君のヒーローになれたなら   作:明鏡止水

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※第4話からの閲覧をお勧めします。

この作品が面白そうだなと思ったら、時間があるときにでもこの話を読んでいただけると幸いです。


最悪の手がかり

 

「起きろー!遅刻するぞー!」

 

鬼燐士燈夜の目覚めはこの声によって誘発される。

 

その後は寝ぼけたまま自動的に歯磨きと顔を洗い終え、頭から水をかぶり寝癖を直すのが彼のモーニングルーティンだった。

 

―相変わらずヒーローヒーロー、何が面白いのやら

 

朝の情報番組、昼のワイドナショー、夜のニュース全てにおいて報道されることの多くはヒーローの活躍、ヒーローのスキャンダル、功績を残した新ヒーローの紹介。

 

もはや耳障りでしかない。

 

リビングで流れている余計情報は鬼燐士燈夜の母である鬼燐士桜、父である鬼燐士剛健のルーティンに口出しすることなく、無理やり目を背け、食べる気の起きない朝食を無視して雄英高校の制服へと袖を通す。

 

―やっぱりネクタイは好きじゃないな……家出た瞬間緩めよ

 

「結構に合っているね!じゃあ行ってきます!」

 

「おー、いってらっしゃい」

 

―元気なのはいいことだけど、朝から元気過ぎじゃね?

 

そんな疑問を抱えつつ、一応食卓に座った。

 

ちょうど紫音の通う事となった中学校と入学式の日程が被っており、新しい出会いに胸を膨らませているのか一方的に制服姿を褒めるとパタパタしながら廊下を走る。

 

幾度となく可愛い、似合っている、最高と言う羽目になったお気に入りの制服をはためかせ家を飛び出していった。

 

同じ小学校に通っていた友達との“約束”との事、まぁ最近は元気が有り余っているし、体調もいいようだからあまり気にしてはいないけれども。

 

4月はヒーローが事務所を移動したり、新たな発表をする機会が多くある。

 

よって燈夜にとってはどうでもいいニュースが多くなる時期で、朝必ずテレビがついているリビングは好きではなかった。

 

単純にヒーローを持て囃す事が好きじゃないから。

 

「馬子にも衣裳とは言うが……その通りだな」

 

「親父殿、息子にそれは酷くね?」

 

「センスのない改造制服を着ていたお前が言うか」

 

その件を持ち出されては何も言い返せねぇ

 

「その節はご迷惑をおかけしました」

 

朝から父親がいるというのは認識としてはゲームで言うレアなモンスターとの遭遇に近い。

 

血の繋がりがあるのか疑わしくなるくらいの筋肉を搭載した筋トレマニア。オールマイトの親戚と言われても違和感がないほどだ。

 

しかもデカいし。

 

一応僕も174くらいはあるが、父親は188。加えて冷蔵庫並みの肩幅、スーツを着たゴリラにしか見えない。

 

そんな平和な朝、新たな区切りを迎える日に珍しく遭遇したパパ上は良い兆しか、それとも悪い兆しか。

 

『あーあー…………マイクテスト、マイクテスト。聞こえてる?』

 

『まぁいっか………やっほー皆、元気してる?今日は色々誤解があるようだから伝えたくてさ!』

 

―新しいCM?斬新な始まり方だな

 

『先日あったヒーロー事務所及び、契約先の企業の研究所襲撃のことなんだけど』

 

『マスコミはいつまでたっても真相なんて話してくれなそうだから、こうやって電波を借りて離させてもらっているんだけどね』

 

『複数犯いるとか、裏の組織がーとかなんちゃら、面白おかしくお昼のワイドナショー騒ぎ立てているコメンテーターのいう事なんて見当外れもいい所だよ。真実を知りたがっている諸君に本当のことを教えようかなって思ってね』

 

空気が引き締まるのが分かった、親父の眼光がテレビを射抜いている。

 

あまり多くのことは話さない親父だが、ここまで雄弁に異変を物語る目は初めてだった。

 

そして、俺はきっと気付かないふりをしていた。

 

『結論から言うと、すべて私一人でやった……それが真実だ』

 

『当然、動機とか知りたいよね。簡単な話だよ、あいつらがとんでもない屑だったって話なんだから』

 

『世間一般では私はもうヴィラン、って立ち位置なんだろうけどさー』

 

私はもう、ヴィラン。

 

それが事実だとは受け止めたくなかった。

 

―私はね、ヒーローになりたいんだ

 

鮮明に光る記憶の光が、バチバチと音を立てて崩壊した。

 

『まさか、あそこまで腐りきったヒーローを世間が持て囃しているなんて言うのもどうかしてるんじゃない?』

 

『おっと、そろそろCMが終わるころだね』

 

『キーワードは8000、大して美味しくもないのに飲んだら癖になるエナジードリンク、ヒーローに現を抜かす愚か者たち!』

 

『それでは引き続き、思考停止しながらテレビを楽しんでね!』

 

間違いであって欲しくなかった、何度も現実かどうか疑う。

 

しかし、その語り草、言い回し、全てが懐かしく感じてしまう。

 

考えられる限り2番目に最悪の状況が、こうも早く訪れることになるなど思いもよらなかった。

 

気付くと反射的に立ち上がりその足は学校へ向かうつもりは毛頭もなかった。

 

「待て燈夜」

 

親父の静止など、聞こえていない。

 

ただ、動かないとどうにかなりそうだったのは覚えている。

 

「待てと言っている、どこへ行くつもりだ?」

 

掴まれた肩ごと空間が凍り付いた、他の部分がそれに連なり引き戻される。

 

「今流れた動画見ただろ?絶対あいつだ……知り合いにそっち方面に強い奴に聞いてくるだけだ!」

 

答えたところでどうなるというのだろう。馬鹿正直につい答えてしまう。

 

考えた事を口に出したところで何もかが変わるわけでもないのに。

 

「落ち着けと言っている。仮に、燈夜のいうあいつがあの子だった場合、その知り合いが真相にたどり着けると思うのか?第一、確証があるのか?」

 

「うっせぇ!やんねぇよりかはマシだ!こんなこと出来るのはあいつしかいねぇだろ!」

 

「お前が知っている世界ではそうかもしれないな」

 

一々挑発的な言動が、最後に残った冷静さを容赦なく奪い去る。

 

「このクソじじい、何が言いてぇんだ?あ゛!?」

 

「あの子がいなくなった理由、私が知らないとでも?言っておくが、お前の望みは叶えられん。あの子もそれを望んでいない」

 

自分は何も知らされていない。相談もされたことはないし、紫音のことを頼まれただけだ。

 

だが、親父には話していた。おそらく、全てを知っている。

 

自分の願いは望まれていない。例え嘘であろうとも、剛健の口から出た言葉は無力な自分を再確認させられるようで、自分では力になれなかった悔しさが怒りへと結びつき、あっという間に激昂する。

 

このときにはもう、まともな思考が出来ていなかった。

 

とにかくじっとはしていられず、行く手を阻む父親にがどうなろうと知ったことではなかった。

 

個性を発動する、ともかく邪魔なこの男を排除、考えていたのはそんなことだったかもしれない。

 

自分の個性の力を把握している、使いようによっては人を殺すことが出来る力だ。

 

楽しくてやった喧嘩とはわけが違い、目の前に立ちはだかる父親を本気で粉砕すると決めていた。

 

ただ怒りに身を任せ、拳を握りしめ地面を蹴った。

 

 

 

 

 

矛先は鬼燐士剛健、実の父親に躊躇の欠片もなく、個性を全力で発動し――――

 

 

 

 

 

 

殺気をも孕み、握った拳。

 

 

 

鬼燐士剛健に向けられた拳は動き出した途端、殺気も力もすべて抜け落ちた。

 

燈夜が攻撃が当たるまでの刹那の間で剛健の拳が燈夜の顎先を撫で、燈夜の意識が刹那の間飛んだ。

 

「弱いな……だから、頼ることが出来ない」

 

燈夜は訳も分からず剛健を見上げる、すぐに意識を飛ばしていたことに気づいた。

 

「町の不良、その辺の道を外れた小悪党をぶちのめしただけでいい気になっているんじゃないだろうな?何かを勘違いしているようだが、あの子はお前に守られるほど弱くはない」

 

―ああ、そんなことくらい身に染みて知っている

 

「雄英高校に進学を決め、実現させたことは評価に値する。しかし、冷静さを忘れこの様だ。対峙する相手の力量すらも推し量れないとは……失望したぞ」

 

「お前の個性と、似たもんだろうが……実力差くらい手に取るようにわかる」

 

―一瞬出た個性、根源を辿れば同じだろうが、全くの別物だ。一体何をしたらここまで…………

 

「それに、頭も冷えたぜ。だから教えてもらうか、知ってることについて」

 

「言ったはずだ、お前は弱いと。話したところでどうも出来ない、そして無力さに打ちひしがれるだけだ」

 

剛健は個性を発動し、燈夜に対して威圧感を押し付けた。ほとんどが同じ個性、出来ることは互いに知っている。

 

彼らの個性の性質の一つとして、感覚で相手の力量を推し量るというものがある。

 

単純に生物としてどちらが強いか、内に眠る潜在能力、乃ち生命力という単純な個の力を感じ取る特性を持ち合わせている。

 

本能的に屈服させることを目的にした個性の使用、実際に燈夜程度であれば失神してもおかしくはない重圧を発し、有無を言わせず自ら滑らせた情報の追及を辞めさせようとする。

 

だが、燈夜は1歩たりとも退くつもりはなかった。ここで諦めてしまえば真相にたどり着くことも、ただ1つの願いを叶えることも出来なくなると思ったからだ。

 

待っていた最高の機会、まさか父親が重要事項を握っていたとは思わなく(実際話したのは本当に久しい)、例え今この場が虎の巣の目の前であろうとも躊躇なく前に進んだだろう。

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず、千載一遇の機会を目の前にし、自らに危険が降りかかろうとも自分の信じた道を突き進むことしか知らなかった。

 

「かもしれない、けれど、教えてくれ。うっかり口を滑らせたのが運の尽きだったな、俺はしつこいぞ、親父殿」

 

「……覚悟だけは1人前だな、確かに面倒くさそうだ。だから、その覚悟に免じてチャンスをやろう」

 

「チャンス……?」

 

「チャンスは1度きり、俺とサシで殴り合いだ。俺の意識を奪う、骨を砕く、関節を外す、何でもいい……有効なダメージを与えてみろ。そこまで強くなれば教えてやろう」

 

「何をすればそのチャレンジは終了になるんだ?」

 

「5分もあれば身の程を知るのに十分だと思うが……諦めの悪いお前のために1時間やろう」

 

「今の言葉忘れるなよ」

 

「勿論だとも、最も約束を破るのはいつもお前だがな」

 

「だからって、約束破るのはなしだぜ」

 

「私が約束を破ったことがあるか?」

 

「…………ねぇよ」

 

そこから先はいつも通りの親子関係に戻る。特に会話することもなく朝食を食べ終え、自分で使った食器を洗い外へ出る。

 

不機嫌そうな背中を見送り、剛健は燈夜に見せたことのない微笑みを浮かべる。

 

―誰かの為だけに見せる覚悟、そのまま持ち続けられるといいな

 

燈夜自身にも誰かの為に、等という崇高な思いは欠片もない。打算も、深い考えもなく、自分の信じるがままに動く。

 

ある意味で純粋だった。見返りすらも求めない単純故に綺麗な思い。受け取る側からすれば得体のわからないものかもしれないが、よっぽど捻くれたものでなければ悪い意味には取らないだろう。

 

―性根の良さは、母さんとよく似ているよ

 

その思いを自分の息子が持っていた、というのは剛健にとっては喜び以外の何物でもなかった。

 

誰もいないリビングで味噌汁を口に含み、息を吐く。強くなれ、と届くはずのないエールを送りスマホを手に取った。

 

―すまないな、君との約束を破ってしまった

 

 

ヴィランネーム、通称インドラ。

 

電気系統で応用の幅が異様に広い個性を持っていると推察される女性ヴィラン、ヒーロー襲撃、とある商品開発部の襲撃で最近のワイドナショーを賑わせる正義の供物。

 

それが手に入れられる情報のすべてだ。

 

「んで、他になんかわかったことあったか?」

 

「何回でも言ってやるよ、見つかるわけねぇってよ。公共電波ハックできる奴だぞ?俺ごときにわかると思うか?せいぜいできるのは一般人の電話番号と住所を探すくらいだっつーの!わかる?」

 

所詮はちょっぴり詳しいだけ、調べられるのはここまでか……親父の言う通りで腹が立つが、落ち着いて考えればその通りだ。

 

「その様子だとマジっぽいな……手掛かりは?」

 

「一切なし、お手上げだ」

 

「納得できて良かったよ、急に来て悪かった」

 

「気にすんな、俺の自由時間が無くなっただけだ……にしても、その恰好」

 

確かに気になりはするな、一応これでも日本最高峰の学校の制服だし。

 

「ん?ああ、雄英の制服だよ。どうだ?」

 

「ビジュアル的には似合ってるけど、お前を知っている俺からすれば違和感バリバリだな。確か雄英嫌ってなかったか?」

 

「色々考えた結果、行くのはありだと思っただけだ、個性だけ考えれば向いてるだろ?」

 

「使い方さえ間違えなければな。ふーん、お前がヒーローの卵か……世も末だな」

 

「流石に言いすぎだろ……ま、腕っぷしが強くて、そこそこ勉強出来れば誰でも行けるっぽいぜ」

 

「お前はちょっと別だけどな……つーか、学校は?」

 

「あぁ、どうせ入学式とかだろ?こっちの方が大事だったし問題ねぇよ」

 

鬼燐士燈夜、入学初日、欠席。

 

現在進行形で、自らのクラスで合理的虚偽(仮)による選別が行われているとは、夢にも思っていなかった。

 

 

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