この素晴らしい世界でエリス様ルートを 作:エリス様はメインヒロイン
「何かいいクエストないかなー」
俺はクエスト掲示板の前で唸っていた。キャベツの報酬はその数もあり後日渡されるそうだ。その報酬が入るまでの繋ぎのクエストを探しているが、うちのパーティーはまともにクエストを達成できないからこうして悩んでいる。
「カズマカズマ」
「うんカズマだよ」
めぐみんが一つのクエストの紙を指さしている。その紙には危険度を表すドクロがびっしりとかいてあった。
「マンティコアとグリフォンの縄張り争いの討伐です。2匹が戦っている所にズドンと一発打ち込んでやりますよ!」
「却下」
ズドンする前に自分達のレベルを考えて欲しい。
「カズマカズマ」
「へいカズマでやんす」
今度はダクネスがクエストを提案してきた。
「この一撃グマの討伐なんて…」
「却下」
最後まで聞かずともわかる。どうせロクでもないクエストだ。だって何かハアハア言ってるもの。
「カズマ君カズマ君」
「おっすおらカズマ君」
今度はクリスがクエストを提案してきた。
「このクエストなんだけどね…」
「よし、それにしよう」
即決した、当然である。残り2人が文句ありげに見てくるが普段からの信頼が違うのだ。そんな目をするのならもう少しまともなクエストを持ってきてほしい。
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俺たちが受けたクエストは街から外れた所にある共同墓地でのアンデット退治だった。アンデッドの名前はゾンビメーカー、悪霊の一種で死体を操るためその名前が付いたようだ。強さとしては駆け出しでも退治できるレベルらしい。
「ごめんね。あたしのお願い聞いてもらって」
「別に構わないよ。へっぽこなうちのパーティーにはちょうどいい相手だ」
クリスが言うにはエリス教徒として墓地の遺体がアンデッドに好き勝手されるのが許せないそうだ。他2人に比べてすごく真っ当なお願いで涙が出そうだ。
俺たちは今モンスターが現れる夜を待つために野営の準備をしていた。俺はカンテラに油が入っているのを確認して魔法を唱える。
「『ティンダー』、おおっ! まじで火がついた」
キャベツ狩りで知り合った魔法使いに初級魔法を教えてもらった。初級魔法は呪文を唱えるだけで効果が現れる1番簡単な魔法だ。せっかく異世界にきたのだ、RPGだとメジャーな属性魔法を体験してみたかった。まあ殺傷能力は皆無だが。
「カズマ、料理するのに火がいるのでこちらにもお願いします」
「おう、『ティンダー』」
「カズマ、水が足りないから魔法で出してくれないか」
「はいよ、『クリエイトウォーター』」
「カズマ、火が消えそうなのでちょっと風を送ってくれませんか」
「…『ウインドブレス』」
なんだろう。魔法を使っている高揚がどんどん冷めていく。ただいいように使われているだけな気がする。
「便利だねその魔法。一家に一台カズマ君がいれば安心だね」
俺はどうやら家電らしい。初級魔法ってロマンないんだな。
「しかし墓場の近くで食事をするのはあまり気が進まないな」
「人が作ったものに文句を言うダクネスにはそのご飯はいりませんね。もったいないので私が食べてあげましょう」
「別にそういうわけでは…あっ、こら私の皿から取るんじゃない」
ダクネスがめぐみんに飯を強奪されている。前も見たが食事に関してはあのロリっ子のスピードは尋常ではない。ダクネスが涙目になってきたな。
俺はそれを見て見ぬふりをして、マグカップにコーヒの粉とクリエイトウォーターの水を入れて、それをティンダーで軽く炙ってコーヒーを作っていた。
「あたしにもそれちょうだい」
クリスがマグカップを持って近くに来た。断る理由もないのでクリスの分のコーヒーも作ってやった。
「ありがと…うへっ、苦い」
「そりゃあコーヒーだからな。なんだ飲んだことなかったのか?」
「君がたまに美味しそうに飲んでたから気になってね。ねえお砂糖ない?」
「そんなクエストに必要ないものは持ってきてない」
えー、と文句を言いつつもクリスはチビチビとコーヒーを飲んでいる。夜もふけてきて冷えるのだろうか。特に話す事もなく2人して座っている。別に気まずいというわけではない。まだ目標が現れる様子はないんだ。たまにはこんな静かな夜も悪くない。
視界の隅にいるめぐみんVSダクネスは見えないし聞こえない。
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空気が冷えてきてあたりがシンとしてきた。時間はおそらく深夜になっているのだろうが一向にゾンビメーカーは現れていない。
「なんだ。今日は現れないのか」
弱いモンスターだ。通りすがりの誰かが討伐したのかもしれない。そんな事を考えているとようやく敵感知に反応があった。数は聞いてたのよりだいぶ多いな。
墓地を見るとゾンビが墓から這いずり出してきている。その中心に黒いローブをかぶった女性がいた。暗視だとはっきりとは見えないがどこかその人影に既視感を感じる。その女性が何かしたのか墓場に魔法陣が展開された。その魔法陣の青白い光によって女性の顔が浮かび上がる。
「カズマ。あの人は魔道具店の…」
めぐみんもそれが誰か気付いたようだ。何であの人がこんな所にいるんだ?
「こんな所にいるなんてね」
俺が考えていると横でいつか聞いたドスのきいた声が聞こえる。声の主の方を向くとそこにはどこか無表情な顔をしたクリスがいた。
「ク、クリスさん?」
「ちょっと殺ってくるね」
チャキッ、と腰のダガーを抜くとクリスは一直線に墓場へと駆けて行った。俺たちもそれを慌てて追いかける。その人はまだクリスに気付いてないのか棒立ちしている。今のクリスなら躊躇なく殺しにかかるだろう。
「おい!危ないぞ!『バインド』っ!」
俺は大声で呼びかけながらクリスに拘束魔法を放った。
「えっ?きゃあっ?!」
ギリギリで気付いたからか俺の魔法が間に合ったからかは分からないが、クリスの刃はその人の腕を少し切るだけに留まった。
「おい!大丈夫か!」
縄で拘束されたクリスはめぐみんとダクネスが抑えてくれている。
「その声は…カズマさんですか」
俺は驚いた表情をしている魔道具店のポンコツ店主であるウィズに駆け寄った。
「離してよ2人共!!」
「離すわけないだろ馬鹿者!どうして急に切りかかったりしたんだ!」
「いつものあなたらしくないですよ」
クリスが暴れているが縛られていてはどうにもならないのだろう。ダクネスの言う通りだ。クリスは一体何を考えているんだ。
「悪いなウィズ、うちの連れが迷惑かけて。普段はあんなじゃないんだが。腕の傷は大丈夫か?」
「は、はい。突然のことでビックリしましたけど」
「その傷は俺が治すよ。あれから回復魔法を覚えたからな」
「え?いや、あの、だ、大丈夫ですから」
急に襲われて気が動転してるのだろう。ウィズの言葉に構わず俺は魔法を唱えた。
「『ヒール』…あれ?」
おかしい傷が塞がらない。魔力が足りなかったか?
「もう一度、『ヒール』っ!!」
「あいたっ!」
気合を入れてみたがやはり効果はない。それどころかウィズが痛がっている。どうして効果が出ないのだろうか。
「カズマ君!そこにいるのはリッチーだよ!危ないから離れて!」
「「「…え?」」」
縛られたクリスが大声で叫んでくる。その発言を俺たち3人はすぐに理解できなかった。恐る恐るウィズを見ると、
「わ、わたしリッチーじゃないですよー。アンデッドでもないですよー」
明らかに目が泳いでいる。そういえばアンデッドに回復魔法は逆効果になるとか聞いたことがあるな。
「『ヒール』っ!」
「あいたっ、くないです!」
「………」
「………」
俺たちの間に微妙な空気が流れている。どうやって収拾をつけようか。
「とりあえず話をしようかウィズ」
クリスは縄を解いたら斬りかかりそうなので縛ったまま話を聞いた。どうやらウィズはリッチーと言う上位のアンデッドだそうだ。魔法を極め自らの意思でアンデッドとなったノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王。それが今目の前で正座しているウィズの正体らしい。
「それじゃあウィズはこの墓地の霊を成仏させるために時々ここに来てたんだな」
「はい。共同墓地の魂の方たちの多くがちゃんと葬式をしてもらえず現世を彷徨ってるんです。私も一応アンデッドの王と呼ばれるものですからそう言った人達を天に返してあげているんです」
相変わらずのいい人だった。この人には以前の借りがあるのでどうにかしてあげたいのだが。そうしていると話の途中から黙っていたクリスが口を開いた。
「ねえダクネス。ダクネスの方からエリス教会の人達にお願いってできないかな」
「そうだな。私もエリス教徒の端くれだ。アンデッドに除霊をしてもらっているようでは立つ瀬がない。どうにか取り計らってみるよ」
「ありがと。だから除霊のことに関しては今後大丈夫だよ」
どうしてダクネスが頼めばエリス教会の人が動くのかはわからないがなんとかなるらしい。ウィズもその言葉に少しほっとしている。
さて残る問題はウィズをどうするかである。冒険者としては見逃すのはありえないのだが。俺たち4人の視線が突き刺さるのを感じたのかウィズは懐から冒険者カードを取り出した。
「わ、私はリッチーになってから人を襲ったことはありません。カードの討伐欄にも書かれてませんから」
冒険者カードには確かに記載はなかった。まあ俺としては一度世話になったし見逃すのも構わないのだが。見たところめぐみんも俺と同じ思いだろう。ちょろいダクネスはどうにか丸め込めるとして問題はあと1人。
「そんな目であたしを見なくても別に斬りかかったりしないよ」
俺がクリスを見ているとそんな返答が返ってきた。予想外に物分かりがいい。
「俺としては助かるけど急にどうしたんだ」
「この間はこの人のおかげで助かったんでしょ。何か悪事を働いてるわけでもなし今日ぐらいは見逃してあげる。まあ次に会ったらどうするかわからないけど」
どうやら女神様は寛大な心で見逃してくれるそうだ。最後に物騒な事を言ってはいるが。
「あ、ありがとございます。カズマさんに他の皆さんもこのご恩は忘れませんので。私のお店に来てくださればお安くしますので」
そう言ってウィズは立ち去って行った。
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「まったくみんなあたしの事はこれっぽっちも信じてくれてないんだね」
街に戻る中クリスはぷんぷんしながら1人先を歩いていた。クリスは俺たちの事を思ってリッチーに突っ込んだのに、それを非難された挙げ句に縛り上げられたのだ。まあ怒る気持ちも分かる。
「悪かったよ。けど相手が知ってる顔だったんだ、焦りもするだろ」
「そうです。私もあの店主さんとは顔見知りでしたのでしょうがないです。ダクネスはこの馬鹿者なんて言ってましたけど」
「お、おい。どうして私だけが悪者になってるんだ」
「誰も自分が悪かったとかは思ってないみたいだね」
駄目だな、これは結構根に持っているようだ。まあクリスには悪いが目の前で知り合いがやられなくて本当によかった。
「そういえばどうしてクリスはあの人がリッチーだとすぐに気づいたんですか? 正直クリスが言うまではさっぱり気づきませんでした」
「あー、それはね。リッチーみたいな強いアンデッドは変な匂いみたいなのがあるんだよ」
いかにも今思いつきましたという顔をしている。おそらく女神の力とかで気づいたのだろう。知らない所で体臭の噂を流されてるリッチーに憐みを。
「それでゾンビメーカーの報酬はどうなるのだ?」
「「「あ」」」
クエスト失敗。
もらえなかった報酬はウィズの店でたかってやろうか。
クリスさんが思い切りが良すぎる。
カズマが止めるのが遅かったらウィズはやられていたかもしれない。
クリスさんのダガーは魔法がかかっていてかつ女神の加護が乗ってるのでアンデッドにはとても痛いんです。
カズマさんのヒールはレベルが低いとかもあり本気でやらないとウィズは大して痛くありません。本気でやってもちょっと痛い程度ですが。
読んでくださったみなさんに深く感謝を