この素晴らしい世界でエリス様ルートを 作:エリス様はメインヒロイン
佐藤カズマの人生は終わった。
目の前にいる青髪の少女は俺にそう告げてきた。
俺はひとまず一番気になっている事をその少女に尋ねた。
「…あの、俺が死んだ後、あいつらはどうなりましたか?」
「冬将軍はあなたを斬ったら姿を消しましたので、お仲間は大丈夫ですよ」
それを聞いて少しだけ安心する。ほんの数十秒しか見ていないがあの敵はおそらくダクネスでもまともに耐える事はできなかっただろう。あいつらまで殺されていたらと思うと…。
「けど凄い殺され方しましたね。首チョンパですよ、首チョンパ。グロいの通り越して芸術品みたいな死に方してますよ」
…何を言ってるんだろうこの人は。いや確かに最後に見た自分の姿は凄かったけど。
その場違いな発言に一瞬今の状況を忘れた。とても死んだ人間にいう言葉とは思えない。そんな俺の内情など知らずに彼女は自己紹介をしてきた。
「私の名はアクア。あなたの死後の案内をする水の女神アクアです。まあ改めて紹介する必要はないですけどね。前に一度お会いしていますし」
俺の女神の知り合いは一人しかいないはずなのだが。アクアという名前だけはどこかで聞いたことがある気がする。
「俺達初対面だと思うんですけど、以前どこかでお会いしましたかね?」
「…はあぁ? 何言ってんのよ。あなたを生き返らせてあげたのが誰か忘れたの? 私よ、私っ! まったく、信仰心の薄い日本出身だからって女神に対して敬意って物が足りないんじゃないかしら」
先程までの女神らしい雰囲気はどこへやら、安いチンピラの様に突っ掛かってきた。宗教関連に疎いのは認めるがこれが女神とかちょっと信じられない。
「大体あなた達日本人はどうしてさっさと魔王を倒さないのよ。せっかくこの私が神器を授けてあげてるのよ。魔王の一匹二匹余裕でしょ。まあ引き篭りのゲームオタクには無理な話かしらね。あなた序盤のスライムにも負けそうだし。プークスクス」
ヤバい、こいつ腹立つ。今にも手が出そうだ。いや落ち着け俺。相手は女神なんだ。女神なんだよな? 何か誤解が生じているようだからまずはそこから解決していこう。
「なあ、前に俺を生き返らせてくれたのはエリスっていう女神様なんだけど…」
「エリス? 何言ってんのよ。日本支部はエリートであるこの私が担当してるのよ。日本人の転生者は全員私が送り出してるの。あの子みたいな辺境の世界担当なんて……ちょっと待ってそういえばこの間…」
彼女の声がだんだんと尻すぼみになっていく。どうやら本人にも何か思い当たる節があるようだ。
「そういえばエリス様が俺を生き返らせてくれた時、事情があって担当が変わったとか言ってた気がするな。それなら俺とあんたが初対面なのは納得できると思うんだが」
「……」
完全に黙った。さてここからどう切り返してくるのだろうか。まあ何をやった所でこれを女神として見る事はもうないだろう。
すると彼女は目の前で居住まいを正し、
「初めまして佐藤和真さん。私は水の女神アクア。あなたの死後の案内をする者です」
最初に見せた女神らしい雰囲気を纏って俺に話しかけてきた。あそこから猫かぶろうとする神経の図太さだけは見るものがあるな。
「…おい、今更やり直せると思ってんのか」
「何のことですか? それでは天国に行くか生まれ変わるか…」
「無理矢理話を進めようとするな。お前さっきまでの感じを見るに、俺がいつ転生させた相手か分からなかったから、それっぽく話してただけだろ」
「……」
「図星か。それで、お前は初対面である俺に対して『私が生き返らせてあげた』と恩着せがましく言ってきたわけだが。そこんところどう思うよ?」
「……」
「だんまりかよ。そんなのでよく女神名乗ってられるな。何がエリートであるこの私がだ。エリス様の爪の垢でも飲んでろ。この駄女神が」
「う、うわぁああああああああ!! この罰当たりがぁああああ!!」
「このっ、掴みかかってくんな!」
「はあ、はあ。取り消しなさいよ。さっきの言葉」
「取り消せだと? いいや何度だって言ってやるさ。この駄女神がっ!」
「何よ引きニートのくせにっ!」
「何だとこのっ!」
「「……」」
「…なあこれ以上の争いはお互いに疲れるだけだ。俺も謝るからもうやめにしないか」
「…そうね。私も何かどうでも良くなってきたわ」
とりあえず俺とアクアと名乗る女神は不毛な争いをやめて元の椅子に座り直した。女神とはとても思えないほどに凶暴だったがこれを口に出すとラウンド2が始まるので黙っておこう。
「それで結局あんたどうすんのよ。私も仕事があるんだから早く決めてよね」
「決めるって、何をだ?」
「天国行くか生まれ変わるか、どっちにするかってことよ。あんたもう死んでるのよ」
アクアはもう取り繕う気はないのか素の口調で尋ねてきた。その問いに今更ながら自分の死を思い出す。
そうだ。さっきまでの空気で忘れていたが俺は死んだんだ。俺の冒険は終わり。もうあそこには戻れない。めぐみんやダクネス、他の冒険者達、そしてエリスにはもう…会うことができない。
そう思うと自然と涙が溢れ出ていた。胸に大きく穴が空いたような感覚。こんな思いをするのなら転生などしなければよかった。そう思えるほどの喪失感が俺を襲った。
アクアは突然泣き出した俺を見てオロオロしている。急にまともな反応しないでくれよ。俺としてはさっきまでの駄女神の方が気が紛れて助かるんだ。そうじゃないともう帰れないって現実に押しつぶされそうだ。
そんな俺を救い上げるように天から声が降ってきた。もう聞くことはないと思っていたエリスの声で。
『カズマさん聞こえてますか? 私です、エリスですよ。今あなたの体に蘇生の魔法をかけたので帰ってきてください』
「エリス様っ?!」
その声に俺は驚きの声を上げた。見ると目の前のアクアもポカーンと口を開けている。俺の声が聞こえたからかエリスの安堵したような声が聞こえてくる。
『ああ、よかった。間に合ったようですね。今あなたの前に他の女神がいらっしゃると思います。その方に地上への門を出すようお願いしてくれませんか』
「マジですかっ?! お、おいアクア、その門とやらを早く開いてくれっ!」
やっぱり彼女こそ女神様だ。諦めかけていた俺を引き上げてくれる。俺は彼女の言葉に従いアクアに門を出すように頼んだ。だがアクアは俺の頼みを聞かずに天に向かって大声で返した。
「その声、あんたエリスね! 今までどこ行ってたのよ! おかげでこっちは大変だったのよ!」
『え? え? な、何でアクア先輩の声が聞こえてくるんですか? 先輩は日本担当だから私の世界に来ることなんて…』
どうやら二人は知り合いだったようだ。そういえば以前エリスにアクアのことを聞いた気がする。その時は確か子供のようで可愛らしい人と評していたが、
「あんたが勝手にどっか行ったからでしょうが! そのせいで私がここの担当に飛ばされたのよ!」
『す、すみません。私のせいで先輩にご迷惑をかけて』
子供というのは分からんでもないが可愛らしいか? ただの狂犬にしか見えない。
「それで何であんたがそこにいるの? 確か日本人の誰かに連れてかれたんじゃなかったかしら」
『その、そこにいるカズマさんが私を特典として地上に連れて行った方です』
アクアがギギギとこちらを向いてきた。女神がそんな殺気ましましの顔をしたらいかんと思うのだが。
「あんたのせいで私はこんな目にあってるのね! 覚悟なさい、神罰を食らわしてやるわ!」
「やんのかおらぁ! 俺が勝ったらさっさと門を開けてもらうぞっ!」
『二人共ケンカは止めてください! どうして初対面でそんな険悪な空気になってるんですか!』
ラウンド2、ファイっ…とはならずエリスの声で止められた。さすがにこの状況でもう一戦するのは彼女に申し訳ない。
『アクア先輩、カズマさんのためにこちらへの門を開けてくれませんか。お詫びは私が天界に帰ったらしますから』
「でもこいつをもう一度蘇生させるのって規定に反するでしょ。それくらい誰でも知ってるわよ」
『…分かってます。けどそこをどうにか見逃してもらえませんか?』
その言葉にアクアは意外そうな顔をして俺に小声で話しかけてきた。
「ちょっとあんた、一体何やったの? エリスは胸をパッドで盛る以外は真面目で頭が固いいい子ちゃんだったのよ。それがあんな事言い出すなんて」
「何だよ。言っておくが俺は何もしてないからな。それはそうとそのパッドの部分の話を詳しく」
アクアは俺の言葉を無視して少し唸った後、しょうがないわねと転生した時に見た門と同じ物を出現させた。
「今回は特別に門を開けてあげるわ。エリス! あんた帰ってきたら私が今まで頑張った仕事分働いてもらうからね!」
『あ、ありがとうございます、先輩!』
アクアはエリスの嬉しそうな言葉に満足すると俺の方を向き、
「それじゃあその門をくぐったら地上に戻れるから。それであんたはさっさと魔王を倒してきてちょうだい。元引きニートでも頑張ればなんとかなるでしょ」
「ああ、それじゃあ俺は本物の女神であるエリス様の元に帰るよ。ありがとうな駄女神」
「「……」」
「やっぱ蘇生はなしよ! 今すぐその門を閉じてやるわ!」
「残念もう遅い! フハハハっ、さらばだ!」
俺は最後に捨て台詞を残して門の中に飛び込んだ。
ーーーーーーーー
「…ズマさん? 大丈夫ですかカズマさん? ああ、気が付いたようですね。本当によかった」
どこか遠くから声が聞こえてくる。その声に促され目を開けるとそこにはエリスの安堵した表情があった。どうやら俺は無事に戻ってこれたようだ。
もう会えないと思っていた彼女の顔を見ると何か無性にこみ上げて来るものがある。彼女の目が少しだけ赤いのは俺のために泣いてくれたからだろうか。それは自惚れかもしれないけど、せっかく生き返れたのだ。少しくらい都合よく考えてもいいかもしれない。
「ただいま帰りました。エリス様」
「ええ、お帰りなさい」
さっきまでアクアと話していたせいかエリスの女神度がいつもの三割増に感じる。死んでしまったのはアレだが全部上手く収まって…。
「やっぱり…エリス様なのか…?」
おそるおそる尋ねてくる声がする。その声の方を向くと呆然とした顔のダクネスがいた。
そうだ。俺が死んだのはクエスト中。なら当然ダクネスは近くにいたはずだ。それなのにエリスは正体を晒してまで俺を助けたんだ。自分が必死になって隠してきた相手がいるのに。
「どうしてエリス様が…クリスはどこに行ったんだ?…一体何がどうなって…」
ダクネスは混乱しているのかうわごとのように喋っている。友人が実は女神だったなどと急に理解できるわけがない。その反応は当然のものだろう。
けれどその言葉を聞いたエリスは表情を曇らせた。こうなる事は分かっていた。だけどその言葉は聞きたくなかった。彼女の表情からそんな声が聞こえてくるようだった。
「ごめんなさいカズマさん。私は先に宿へ帰ってますね」
そう端的に告げると彼女は逃げるようにこの場を去って行く。俺は何をすればいいかも分からずにただそれを見送った。
「とりあえず俺達も帰るか」
「…ああ」
俺はダクネスに街に帰るよう声をかけた。まだどこか思い悩んだような表情をしていたが、少しは落ち着きを取り戻したのか素直に同意してきた。
エリスは俺のためにその正体を現したんだ。俺ができる事があるのかは分からない。だけど何をするにしても彼女に会わなければ話が始まらない。
そう意気込んで俺は街に帰っ…。
「カズマー。ダクネスー。聞こえてますかー」
どこからかめぐみんの声が聞こえてきた。そういえば彼女はどこに行ったのだろうか。
「状況も落ち着いたようですし私を雪の中から引き上げてくれませんかねー」
すごく不機嫌そうな声が足下から聞こえてくる。そういえば冬将軍対策で埋めたままだったな。
「ところで今二人は帰ろうとしてましたが、まさかこの私を忘れていたなんてことはないですよねー」
とても怒っている様子だ。聞こえなかったふりをして逃げてしまおうか。
さすがに置いて帰るわけにもいかずにめぐみんを掘り返した。
帰り道、俺はめぐみんを背負いその後をダクネスが少し遅れてついてくる。めぐみんは爆裂魔法を撃った後なので歩ける体力がなく仕方なく俺が背負った。俺も生き返ったばかりで少し気分が悪いが今のダクネスに頼むのも気が引ける。
「くしゅん! まったく、人を埋めておいてそのまま帰ろうとするとかカズマは鬼ですか。服も濡れてしまいましたし最悪ですよ」
「あれは冬将軍対策で仕方なくやったんだよ。おかげで安全だったろ。俺なんて首ぶった斬られたんだからな」
「その埋まってる間に仲間が殺されたんですよ。雪の下で何もできなかった私の悔しさが分かりますか?」
「お、おう。悪かったよ」
背負っているめぐみんがギュッと腕に力を入れてきた。普段があれなだけにそんなストレートな心配をされると照れるんだが。
「まあ埋まっていたおかげでカズマが首チョンパされる光景を見ずにすんだのですが。それで、これからどうするのですか? 私はクリスに会うのが先決だと思いますよ」
「…お前さっきから妙に落ち着いてるな。クリスが女神だったことに驚いてないのか?」
「これでも驚いてますよ。私は以前からクリスには何かあると思っていたのでそこまで衝撃的というわけではありませんが」
紅魔族は知能が高いと聞くがこの爆裂狂もその例にもれないらしい。一体どこでバレていたのだろうか。
「ですがダクネスとクリスは長い付き合いだと聞きます。私のように簡単に受け入れられるものではないのかもしれませんね」
まためぐみんの腕に力が入る。きっと彼女も二人のことが心配なのだろう。
「まあなんとかなるだろ」
これ以上不安がらせないように軽く言う。
俺は後ろにいるダクネスの様子を見た。まだ何か悩んでいるような表情をしている。
今回の騒動の原因は俺だがそもそもこれはあの二人の問題だ。俺が何をするにしてもこの結末はクリスとダクネス、二人が決めることだ。
登場後数分で駄女神判定されるアクア様。
真面目な話書くとか言ったけどアクア様はやっぱりギャグになるよ。
アクアがカズマさんについていろいろ勘違いしていたのは、出身が日本だと分かった時点で『あーはいはい、日本人ね。じゃあいつものテンプレで話してればいいわ』とそれ以上見るのをめんどくさがったからです。
原作と違いアクアの声がエリスに届いてますがその方が書きやすかったのでそうなりました。アクア様の方が神格が上なので可能だった、で納得してください。
次回こそ真面目な話に…なるといいなあ。
読んでくださったみなさんに深く感謝を。