君のヒーローになれたなら   作:明鏡止水

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無情の稲妻

 

 3

 

 出来れば、こんな形で再開したくはなかった。

 

 もっと平和的で、友好的な、そんな理想を夢見ていたからだ。

 

 驚くことに、不思議とこの状況を冷静に受け止めている自分がいる。

 

 きっと心のどこかで、こんな再開を覚悟していたのかもしれない。

 

「久しぶりだな、こんな場所で再開するとは思ってなかったけど……どこほっつき歩いてるんだ?」

 

 主観的に見ても客観的に見ても綺麗な顔、持ち前の優しさが抜け落ちた、驚くほど冷たい瞳。

 

 心臓を鷲掴みにされている感覚を覚えた。

 

「あのさ、ほんの1年くらい前の話忘れたの? 生きるためにはやらないといけないことがあるんだよ、あんたみたいに低俗な喧嘩していた馬鹿にはわからないだろうけど」

 

 長くなった髪を後ろで一纏めにし、Vネックのシャツの上からジャケットを羽織っている。

 

 悪い組織の女ですとでも言いたげな格好に言及したくなったが、俺を蔑む氷のような冷たい視線に気づき辞めた。

 

 そう言う雰囲気じゃねぇ……

 

「うるせぇな、これでもやれるだけのことをやって、お前を助けようと思っているんだよ」

 

「……助けるって、なに? 助けてって一言でも言った?」

 

 そう言うと鼻で笑った。確かにそうだ、助けるとは一体どういうことか考えつきもしていない。ここで力尽くで拘束したとしても助けたとは言えない。お前がこうなってしまった理由、その周りの関係を断ち切るか、はたまた無くすかしなければ助けるという結果はきっと生まれない。

 

「……言ってねぇよ、けど俺は「まさか、私が笑っていないなんて可笑しいとでも言うつもり?」」

 

 図星だ、俺の浅はかな考えなんて、結局はその程度の物だったんだろう。僅かな揺らぎも感じ取れない強固な意志、それは俺の個性による作用からだけではなく、放つ言葉に宿る強い意志からも感じられる。

 

「はぁ……本気で呆れた。あんたにはガッカリだよ。もうちょっと色々勉強しな」

 

「うるせぇよ。んな事、とっくにわかってる。お前が知っての通り、俺は馬鹿だからな……そう思う。お前みたいな良い奴は、人並み以上に幸せにならねぇと気に入らないんだよ」

 

 ここで初めて、表情を変えた。嘲笑うような卑屈な笑みを浮かべる。

 

 今まで見たことのない表情は新鮮さを感じると同時に、悲しみを覚えた。

 

「良い奴、ね……人を見る目ないよ。私が今まで、どのくらい人を殺したか知ってる?」

 

「…………お前、マジで言ってんのか?」

 

 ズシンと、頭を鈍器で殴られた衝撃が駆け抜ける。嘘か真実か見てもない俺には判別することは出来ない。ただ、言葉には十分な重みがあった。

 罪悪感と後悔が入り混じった重さだった。わかることは最悪の事態でなくとも、間接的に、非常に近くで“死”と関わっていたのだと。

 

「大マジだよ。あんたが私をどう思おうが勝手だけど、そうだね……沢山としか答えられないな、もう覚えていないよ。そんな人に、人並みの幸せでも与えられていいと思うの?」

 

「……勿論だ」

 

 ただのエゴだった、例えこいつが何をしていようと、俺はそう思う。

 

 ただ、答えを言うまでに戸惑った。それは、現実は無常だと叩きのめされたのだから。

 

 きっと美雷はどこに行っても、変わらないと思っていた。

 

 そんな理想は早くも砕け散る、現実は道を逸れた人間は道を外れ続ける。望もうと望まないと事実として身をもって知っている。

 

「これだから能無しは……思考放棄してんじゃねぇよ。許されるわけないだろうが」

 

 正論だ、間違いなはずがない。

 

 自分に対する贖罪なのか、または覚悟か。攻撃意識が余計強くなったのを感じた。

 

 残念ながら、話し合いはもうすぐ終わってしまう。

 

 そうなれば、俺は自分のエゴの為に、お前は邪魔者を排除するために拳を握らなければならない。

 

 正しいお前の意見と、独りよがりで俺しか得をしない意見とでは交わることは一切ないから。

 

「これでも一応考えた、可能性としてあり得る話だし、お前がそんな場所に足を踏み入れたのか多少は想像がつく。到底許されることじゃないよな」

 

 知っていることはさほど多くはない、目についた範囲の事だけしかわからない。

 

 初めて会ったとき、死にかけの子犬みたいに怯えていたのが嘘だったみたいだった。ともかく、何かに追われていて必死になっていたのだけは記憶に刻まれている。

 

 同じ家に住んでいるだけ、特に関係もなく本当に顔見知りとかそんな感じの関係性だった。

 

 いつ頃だったか覚えていないけど、学校で誰かと他愛ない話をしていた時の笑顔が凄く綺麗だなと思った。

 

『桜さんを悲しませないために、私が更生させてやる!』とかなんとか言って、付きまとってきた時、最初の方はウザさと殺意しかなかったけど、いつも笑顔に毒気を抜けれ続けていた。

 

 初めて、夢を話してくれた時のことを覚えているか? 

 

 喧嘩に明け暮れてどうしようもなかった頃、喚き散らすようにヒーローになりたいって、誰かを笑顔にすることが好きなんだって言っていたよな。

 心の底から頑張れって思ったよ。

 

 この気持ちをなんていうんだろうな。きっと、好きとかそんなんじゃなくて……憧れとかに近いんだろう。

 

 だから、お前が家を出て行った日のことが余計に夢だったんじゃないかって。

 

 理解したくもないことを言い放って、紫音を置いて消えて、それが紫音を守るためだったのかもしれないけど、あんな悲しい顔のまま行かせておいて放っておけるかよ。

 

 今だって、酷い面しているのがわかんねぇのかよ……

 

「思考停止かもしれない、けどそんなことどうだっていい。1つだけ言わせても貰うぜ、お前は幸せになるべきなんだよ! 罪を償いながらでもな!」

 

「相変わらず救いようもない、せめて具体策1つでもいいから出して言えよ…………はぁ、いいからさっさとかかって来な、1分で片付けてやる」

 

 可視化できるほどの電気が一瞬目の前に現れた。雷の化身のような、身の毛も逆立つ出力に、雷神と揶揄されるのも、あながち間違いではないと思う。

 

 再び、スパークが煌めくのが開始の合図だった。

 

 4

 

 鬼燐士燈夜の個性というものは、実際のところわからないことが多い。

 

 両親の鬼燐士桜、鬼燐士剛健ともに共通点はあるが、その共通点と言えば、身体に潜むエネルギーを顕著化する、という点だがその使い方は三者三様だった。

 

 母の桜は顕著化したエネルギーを、生物のような形に変化させ使い魔のように使役することが出来き、情報収集や後方支援も難なくこなすことが可能だ。

 

 父の剛健は、ただエネルギーを纏うだけではなくそれ以上に、色のどす黒い通常時とはかけ離れた業火を身に纏う事により、飛躍的な身体能力と攻撃力を付加するエネルギーに変換させ肉体戦に特化した性質を持ち合わせている。影ながら、決して表に出ることはないが、多大な功績を残して。

 

 その2人の子供である燈夜にはまだ基礎的な性質しか使いこなせていない。

 

 桜も剛健もエネルギーを身に纏い、戦闘能力を向上させることは可能であり、+αの要素によって恩恵を受けていると言っても過言ではないだろう。

 

 そう言った意味では、燈夜は伸び白はまだまだあるのだが現時点では個性を発現したての赤ん坊とさして変わりはないのかもしれない。

 

 精神的にも、肉体的にも、個性的にもあまりにも未熟。

 

 鬼燐士燈夜と鳴神美雷が相対したとしても、そう長くは持ちようがない。

 鳴神美雷は臨戦態勢に入った、電波妨害の為の容量を全て戦闘に集中させ稲妻の化身のような姿を彷彿とさせている。

 

 燈夜も躊躇いながら個性を使う、轟焦凍と屋内戦闘でやり合ったときの“茜”を1段階超えた“紅蓮”と冠されたその状態は、覚悟の現れでもあった。

 

 未だ嘗て対人で使ったことはなく、持続時間は維持するだけで3分が限界。動けばどこまで持つのか本人も知る由はない。

 

 殺気を孕んだ美雷に対して、そうせざるを得ないと覚悟を決めさせられていた。

 

 ―感情的になってしまった……私らしくもない。落ち着け、今の最優先は仕事だ。私の仕事はオールマイトを殺す為に外部からの余計な邪魔を排除すること、警報システムは全て潰し、一応個性と機械を使って中から電気信号での通信は遮断している。何かあればアラームが鳴るはずだ。こいつは作戦が始まって5分程度でここまで行きついた、黒霧の個性が優秀とはいえど、そんなにすんなりと行く? 多勢に無勢とはいえ、プロが2人いる中でこうも順当に進めれるか? 

 

 ―予想以上に消耗が激しいな……さっさとやらないといけないのはわかるけど、体中に帯電していると考えると触れた時点で動きは止まってそのまま意識を持っていかれる。かといってこのまま様子を伺うわけにはいかない……相打ち覚悟でやるしかねぇのか

 

 鬼燐士燈夜と鳴神美雷が睨み合っている場所は、USJの入り口を12時の方向とするのなら、1時の方向で、USJからわずかに離れた場所だった。

 

 先ほどまで轟焦凍といた土砂ゾーンは3時の方向で、直線距離では大したことではないが、そびえたつ外壁を登りものの2~3分で美雷の居場所までたどり着いたのは流石と言える。

 

 何かあればUSJに近づく異変にすぐ気が付ける場所で、数秒の間睨み合った。

 

 先に動いたのは、燈夜。

 

 直接攻撃することはなく、50㎝手前の地面を大きく蹴り上げて土を巻き上げる。

 

 ―って、馬鹿正直に攻撃するわけねぇだろ! 幸いここは自然豊かで木も多い、それを利用して詰める! 

 

 ―視界を奪いに来た。流石に直接攻撃してくるほど馬鹿じゃないか……確かに周りには木が密集しているし、あいつの今の状態がおかしいだけかもしれないけど、今の攻撃はちょっとだけ面倒……所詮、その程度

 

 事実、燈夜が蹴り上げた地面は20㎝の穴が開き巻き上げられた石礫は美雷の痛覚にも届いた。ただし、致命傷になるかと言えばそうではない、予め体に電気を纏うと共に馬鹿正直に突っ込むことはそれほど想定していなかったからだ。

 

 50㎝手前で蹴りの軌道が明らかにおかしかった辺りから直ぐに後方へ飛び、巻き上げられた土や小石からは身を守っていた。

 

 ただ、その隙に燈夜は縦横無尽に動き回り正確な居場所を探られないように当たりの木々を利用して攪乱を始める。

 

 ―不意を狙って隙を突き、電撃で自由を奪われようとも一撃をぶち込む。多少は仕方ない、骨の1・2本は持っていくつもりでやってちょうどいいだろう。とにかく美雷を拘束する、今はそれだけ考えろ! 

 

 ―骨の1・2本折るつもりで殴ってくるんでしょ? あんたの事だからある程度わかるよ、けどね……ヒーローごっこに付き合っているほど余裕はないんだ

 

 実力差は目に見えて明らか、それは当の本人たちが良く知っている。

 

 この均衡を保てば、先に燈夜の方に限界が来る。

 

 美雷も体中に高出力の電流で守りを固め、更には自分の責務への注意を怠らない。女性特有のマルチタスク能力故か、同時進行で精密な作業を難なくこなす。

 

 1時間経過しても同じことが可能だろう。

 

 しかし、燈夜はそうではない。既に底が見え始めた。

 

 決定的な隙が生じる時も、僅かな油断も待っていられる立場じゃない。

 燈夜にとっては悔しいけれど、それが現実だった。その実力差が信念の差に見えて、その差が自分の烏滸がましさに見えて、信念が揺らぎそうになる。

 

 その思いを振り切るかのように、美雷の背後を先取りしリスクを承知で距離を詰める。

 

 今度は砂煙を巻き上げることはなく、着地と同時に地面を蹴り一直線に美雷へと肉薄、捨身の覚悟を身に宿し最後の一歩を踏み込んだ。

 

 その覚悟は拳に宿る。

 

 込め覚悟の根本は殺意でも敵意でもなく、純粋な「助けたい」という強い願い。

 

 無意識のうちに紅蓮で生み出した全ての力を左拳に集約し、突進の勢いそのまま拳が右肩に迫る。

 

 視界の隅でその様子をとらえた美雷は撃墜に意識を向けた。

 

 ―結局あんたにできるのは物理的攻撃だけ、獲物を持って攻撃してこない潔さに免じて手加減してあげるけど……現状では落第点だよ

 

 哀れみにも似た慈悲が、美雷の身に纏う電流の出力を下げた。

 

 だが、次の瞬間美雷が見たのは、電撃を巻き取る炎が予想に反し迫りくる様だった。

 

 

 

 

 ―痛……! いや、なんで……!? そんなの出来る訳……! 

 

 ―なんで当たった!? あいつ自身も驚いているってことは、決してわざととかじゃねぇ。電撃が効かないっつうなら、今ここしか! 

 

 燈夜は目前に倒れる美雷に詰め寄った。

 

 優しさゆえか、それとも躊躇か、覚悟を決めた拳は当たった瞬間に最高の攻撃力を維持することはなく、体勢を崩すだけで体の芯には響かない左拳が押した形となる。

 

 それでも、人間が少し宙に浮く威力はあるのだから、それ相応の痛みは存在するが現状ではそれを感じて動きが鈍るなんてことはない。

 

 ただ、久々に感じる痛みと通るはずのない物理攻撃が通ったという受け入れられない事態が彼女の冷静な思考能力を奪っていた。

 

 燈夜の決まりきった覚悟の前に、その隙は致命的だった。

 

 狙うのは脳を揺らし意識を失わせる顎への攻撃、自らも膝をつきパウンドを繰り出そうと美雷へと跨った。

 

 

 

 ―こんなところで……! 

 

 

 

 ―でも

 

 

 

 ―燈夜

 

 

 

 ―全力

 

 

 

 ―死

 

 

 

 

 ―否

 

 

 

 

 

 

 ―紫音の為に……

 

 

 思考のまとまらない刹那の時間で弾き出した答えは、空気を揺るがす轟音と地面を揺らす振動で。

 

 嘘のような静けさが、全てを物語っていた。

 

 

 





 鳴神美雷の恰好は、ワイルドスピード《アイスブレイク》のサイファーをモデルにしております。

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