この素晴らしい世界でエリス様ルートを   作:エリス様はメインヒロイン

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久しぶりに頭の悪い文章を書きたくなった。


このお屋敷で幽霊退治を

 ここはどこだろう。

 目を開けるとそこは一面の花畑だった。薄く霧がかったこの場所には俺以外誰もいない。こんな現実味のない場所で寝た覚えはなかったが、考えてみると簡単なことだった。

 これは夢だ。この風景は俺の頭が生み出したものなのだろう。こんなにはっきりとした明晰夢を見るのは初めてだが、さてどうしたものか。

 

「おーい」

 

 どこからか声が聞こえて来る。やることもなし、その声の方向に歩いていくと大きな川が流れていた。声は対岸から聞こえてくる。

 

「あっはははは。来いよ。こっち来いよ」

 

 そこには死んだはずの爺ちゃんとこないだ倒したベルディアが手を振ってきていた。なるほど、つまり。

 

 

「ここは三途の川ってことじゃねえかぁああああ!!」

 

 自分の大声で目を覚ます。そこには見慣れた馬小屋の天井があった。

 

「寒っ?!」

 

 起きたと同時に冬の寒さが俺を襲う。体はあまりの寒さにガタガタと震えていた。考えたくはないが今の夢で目を覚さなかったら凍死していたのではないだろうか。あの三途の川のイメージは体の異常を知らせるための脳からの救難信号だったのかも知れない。

 

「さすがに、まずいな」

 

 このまま馬小屋生活を続けていたら死んでしまう。朝起きたら氷漬けの俺がいるとか笑えない。俺は一つの決断をした。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 翌朝、俺達四人は街の不動産屋に向かっていた。目的はもちろん新しい寝床の確保だ。前々からクリス達に四人で家を借りないかと提案されていたが、借金があるからと俺は渋っていた。

 

「ようやくカズマ君が折れてくれてよかったよ。もう馬小屋で寝てるの君しかいなかったからね」

 

「まさか冬の夜があんなにも寒いなんてな。正直俺も舐めてたよ。危うく死にかけた」

 

「カズマはこないだ死んだばかりじゃないですか。そんなにポコポコ死なれたら私達が困りますよ」

 

「めぐみんの言う通りだぞ。ところで真冬の馬小屋生活とは、その…そんなに寒いのか?」

 

「自分でやってみろ。このドMが」

 

 商店街の一角にその不動産屋は店を構えていた。店のドアを開けると店主と思われる中年の男が店の奥から出てきた。

 

「やあ、いらっしゃい。今日はどういったご用件で?」

 

「冬の間だけ家を借りたいんだけど安いのを紹介してくれないか。暮らすのは俺達四人で予算はこんぐらいなんだけど」

 

 懐からエリス硬貨が詰まった袋を出す。前回のクエストで得た財宝は換金して半分は借金のために徴収されたがまだそれなりの額は残っている。本当は残りも借金に充てたかったのだが命の危機だ。仕方がない。

 

「あら? その声は…カズマさんじゃないですか。それに他の皆さんも」

 

 不動産屋の男が予算の額を確認していると店の奥からウィズが現れた。どうやら先程まで店主と何か話をしていたようだ。

 

「ようウィズ。久しぶりだな。こんな所で何やってるんだ?」

 

「この方と少しお話がありまして。それにしても家を借りるなんて何かあったんですか?」

 

「さすがに馬小屋生活がきつくなってきてな。ちょっとした収入があったし冬の間だけでもどうにかしようって感じだよ」

 

 俺とウィズが話している姿を見て店主はウィズに尋ねた。

 

「ウィズさん。この方達とお知り合いで?」

 

「はい。懇意にしてる冒険者の方達なんですよ」

 

「ほう、冒険者ですか…」

 

 男は俺達を値踏みする様に見てくる。冒険者という職業は信用ならないのだろうか。俺が居心地の悪い顔をしていると男は謝ってきた。

 

「いや失敬。少し考え事をしていまして。お客さん方は冒険者という話ならこちらの物件はどうですか?」

 

 男が提示してきた物件は駆け出しではとても支払いができそうにない大きな屋敷だった。なんでも貴族が手放した別荘なのだとか。その屋敷は幽霊が住み着いているらしく除霊をしてもまた集まってくるそうだ。そうしている内に幽霊屋敷としての噂が広まり買い手がつかなくなってしまったそうだ。

 

「今回はあなた方に除霊の依頼をします。その報酬としてあの屋敷にタダで住んでもらって構いません。人が住んでいるのが分かればいずれは悪評も消えるでしょうから」

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 俺達はそれぞれの荷物を持ってその屋敷に向かった。街の郊外にあるという話だが一体どんな屋敷なのだろうか。

 

「まさかタダで屋敷を借りれるとはな。あの店主さんも太っ腹だよ。ようやく俺の強運がその力を発揮してきたようだな」

 

「いやいや、そこはあたしの幸運のおかげだと思うよ。幸運のステータスはカズマ君より高いからね」

 

「今回は俺が家を借りることを決めたんだから俺のおかげだろう」

 

「でも元々はあたしが家を借りようって提案したんだよ」

 

 やたらとクリスが張り合ってくる。先日幸運の女神を疑ったことを根に持っているのだろうか。別に俺としてはどっちでもいいのだが面白そうなのでもう少し引っ張ろう。

 

「いいだろう。ならより幸運が高かった方が今回の功労者とする。幸運を競う勝負はそう、ジャンケンだ!」

 

「その勝負乗った! ここらでどちらが上かはっきりさせておこうじゃないか!」

 

 クリスも勝負にノリノリで付き合ってくる。この人はこういうのが結構好きなようだ。

 

「ふふ、このあたしに対して運の勝負を仕掛けるなんてね。身の程を知るといいよ!」

 

 罠にかかったと知らずによく吠えるものだ。俺は生まれてこの方ジャンケンで負けたことはないんだよ。そのあまりの強さに『確率を捻じ曲げる者』という異名をもらったほどだ。ならばこの闘い、負ける道理なし。

 

「勝負は一回きり、それで全てが決まる! いくぞ! じゃーん、けーん、ぽん!」

 

 俺がくりだすは全てを砕くグー。生涯無敗という驕りからくるその拳は愚直とも呼べるものだ。だが負けない。運命は俺の選択に味方をする。ならばそれはもはや愚直とは呼べず、老練な一手となる。

 神の如く運命を操作する俺に敗北などありはしない。だというのに、

 

「なんっ…だと…?」

 

「…あたしを舐めてもらっちゃあー、困るな」

 

 俺の驚愕の表情にクリスは余裕の笑みを浮かべる。

 そこにあるのは全てを包み込むパー。女神の慈愛を体現するかの如く、その手は優しく開かれていた。運命を捻じ曲げる俺に対して、彼女はその可能性全てを網羅する。俺が捻じ曲げた運命を後出しの如くさらに捻じ曲げる。それが彼女の能力か。

 

 俺の運は間違いなく強大だ。ならばこの勝負に負けたのはただただ能力の差。相手がより強大な存在だったにすぎない。神の如き力が神そのものに勝てないのは至極当然のことだった。

 俺の自信が打ち砕かれる。全てが掌からこぼれ落ちていく感覚。そうか、これが敗者の気持ちか。目の前に立つは絶対強者。なのにこの胸に溢れてくる気持ちはなんだ。

 

「…もう一度だ」

 

「さっき君は一回勝負って言ったよね。自分の言葉を曲げるつもり?」

 

 プライドはないのかと問うてくる。そんなもの今の勝負の前には不要なもの。

 

「俺は俺の弱さを認める。己の驕りを認めよう。…ならばこそ次は挑戦者としてお前に勝負を挑む! 悪いが無理矢理にでも付き合ってもらうぜ! さあもう一度だ!」

 

「よく言った! それならあたしも本気の本気を見せてあげよう! 次こそが本当の決着だよ!」

 

 次の勝負に俺の全てを込める。ただ純粋に勝つことのためだけに俺の運を全部詰め込む。

 

「「じゃーん! けーん!」」

 

 

 

 

 

「いつまで馬鹿なことをやってるんですか。ダクネス達は先に行きましたよ。早くしないと私も置いて行きますからね」

 

「「はーい、ごめんなさーい」」

 

 めぐみんに怒られたので勝負はお預けとなった。まったく、このロリっ娘は空気が読めないな。

 

 

 

 

「それで、なんでウィズまで付いてきたんだ? いや手伝ってくれるのは助かるけど」

 

「え、えっと…元々あの屋敷の除霊は私がやっていたのでお力になればと思いまして」

 

 俺達が不動産屋の店主から依頼を受けるとウィズは慌てたように私も手伝うと言ってきた。先程あの店にいたのも屋敷の除霊に関しての話だったそうだ。

 

「そんなに他人の店に構ってて自分の店の方は大丈夫なのか? どうせ今月も売り上げがやばいんだろ」

 

「私の店は滅多にお客さんが来ませんから大丈夫ですよ」

 

 一体何が大丈夫なのだろうか。私リッチーだから売り上げがなくても生きていけます的な大丈夫なのだろうか。 

 

「そういえばまだちゃんとした自己紹介をしていなかったな。私の名はダクネス。このパーティーの盾役だ」

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし爆裂魔法を操る者!」

 

 俺達が話しているとめぐみんとダクネスがウィズに自己紹介をしてきた。そういえばこの二人は墓場で会って以来か。すでに顔見知りであるクリスはあまり関わろうとはしてこないが。

 

「私のことはウィズで構いませんよ。それとお店の方もよろしくお願いします。お二人の目に叶う商品も置いていますから」

 

「ウィズには悪いが私達のパーティーは今借金持ちでな。無駄な出費は控えたいんだ」

 

「ダクネスの言う通りです。それに我が扱うは全てを砕きし爆裂魔法。半端な魔道具では逆に足を引っ張るだけです」

 

「それは残念です。最近仕入れた商品の中に飲むと魔物を引きつけるポーションや、一つだけですが爆裂魔法の魔力でも肩代わりできる最高品質のマナタイトがあるのですが…。借金があるならしょうがないですね」

 

「「カズマ、カズマ!」」

 

「買わないからな。無駄な出費はしないって言葉忘れたのか」

 

 二人を無視して屋敷に向かう。どうやらうちの変わり者二人にはウィズのポンコツ商品が刺さるようだ。

 

 

 

「なんつーか、想像以上だな」

 

 俺の目の前にあるのは二階建ての立派なお屋敷。普通の住居の五倍の広さはあるんじゃなかろうか。貴族の別荘とは聞いていたがこんな屋敷をポンと貸してくれるあの店主さんは何を考えているのだろうか。

 隣のクリスとめぐみんも口をあんぐりと開けている。これが今日から俺達の家になるとかちょっと想像ができない。

 

「ほら。いつまでも入り口で立ってないで中に入るぞ。やることは山ほどあるんだからな」

 

「久しぶりに来ましたけど庭の草が伸びてきてますね。少し手入れをしないと」

 

 ダクネスとウィズは普通に門をくぐって行った。ウィズはともかくダクネスのあの慣れはなんなんだ。

 

「こんな大きな屋敷見てると、癖でどうやって侵入するか考えちゃうんだけど。ここ本当にあたし達が住む所なんだよね?」

 

「…ふっふっふ。あーはっはっは! これが我が城ですか! 悪くないですね! 究極の魔法使いとなる私にふさわしいじゃないですか!」

 

 クリスは戸惑い気味、めぐみんは大興奮のようだ。そんな二人の言葉を聞いてようやく脳がこの状況を理解し始めた。

 そうだ、これは夢じゃない。この屋敷は今日から俺達の物だ。あ、やばい。めっちゃテンション上がってきた。

 

「ひゃっほー! これで俺も馬小屋生活なんかとはおさらばだ! おいお前ら! 部屋割りは早い者勝ちだからなー!」

 

「あっ、ずるいよカズマ君! こういう時は公平にジャンケンで決めようよ!」

 

「ずるいのはどちらですか! ですが私も負けてられませんよ!」

 

「お、おい、お前達。まだ悪霊のことが分かってないのにそんなうかつに…。わ、私にも部屋を選ばせてくれ!」

 

 俺達はウィズを置いて我先にと屋敷に向かって駆け出した。

 

「あはは…。皆さん行ってしまいましたね」

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 軽い掃除や部屋割り、荷物の整理を終えたらいつのまにか日が暮れていた。夕食は商店街で買った惣菜を中心に作った。ウィズにタダで手伝わせるのは悪いと夕飯を奢ったが、

 

『こんなちゃんとしたご飯久しぶりに食べました。このご恩は忘れません!』

 

 と涙を流しそうなほど感激していた。こっちが泣きそうだったよ。

 夕食後、俺達は居間で悪霊の浄化について話し合っていた。

 

「それで、この屋敷って本当に悪霊がいるのか? 今のところそれらしいものには会ってないけど」

 

「うーん。霊はいるけどあんまり悪霊って感じじゃないんだよね。せいぜいが悪戯してくる程度じゃないかな」

 

「なんだよ、それなら何も怖くないじゃないか。じゃあ俺はできることもないし寝るから後は任せたぞ」

 

「私もカズマと同じく何もできませんのでよろしくお願いします」

 

「確かにその通りではあるが…。まったくお前達ときたら」

 

 俺とめぐみんの仕事のぶん投げっぷりにクリスとダクネスはため息をついてくる。実際俺の回復魔法で幽霊を成仏させるのは効率が悪いのだ。文句を言われる筋合いはあまりない。

 

「ウィズには悪いな。また今度店に寄るからそれで勘弁してくれ」

 

「いえいえ。私リッチーですし多少寝なくても支障はありませんので」

 

 そんな事言われると逆に罪悪感が湧くんだけど。

 それにしてもウィズは先程からクリスをチラチラと見ている。まあ以前斬られそうになってたし気になるのはわかるが。

 

「ウィズ、大丈夫だ。クリスには隙を見て斬りかかる事はしないよう言っておく。それでも殺気を感じるようならダクネスを盾にしろ。それであいつの動きは封じられるから」

 

「ねえ、君はあたしをどういった目で見てるのかな? そんな非道なことするわけないじゃない」

 

 おっと本人に聞かれてしまった。どういう風に見てるかって? 先日のダンジョンでの出来事を振り返って欲しい。そこに答えはある。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 夜もふけたところ、俺はふと目を覚ました。今夜は月が出てないのか部屋の中は暗くてよく見えなかった。

 エリス達はうまく除霊できたのだろうか。そう思いながら寝返りを打つと部屋の中に動く何かがいることに気付いた。

 姿はよく見えないが赤ん坊ぐらいの大きさだろうか。部屋の隅でゴソゴソとしている。件の幽霊かもしれない。

 クリスの言葉を信じるなら悪戯をしてくる程度らしい。だが害がないと分かっていても少し怖い。俺はそれを見なかったことにして反対側を向こうとすると、体が動かないことに気付いた。

 

 あれ、やばくね? もしかして金縛りですか。

 

 俺が視線を逸らすことができずにいるとその謎の物体から何かがコロコロと転がってきた。それが何なのかはベッドのすぐ近くまで転がってきて気付いた。

 人形の首がその無機質な瞳を向けてくる。

 悲鳴をあげそうになったが声が出ない。いつのまにか俺のベッドの周りに大量の西洋人形が集まってきていた。

 転がってきた首は一言。

 

「お兄ちゃん、遊ぼ」

 

「お兄ちゃん、遊ぼ」「遊ぼ」「お兄ちゃん、遊ぼ」「お兄ちゃん、遊ぼ」「遊ぼ」「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」「遊ぼ」「遊ぼ」

 

 

「いやああああああああああっ!!!!!」

 

 今度こそ声が出た俺は、金縛りの体を無理矢理動かして部屋を脱出した。

 

 

 

 廊下を疾走する。後ろからはガチャガチャと音がするが振り返る勇気はない。そうしてようやく目当ての部屋にたどり着いた。

 

「エリっ、いやクリス?! どっちでもいいから助けてくれっ!!」

 

 背後から追ってくる不気味な音を振り切りエリスの部屋に押し入る。そこにエリスの姿はなく。紅く輝く二つの丸い光だけが見えた。

 

「「きゃああああああああ!!」」

 

 俺の悲鳴と目の前の光から悲鳴が上がる。というかこの声は、

 

「な、なんだめぐみんかよ。驚かせやがって」

 

「それはこっちの台詞ですよ! 急にドアが開いたからビックリしたじゃないですか!」

 

 そこにいたのはパジャマ姿をしためぐみんだった。興奮した紅魔族は目が紅く輝くのは知っていたが暗闇の中で急に見たらビックリするな。

 

「なんでお前がここにいるんだよ。ここはエリスの部屋だろ」

 

「それは…部屋で寝ていたら物音がしまして。気付いたら、ベッドの周りに……人形が、人形がこっちに!」

 

「その先は考えなくていい! 怖いことを思い出させてすまない!」

 

 めぐみんもあの人形を見たのだろう。ならば彼女も同じ境遇を経た同志だ。

 

「カズマも、あれを見たんですか?」

 

「ああ。どうにか振り切ってきたが、まだ近くをうろついてると思う。早くエリス達と合流したいんだが」

 

 ここにエリスが帰ってきてないということは、彼女達はまだ屋敷の中を除霊して回っているのだろう。俺達の悲鳴が聞こえてこちらに来てくれる可能性はあるがこの屋敷は広い。過度な期待はできないだろう。かと言ってこちらからエリス達の所に向かえばあの人形達に追われる。一体どうすれば。

 

「そうだ。めぐみん、ちょっと部屋から出てエリス達を呼んできてくれないか。何、エリスが言うには悪戯する程度の霊らしい。ちょっと驚かしてくるだけだから危険はないぞ」

 

「嫌ですよ。怖いですし」

 

 名案だと思ったのだがめぐみんは拒否してくる。

 

「怖いのはほら、我慢しろ。今のままだとジリ貧だぞ。行ってくれたら今度爆裂散歩に付き合ってあげるからさ」

 

「嫌ですよ。爆裂散歩ごときに釣られるほど私は安い女じゃないですから」

 

 めぐみんが爆裂散歩に釣られないだと? さすがにそれは予想外だ。

 

「お前いつも爆裂魔法でしか活躍ないんだからこういう時くらい役に立ってみせろよ! 別に死ぬわけでもないし楽勝だろう!」

 

「楽勝だと言うのならカズマが行けばいいじゃないですか! こういう時は男の人が『ここは俺に任せろ』と行くべきじゃないですか!」

 

「残念、俺は男女平等主義者なんだよ! 男なんて下らない理由であんな怖いところ行けるか! いいから早く行ってこい! しまいには無理矢理ドアの外に放り出すぞ!」

 

「やらせませんよ! 私の腕力でもカズマ一人を道連れにすることはできるんですからね! そうです、二人なら怖くない! 逝く時は一緒ですよ!」

 

 めぐみんも恐怖で混乱しているようだ。アークウィザードとは思えない力で掴みかかってくる。このままだと共倒れする。こんなことをしている内にあの人形達が…。

 

「いやめぐみん。ちょっと待て」

 

 ふと気付いたが先程からガチャガチャとした音が聞こえてこない。振り切りはしたが意外にも完全にこちらを見失っていたようだ。

 

「人形達の足音がしない。もしかしたら見当違いの方向に追いかけて行ったのかもしれん。だからこのままここで息を潜めてエリス達が帰ってくるのを待とう」

 

 俺が小声で提案するとめぐみんは無言でふんふんと頷いてくる。声を小さくするのは今更な気がするが何もしないよりはマシだろう。

 

「「……」」

 

 二人でベッドに腰掛けながら息を潜めて待つ。待つのだが、

 

「あの、カズマ。静かな方が先程より怖いのですが。音が聞こえない分変に想像力を掻き立てられます」

 

「思ってても言うなよそんなこと。俺まで怖くなるだろ」

 

 屋敷の中は随分と静かだ。あの人形達の足音も聞こえない。先程まで追いかけられていたことがまるで嘘のようだ。

 いや、それは楽観的思考すぎないか? 本当にあいつらは俺を見失ったのか? そうだ、追いかけられてないと言うことは。あいつらはもう俺達のすぐそばに…。

 

「うおおおおおおおお! 俺に近寄るな! 悪霊退散!」

 

「き、急にどうしたんですか! 霊に体を乗っ取られたのですか?!」

 

「す、すまん。この部屋にもう人形が入ってきてる想像をしてつい…」

 

「やめてくださいよ! 考えたら怖くなってきたじゃないですか! カズマの妄想に私まで巻き込まないでください!」

 

「元を辿ればお前の発言のせいだからな! 因果応報だ! さあお前も見えない人形の影に怯えるがいい!」

 

 どうやらSAN値がやばいことになってきたようだ。静かにすることも忘れて二人で騒ぐ。

 

 ガタッ。

 

 ドアに何かがぶつかったような音がする。それが何かは想像したくない。俺は自分とめぐみんの口を手で無理矢理塞ぐ。こうでもしないと本能的に悲鳴を上げてしまいそうだ。

 

 ガタッ、ガタッ、ガタタッ、ガタッ!。

 

 音がどんどん増えていく。扉のカギは閉まっているがいつ押し破られるか分かったものではない。隣のめぐみんはもはや泣きそうになっている。

 だが音はしばらく続いたかと思ったら急に止み、部屋は静寂に包まれた。諦めてくれたのだろうか。

 

「行ったのか?」

 

「そのようですね」

 

 俺とめぐみんはお互い安堵の息を吐き、隣にいる相手に話しかけようとする。

 そうして。いつから居たのか分からないそれを見てしまった。

 

 

「見ぃつけた」

 

 二人の間に座る人形はその無機質な顔を俺達に向けてきた。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

「「いやああああああああああ!!!」

 

 屋敷の何処かから二人の悲鳴が聞こえてくる。きっと幽霊に悪戯されているのだろう。仕事を人に押し付けるあの二人にはいいお灸だ。

 

「はあ、ダクネス。ちょっと見てきてくれない」

 

「分かった。じゃあクリスにウィズ、後は任せたぞ」

 

 ダクネスは悲鳴のする方へ向かった。人に害あることはしないと思うがこれ以上はあの二人のトラウマになりかねない。

 

「それじゃあ行こっか」

 

「は、はい」

 

 私の後ろをウィズはおずおずとついてくる。先程から視線が背中に刺さっているのだが振り向くと目を逸らされる。本人としては誤魔化しているようだがバレバレだ。一体何を企んでいるのやら。

 

「し、質問なんですが。クリスさんはアンデッドのことをどう思ってますか?」

 

「滅んじゃえばいいかなと思うよ」

 

 しまった。急に質問されたからつい本音が出てしまった。さすがにアンデッド本人の前で言う言葉じゃない。私はそっと後ろを振り返ると、

 

「あわわわわ…。わ、私が守らないと。私が…」

 

 よく分からないことを呟きながらアワアワしていた。あまり構うのも面倒なので放っておこう。

 

 トトトトトっ。

 

 廊下の曲がり角の先で足音がする。音の大きさから推測するに小さな子供のようだ。おそらく目当ての霊だろう。

 私が角を曲がるとその子もこちらに気付いていたようだ。歳は十も越えてないように見える。質の良い服を着た金髪の少女が興味津々といった目を向けてくる。私は屈んでその子に手を伸ばそうと、

 

「だ、駄目でーす!!」

 

 したところを、後ろにいたウィズがその少女をダイビングキャッチしてきた。側から見るとかなり危ないことをしているがその子の方は楽しそうにしている。

 

「こ、この子はまだ幼いですし、他の人に害をなすような事はしてません! だからどうか見逃してくれませんか!」

 

「ねえ。その物言いだとあたしが悪者みたいなんだけど…」

 

 どうやら先程から何か気にしていたのはこの少女のことだったようだ。少女の方もウィズと顔見知りなのか随分と懐いているように見える。

 

「別にウィズさんが心配してるような事をするつもりはないよ。だから…」

 

「そんなの嘘に決まってます! そうやって油断させた所を狙って腰のダガーで斬りかかるんでしょう! 私は騙されませんよ!」

 

 ここまで拒絶されるとは思ってなかった。まあ先程の発言や今までの彼女に対する行動を振り返ると自業自得な気もする。

 

 

 

 ウィズにはとりあえず敵意がないことを伝えたが、まだ疑っているのか少女を腕の中に匿いながらこっちを見てくる。しょうがないのでその態勢のままで少女に話しかけた。

 

「はじめまして。あたしの名前はクリス。冒険者をやってるんだ。君の名前はなんて言うの?」

 

 アンナ、と名乗ってきた。好きな物はぬいぐるみや人形、それと冒険譚が大好きだと言ってくる。

 

「アンナか、よろしくね。それで早速なんだけど、アンナは成仏する気はある?」

 

 ない! と堂々と宣言してくる。まだ現世のいろんなことに興味津々なご様子だ。

 

「そっか。それじゃあしょうがないね。君の未練が晴れるまでもう少しだけ現世にいるといいよ。あ、でも寂しいからって他の幽霊を呼ぶのは駄目だからね」

 

 アンナに手を伸ばし頭を撫でてあげる。あまり撫でられた経験がないのかくすぐったそうな顔をしている。

 

 

 

「見逃して、くれるんですか?」

 

「カズマ君といい、あたしウィズさんにどんな風に見られてるか凄く気になるんだけど。そんな容赦がない人に見えるのかな」

 

 そろそろ本気で怒ろうかと考えているとウィズは言うべきか迷いながらもその理由を伝えてきた。

 

「だってあなたは、天界に属する方じゃないですか。そんな方が霊を見逃すだなんて」

 

「…やっぱり、気付いてたんですね」

 

 おそらく以前店に寄った時にドレインタッチで魔力を吸われた時だろう。女神である私の神聖な魔力はそれだけでアンデッドに影響を及ぼす。クリスの時は抑えられているとはいえ、直に吸えばさすがに私の持つ魔力がおかしいと気付くはずだ。

 

「アンデッドは滅ぼすべし。宗派によって差はあれどこの教えはどの教義でも言われています。それなのにどうして…」

 

 ウィズは疑問をぶつけてくる。確かにエリス教でもその教えを信徒達に広めている。ならきちんと理由を説明しておこう。

 

「…知っているとは思いますが、アンデッドになるのは生前果たせなかった強い思いが原因です。それは羨望、怨恨、愛情。人によって差はあれどその強い情念が人の魂をこの世に引き留めます」

 

「だけどその思いが叶うことは極々稀です。何かを欲して死んだ人は死後その価値を見失い、誰かを怨んで死んだ人は無関係な人を巻き込んで呪いを振りまき、誰かを愛して死んだ人は自分の思いが届かないことに絶望する。そうして自分を見失った魂達はアンデッドに成り下がります」

 

「アンデッドになった魂は本能のままに彷徨います。生前に抱いていたその大切な思いも忘れて別の物になるんです。だからこそ私達はその人達の尊厳を守る為にアンデッドを浄化するんです」

 

「もちろん例外の方もいます。この子も元は貴族の子のようですし生まれつき能力が高かったんでしょうね。だから今でも自我がはっきりと残っています。それでも例外など関係なく浄化するべきです」

 

 アンナは私が喋っていることがよく分からないのか首を傾げながらこっちを見ている。ウィズは私の言葉を早とちりして複雑な表情を向けてくる。それに構わずに自分の今の気持ちを言葉にする。

 

「…そう、前までは思っていたんですけどね。ここ最近色々ありまして。誰かを助けたいという強い思いを知りました。アンデッドに堕ちてでも大切な人を守りきった人に出会いました」

 

「天界から眺めているだけでは分からないことを知りました。…だから少しだけ考え方が変わったのかもしれません。この子がその思いを叶えて未練を残すことなく成仏できるのを待ってみたいと思う程度には」

 

 

 

 

 私の長々とした語りが退屈だったのかアンナは少し不機嫌そうだ。ごめんなさいねとその頭を撫でる。

 

「この子を見逃す理由、納得してもらえましたか?」

 

「え? あ、はい。納得できました。…その、すみませんでした。私も早とちりしてたみたいで。クリスさんが想像していたような人と違ってびっくりしましたよ」

 

「本当に私は一体どんな想像をされてたんですかね…。まあいいです。質問に答えたので私からも一つ、あなたに尋ねます。どうして私の正体に気づいた時に何も聞かなかったのですか?」

 

「それは、魔力を吸った時この人も正体を隠してるんじゃないかなあ、と思いまして。あの時はカズマさんもいましたし黙っておくことにしたんです」

 

 なんとなく聞いてみただけだったが予想外の答えが返ってくる。

 

「まあ確かにカズマさん達以外には正体を隠してますけど。それにしてもあなたはお人好しですね。私はあなたの天敵で相容れない存在なんですよ」

 

「それはそうですけど。私も日陰者ですからシンパシーを感じたのかもしれませんね。これからは同じ正体を隠すもの同士、仲良くしていきましょう」

 

 リッチーに仲良くしようと言われてしまった。まあ彼女は見るからに善人のようだ。なら少しくらい親睦を深めてもいいだろう。

 

「それでクリスさんはどこの宗派の方なんですか? もしかして天使様だったりするんですか?」

 

 ウィズとアンナが興味津々に聞いてくる。まあ天界の者とバレていることだし今更正体を隠す必要もないか。私は女神としての姿を彼女達に見せた。

 

「私はエリス。エリス教の神体を務める女神エリスです」

 

「ほ、ほええええええ?!」

 

 予想以上に驚かれた。というかこちらを崇めるような姿勢をとってくる。アンナもウィズの格好が面白いのか同じようなポーズをとっている。

 

「あの、これは一体?」

 

「女神エリスと言えば国教になっている女神様じゃないですか! そんな凄い人だったなんて! …はっ! 女神エリスは幸運を司る女神。その幸運で商売繁盛になるという噂が…。エリス様、どうか私のお店に御加護をお願いします!」

 

「ダメです」

 

「そ、そんな! 私がリッチーだからダメなんですか?! まさか?! 今まで私のお店の売り上げが悪かったのはあなたが天界から邪魔をして…」

 

「違います。それはあなたの経営能力の無さが原因です。別にエリス教徒だから売り上げが上がるってわけじゃないんですからね」

 

 キールといい私が出会うリッチーは一般的に知られている者とはだいぶ違うのかもしれない。まあ親しみやすいということでよしとしておこう。

 

「それではウィズさん。女神とリッチー。本来は相容れない者同士ですがこれからよろしくお願いしますね」

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 恐怖の夜の翌朝。

 屋敷の霊はエリスとウィズがあらかた除霊したそうだ。聞いた話によればアンナと言う屋敷に住み憑いた貴族の隠し子の霊が寂しさを紛らわすために近くの霊を無意識に集めていたそうだ。その影響であそこの霊は悪戯や遊びに誘ってきたりする霊が多かったらしい。ちなみにまだその子は屋敷に残っているとのことだ。

 除霊の最中にエリスがウィズに正体を明かしたと聞いた時は驚いた。俺の知らない間に二人は仲良くなったようだ。まあ毎度険悪な空気になるのは俺も勘弁してほしいので嬉しいことではある。

 

 

 

 昼前ごろ、昨日の不動産屋の店主が屋敷を訪ねてきた。

 

「どうなったか様子を見にきたのですが、どうやら無事除霊は済んだようですね」

 

 本当はまだ一人残っているらしいのだが黙っていよう。そういえば昨日から疑問に思っていたことを尋ねてみた。

 

「それにしてもなんで俺達にタダでこの屋敷を貸してくれたんですか? こっちとしてはすごく嬉しい話ですけど、どうにも腑に落ちなくて」

 

「…この屋敷は私の友人だった貴族の男にタダ同然で譲り受けましてね。その男は流行り病で亡くなったのですが遺言でこの屋敷は冒険者達に売って欲しいと頼まれたんです。あまり構ってやれなかった娘のためにと」

 

 男は懐かしむように話をしている。娘と言うのはアンナのことだろう。

 

「後から伝えるのもなんですが。この屋敷に住むなら二つの条件があります。一つは夕食時にでもその日の冒険話を仲間の方と話してください。もう一つは庭にある、あそこの墓の手入れをお願いします」

 

 普通ならよく分からない頼みだがエリス達に聞いた話を加味するとその意味が理解できてくる。

 

「それではよろしくお願いしますね」

 

 どうやらこの男、全部分かっているのかもしれない。普通の人に見えるがなかなかどうして分からない物である。

 

 

 

 俺は男に頼まれた通り庭の隅にある墓の手入れをしていた。墓石には『アンナ=フィランテ=エステロイド』と彫ってある。

 

「カズマさん。用事も済んだことですし、私はそろそろ帰りますね」

 

 後ろからウィズが声をかけてくる。昨日の夜から働き詰めなのでゆっくりしていけばいいのに。

 

「昨日は助かったよ。別にもう少しいてもいいんだぞ。昼飯ぐらい食っていけよ」

 

「そ、それは大変魅力的な提案ですが、あまり迷惑をかけるわけにはいきませんので遠慮しておきます」

 

 別に誰も気にしないと思うが。まあ本人が断っているのだ、無理に誘うものではないか。

 

「それじゃあ、あの子をよろしくお願いしますね。やんちゃな子ですけどいい子ですので」

 

「別に俺はそのアンナのことは見えないんだけどな。こっちこそ、これからエリスと仲良くするのをお願いするよ」

 

 ウィズは俺の言葉に頑張りますと笑顔で返事をして帰っていった。

 

 

 

 墓石を丁寧に磨く。あまり雑にやっているとまた昨日の夜みたいに驚かしに来るかもしれない。その時はエリスに頼んで機嫌を直すのを手伝ってもらおう。

 

「カズマくーん! お昼できたよー! 今日はめぐみんが作ったから早く食べよー!」

 

「分かったよ! すぐ行くから!」

 

 クリスに返事をして手入れを中断しようと墓石の方を向くと。金髪の少女がそこに立っていた。その子は俺が驚いて瞬きをするともうそこにいなかった。

 今の少女が噂のアンナなのだろう。さっそく驚かされてしまった。どうやらこれからの生活はあのやんちゃそうな少女に振り回されそうだ。

 俺はそんなことを想像しながら屋敷に帰っていった。

 

 

 




最近真面目な話が続いていたので頭の悪い文章を書きたくなった。書いた。あの部分だけで1000文字くらいある。

と言うわけでお屋敷編でした。
エリス様にちょっと変化があったようです。
設定がところどころ変わってたり捏造されたたりしてます。本筋に大きく関わってくるものはないので許して。


この作品でのアンデッドのなり方。

まず人が死んで魂になる→ゴースト(霊)になって生前の未練に従って行動する→時間が立つにつれ自我を失っていき最終的に別のアンデッドになる

みたいな感じです。リッチーやヴァンパイアなんていう例外もいますが。まあこのなり方だとあの世界の人間どんだけアンデッドになってるんだと言いたくなるんですけどね。


おまけ

カズマ&めぐみん その後

カズマ「ぎゃああああ! こっちくんな!」

めぐみん「きゃああああ! こっちに投げないでください!」

人形「遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ」

カズマ「喋るな気持ち悪い! くそっ、こんな所にいられるか! 悪いが俺は退散させてもらうぜ!」

めぐみん「ダメですカズマ! 今ドアを開けたら!」

人形s「「「「遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ」」」」

カズマ「しまったー! 完全に忘れてたー!」

めぐみん「カズマは馬鹿なんですか! ああ、また大量の人形が私の近くに! く、黒より黒く、闇より黒き…」

カズマ「神様、仏様、エリス様ー! この際アクア様でもいいから助けてくれえええ!」

 この後ダクネスが来てどうにか事態は収まったとさ。



読んでくださった皆様に深く感謝を。
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