この素晴らしい世界でエリス様ルートを 作:エリス様はメインヒロイン
今回の話は他の作品の考え方を作者なりに解釈して組み込んでいます。ツッコミ所があるかもしれませんが軽い気持ちで読んでください。
さて久々にやってまいりました、アクア様に密着してみた、のコーナーです。このコーナーは自身の不祥事により女神エリスの世界を任せらせた水の女神アクア様を観察するものです。
それでは早速様子を伺ってみましょう。
「あー、またやられたっ! なんなのよこのゲームは、もっと私を楽しませてよ!」
職務など知ったことかとゲームに明け暮れているようですね。どこから持ってきたのか日本製のテレビと据え置きのゲーム機で遊んでいます。この世界で仕事をしているので日本の物は取り寄せられないはずなんですけどね。
「他のゲームやりたいけどここにはあんまり置いてないのよねー。エリスに無理矢理言っていろんなゲームを置いておけばよかったわ」
どうやらかなり前から持ち込んでいたようです。それを女神エリスは容認していたと。あの人も意外とちゃっかりしてますね。
今アクア様が遊んでいるゲームは勇者を操作して魔王を倒すために冒険する王道RPGのようですね。どうやら先程から同じ相手に負けているようです。
「今度こそ倒してやるわよこのアンデッド! 勇者の必殺技を食らいなさい! ちょっと、だからなんでダメージが0なのよー!」
どうやら敵は特殊なギミックを使う相手のようです。アクア様は脳筋戦法で戦っているので突破は不可能なようです。
「なんなのよこのクソゲーは! 攻撃はなかなか当たんないしアイテムも全然落ちないし! これ作った奴何考えてんのよ!」
コントローラーをぶん投げながら叫んでいます。アクア様が運のステータスが低いのは知っていましたがまさかゲームにまで影響があるなんて。
どうやらゲームに飽きたようで次は漫画を探しています。仕事をしている様子が一切見られませんがあの世界は大丈夫なのでしょうか?
「うーん、ここに置いてあるジャンルって王道漫画や少女漫画みたいなのばっかね。なんかこう、女神が地上に降りてきてチート無双したった、みたいな漫画ないかしらねー」
本棚を前にして唸っています。…おや?
「あ、これ随分前に貸した怪盗物じゃない。久しぶりにこれ読んでみようかしらねー。…ちょっと今から漫画タイムなんですけど」
どうやら地上から魂が上がって来たようです。珍しく前回から反省しているアクア様は魂の案内だけはきっちりこなしています。身なりを正し定位置の椅子に座りました。
さて今日訪れた方は、
「ここはどこだ? 俺は確かに死んだはずだが」
黒い全身鎧を着た騎士の方のようですね。
「ようこそ死後の世界へ。あなたはその生涯を…って何よあんた。魔王軍幹部?! この忙しい時になんなのよ! 帰って! 漫画読みたいんだから帰ってよ!」
「ま、待ってくれ俺もここがどこだか分からなくて…」
アクア様の見通す目によるとこの騎士は魔王軍幹部の方のようですね。まあすでに死んでいるので元が付きますが。
アクア様はその事に気づいていないのか場の空気は一触即発の状態になっています。
「魔王が天界にまで手を伸ばしてくるなんて思いもしなかったわ! どうやって天界に乗り込んで来たかは知らないけどこの私、女神アクアの前に現れたのが運のつきね!」
「こ、こんなのが女神だと言うのか? しかもアクアだと?! 忌まわしきアクシズ教の元締めが確かそんな名前だったような…」
「私の可愛い信者が何ですって! アンデッドのくせして舐めた口聞いてくれるわね! これでも食らいなさい『ターンアンデッド』っっ!」
「ぎゃああああ、ってあれ?」
まったく効果がありませんでしたね。まあすでに死んでいて"元“アンデッドなので当然なのですが。
「な、何でピンピンしてんのよ?!」
「そ、そうか。首の位置に違和感を感じていたが今の俺はデュラハンではないのか」
「なら、ゴッドブローっ!!」
「ひでぶっ?!」
アクア様は魔法が効かないので物理で攻めたようです。騎士の方の顔面にいいのが入りました。やっぱりアクア様は脳筋ですね。
アクア様の勝利ということで事態は一旦収束し状況の理解のために話し合いがされました。途中で何度かアクア様が殴りかかってましたが話し合いです。
「あんたは“元“魔王軍幹部だったのね。それならそうと早く言いなさいよ」
「話をする前に思いっきり殴られたんだが」
ベルディアという名前の騎士は疑わしげな顔でアクア様を見ています。出会って数秒で殴られたのです。女神だということを疑うのは当然でしょう。
「しかしそうかここが天界か。以前ウォルバクから聞いたことはあったが本当に何もない場所だな」
「ウォルバク? 誰よそれ」
女神ウォルバクはマイナーとは言え神の一柱なんですがアクア様は知らないようです。あなたの信者が邪神認定していたはずなんですが。
「まあなんでもいいわ。それであなたは天国に行くの? それとも生まれ変わりを望むの?」
いつも通りの選択肢を提示しました。それに対してベルディアは驚いたように尋ねます。
「待ってくれ。俺には何もないのか?」
「何? 悪いけど転生特典もらってチートするって選択肢はこっちの世界にはないわよ」
「そういうことではない。俺に対して何か罰はないのかと聞いているんだ」
そうしてベルディアは語り始めました。
「俺は今まで多くの者を殺してきた。人であった時もそしてアンデッドに堕ちた後も。それを後悔したことはない。俺は騎士で俺の居場所は戦場だった。ただそれだけだ」
その話をアクア様は静かに聞いています。
「だがそれは死後に相応の報いがあると思っていたからだ。殺した相手の数だけ罰が与えられると覚悟していたからだ。…お前が真に女神だと言うのなら俺を裁いてくれ。それが今まで殺してきた相手に対するせめてもの礼儀なんだ」
ベルディアは片膝をつきこうべを垂れてアクア様の行動を待ちました。それは格好も相まって処刑されるのを待つ騎士の姿に似ていました。
その姿を見てアクア様は、
「ゴッドブローーーー!!」
「ひでぶっ!!」
本日二度目のゴッドブローですね。先程より腰の入ったいい拳がベルディアの顔面を襲いました。
「き、急に何するんだ?! お前ほんとに女神か! 慎みというものが微塵も感じられんぞ!」
「何って、今のが私からあなたへの罰よ」
アクア様はあっけからんとした態度で返しています。
「今のが罰だと? 俺の話を聞いていたのか。こんなもので釣り合いが取れるわけ…」
「罰って言うのはね、別に神が人に与えるものじゃないの。その人自身が自分に罰を科すの」
「だ、だが俺はアンデッドで…」
「ここは死んだ“人"が訪れる場所なの。生前がどうとか知ったことじゃないわ」
「……俺は多くの者を殺してきたんだぞ。そんな簡単に許されていいものでは…」
「あなたが生前背負ってたその覚悟ってのは軽いものだったの?」
「………いや。決して軽くはなかった。それを軽いと決めつけることこそ殺してきた相手に対する冒涜だ」
「ならあなたへの罰は生前に抱いていた覚悟とやらで十分なのよ。その重さを背負って生きてきたことが罰なの。だからその生涯を終えた今、水の女神アクアの名においてあなたの罪を許してあげるわ」
アクア様はそう優しく告げました。
「許す、か…。ふん、死際のことに続き予想外のことばかり起きる」
ベルディアはアクア様の言葉を反芻しながら苦笑しています。そんな中ふとおかしな点がある事に気づいたようです。
「待て、お前の話を聞く限りでは俺が殴られる謂れはなかったのでは?」
「だってなんかウジウジしててイラってきたからつい」
「おい」
やっぱりアクア様はこういう人ですね。ですがベルディアも言葉では責めていますが顔は笑っています。
「じゃああなたは生まれ変わりを望むのね」
「ああ。俺は元騎士だ。何もせずにただ過ごすなど性に合わん。そうだな、次の生はどこぞの女騎士のように守るために生きてみるのも悪くないかもしれん」
「それじゃあ、あなたの次の生に幸多かからんことを」
「感謝する、女神アクアよ」
最後にそう残してベルディアは生まれ変わるための門をくぐりました。アクア様はその姿を最後まで見送りました。
そろそろ時間も良い所なので今日のアクア様に密着してみた、はここまでです。それではまたいつの日か。
「さーて、漫画の続き読まないとねー」
ベルディアさんの最後の見せ場。
作中の考え方は空の境界、痛覚残留の物を参考にしました。いろいろツッコミ所があるかもしれませんが深く追求しないでください。
もっとコミカルに書く予定だったんですが何故かこうなりました。別の案としてベルディアさんがアクアさんの小間使いになるみたいなのもあったのですがさすがに無理があると没にしました。
この作品ではアンデッドは浄化されたら等しく天界に送られるという事になっています。リッチーのキールもエリス様の所に行ってたから多分大丈夫。
読んでくださった皆様に深く感謝を。