この素晴らしい世界でエリス様ルートを 作:エリス様はメインヒロイン
あ、今回長いです。(12000字)
「明日はダンジョンに行きます」
「嫌です」
俺の提案をめぐみんは一蹴してくる。せめてもう少し話を聞いてから反対してくれよ。
俺が冬将軍に打ち首されてから数日後、ようやく冒険に出ても支障がない程度まで回復した。借金のこともあるのでそろそろ冒険者活動を再開しないといけない。今はギルドで次のクエストについての相談を四人でしているところだ。
「私をダンジョンに連れて行ってもできることなんて限られてますよ。せいぜい外から爆裂魔法を撃って主ごとダンジョンを崩落させることしかできませんから」
「そうして俺にダンジョン破壊の賠償金が請求されると。…借金が増える未来しか見えないから絶対にやるなよ」
「むむ。やるなと言われたら逆にやりたくなるのが紅魔族の性なのですが」
「…お前が普段するアレな言動は紅魔族じゃあ一般的なんだな。一度お前の一族に常識を問いただしてみたいよ」
俺はダンジョン探索を選んだ理由を説明した。
何でも駆け出しでも攻略可能なダンジョンに未探索の領域が発見され、ギルドはその調査クエストを発注したそうだ。クエスト内容は新たに発見されたルートのモンスターの情報やマッピングである。その調査報酬に加えて道中に見つけたお宝は持ち帰ってもよいとのことだ。
そのクエストを受付嬢のルナさんが借金返済の助けになればと俺に直接斡旋してくれたわけだ。
「それで、めぐみんはダンジョン前に置いていくとしてお前らは何か意見あるか?」
「あたしは賛成だよ。ダンジョン探索は盗賊の領分だからね。まだ見ぬお宝があたしを待っている! なんてね」
「反対はしないが、私もめぐみんと一緒にダンジョンの外で待っていることにするよ」
ノリノリなクリスに対して何故かダクネスは消極的だ。攻撃が当たらないダクネスでもタンクとしてなら優秀なのでいてくれた方が助かるのだが。まあクリスと二人ならそれはそれでやりようがある。
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俺達は街から半日ほどの距離にある山の麓に着いた。その山の岩肌にはポッカリと大穴が空いてており、そこから階段が地下深くまでのびている。これが今回のクエスト対象のダンジョンだ。
名前はキールのダンジョン。
その昔、キールという名前の天才アークウィザードがいたそうだ。国一番の実力を持ったキールはその力を国のために使い多くの功績を挙げていった。キールは多くの人々から称えられたが、ある時何を思ったのか貴族の令嬢を攫い王国の軍を退けこのダンジョンを作って立て篭もった。
悪い魔法使いのお話はここまで。その後どうなったのかは当人達しか知りえないのだろう。
ダンジョン前には避難所とか書かれた頑丈なログハウスが建っていた。俺達はとりあえずその建物に入る。荷物がまったく置いてないのを見るに他の冒険者はダンジョンに潜っていないようだ。
俺は自分の荷物を整理した。ダンジョン攻略に必要なものだけを選んで残りはここに置いていく。
めぐみんとダクネスにはここで残ってもらうのだが、
「お前はなんでその猫連れてきたんだよ」
「猫ではありません。ちょむすけです」
めぐみんの腕には何時ぞやの漆黒の魔獣が抱えられていた。最近は見かけなかったがどこで飼っていたのだろうか。
「以前遠出のクエストに行った時は部屋に置いていったのです。けど帰ったらぐったりとしたこの子がいまして。今回は私の出番はありませんし連れてきても大丈夫かなと」
「お前は飼い主なんだからもうちょっと優しくしてやれよ。雑に扱ってるとそのうち嫌われて引っ掻いてくるぞ」
「そうなってしまったら仕方ありません。我が使い魔とは契約を破棄し、その贄を持って新たな使い魔を召喚しますよ」
「…ちょむすけが怯えてるからそれ以上変な話はしてやるな」
俺が荷物を整理する中、同じくダンジョンに入るクリスもダクネスと一緒に持っていくものを選別している。
「やけに荷物が多いとは思ってたけど。なんでこんなにたくさん食糧持ってきたの?」
「なんでってダンジョンに来るならこれくらいは必要だろう」
「でもダクネスはダンジョンに入らないから必要ないでしょ。こんなに食べたら太るよ?」
「どうして私が一人で食べることになっているんだ。それを言うならクリスはもっと食べた方がいい。お前は体が細すぎるからな」
クリスとダクネスの間には数日前の気まずい雰囲気は欠片も残っていない。むしろお互いに溜め込んでいたものを吐き出したからか前より仲良くなっているように思える。
クリスが体のことを言われてダクネスに襲いかかっているがあれはじゃれ合いなのだろう。ちょっと目が座っている気がするがきっと気のせいだ。
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「早く帰ってきてくださいね。帰りが遅いとダンジョンが謎の崩落を起こしたり、ちょむすけが何者かに食べられているかもしれませんからね」
「私がめぐみんを見張っておくから気にせず行ってこい。あまり無理はするなよ」
めぐみんとダクネスに見送られ俺達はダンジョンに踏み入った。入り口から伸びている階段を下りていく。この場所はまだ外の光が届いているので少し薄暗いだけだが、より深く進めばそこは完全な闇になっているのだろう。
「エリス、ちゃんと見えてるか?」
「私は大丈夫ですよ。カズマさんの表情まではっきり見えてます。何せ私は女神ですから」
エリスは得意げな声で返事をしてくる。その表情までは見えないがきっと彼女はドヤ顔でもしているのだろう。
俺とエリスは暗闇など気にせず平然と歩いている。俺はスキルの千里眼で、彼女は女神の見通す目があるのでこの暗闇でも目が利き、問題なく行動できている。
今回のクエストは調査がメインだ。戦闘をなるべく避けるために明かりのような目立つ物は使わずに進む。それに加えて俺の敵感知スキルと潜伏スキルのコンボで夜目が利くようなモンスターにも見つかる前に隠れることができる。潜伏はスキルを使っている人に触れていれば効果があるので二人でも問題ない。これでこのダンジョンのモンスターの大半は対処できるだろう。
これは複数のスキルが使える冒険者ならではの利点だ。やっていることは地味だがなかなか便利な使い方だと思う。
ダンジョンを進む中エリスは少し不満げに俺に話しかけてくる。
「それにしてもせっかくのダンジョン探索なのにどうして私は女神の姿なんですか。ダンジョンでこそ盗賊の力が輝く時なのに」
「盗賊だと目が利かなくて時間がかかるだろ。今の状況ならこれが一番効率がいいんだ」
「それは分かってますけど。何か納得がいきません」
さっきは私は女神なのでと自信満々に言っていたはずだが。女神心は移ろいやすいようだ。
「だいたい今の俺はお前が覚えてる盗賊系統のスキルはあらかた習得してるんだぞ。ダンジョン攻略に盗賊二人なんて過剰だろ。分かったら文句言わずについてこいよ」
「むう、カズマさんが私以上に盗賊稼業を極めてきてます。このままでは本業である私の立つ瀬がなくなるのですが」
「女神の本業が盗賊とか世も末だな」
この世界のダンジョンはゲームみたくトラップが数多く仕掛けられている。そのためダンジョン攻略の際には罠発見や罠解除を持つ盗賊系統のスキルが必須である。
俺は今回の作戦をするにあたり彼女に事前にスキルを教えてもらっていた。スキルポイントはベルディアを倒したことによりかなりレベルが上がっていたのでどうとでもなった。
「ギルドから聞いた話だとここからが未探索の領域らしいな」
ダンジョンの壁が一部崩れておりそこから先に通路が続いている。ようやく調査クエストの始まりだ。俺は荷物の中から紙とペンを取り出しエリスに渡す。
「俺が先導するからエリスは調査内容をメモしながらついてきてくれ。俺の敵感知スキルに反応があればすぐに隠れるぞ。それと…」
「相手がアンデッドなら私が浄化する、ですね。作戦はちゃんと覚えてますから大丈夫ですよ」
それならこれ以上の説明は必要なさそうだ。
潜伏スキルは使用者の姿や臭いまで誤魔化してくれる優れものだ。だがアンデッドは生者の生命力を目印に行動するするので相性が悪い。そこでエリスのターンアンデッドの出番である。
未探査の通路に入っていくとさっそく敵感知に反応がある。動き的にこちらに気付いている様子はないがこのままだと接敵する。俺はエリスに合図を送り二人で物陰に隠れ潜伏スキルを使う。
正体まではわからないが小さな人型のモンスターのようだ。そいつは俺達に気付いた素振りもなく通り過ぎていく。作戦はうまく機能しているようだ。これなら調査クエストも楽に終わ…。
「『セイクリッド・エクソシズム』!」
「…お前、何やってんだよ」
目の前のモンスターが消し飛ぶのを見ながら、隣で破魔魔法を撃った少女を問い詰める。作戦を覚えているとは一体何だったのだろうか。
「あ、すみません。今のはグレムリンという名前の下級の悪魔です。調査報告には特に書かなくていいモンスターですね」
「いやそっちじゃなくて。なんで見逃さなかったのかを聞いてるんだ」
「え? あれは悪魔なんですよ。殺して当然じゃないですか」
「さも当然のことみたく言ってくるな。今日は戦闘少なめで行くって言っただろうが。今からは敵がさっきの奴でもスルーで行くからな」
「カ、カズマさんは女神であるこの私に悪魔を見逃せと言うんですか? そんな作戦承服できません!」
「女神だって言うならもうちょっと寛大な心を持てよ!」
そういえばエリスは悪魔を蛇蝎の如く嫌っていたな。このままだとクエストに支障がでるのでどうにか説得した。一応は納得してくれたが『見逃してあげるのは今だけですよ。覚えておきなさい』と小さく呟いていた。あの様子ではロクなことが起きなそうなので用事が済んだら早く帰ろう。
何かおかしい。俺はまた一人エリスに浄化されたアンデッドを見ながら考える。
確かにダンジョンのような魔力が淀む場所はアンデッドが沸きやすいと聞く。だがそれにしたってこの数は異常だ。少し歩いただけで敵感知に反応が現れアンデッドが寄ってくる。しかも時間が経つごとにその数が増えていっている。
「このダンジョンにさ迷い続ける魂達よ。その縛りから解き放たれ天に帰りなさい。『ターン・アンデッド』」
エリスが最後のアンデッドを浄化する。敵感知の反応的にこの辺りの敵は全て浄化されたようだ。
「お疲れさん。しかしなんでこんなにアンデッドが多いんだ? これじゃあ戦闘を避けるってプランがあんまり意味をなしてないんだが」
「確かにおかしいですね。未探査の場所というのを加味してもこの数は…。普段はもっと寄り付いてこないのですけどね」
アンデッドを浄化して満足げにしていたエリスだが流石にこの事態に疑問を抱いているようだ。まるで強い光に当てられた虫の様にアンデッド達は集まってくる。彼らを引きつける何かがあるのだろうか。
そうしているとまた一つ敵感知に反応があった。そいつは俺を中心としてエリスとは正反対の位置に出現した。この配置なら俺を真っ先に狙ってくるだろう。
思考を中断して剣を抜く。考え事をしていたのでそのアンデッドはかなり近くに迫ってきている。剣で一撃受け止めてからエリスに浄化してもらおう。そう考えて俺は防御の姿勢を取った。
「あれ? まだ残ってたんですか。『ターン・アンデッド』」
しかしそいつは俺を素通りしてエリスに一直線に向かって行った。俺になんか興味ねえよと言わんばかりのスルーっぷりだ。明らかに挙動がおかしいかった。
思い返してみると先程から俺を襲ってくるアンデッドはいなかった気がする。現れたアンデッド達はまるでダイソンの如くエリスに吸い込まれていたように思える。
「あの、カズマさん。どうしてそんな怖い顔で見てくるんですか? 私何かしちゃいましたか?」
「なあエリス。アンデッドは生者の生命力を目印にしてるんだよな。それ以外にも何か集まってくる要因はないか? 例えば何か神聖な存在に引き寄せられるとか」
「そうですね。下級のアンデッドなんかは本能的に自分を浄化してくれる聖なる者に引き寄せられるとは聞きますよ」
「…ちなみにエリス様は自分が何者か覚えておいでですか?」
「それは当然幸運の女神……ですよ」
エリスが言葉に詰まる。俺が何を言いたいのか理解したようだ。
「なあ、あいつらが集まってくるのってお前のせいなんじゃ…」
「………テ、テヘッ」
「そんな可愛げに誤魔化したって俺は騙されんぞ! だが今のテヘペロは恥じらいが抜けきってなかったのでもう一回お願いします!」
エリスにはクリスの姿になってもらいダンジョンの奥に進んでいく。暗視ができなくなるがアンデッドに襲われながら進むよりはマシなので仕方がない。やはり彼女が原因だったのか、あれだけいたアンデッドはほとんど寄ってこなくなり、先程より順調に進めている。
マッピングは俺が担当することにしたのだが、俺の暗視は空間の把握しかできないので書いた地図を見ることはできない。ダンジョンを出た後に記憶と照らし合わせながら修正する必要があるだろう。
「うう、真っ暗で何も見えない。せめて明かりくらいつけて進もうよ」
「俺達だけなら必要ないと思って置いてきたぞ。諦めろ」
「じゃあ初級魔法で火をつけながら進むとかできない?」
「俺の魔力量を舐めるなよ。ダンジョン内を照らせるレベルで火をつけたら一分と持たずにで魔力が底をつくからな。そもそも明かりをつけたら隠れながら進めないだろ」
俺が先導しクリスは俺の袖を掴みながらすぐ後ろをついてきている。俺は手を繋いで進もうと提案したのだが何故かやんわり断られた。まあ邪な思いで提案したわけではないのでガッカリなんてしてない。してない。
クリスは盗賊という職業柄、暗闇で歩くのはある程度慣れているそうだ。だからクリスが足を躓いたところを俺が庇い『きゃっ! あ、ありがとう。君のおかげで怪我せずにすんだよ』と合法的に抱きつく心配はまったくない。少し足場が悪い所を選んで歩いた俺が言うんだから間違いない。
「ねえカズマ君。さっきから何か変なこと考えてない?」
「考えてない。俺はただ現実の残酷さを嘆いているだけだ。クリスはどうしてそんなことを聞くんだ?」
「うーん…女神の直感? 何か邪な気配を感じてね」
直感で疑われるとは大変遺憾である。少なくとも俺はまだ何もやってない。やっていないが何か後ろめたさを感じるのはどうしてだろうか。
俺達はさらにダンジョンの奥に進んでいく。だが先程からクリスの様子がおかしい。俺の暗視では彼女の表情までは見えないが歩調が乱れてきている。慣れているとは言ったが長時間視界がきかない暗闇の中を歩いてきたので、精神的に疲労しているのかもしれない。けれどクリスは何も言ってこない。
「一回休憩するか。この部屋なら敵の反応もないし罠もないみたいだ」
適当な場所に座り荷物を開く。何故かダクネスが多めに食糧を渡してきたが今はそれに感謝する。何か腹に入れれば気も休まるだろう。
食糧に加えてマナタイトの屑石を取り出す。マナタイトは使い切りで魔力を肩代わりしてくれる鉱石だ。俺はそれを使い初級魔法で指先に火を灯す。言うなれば指ろうそくと言ったところか。火の大きさを絞っているので火傷の心配はなさそうだ。
指の火がぼんやりと部屋の中を照らす。急に明かりをつけたからかクリスは眩しそうにしている。
「ほら、クリスも適当に座れ。まだまだ時間がかかりそうだから今のうちに食べとけよ」
クリスに初級魔法で作った水と食糧を渡し俺も軽食を取る。彼女はそれを受け取ると俺が火を灯しているそばに座る。その明かりに照らされてようやく彼女の表情が見えるようになった。
「ありがとカズマ君。それにしてもこんなに長丁場になるとは思わなかったね」
「まったくだ。おまけに財宝は今のところ見つからず。報酬が出るとは言え思ったほど楽なクエストじゃないな」
「あたし達運がいいはずなんだけどねー。なんでこう都合よくお宝発見、ってならないのかな」
「俺は最近お前が本当に幸運の女神なのか疑いだしてるぞ。借金は減らないしハッピーなことが何も起きないし」
「君はひどいこと言うな! あんまり罰当たりなこと言うとさすがのあたしも天罰落とすよ!」
「冗談だからそんな怒るなよ。そんな大声出すとモンスターが寄ってくるぞ。ちなみにその天罰ってどんなものなんだ?」
「小銭を落としたら絶対に手が届かない隙間に落ちる罰」
「…なんかしょっぱいな」
二人で会話しながら食事を進める。俺は片腕が塞がっているので食べるのに時間がかかった。早く出発したかったのかクリスは俺が食べ終わるのを見ると立ち上がった。
「よし。それじゃあダンジョン攻略、続きいってみようか」
「まあ待てよ。食い物も無駄にあるしこのマナタイトだって使い切りなんだ。せめて火が消えるまでゆっくりしていこうぜ」
「あたしはもう十分休んだし、あんまり長居してたらモンスターが寄ってきちゃうよ」
「…さっきの足取りを見た感じだと、そんな簡単に疲れが取れるものでもないだろ。いいからもうちょっと休め」
「あー…バレてたんだ」
「お前はわかりやすいからな。どうせ遅れてるのは自分のせいだからこれ以上迷惑かけたくない、とか考えてたんだろ」
クリスは俺の言葉を聞いてバツが悪そうな顔をする。あれで誤魔化していたつもりらしい。
元々この作戦を立てたのは俺で、遅れたのはあくまで想定外の事態が起きたからだ。クリスにまったく非がないとまでは言わないが気にするほどのことではない。
「そこまでは思ってないよ。でも本当に大丈夫なんだよ。これぐらいなら今までだって何度か経験してきたし」
「悪いが俺はお前の大丈夫って言葉はあんまり信用してないからな」
その責任感の強さは彼女の長所だと思う。ただそれを一人でどうにかしようとする姿勢は気に食わない。この際だ、彼女にははっきりと言っておこう。
「あのな、別に他人に迷惑かけてもいいんだよ。めぐみんやダクネスを見てみろ。あいつらは自分の欲求に忠実でクエスト行くたびに問題起こして俺達が尻拭いしてるだろ」
「あはは、いつも本当に手を焼かされるよね。でもあたしはあの二人がやるような迷惑行為をする予定はないよ」
「お前があいつら並のことをやりだしたら真っ先に頭の心配をするよ。そうじゃなくて。お前はもっと周りにいる奴を頼れって言ってるんだよ。迷惑かけるとか気にするな。俺ができることなら何だって手伝ってやる。めぐみんやダクネスだって手を貸してくれるさ。なにせ俺達は、な、仲間なんだからな」
最後の最後で我に帰り恥ずかしくなってしまった。何故俺はこんなくさい台詞を吐いているのだろうか。俺達は仲間だ、とか一昔前の漫画みたいな事言ってんな。
そんな俺の様子を見てクリスは笑ってくる。
「…ふふっ。なんで最後の言葉が締まらないのかな」
「うるさい。俺だって柄じゃないって分かってるよ」
それでも言っておきたかったのだ。誰かに頼ることが苦手な彼女には。
「そっか、仲間か……。そこまで言われたのならしょうがないね。大人しく休んでいくことにするよ」
「それでいいんだよ。ほらまだ食糧は残ってるからこれでも食ってろ。この新しいマナタイトの魔力が切れたら出発するぞ」
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俺達はその後も数回休憩を挟みながらダンジョンを進んだ。しかし目新しい収穫もなく最後の部屋にたどり着いた。
「マップ作ってた感じだとここで終わりらしいな。結局お宝は見つからずじまいか」
「こういうダンジョンの奥には隠し部屋があるのが定番なんだけどね。うまく隠してるのかただ作ってないのか」
俺達はその部屋を調べたが何も見つからず諦めて帰ろうとした。するとそれを引き止めるかのように壁の一部が魔法のように消失した。その奥からは、くぐもった声が聞こえてくる。
「そこの冒険者の二人組よ。少し私と話をしないか」
その声に引かれて隠されていた部屋に入る。そこはベッドや椅子など最低限の家具しか置かれていない小さな部屋だった。そこに先程の声の主が一人座っていた。その人影がランプに火を灯し、その明かりによって姿が浮かび上がる。そこには深くローブを被った骸骨がその虚になった目をこちらに向けていた。
「ぎゃあああああああ?!」
「君いいリアクションをするね。そんな反応をされたのは何百年ぶりだろうか。私の名前は…うわっと! お嬢さん、急に斬り掛かってくるのはやめてくれないか。まずは話し合いをしよう、そうしよう」
「いやあ、驚かせてすまない。私の名前はキール。このダンジョンを造り、貴族の令嬢を攫った、悪い魔法使いさ」
それは忘れられた物語。
その昔、キールという名のアークウィザードは偶然見かけた貴族の令嬢に一目惚れをした。しかしその恋は実らない事を知っていたキールは、ひたすら魔法の修行に没頭した。
月日が流れキールは国一番のアークウィザードとなった。国の王は彼に尋ねた。その功績に報いたい、どんなものでも一つ望みを叶えよう、と。
キールは答えた。
この世にたった一つ。どうしても叶わなかった望みがあります。それは、虐げられている愛する人が、幸せになってくれる事。
「そう言って、私は貴族の令嬢を攫ったのだよ」
目の前の骸骨はそう自慢げに語った。
「まさか骸骨に惚気話聞かされるとは思わなかったよ」
「ハハハ。この程度の話なんて惚気話とも言えないよ。彼女との思い出はまだまだ語り尽くせないほどあるからね。それにしてもあの頃の私は若かったな。お嬢様を攫った後にプロポーズするなんていう無計画なことをしたものだよ」
さてどうしたものか。
このキールと名乗る骸骨はリッチーだそうだ。特に敵意は感じなかったのでひとまずクリスを抑えて話だけでも聞いてみることにしたのだが。
「お嬢様を救い出してそのままプロポーズするなんてまるで御伽噺みたいですね! それでそのお嬢様とはどうなったんですか?」
「お、気になるかいお嬢さん。その時は二つ返事でオッケーをもらえたよ。あの時の感動は今でも忘れられないな。あまりの嬉しさについ王国軍とのドンパチに熱が入ってね。軍勢の中心に炸裂魔法を撃ちこんだものだよ」
エリスとキールは仲良く話しをしている。相手が上位のアンデッドであるリッチーと知り警戒のために女神の姿になったはずなのだが。
「このベッドに眠っているのが私が攫ったお嬢様だ。見てくれこの骨の白さを。まるで陶磁器のような美しさだろう」
「ほ、骨の美しさはわかりませんが。でもこの方は何の悔いもなく成仏しています。生前はきっと幸せに過ごせたんでしょうね」
「ああ。彼女は最後まで幸せそうに笑ってくれていたよ」
エリスはキールとお嬢様の恋愛談を興味深く尋ね、キールもお嬢様との逃避行を楽しげに語っている。あの二人を見ていると天敵同士の女神とアンデッドの王が話しているとはとても思えない。
そうしてしばらく歓談しているとキールは真面目な声でお願いをしてきた。
「さて、まだまだ話したいエピソードもあるんだが。そろそろ本題に入ろうか。お嬢さん、君に頼みがあるんだ。不死人の身で頼むのは傲慢かもしれないが、どうか私を浄化してはくれないか。君はそれができる存在なのだろう」
エリスが魔法の詠唱をする中、キールはベッドに横たわるお嬢様の腕の骨に手を置いている。その二人を包むように魔法陣が広がっていく。
「いや本当に助かるよ。彼女が亡くなった後の無限に続くような時間はとても苦しいものでね。あまりにも時間が有り余っていたから彼女との冒険譚を延々と書き綴ったものだよ。そこに置いてあるんだが君も読んでみるかい?」
「あれ本だったんだな。大きさ的にタンスか何かかと思ってたんだが。さすがにあの量を読む気にはならないよ」
「それは残念。…しかしようやくだ。ようやく彼女と同じ所にいける」
キールは嬉しそうに一人呟いている。キールはお嬢様を守りながら戦った際に重傷を負い、彼女を守るために人である事をやめてリッチーになったらしい。
「…あんたはリッチーになったことを後悔してるのか?」
「いいや全然。もう一度私がリッチーになった時と同じ状況に出会ったなら、私は迷わず同じ選択をするね」
「平然と格好良いことをを言うな。俺にはその気持ちはよく分からないよ」
「なに、君もいずれわかる時がくるさ。愛する人のためならなんだってできるものだよ」
エリスが唱えていた詠唱が終わったようだ。柔らかい光を放つ魔法陣が部屋全体に敷かれている。
エリスは優しげな笑みを浮かべてキールに話しかけた。
「まったく。女神の前でリッチーになって後悔してない、なんて言うものじゃありませんよ」
「ハハハ、確かにその通りだ。神前にて自らの罪を誇らしく語るなど、なんとも不遜なことだ」
「本当ですよ。…でも愛する人のために人を捨てたあなたの選択を私は称賛します。神の理を捨て、自らリッチーと成ったアークウィザード、キール。幸運の女神エリスの名において、あなたの罪を許します。…目が覚めると目の前にはアクアという名の青髪の女神がいるでしょう。再び愛する人に会いたいと望むなら、彼女に頼むと良いでしょう。彼女はきっとその願いを叶えてくれますから」
「それはなんとも、嬉しい話だ。感謝します女神様」
キールは本当に嬉しそうに礼をしてくる。彼を包む光がどんどんと強くなっていく。
「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
エリスの声とともに光は一層強くなり、やがて消えた。光が消えた後、リッチーとお嬢様の骨も消えてなくなっていた。
エリスは彼らがいた場所を静かに見つめ続けていた。
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俺はダンジョンを出るために荷物を纏める。キールはもう自分には必要のないものだからと生前に手に入れていた財宝を俺達に譲ってくれた。だけど今はそれを喜ぶような空気ではなかった。
「それにしてもアクアだっけ? あのチンピラみたいな女神にあの人を任せて大丈夫なのかね。あいつなら嫌よめんどくさい、とかいいかねないぞ」
「アクア先輩はやる時はやってくれる人ですから。きっとキールさんの願いを叶えてくれますよ」
「つまり普段はロクでもない奴だって思ってるんだな」
「そ、そんなこと思ってませんよ。頼りになる素敵な先輩ですよ」
少しだけ空気が緩む。いつまでも感傷に浸っていてもしょうがない。地上に帰るとしよう。
「それじゃあもう用事もないし帰るか」
「あ、すみません。ダンジョンを出る前にやっておきたいことができたので少し待っててもらえませんか?」
もう調査も終わっているのだが何かあっただろうか。
「何するかは知らないけど手短に頼むぞ。俺はもう疲れたからな」
「大丈夫です。今の姿ならいつもよりずっと早く終わりますから」
「今の姿なら?」
エリスは一人部屋を出ると広めの通路に立った。あんな見通しがいい所にいたらアンデッド達が集まってくるのだが。
「カズマさんは危ないのでその部屋で待っててくださいね。『フォルスファイア』!」
エリスが何かの魔法を唱えるとその手に青白い炎が灯った。その火を見ているとエリスに対して攻撃的な感情が湧き上がってくる。後で聞いたのだがその魔法はモンスター寄せの効果があるものらしい。
「このダンジョンにさ迷う魂の浄化とくそったれ悪魔どもを滅ぼすこと。女神の姿なら両方楽にできますね。これなら時間はかからなそうです」
ダンジョン内に足音が反響している。敵感知の反応がどんどん増えていく。何か大量のモンスターがこちらに迫って来ているようだ。エリスは依然として通路の中央に立ちそれを待っている。
「カズマさんは潜伏スキルで隠れてくださいね。それじゃあ全員浄化しましょうか」
どうやらショータイムの始まりらしい。
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新しい朝が来た。希望の朝だ。
ダンジョンを出た時、俺を迎えてくれたのは朝日だった。ダンジョンに入ったのも朝方だったはずなのでほぼ丸一日ダンジョンに潜ったいたことになる。
だがそんなことはどうでもいい。今はその喜びを胸に刻みこの大空を仰ごう。俺は、あの地獄から解放されたのだ。
「カズマ! しっかりしてくださいカズマ! まだ燃え尽きるには早いですよ!」
誰かの声が聞こえる。あのダンジョン中に響き渡る恐ろしい足音とは違い、この声は心地が良い。
「俺は…帰ってこれたんだな…」
「カ、カズマーーーー!」
「お帰り、エリス。早かったな。それであれはどうしたんだ?」
「ただいま帰りました。カズマさんはその…ダクネスとダンジョンを攻略する時と同じような感覚でやってしまいまして。そこら中から迫って来るモンスターがよっぽど怖かったようです。私が気付いた時にはあんな風になってました」
「なるほど、私と一緒の時はダンジョンに三日三晩潜ってたりもしたからな。お前は悪魔やアンデッドが絡むと正気を失いがちだ。どうせ最後の一人を浄化した時にでも気付いたのだろう。これからは気を付けた方がいいぞ」
「返す言葉もありません。本当はカズマさんがいたのであそこまでやるつもりはなかったんですが。キールさんを浄化して他の方の魂も放って置けなくなってしまい……。それにしてもダクネスはどうしてここに残ったんですか?」
「モンスターと戦い続けるというのは悪くないシチュエーションなんだ。だがここのモンスターの攻撃では私の欲求を満たしてはくれないからな。そんなお預けを延々味わうのが嫌だったんだ」
「そんな理由聞きたくなかったです。もうダクネスとは一緒にダンジョンには潜りませんから」
こうして俺達はダンジョンの調査クエストを達成して帰路についた。俺がクエストで受けた心の傷はちょむすけを愛でることで回復した。
順調に投稿スピードが落ちている作者です。
話の区切りがうまくいかず一話に全部まとめました。
未探索領域の調査とかはアニメの方から引っ張ってきました。
ダクネスが大量に食糧を持ってきているのはクリスと一緒の時は長丁場になると分かっていたからです。あの二人だけでダンジョン行く時はダンジョン中の悪魔とアンデッドを狩り尽くす勢いで攻略していた、みたいな感じです。
すごい久しぶりなおまけ
地上の二人組
めぐみん「二人とも遅いですね。何かあったのでしょうか?」
ダクネス「そうか? これくらいは普通だろう。それはそうとめぐみん。その、ちょむすけを触らせてくれないか」
めぐみん「嫌ですよ。これは私の使い魔です。まあダクネスがどうしてもと言うのなら、爆裂散歩に付き合ってください。そうすれば触らせてあげますよ」
ダクネス「だから爆裂魔法は駄目だと言っているだろう。もしその衝撃でダンジョン内が崩れたらどうするんだ」
めぐみん「カズマ達なら大丈夫ですよ。何せ幸運の女神様がついていますからね。ダンジョンが崩れても運良く瓦礫に潰されないでしょう」
ダクネス「そもそも崩れるのが問題なのだが。…はぁ、しょうがない。ここから離れた所でなら大丈夫だと信じよう。今のままだといつ勝手に爆裂魔法を撃つかわかったものじゃない」
めぐみん「それでは早速行きましょう。ダクネスと爆裂散歩行くのも珍しいことです。今日の私はいつもより気合が入っていますよ」
めぐみん「まさか動けない私を置いてモンスターに突っ込んでいくとか予想外でした。どう考えたらあんな行動ができるのか私は不思議でたまりませんよ」
ダクネス「あ、あれは未遂だっただろう。確かに心惹かれるものはあったがちゃんと背負って逃げたじゃないか」
めぐみん「でもダクネスが走るのが遅くてモンスターに追いつかれそうだったじやないですか。あれは一体どう説明するんですか?」
ダクネス「あれは鎧をつけていたから仕方がないことなんだ! 決して捕まりたくて遅く走ってたわけじゃないんだ!」
めぐみん「仕方ありませんね。今日はその見え透いた嘘を信じてあげますよ。ほらちょむすけ。ダクネスの所に行ってあげなさい」
ダクネス「だから嘘では…おお、初めて触るが気持ちの良い毛並みだな。ずっと撫でていたくなるな。小さくて愛らしいものだ」
めぐみん「まったく。相変わらずうちの使い魔は人気者ですね」
読んでくださったみなさんに深く感謝を。