1か所に集められ、一通り説明を受ける。

 

プレゼント・マイクによるモチベーションを高める演技が勝った説明の熱を受け流しながら、燈夜は冷めた目で安易に盛り上がる大衆を眺めていた。

 

―時間は10分、体力は問題ない。3種類の仮想敵を多数設置、攻略難易度に応じて入るポイントは変動、行動不能にすればポイント獲得か。人助けをするヒーローと言えど、結局は力が全て、か

 

個性に応じた装備を各々纏い、試験に向けて精神統一をする者もいれば、自信満々に始まる時を待っている者もいる。

 

流石の燈夜も待ち時間長いなーと気が緩み、壁に背を持たれた瞬間だった。

 

【はい、スタート!】

 

―え、マジで?

 

突然の幕開けに燈夜だけでなく、他の受験生も状況を上手く呑み込めぬまま呆気に取られている。

 

しかし、流石雄英受験者というべきか次の言葉を待たずに颯爽と走り出す。

 

【どうした!?実戦にカウントダウンなんざ無ぇんだよ!走れ走れ、賽は投げられてんぞ?】

 

急に人口密度の減ったスタートライン上で燈夜はゆっくり立ち上がり、大分で遅れるも焦りのない軽やかな足取りで、広大な敷地へと躍り出る。

 

その余裕は自信からか、必死に冷静を取り繕っているからか。モニター越しでは判断できないが、次の瞬間陽炎が揺らめいた。

 

 

雄英高校ヒーロー科実技試験には、多くのことが説明されてない。

 

敷地の広さや敵の総数や配置も伝えられておらず、限られた時間で広大な敷地をすべて把握するのは向いた個性がなければ不可能に近く、だからこそ炙りだされるものが多くある。

 

状況をいち早く判断するための情報力、あらゆる局面に対応できる機動力、どんな状況でも冷静でいられる判断力、最後に純然たる戦闘力が求められる。

 

ヒーローという職業の主な目的は市井をヴィランから守ること。そのために上記4つを確かめるための試験形態がひかれ、数字という客観的なものに現れる。

 

普通にしていれば、この場にいる者ならある程度は持ち合わせているものだ。平常時でできていなければそもそも話にならない。

 

前半5分間が立ち、試験にも慣れたところで雄英高校は仕掛ける。

 

どんな脅威が現れようとも上記4つを満たすことが出来るのか、と試練を与えに。

 

圧倒的な脅威を目の当たりにしたとき、人間の行動は非常に正直なものだ。

 

所狭しと暴れまわる超巨大な0ポイントの仮想敵、人を殺さないように配慮し操縦はしてあるが、崩れた瓦礫による負傷などはどうしても避けられない。

 

逃げ惑う受験生をモニターでみる教師陣は例年のようにその様子を楽しんでみていた、非常事態にこそ真価が問われる。

 

異彩を放つ次世代の傑物を見極めようと、雄英教師陣はエキサイトしモニターを眺めている。

 

逃げ惑い軽いパニックが所々で起こる中、モニターにピックアップされた男達がいた。

 

仮想敵は標的を補足すると近寄ってくるという単純なプログラムで作動しており、後半意図的に作り出した緊急事態の最中、先ほどまで難なく倒していた仮想敵から逃げ出すものも出始める。

 

圧倒的脅威の放出はわかりやすく、置かれている現状と非常事態が起きたときの行動をこれでもかと露わにした。

 

ポイント不足による不安と焦り、垣間見える余裕、尽きることのないハングリー精神、そして土壇場での闘争心。

 

ほとんどの受験生のペースが落ちる中で、爆豪勝己と鬼燐士燈夜の2人だけは着々と点数を伸ばし続けた。

 

派手な個性で他を寄せ付けることなく迎撃し続けた爆豪勝己、派手さこそないが的確な状況判断と異様に洗礼された格闘技の動き、オールマイトと似たような身体能力強化型の個性で仮想敵を次々と破壊していく。

 

「この2人凄いな!特に学生服のまま試験を受けてるおかしい方!」

 

「赤色のオーラのようなものを身に纏ってるわね。身体能力を向上させているのはわかるけれど、いったいどういう個性なのかしら?」

 

和気あいあいと将来有望な金の卵の活躍を見守る中、この時点で何人かのヒーロー兼教師は鬼燐士燈夜の不可解な点に気付いていた。

 

個性に頼り切らず純粋な対人戦闘技術を収めている者、混沌とした状況下で仕事をしたことのある者が抱いた違和感。

 

センスだけでは片付けられない動きが雄弁にかつての経験を物語る。

 

爆豪勝己は個性による仮想敵の破壊を行っているのに対し、鬼燐士燈夜は個性を用いて身体能力強化による、蹴りや突きと言った初歩的な格闘技術によるものだ。

 

そのような技術を習っていた。だけでは済まされない洗礼された実戦馴れし過ぎている様は、今までに実戦で使用したことがある、という事実の裏付けでしかなかった。

 

まだ体力があるうちの最初の時間ならわからないでもないが、後半になっても動きは衰えることがなく相変わらず様になっていた。

 

人に向かって個性を用い、明確な敵意を持って応戦した。しかも間違いなく1度や2度の経験ではない。

 

この状況下に慣れている、とでもいいのか。

 

調査書には遅刻が多い、出席日数がギリギリだった等のことしか書かれていなく、素行があまり良くなかったことだけしか判別のしようがなく、紙だけで人となりを判断するのは難しい。

 

ただし捕まった事実はなく、試験を受けれた段階で調査書によるふるいは潜り抜けてしまっている。

 

補導されかけることも時間の問題ではあったものの、鳴神姉妹と関わることで運よく捕まる前に行動を改めることができ、経歴としてはかすり傷と変わらないが、積んできた経験はプロヒーローの目は欺けなかった。

 

この調子で行けば筆記試験で悲惨過ぎる点数を取ったとしてもガイドラインに沿えば受かってしまう可能性があるだろう。

 

それがこの入試の欠陥、ヒーロー飽和社会の末路。強個性の人間がいい思いをする歪な世界。

 

前科がないだけで、滲み出る過去の行いからは到底受け入れる事は良しと出来ない。だが、決定的な証拠はない以上、この会場に来てしまった以上、ルールに沿えば鬼燐士燈夜の入学は拒めない。

 

試験終盤間近、緑谷出久が0ポイントの仮想敵を重症になりながらも吹き飛ばした。

 

将来の金の卵たちの活躍を喜ぶのはわからないでもないが、イレイザーヘッドという名前で活動している教師の相澤は大きなため息をついてモニタールームを去った。

 

―自分の個性を碌に扱えない半端者。個性で人を傷付けたことのある敵予備軍すらも受かってしまう。だから合理的じゃないんだよ……それにしても、いやすぐにわかるだろう

 

素材としては特上の卵を雄英高校が見逃すことはない、鬼が出るか蛇が出るかわからないことを覚悟してでも。

 

 

試験が終わり1週間、ヒーロー科の入試が終わり普段どおりつまらない日常が戻ってきた。

 

紫音は4日前に退院の許可が下り、普通に学校に通っている。体調の方もそれなりに良いらしく家の中でもはつらつとしていて部屋の雰囲気が明るかった。

 

いま我が家は紫音が中心で回っている。

 

仕事で帰りが遅くなる母の代わりに、僕と紫音はキッチンに立って料理を作っていた。

 

とはいえ僕が帰ってきた時にはほとんど出来上がっていて、紫音は味噌を溶き、僕はただ卵を3個ほどフライパンに落とし、熱が通るのを傍観しているだけに過ぎないが。

 

「そういえばまだ結果でないの?」

 

「うーん、もう少しだと思うけどなぁ。さっきポスト見たときは入ってなかったし」

 

仕事で遅くなるという両親を待つわけには行かずに、僕等は2人で夕食を食べ始めた。

 

魚の煮つけに味噌汁に白米という和食の基本的なものだけど、毎度のことながら感服せざるを得ない。

 

僕は「刃物を持っている姿が怖い」「切り方が危ない」「壊滅的に時間がかかる」と言われ最近は食材を焼くことしかしていなかった、許されていないというべきか。

 

食事を食べ終え、僕の仕事になっている食器を洗い終わりって体を動かしに外へ出ようかなと考えていると、母親があわただしい様子で家に突っ込んできた。

 

「燈夜!雄英から!手紙来てたよ!部屋で見る?」

 

「結果が変わるわけでもないし、ここでいいっしょ」

 

雄英高校からの手紙、合否判定に他ならない。

 

この高校入試に全てをかけているわけじゃないし。

 

無造作に外側を破るとコロンと、何かの機械が零れ落ちホログラムが現れた。

 

【私が投影された!】

 

「あ、オールマイト!」

 

騒がしい様子を聞きつけたのか、紫音が部屋から飛び出てくる。

 

脳みそまで筋肉で形成されてそうなおっさんなのに小学生にまで好かれてるとは……

 

「てか、オールマイトって雄英と関係なくね?」

 

「あぁ、そうえば雄英高校で今年から教師するらしいよ」

 

「普通に機密情報やん」

 

「あはは……今自分で言ってたし大丈夫じゃない?」

 

確かにこの場で公表ている時点で機密性は失われた、警察がどんな情報を持っているのか一度すべて聞きたいものだ。

 

【筆記はそこそこ……あ、ごめん嘘、ほんとにギリギリ……ぶっちゃけ実技試験なければ完全アウト。まぁこれは置いといて】

 

「こいついきなり失礼だな」

 

合格か不合格か言えばいいだけのものを、手紙も内封されているし壊すか。

 

「ちょっと!少し言われたくらいで壊そうとするのは止めなさい!」

 

おおっと危ない、母さんが注意しなければ机もろとも壊すとこだった。

 

【突出すべきはその純然たる戦闘力!どこで訓練したのかは知らないことにしておこう!】

 

ストレートに言ってこないのは、親と一緒に見るのを配慮したからか?

 

いや、考えても仕方ないけど、早速マークされてるっぽいな。

 

【先日の入試、見ていたのはヴィランポイントのみにあらず!……とは言っても君には欠片も関係ないんだけど!HAHAHAHA】

 

「無言で拳振り上げるのはやめよう!?」

 

このわざとらしい笑い方が癇に障る、紫音が止めなきゃ握りつぶしてた。

 

危ない、危ない。

 

【ヴィランポイント85ポイント!レスキューポイント0!実技入試トップで合格だ!その戦闘力は我々も認めざるを得ない……合格だよ。おめでとう、鬼燐士少年。ここが君のヒーローアカデミアだ!】

 

「キャー!!!燈夜!!!あんたって子は!!!」

 

「おめでとー!!!」

 

女性特有の高い声が金切声に変わり鼓膜を襲撃する。2人は抱き合って喜び、もみくちゃに手洗い祝福をされた挙句、お祝いのケーキを買いに行かなきゃとものすごい勢いで飛び出していった。

 

まるで台風が局所的に発生したかのようだ。

 

2人による奇妙な踊りで飛ばされた機械は3回目のループに突入しようとしている。

 

話は聞いたし、ごみ箱に捨てようと拾ってスイッチを探していた時、聞き逃していた言葉が流れた。

 

合否発表のメッセージの後はお祭り騒ぎで何も聞こえなかったけれど、続きがあったようだ。

 

【最後に1つだけ覚えていて欲しい。ヒーローの本質は人助け、命を賭してきれいごとを実践するお仕事だ。それではまた会おう!】

 

人助け、命を賭して。

 

綺麗ごとを実践するトップヒーローの言葉は間違いじゃないと思う、けれども賛同は出来ない。

 

それはあくまで偶像としての在り方だ。

 

超人アイドルになんか興味はない。

 

僕は自分がやりたいようにするだけだ。所詮は踏み台の高校、散々使い古してやるから覚悟しろ。

 

 

 

「速報が入りました。きょう未明、日本ヒーローランキング28位、ハンクスさんが敵に襲われました。詳しいことはわかっていませんが、意識不明の重体との事です」

 

「昨日の早朝、自宅付近で倒れたところを発見されたプロヒーローのハンクスさんと契約している、エナジードリンク販売会社“クロム・ド・アノレ”の商品開発研究部、複数個所で火事がありました。火災発生から21時間たった今でも鎮火は終わっていません。けがをした人はおらず、他の建物への延焼もないという事です。警察はこの事件について複数人で行った計画的犯行であるとみて捜査を続けています」

 

 

状況は動き出した。

 

少年は自らの力で道を切り開く、先に見据えるのは自分のエゴ、ただ1人を救いたいという願いは少年に不釣り合いで綺麗だ。

 

頂上へ上りゆく最中、どんな道を切り開くのか、辿り着く真実を前に少年はどのような答えを出すのか、今はまだ誰も知らない。

 

たった2人が幸せに過ごせる場所をつくるために。少なくとも、それが当時の鬼燐士燈夜の願いであった。

 

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