この素晴らしい世界でエリス様ルートを 作:エリス様はメインヒロイン
あまりのアレっぷりにR 15タグつけました。
「んあっ?」
何処かから聞こえた物音で俺は目を覚ました。辺りは暗く窓から差す月明かりだけがこの浴室を仄かに照らしている。
現在俺は風呂に肩まで浸かっているわけだが。さてどうしてこうなったのだったか。どうにか寝る直前のことを思い出す。
そうだ、確か酔いを覚ますために水をフリーズで思いっきり冷やして頭からかぶり、風呂に張った湯に入る。それを数回繰り返す内に湯の温かさに負けて普通に風呂に入り、そのままボーッとして寝てしまったようだ。
一度寝たからか酔いは覚めている。これなら熟睡することなくサキュバスの夢を見ることができるだろう。そうと分かれば早く風呂を上がりベッドで待機しないと。
そうして俺が風呂を出ようとすると、脱衣所からドアが開く音が聞こえた。
おかしい。外のドアには入浴中の札をかけてたはずだが。それに明かりだって……そういえば寝る前に付けていたランタンは何故か消えてるな。
「ん? どうしてランタンの火が消えたんだ? まあいい、先に入って湯を沸かしておかないと」
そして脱衣所に入ってきた人物が持っているランタンも、何故かタイミングよく消えたようだ。声の感じからするにそこにいるのはダクネスだ。特にこの状況を気にした風ではなさそうだ。このままだと風呂に入ってきてしまうだろう。
いつもの紳士的な俺ならここで声をかけていたのかもしれない。だがこうもご都合的な展開が続いたら誰だって気づく。
そう、これは夢だ。どうやら俺の努力はすでに報われていたらしい。
仲間の誰かを夢に出す気はなかったが来てしまったものはしょうがない。据え膳食わぬは男の恥ともいうし、翌日に気まずいとかは明日の俺に任せよう。
「ふう、今夜は月が綺麗だな……」
ダクネスは自然に浴場に入ってきて、湯船に浸かる俺と目があった。
「「…………」」
風呂にいるのだ、当然互いに全裸である。
ダクネスはいつもモンスターに攻撃されまくってるくせに、白くて綺麗な肌をしていた。中身以外は完璧だと思っていたが実際に裸を見ると想像以上のものだった。出る所がしっかりと出てる姿は率直に言ってエロい。触ったらどんな感触がするのだろうか。
ダクネスはタオルを持って入ってきたので肝心の部分がよく見えない。なんか焦らされているみたいで興奮する。まだ夢は始まったばかりだ。ゆっくり楽しむとしよう。
「な、な、な、……なんで……お前が……」
「よう、待ってたぜダクネス。それじゃあ早速お願いしようか」
「待ってた?! お願い?! お前は何を言っているんだ!」
ダクネスは顔を真っ赤にして抗議してくる。確かに俺は恥ずかしがり屋なお姉さんとお願いした。ならばリードするのは俺の役目なのだろうか。
「そんなに叫ぶなよ。そうだな、じゃあ最初は背中を流すところからやってもらおうか」
俺は風呂から上がり丸椅子に座ってダクネスを待った。しかし彼女は一向に動く気配がない。どうしたのかと様子を見ていると体を隠すように縮こまっていた。
「どうしたんだダクネス、そんな所にいたらいつまで経っても終わらないぞ。ほら早くそのいやらしい体で俺の背中を流しておくれ」
「い、いやらしいって言うな! なんでお前はそう平然としているんだ! 今の状況を分かっているのか?!」
「よーく分かってるよ。何たって俺の願望通りのことが起きてるんだから。それにしてもお前の恥じらう姿は見ていてそそるな。でも隠す仕草がオーバーだから、もっとギリギリ見えそうな感じでお願いします」
俺の言葉を聞いてダクネスは口をパクパクとさせ混乱している。少しおっさんくさい台詞だったから引かれたのか? まあいいか、夢だし。
「だ、大体なんで私がお前の背中を流さないといけないんだ! 理由を説明しろ! 理由を!」
「面倒くさいやつだな。夢の中って言ってもそんな自由にできるわけじゃないのか? あー、理由はな……ほら、いつもお世話になってるカズマさんに感謝の気持ちとかあるだろ。そのお礼ってところだよ」
「か、感謝の気持ちか……」
俺の言葉にウーウー唸ること三十秒、ダクネスはようやく決心がついたようだ。俺の背後にペタンと座り、恐る恐るタオルで背中を洗い始めた。
焦らしプレイも悪くはないがさすがに長かった。次からはそこら辺も細かく設定するとしよう。
「あー、人に洗われるのって新鮮でいいな。おいダクネス、もっと強く擦ってくれ」
「ううう、これはただ礼をしているだけなんだ。決してやましいことはしていないんだ」
ぶつぶつと何かつぶやきながらも、俺の言葉に素直に従ってゴシゴシと丁寧に背中を擦ってくれる。現実だとこんなことしてくれるはずないよな。やっぱり夢って最高だわ。
「背中洗い終わったら言ってくれよ。今度は前を頼むから」
「ま、前だと?! そんな恥ずかしい所できるか!」
「何言ってんだよ。前洗った後はもっと恥ずかしいことするのに。それにしてもさっきから文句が多いぞ。自分ばっかり洗う側だから不満なのか? 心配せずとも後で俺がお前の体も洗ってやるから」
「お前こそ何を言っているんだ! これは日頃迷惑をかけている分と以前エリスとのことで世話になった分の礼にすぎないんだぞ! それだけで好きにされるほど私の体は安くない!」
このダクネスは随分と純情だな。普段はモンスターに好き勝手にされたいとか言ってるくせに。
「あの時のことは本当に感謝してるんだ。お前が無理矢理にでも引き合わせてくれなかったら、私は大切な友人を失っていたかもしれない。……だがそれはそれ、これはこれだ!」
俺の記憶からこの夢を作り出しているのだろうが、随分詳しいことまでわかるみたいだ。ダクネスの謝辞も自分の願望から来ていると思うとなんか萎える。あの時は別に感謝してもらいたいから行動したわけではないのだが。
そろそろ焦らしプレイは終わりにして次に進んで欲しいなと考えていると。
ガチャリ、と脱衣所のドアが開く音がした。
その予想外の音に疑問を抱き、さらにそこにいる相手が誰かわかり動揺した。
「ダクネス〜。お風呂沸きましたか〜?」
この声はエリスだ。先程よりもさらに酔っているのか呂律が回ってない。顔を赤くしてふにゃふにゃとした表情をしているのが目に浮かぶ。
「エ、エリス?! いや、まだ風呂は沸いていない! すまないが一度戻ってくれないか!」
「え〜、今から居間に戻るなんて面倒です〜。私も中で待ちます〜」
どうやら事前にダクネスが風呂を沸かしておいて、後からエリスが来る予定だったのだろう。そこにイレギュラーである俺がいたと。
脱衣所では服を脱いでいるのであろう衣擦れの音がする。その音にダクネスは慌てたようにエリスに叫ぶ。
「待てエリス! 今は入ったら駄目だ! 今は、その……カ、カズマがいるから……その……」
ダクネスは顔をより赤くして声が尻すぼみになっていく。おそらく現状を再認識し、そのことをエリスに伝えるのが恥ずかしくなったのだろう。
「カズマさんとダクネスが一緒にお風呂にいるわけないじゃないですか〜。どうしてそんな嘘吐くんです〜?」
「本当にいるんだ! おい、お前もさっきから黙ってないで何か喋れ! このままだとエリスが入ってきてしまうだろ!」
ダクネスが後ろから俺の肩を掴んでガクガクと揺らしてくる。だがそれでも俺は黙ったままだ。
これは夢だ。サキュバスのお姉さんに頼んだ物とは違ってきているがこれは夢なんだ。つまり今から入ってくるであろうエリスの裸を見たとしても、何も問題がないわけである。
俺の脳内では天使のカズマさんが『さっきから様子がおかしい。もしかしてこれは現実なのでは?』と心配し、悪魔のカズマさんが『これは夢だ。だから面倒なことは考えずに流されちまえ』と甘い言葉を囁いてくる。
そうして脳内で天使と悪魔が争いを……始めることはなく、とりあえずエリスが来た後で決着をつけようという話になり停戦協定が締結。つまり何者も俺を止める者はいないというわけだ。
さて、俺こと佐藤カズマは以前から一つ、エリスに対し疑問に思っていることがあった。
それは冬将軍に殺された時のこと。俺が天界で出会った水の駄女神ことアクアが興味深い発言をしていた。『エリスはパッドで胸を盛っている』と。その時の俺はアクアにその真偽を問うたが適当にはぐらかされてしまった。
あれからエリスの膨らんだ胸を見るたび、あれが本物かどうか懐疑的な目で見ていた。内容が内容だけに本人に聞くことも叶わず、俺は偽りの日々を送らざるおえなかった。
だが今夜ようやく、俺は真実を目にすることとなった。
浴場のドアが開いた。
窓から差す月の光の中、彼女の銀髪が踊る。腰あたりまで伸びた長髪が月光を反射し白銀に光る様は幻想的でどこか儚さを覚える。
いつもは服の下に秘されている肌は透き通るように白く傷一つない。まるで踏み荒らされてない新雪のような純潔さを思わせる。
身体つきは……うん、スレンダーだ。別に貶しているわけではない。胸は控えめだが程よく筋肉が付いていて全体的にスラッとしている。それでも女の子特有の華奢な雰囲気があり庇護欲が掻き立てられる。
「ダクネスと一緒にお風呂に入るなんて久しぶりですね〜。まああの時はクリスでした……けど……」
エリスと目が合う。彼女はキョトンとした表情で俺を見つめている。酒のせいか頬は赤く彼女の白い肌によく映えている。それが徐々に赤みを増していき。
「きゃぁああああああ??!!!」
羞恥の悲鳴を上げながらその場にしゃがみ込んだ。ダクネスの時も思ったがやはり女の子の恥じらう姿はくるものがあるな。
「な、な、何でカズマさんがいるんですか! 私は裸で、ぜ、全部見られて!」
「だからさっき言ったじゃないか! カズマが中にいると!」
「だってだって、ダクネスと二人で浴場にいるなんて信じられるわけないじゃないですか!」
裸の女の子二人が目の前で言い争いをしている。こんな眼福な光景は今後の人生でもう拝むことはないと思うのでしっかりと目に焼き付けておこう。
「お前もいつまで眺めているつもりだ! いい加減にしろ!」
ダクネスは持っていたタオルを俺の顔に巻きつけ視界を塞いできた。だが既に俺の脳裏にはエリスの姿がバッチリと焼き付けられている。
さて、視界が塞がったことで少し冷静さを取り戻したわけだが。今は一体どういう状況なんだ?
おそらく今起きていることは現実なのだろう。ダクネスはともかくエリスまで現れたのはさすがにおかしい。
だが現実というならサキュバスのお姉さんはどうしたのだろうか。もしかしたら俺がダクネスと一緒にいるのを目撃して帰ってしまったのかもしれない。それならそれでまあ別に構わないのだが、もし今の状況でサキュバスが現れたら不味いのではなかろうか? というかサキュバスは確か悪魔の末端でエリスが目の敵にしているのは……。
「皆さん曲者が出ましたよー! どこから入ってきたのか分かりませんがサキュバスが結界に引っかかってます! 」
俺の思考中にめぐみんの声が屋敷に響き渡る。
その声に瞬時に反応し、顔に巻かれたタオルをずらしエリスを見た。先程の出来事で酔いが覚めているエリスはサキュバスのワードに敏感に反応し、今にも走って向かいそうな様子だ。
だが先に思考していた俺の方が動き出しが早い。俺は走り出そうとしていたエリスに後ろから飛びついた。
「カ、カズマさん?! 離してください、悪魔がこの屋敷に、じゃなくて今私裸で、きゃっ?! どこ触ってるんですか!」
「お、おい、お前は私の友人に何してるんだ! 見るだけに飽き足らず直接触りに行くなんて! 今日のお前は本当にどうしたんだ!」
上手い言い訳が思い付かなかったので沈黙を貫く。
それにしてもスレンダーだと思ってたけど直接触ると案外柔らかいな。これが女の子の感触か。
だが今は煩悩に支配されている場合ではない。どうにか先にサキュバスの所に駆けつけないと。めぐみんは爆裂魔法しか使えないとはいえ腕力はそこそこある。あまり時間はかけてられない。
俺は抱きすくめていたエリスをダクネスに押しつけ浴場を出た。着替える時間も惜しいので頭のタオルを腰に巻きつけ、声がした方へ駆け出す。エリス達はさすがに服を着てくると思うのでこれで時間差をつけられるだろう。
「カズマ、見てください! たぶんエリスが仕掛けたのでしょうが結界に引っかかって動けないサキュバスが……な、何でそんな格好で来たんですか! 服を着てください、服を!」
声がした場所に駆けつけるとそこには昼間見たサキュバスよりもずっと幼い小柄なサキュバスが魔法陣に囚われていた。パジャマ姿のめぐみんは杖を持ってサキュバスを威嚇している。
どうやら間に合ったようだ。俺はサキュバスの子の手を取り玄関へと駆け出した。だが結界のせいなのかサキュバスの子の足取りは悪い。
「あっ、駄目ですよカズマ! サキュバスは歴とした悪魔です! いくらカズマ好みの女の子だったからといって逃したら駄目です! エリスに言いつけますよ!」
こんな幼い姿の子に欲情する程落ちぶれてねえよ。
めぐみんの指摘に心の中で抗議しつつも先の事を考える。エリスとダクネスはもう服を着て脱衣所を出ている頃合いか。めぐみんも呆気に取られていたがすぐに追いかけてくるだろう。
並走しているサキュバスの子は息を切らしながらも俺に訴えかけてきた。
「お客さん、私のことは放って置いてください! このままだとお客さんまで酷い目に遭ってしまいます! そもそも私が結界に引っかかったのが悪いんです。手を取ってくれたことは嬉しいのですが、これ以上迷惑はかけられません。だから……」
「だから見捨てろってか? 悪いがその答えはノーだ」
「…どうしてですか? お客さんに取って私は今日出会ったばかりのただのモンスターなんですよ。利害は一致していても本来は討伐されるべき対象なんですよ」
「簡単なことだ。俺は俺のためにお前を助けるんだ。もしここでお前の手を離したら、その選択をした俺を未来の俺は一生嫌って生きていくことになる。そんな悔いが残る人生を送る気はない」
玄関がある広間までは来れた。だが敵感知には反応が三つ、すぐ後ろまで来ている。屋敷を出たらゴールというわけではない。そんな簡単に見逃すようなやつらじゃないのは俺が一番よく知っている。
俺は玄関に向けてサキュバスの子の背中を押し振り返る。ここで俺が足止めをする。
「お客さん……ありがとうございます。このお礼は必ず」
「別に礼が欲しくてやったわけじゃないが。そうだな、今度店に行った時にサービスでもしてくれ」
「はい! それではご武運を!」
サキュバスの子が玄関のドアに手をかけるのと同時にエリス達がこの広間に押し入って来た。
「追いつきましたよこの木端悪魔! 逃げようったってそうは問屋がおろしません! ここで完膚なきまでに滅します!」
「カズマ、そこをどけ! 今日のお前の様子を見るにお前はそこのサキュバスに魅了されてるのだろう! もし反抗してくるのなら加減はできんぞ!」
「見ての通り二人は頭に血が上っています。早く正気に戻って大人しく引き下がった方が身のためですよ」
三人は冷ややかな視線を俺と後ろのサキュバスに向けてくる。
これはおそらく最終勧告だ。サキュバスの肩を持つようならお前も容赦しない、そう言っている。つまり問答で時間を稼ぐのは不可能ということだ。
俺の装備は腰に巻いたタオルのみ。ワイヤーがないのでバインドは使えない。手札は初級魔法にドレインタッチ、それと戦闘向きではない盗賊スキル全般。
十分だ。どうやら男を見せる時がきたらしい。
「かかってこい」
俺はサキュバスの子に早く行けと目で促し、構えを取って闘う意志を示す。その姿にエリス達は一瞬驚くも、俺と後ろのサキュバスを倒すために踏み出そうとしてくる。
間合いは十数メートル。この程度の距離なら数秒で詰められ戦闘になってしまうだろう。数的不利にステータスの差、それに加え玄関を出たサキュバスに追い付かせないためには、三人全員を足止めしなければならない。戦闘になったら圧倒的にこちらが不利だ。
それなら戦闘にしなければいい。
俺は腰のタオルに手をかけた。その行動に三人はギョッとした顔をしている。まさかそんな事をする筈は、なんて思っているのだろう。今の俺は使えるものは何でも使う。たとえそれが恥ずべき行為だとしても。
つまりは男(の象徴)を見せる時である。
俺はタオルにかけた手を思いっきり。
「おらぁっ! こいつを見ろ!」
「きゃぁあああああ??!!」
響き渡る悲鳴は一つ、エリスのものだ。この薄暗い中でも彼女の見通す目なら昼間のようにはっきりと見えているのだろう。俺のアソコを見ないように両手で顔を覆っている。他の二人も悲鳴こそあげなかったが、目を瞑ったり逸らしたりしている。
ちなみに、当たり前だがタオルは取っていない。あくまでフリをしただけである。何でも使うとは言ったが、さすがに女の子相手に局部を見せつける変態行為には抵抗がある。後でパーティーを追い出されても文句言えないレベルだ。というか自分からパーティーを抜ける。
だが三人の足を止め、隙を作ることができた。この機を逃す手はない。
「『クリエイト・ウォーター』、からの『フリーズ』!」
エリス達の足元を水浸しにした上で一気に凍らせる。簡易的なスケートリンクの出来上がりだ。これで動きは多少制限できる。
そのまま俺は三人に向かって駆け出す。攻め手を緩めるつもりはない、攻撃こそ最大の防御だ。
「二人とも目を開けてください! チキンなカズマのことです、腰のタオルを取ったのはフリですよ! 今も何か小狡いことをやろうとしています!」
男勝りゆえか一番はじめに冷静になっためぐみんが指示を出している。残り二人も足元が急に濡れたり凍ったりして、俺が何かしていると勘付き目を開けようとする。
「もうちょっと目瞑ってろ! 『ウインドブレス』!」
「ぎゃあ! 目が、目がぁああ!」
走り出す前に小声で仕込んでおいたクリエイト・アースの土を三人の目元に向かって風で飛ばす。
めぐみんを含め三人は悲鳴をあげている。まぶたを開けた瞬間に襲いかかる砂はさぞ痛いことだろう。
これ、後で謝って許してもらえるのだろうか。
そんな雑念を振り払いながらめぐみんに向かって手を伸ばす。この状況で一番冷静だったのはこいつで、そして三人の中で一番貧弱なのもこいつだ。
「悪いがお前の魔力、頂くぞ」
「ああ?! 我が偉大なる魔力がカズマなんかの手に! これのせいで爆裂魔法が撃てなくなったらどうしてくれるんですか!」
「こらっ! 手を引っ剥がそうとするな! お前今日はもう爆裂魔法撃ったんだから関係ないだろ!」
抵抗するめぐみんから無理矢理体力と魔力を吸い取る。三人の中で一番体力が少ないめぐみんは始めこそ激しく暴れたが、すぐに力が抜けヘナヘナと崩れ落ちた。まずは一人。
「くっ、こんな視界を封じるような真似をして一体私に何をするつもりだ! だが、たとえお前がサキュバスに操られ、私の体を好き放題するつもりでも私は容赦しないからな!」
次の標的であるダクネスは先程までの怒りを忘れていつも通り興奮している。こいつの羞恥の基準は一体どうなっているのだろうか。
まだ目が見えていないのか俺が距離を詰めても、見当違いの方向を向いている。そして予想通り、不器用なこいつは氷の上にどうにか立っていると言ったところだ。少し押しただけで簡単に転んでしまうだろう。
俺はそんな危なげな姿につい魔がさし、ダクネスの背後に回り背中を押してみた。
「さあ、何処からでもかかってくるがいい! お前が何をしようと私は、えっ? あっ、ちょっ!」
ビターン、という音と共にダクネスは顔面から転倒した。不意に食らったものだからか、防御力が馬鹿みたいに高いはずのダクネスがピクリともしない。
さすがに心配になり声をかけてみた。
「お、おいダクネス、大丈夫か? 俺もそんな派手ににすっ転ぶとは思わなくて…」
返事がない、ただの屍のようだ。
と思ったが耳が赤くなっているのが見える。どうやら盛大にこけたことが恥ずかしかったのだろう。まあビターンだもんな。ビターン。
これはそっとしておいた方がお互いのためだろう。少し想定と違うがこれで二人。
一度距離を取り、玄関との間に立ち塞がるように位置する。
二人を倒してる間に目の砂は取れたのか、彼女はしっかりとこちらを見すえている。ダクネスほど不器用でない彼女には氷の床は効果が薄いだろう。
「カズマさん、いい加減にしてください。ふざけて邪魔をしているのなら私も本気で怒りますよ」
エリスは普段では絶対に聞くことはないであろう、底冷えのする声で話しかけてくる。背中にゾクゾクとした悪寒が走る。だが今日ばかりはあいつの言うことは聞いてやれない。
「なあエリス、もういいだろ。サキュバスは悪魔の中だと下っ端だって聞いたことがある。なら一人くらい逃しても構わないだろ。二人も倒れたことだし、ここらで手打ちにしてくれないか」
「私は女神エリス、下っ端とはいえ悪魔を見逃すなんてありえません。それに二人がやられたとはいえ、失礼ながら私一人でもカズマさんを倒すのには十分です」
「……まったく、俺は止めたからな」
確かに彼女とまともにやり合えば支援魔法で底上げされたステータスで圧倒されるだろう。他の二人と違い明確な弱点があるわけでもない。戦えば敗北は必至だ。
ならばもう一度、舞台を闘争から喜劇へとひっくり返す。だが先程の手はもう通用しないだろう。
それでも、こと俺と彼女の間において決して覆ることはない、さだめとも呼べる事象が一つある。それの根拠は俺のただの直感にすぎない。だが確信めいた何かを感じている。
俺は右手を前に構える。魔力は十分。狙いは一つ。
エリスが俺の狙いに気づき慌てて止めようとしてくる。だがあまりに遅い。さあ、舞台の演目を変えようか。
「『スティール』っっ!!」
掛け声とともに右手に魔力を収束し放つ。その魔力が霧散した瞬間、突き出した右手には柔らかい布地が握りしめられていた。何を奪ったか、そんなもの見ずとも分かる。だがここではあえて見せつけるように掲げる。掲げた右手には白い三角形の布地がはためいていた。
「パンツ! 取ったどぉおおおお!!」
「いやあああああ!! どうしていつも私のパンツを取るんですか!」
顔を真っ赤にしたエリスが下を押さえながら叫んでくる。
どうしてと聞かれても。なんか取れる気がするんだもの。
「パ、パンツ返してください! あっ、どうして逃げるんですか!」
「戦利品をみすみす返すやつがいるわけないだろ。あばよ、とっつぁん!」
エリスは俺からパンツを奪い返そうとすごい勢いで追いかけてくる。しかし俺を捕まえることはできない。あるスキルにより、俺は彼女の速度よりも速く逃げ回れるのだ。
スキル『逃走』、盗賊スキルの一つだ。効果は字面の通り、逃げる時に速度や回避に補正がかかるスキルだ。
「フハハハ! お前が俺に追いつくことはない! そしてもし開き直ってサキュバスを追うというのなら、背後からさらにスティールをかけてやる! さて、何回スティールかければ素っ裸になるのかな?」
「うううう……」
エリスは涙目で睨みつけてくる。だがそこに先程までの気迫はない。
彼女はもう詰んでいる。
俺を倒そうにもスキルで逃げられ、サキュバスを追おうにも俺が邪魔をする。その圧倒的ステータスもパンツを履いてない違和感と羞恥で十全に発揮できてない。
対して俺はめぐみんからドレインタッチしたことで、魔力体力ともに十全。そもそも勝利条件はサキュバスの子が逃げるための時間稼ぎだ。こうして話している間にも俺に優位が傾いていく。
「相手が悪かったな! 俺の名は佐藤カズマ! 数多のスキルを操りし者! お前ら三人じゃ束になっても勝てない相手なんだよ!」
勝利を確信した俺の高笑いが屋敷中に響き渡った。
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翌朝、ボロボロになった俺はソファーの上で伸びていた。
昨日の夜、勝利を確信し天狗になっていた俺は、調子が戻っためぐみんとダクネスに気付かずに不意を打たれボコボコにされた。慢心ダメ、絶対。
まあサキュバスの子を逃すのには成功したので実質勝利だ。
昨日の騒動は俺がサキュバスに魅了されて暴走した、ということになっている。そして暴走していた間の記憶がなくなっているとも。とても都合のいい解釈なので乗っかっておいたのだが。
「なあエリス。そろそろ機嫌直して回復魔法かけてくれないか。俺の魔法だとレベルが低いからか痛みが引かないんだよ」
「その痛みは自業自得です。ちゃんと反省するまで回復魔法はかけてあげません」
同じソファーに座るエリスはそんな無体なことを言ってくる。
どうもこの人、昨日の俺が正気だったことに気づいてる節がある。つんけんした態度もそうだが、何よりの証拠に胸が膨らんでいないのである。
俺に見られたことで見栄を張るのをやめたのか、それとも単にパッドを付けてると知られるのが恥ずかしいのか。まあ俺としてはどっちでもいいのだが。
「カズマさん、今変なこと考えていませんか? 具体的には私の体のこととか」
「考えてません」
だが結局彼女は昨日のことは問い詰めてこない。風呂場での俺の暴走や、サキュバスを逃したことについては。
彼女が昨日のことをあやふやにしている理由はおそらく二つ。一つはダクネスに俺が昨日の浴場でのことを覚えてないと安心させるため。もう一つはパーティーでの俺の立場が悪くならないようにするため。多分こんなところだろうか。
悪いのはどう考えても俺なのにそんな気遣いまでされると心苦しくなってくる。
「昨日のことは本当に悪かったよ。この借りはまた今度返すから、そろそろ許してくれないか」
「さて、借りとは何のことでしょうか? まあ十分に反省したみたいですし許してあげましょうか。それじゃあ回復魔法をかけるのでキズを見せてください」
エリスは苦笑しながらも俺の謝罪を受け入れてくれた。謝った俺が言うのもなんだが簡単に許しすぎではないだろうか。この心優しい女神のためにも、さっさとこの借りは返さないとな。
朝の一幕が終わり一日が始まる。
今日もうちのおかしな仲間達が色々問題を起こしたりして、騒がしくも退屈しない、そんな一日が始まるのだろう。
そんな思いをぶち壊すように街中に警報が鳴り響いた。
『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です! 冒険者の皆様は、装備を整え冒険者ギルドへ! 街の住人の皆様は直ちに避難してください!』
なんだかんだうちの作品のカズマさんは真っ当なはずだったのに、この二話で一気に転落してしまった。
というわけでサキュバス回でした。
今回ちょっと擁護できないレベルのクズマさんになった気がします。
女の子三人に対して『おらっ!こいつを見ろ』と股間を見せつけようとするカズマさんには一周回って尊敬の念すら感じます。
ちなみに今回のカズマさんの活躍を箇条書きすると。
1. ダクネスに風呂でセクハラ。
2. エリス様にもセクハラ。おまけにボディタッチまでする始末。
3. サキュバスを連れて逃走。
4. それを逃すために仲間三人に対して牙を剥く。
5. 股間見せつけ(未遂)。
6. 目潰し。
7. ダクネスをこかす。
8. パンツ強奪。
9. 全裸に剥くぞと脅す。
多少悪意を持ってまとめたけど大体あってます。なんでエリス様はこんなの許したんだろ。
次回からデストロイヤーです。
先に言っておきますが、あまり期待しないでください。
作者としてはもうカットかダイジェストでよくね? と思ってるので。
読んでくださった皆様に深く感謝を。