君のヒーローになれたなら   作:明鏡止水

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不本意と渇望:再開

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「ねぇ、雄英高校ってどんな感じ?」

 

「うーん、良い所だよ。文字通りヒーロー養成所って感じかなぁ……個性も使っていいっぽいし」

 

「うわー凄いなー! オールマイトに教えてもらえるんでしょ? 羨ましいなー」

 

「今度サイン貰ってこようか?」

 

「え、本当!? お願いしてもいいの?」

 

「全然いいよ、てか遠慮しないでいいのに」

 

 季節は春になり、気候もだいぶ穏やかになった。

 

 紫音は体が弱く、と言うよりかは個性の制御が自分ではなかなか難しいという症状を抱えているらしく夏と冬には体調を壊しやすい。

 

 個性は電気、電気に関することならば何でも(紫音の知識が及ぶ範囲で)出来るそうだけれども、だからこそ精密な制御が求められるらしい。

 

 冬には突如起こる静電気と同じく、突発的な体の不調が多い。夏にも熱も体にため込んでしまい、体調を崩してしまう。

 

 詳しくはマジでわからないけど、そんな印象を受けていた。

 

「名前付きで、メッセージも書いてもらうよ。そん位してくれるだろうからさ」

 

「サイン貰えるだけですっごく嬉しいのに、そんなことして貰っていいのかなー」

 

「いいって、何なら手袋とかブーツとか、トレードマークっぽい触角とか、取れそうなもの何でも言ってもらえれば貰ってくるけど」

 

「んー……欲張りすぎるといけないからサインだけでいいよ」

 

 サイン貰えるだけでとっても嬉しいし、と無垢な表情をのぞかせる。

 

 俺ですらこの子の笑顔を守りたいと思う。わからない種類の情だ、だから尚更あいつはこの子の笑顔を守りたかった。

 

 だからこそ、未だに迷う。果たしてヒーローを目指しあいつを追って、助けるのがいいのか、せめて紫音だけでも守るのか。

 

 答えは結局出ない。ただ、そんなことを思っているお前自身が笑えないなんて気に食わないから、俺は足掻き続けると決めている。

 

 ただの子供の癇癪と何も変わらない、紫音の無垢な笑顔よりももっと稚拙で中身のないお花畑の思考、それでも強固な意志はたった一言で崩れ去るとは考える脳がなかった。

 

 思えばあいつがいなくなった時に紫音は覚悟していたのだろう、だから前を向いて必死に歩いて行こうと決めて、日々を一生懸命、1日1日を踏みしめて生きていた。

 

 

 俺だけが、今を生きていなかった。

 

 

 1

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった。今日やるのは人命救助訓練だ」

 

 ―レスキューか……あながち目的もそっち方面だし、真剣にやらないとな

 

「今回コスチュームの着用は各自で構わない、中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練所は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 先日マス●ミが侵入してきた際のいざこざで、緑谷出久からその座を明け渡された飯田天哉が張り切ってまとめようとするも、バスの中は思ったよりもテクニカルで、やったことが無駄になったと悔しがっていた。

 

 そんなどうでもいいことはさておき、適当に前に座る。

 

 適当というのはあくまで、適切なという意味で。

 

「ういっす、頭大丈夫か?」

 

「ナチュラルに煽るね!?」

 

 前の席にいた、名前が特殊な……そう、耳郎響香だったっけ? が思わず、といった形で突っ込んできた

 

 ナイス、突っ込みとでも言えばいのだろうか。

 

「言い方悪かったな、悪い悪い。昨日思いっきし頭蹴っちゃったしさ、謝るタイミング掴めなくて、ちょうどいいかなーって思ってさ。首とか大丈夫か?」

 

 席は割と近いんだけど、授業ついていくのも精一杯だったし、飯食い行く時もさっさといなくなるしで機会なかったんだよな。

 

「そこまで柔じゃねぇ。心配すんな。俺も悪い、熱くなり過ぎた」

 

「あぁ……確か俺を目の敵みたいな感じで向かってきたよな、いい気迫だったぜ!」

 

 決して悪い奴ではないんだろうけど、何かに駆り立てられているような、野心に燃える目をしていた記憶がある。

 

 正直言って、今の商業ヒーローとしてはどうなのかとは思うけれど、顔がいいし多分大丈夫か。

 

「……今度やるときは勝つからな」

 

「いやいや、今度やるときも、だろ……ってかさジロー、よくそこ座ったな」

 

「いやー……流れで?」

 

「爆豪怖いもんなー。なんかいつもイライラしてるって言うかさ」

 

「そうなんだよねー」

 

 確かに人間関係がはっきりとしてない中でどこの席に座るのかは運も左右してしまう、特にこのような街の中を平然と走っているようなバスであれば尚更。

 

 にしても、現状一番頭が跳んでそうな爆豪の隣に座るとは……

 

 轟焦凍の隣に座った俺にも多少責任あるかもな。

 

「んだとコラ!? 喧嘩売ってんのか?」

 

「聞こえてるんかい……そんな怒ることねぇだろ。実際怖いし、緑谷だっけ? 骨の1つや2つ、命さえあれば構わねぇって感じで個性ヤバい使い方してたじゃん」

 

「テメーも人の後頭部容赦なく蹴ってただろ! 怖くねぇわ! ボケ!!」

 

「確かにそれは間違いないんだけどさ、鏡ってご存じ?」

 

 意外と冷静なんだな……感情的なのかと思いきやよく見えているし。けどまぁめっちゃガン飛ばしてくるこの顔を本人にも見てもらいたいわ。

 

 対人戦闘能力で言えば、現時点で轟焦凍と爆豪勝己だな。後は……潜在能力的に考えれば緑谷出久が一番伸びしろあるって言うか、なんか引っかかる。

 

 持っている力が、あいつの体とは全く別物だったというか、そもそも体に見合っていないものというか……

 

「派手で強いって言ったらやっぱ、轟と爆豪だよな」

 

「ケッ……どいつもこいつも」

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」

 

「んだとコラ出すわ!!!」

 

「そんなキレてばっかで人生疲れない? 脳の血管そろそろブチ切れちゃうよ?」

 

「うっせぇ!! そんな脆くねぇわ!!!」

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ……」

 

 まるでピクニックかのような緊張感の中、あんなことが起きるとは……

 このときはまだ誰も、思いもよらなかっただろう。

 

 2

 

 ―災害救助で目覚ましい活躍をしているヒーロー、この超人アイドル飽和社会で本当のヒーローというのは彼のような事を言うのかもしれない。

 

 ―どんなものでも吸い込んでチリにしてしまうという、使い方を間違えれば大量虐殺も可能な個性を持ち合わせながらも、ヒーローとして、そして人命救助を目的としている。だからこそ、この人の言葉は重く感じた。

 

「──―超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

 ―全くもって、その通りだ。俺自身自分の個性で双方の同意(仮)があったとはいえ、たくさんの人間を傷付けてはいた。それが急に人命救助を、たった一人のためだけに使おうと決意してここに来たけど……早くも間違いなんじゃないかと、思ってしまう。

 

「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう! 君たちの力は人を傷つける為にあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな……以上! ご清聴ありがとうございました」

 

 ナンバー1ヒーローはオールマイトと言えど、災害現場で活躍を見せる13号の話を真剣に聞く生徒は多い。

 

 ヒーローの本質が人助けだとするのなら、彼のような善良な人間がそれこそあるべき姿だろう。

 

 誰しもが、犯罪者、乃ちヴィランを相手にして活動しているわけではなく、献身的な活動を目指す生徒も多々いる中で彼の話はありがたい物だった。

 

 USJ(嘘の災害や事故ルーム)で遠出の訓練という事もあり、除籍をかけた体力テストや実際に他人に個性を向けての対人戦闘とは異なり、いい意味で緊張は少く、悪く言えばたるんでいた。

 

 特に13号は根っからの善人でおおらかな人物だ。場を引き締めるという事を得意とはしていない、相澤が緩んだ空気を引き締めなおそうとしたところで、彼の視界の隅に異物が移る。

 

 13号の話に聞き入り拍手喝さいを合わせている中、イレイザーヘッドこと相澤の視界の隅に何かが写った。

 

 視界の端に捉えた違和感を直ぐに直視、すると同時にヒーローとしての感が警鐘を鳴らした。一瞬で異変を確認し、その感は間違いないと判断すると同時に叫んだ。

 

「一塊になって動くな!!! 13号生徒を守れ!!!」

 

 緊張感の一気に高まる異常事態、黒い靄から湧き出る異形の面々。既に出ていた人数を改めて確認すると同時に、生徒を守ることを優先する。

 

「なんだアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」

 

 切島鋭次郎が明後日の方向の、危機感の欠片もない発言をするが仕方ないだろう。

 

 まさか、こんなにもあっさりと大量のヴィランが湧き出てくるとは思いもしないからだ。

 

 ―いや違う、あれは……あれがプロの社会不適合者か

 

「動くな! あれは敵だ!!!」

 

 ―この演習場の真ん中にある噴水広場にはすでに30近いヴィランがどこからともなく現れた。いや、それだけじゃない。この演習場全域に少なくとも100……いや200近くの敵がいる。ってマジかよ、結構本気で潰しに来てる? 

 

「先生侵入者用のセンサーは!」

 

「勿論ありますが……!」

 

「現れたのはここだけか、学校全体か……いずれにせよセンサーが反応しねぇなら、無効にそう言う事出来る“個性”がいるってことだな」

 

 ―やられたな、少なくともこいつらはここにいる、もしくは来るはずだった誰かを狙っての計画的な奇襲だ。この前のマスゴ●が侵入してきた時とも関係あるのか? いやそんなことより……

 

「上鳴! お前個性で電波妨害されているかわかるか!?」

 

「ああ、ちょっと待ってろ…………んだよコレ!」

 

「どうした!?」

 

「意味がわかんねぇよ……こんな広範囲、高出力出せる奴がいるなんて……」

 

 ―偶然か必然か、俺には思い当たるやつが1人いる……相澤は多分負けねぇ。これだけの人数いるが、相澤の実力ならそう簡単にやられはしねぇ。だが、それは守りながら戦わなければの話だ。

 

「なるほどな、よくわかった」

 

 ―俺たちを人質に? 可能性は低い、それが目的だとすれば相澤と13号だけじゃ捌ききれない。にしても数が多すぎる……くそっ、どこだ? どこにいる……

 

「おい、突っ立ってるんじゃねぇよ」

 

 ―違う。こいつじゃねぇ……間違いなくどこかに……! 

 

「初めまして我々は敵連合、僭越ながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

 ―くそったれ、USJの中にはいないのか? 人数が多すぎて詳しくわかんねぇ……! 

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ……ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁそれとは関係なく……私の役目は散らして、嬲り、殺す」

 

 ―多分いねぇ、勘違い? いや違う、俺の直感があいつがいると確信している。どこだ……この外側か? 

 

「鬼燐士! ぼーっとすんじゃねぇよ!」

 

 ―こいつだ!!! 

 

 黒霧の個性により包まれ、分断される刹那、轟焦凍が強引に手を引いた。

 

 そのまま彼の個性によって、現時点とは大きく座標を逸れた別の場所に飛ばされる。

 

 不快とも快ともとれる浮遊感に2人の男は、特に叫ぶ様子もなく華麗に着地を決めた。

 

「囲まれたな。数は……50くらいか、25・25でやる?」

 

「いや、その必要はない。ちょっと跳べるか?」

 

「ん? ああ、わかった3秒後に跳ぶからな」

 

「ああ」

 

 飛び交う怒号、2人の少年に対して暴力を振りかざす大人が60近く。罵詈雑言とただいたぶる為容赦なく飛びかかる。

 

 多勢に無勢、余裕に近い油断しかないが数の理を考えれば仕方ないのだが、目の前にいる二人の少年はただの子供ではない。

 

 トップヒーローになる可能性を秘めた、才能に満ちた少年たちだ。

 

「子供1人になさけねぇな……しっかりしろよ、大人だろ?」

 

 一瞬にして現れた氷に覆われた凍土が、全てのヴィランの自由を奪った。

 

 先日の戦闘訓練とは異なり、ただ規模にものを言わせる氷結ではなく、地面に張り付けるように捕縛を目的とした氷の檻が辺り一面に広がる。

 

「一瞬でここまで出来るんだ……お前ヤバいな」

 

「お前も思考停止してんじゃねぇよ、今日のお前なんか可笑しいぞ、もうちょっとシャキッとしろ」

 

「悪い悪い、ちょっと探してた人がいてな……俺は今からそいつのとこに行く、その様子だと大丈夫そうだが気を付けろよ」

 

「……止めねぇよ。どうせ言って止まらなさそうだしな。ただ、言いたいこと聞きたいことは多少ある、生きて帰ってこい」

 

「ああ、約束する。色々とよろしくな、焦凍」

 

「さっさと行ってこい」

 

 

 

 

 

 出来れば、こんな形で再開したくはなかった。

 

 もっと平和的で、友好的な、そんな理想を夢見ていたからだ。

 

 驚くことに、不思議とこの状況を冷静に受け止めている自分がいる。

 

 きっと心のどこかで、こんな再開を覚悟していたのかもしれない。

 

「久しぶりだな、こんな場所で再開するとは思ってなかったけど……どこほっつき歩いてるんだ?」

 

 

 

 

 

 凍てつくような冷たい視線が俺を蔑む、だいぶ大人びた会いたいと希っていた待ち人は、明確な敵意を向けて俺を見据えた。

 

 

 

 

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