この素晴らしい世界でエリス様ルートを   作:エリス様はメインヒロイン

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待たせたな(投稿空きました、すんません)
 
今回ギャグ少なめ、そのくせ過去最長です。(18000字)




このデストロイヤーに策謀を

『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です! 冒険者の皆様は装備を整え冒険者ギルドへ! 街の住人の皆様は直ちに避難してください!』

 

 街中に響くアナウンスは、それが尋常ならざる事態だと伝えてくる。だが聞き慣れない単語に、いまいち状況が掴めない。

 

「なあエリス。機動要塞デストロイヤーってなんだ? ヤバそうなヤツってのは分かるんだが、どうにも想像できん」

 

「機動要塞デストロイヤーは、魔道技術大国ノイズで作られた超大型ゴーレムのことです。外見はクモを模していて、小さな城程度の巨体を八本の脚を使い移動する動く要塞ですね。元は対魔王軍用の兵器として製造されたそれは、研究開発の責任者によって暴走し自国であるノイズを滅ぼしました。その後も活動を停止することなく大陸の至る所を蹂躙する、とても迷惑な存在です」

 

「なるほど、分からん」

 

 そんな国を滅ぼしただの、城ぐらいの大きさを誇るだの、一気に捲し立てられても脳の処理が追いつかない。スケールがバカなことだけはよく分かった。

 とりあえず動く城というのなら某ジブリ作品みたいなのを想像すればいいのだろうか。どうしよう、ちょっと生で見てみたいな。

 

「つまり私達のような駆け出しでは、どうしようもない相手だと言うことですよ。カズマ達もゆっくりしてないで早く荷物を纏めてください」

 

 めぐみんは荷造りを終えたカバンを運びながら俺達を急かしてきた。

 

「荷物を纏めろって、お前逃げる気なのか? 今ギルドから招集の放送があったばかりだろ」

 

「どうせ行ったところで対策案なんて出てきませんよ。デストロイヤーは稼働を始めて何百年と無差別に大陸を踏み荒らしてきました。そんな誰の目から見ても迷惑な存在が未だ討伐されてない理由、分かりませんか?」

 

 今まで何度も失敗してきた。どうすることもできなかった。めぐみんが言いたいのはそういうことだろう。

 

「それならお前の爆裂魔法はどうなんだ? 過去に討伐しようとしてた奴らの中に、そんなネタ魔法を覚えてた馬鹿がいたとは思えない。遠くから一撃入れて破壊することはできないのか?」

 

「無理ですね。デストロイヤーには強力な魔力結界が張られています。爆裂魔法の一発二発、防いでしまうでしょう。……ところでカズマ、そのネタ魔法を覚えた馬鹿とは、一体誰のことを指しているのですかね」

 

 めぐみんの爆裂魔法でも無理なのか。散々ネタ魔法とからかってはいるが、威力だけを見たら間違いなくこの街の最高火力だ。人類最強魔法の名は伊達ではない。

 その最高火力が無理だと言うのなら、俺達に打つ手はないのではなかろうか。そんな無謀な挑戦をするくらいなら、逃げた方が賢いのではないだろうか。

 

「すまない、準備に時間がかかった。……ん、どうしたみんな。早く支度をしてギルドに向かうぞ」

 

 めぐみんの発言により思考が逃げる方へ傾いていると、重装備をしたダクネスが現れた。普段使っている鎧の上に更に装備を重ねたその姿は、完全武装と言ったところか。

 

「いやな、めぐみんが街を見捨てて逃げようって提案してくるんだ。正義感の塊な俺がどうにか止めようとしているが、これがなかなか頑固でな」

 

「その言い方だと私が悪者みたいに聞こえるのですが。カズマだって逃げるのもアリだなって顔してましたよ」

 

「そうか……。なら私は先にギルドに行っている。お前達は好きにするといい。戦いを無理強いはしないし、逃げるのを責めることもしない。後悔しない選択をしてくれ」

 

 少しだけ寂しそうな顔をしながらも、ダクネスは真剣な表情で告げた。それに対して俺とめぐみんは…。

 

「なあダクネス。お前がいくら常識外の硬さを持ったドMだとしても、城みたいなやつを相手にするのは無茶がすぎるぞ。変態趣味に殉ずるとかパーティーメンバーとして恥ずかしいからやめてくれないか」

 

「カズマの言う通りです。それにダクネスが行ったところで何も活躍できずに終わるのがオチですよ。自分が不器用な人間だと自覚しているのですか?」

 

「……二人共。私の普段の行いのせいでそう考えているのだろうが、この非常時にまで欲望に忠実な女ではないぞ」

 

 しかし困ったな。さすがにダクネスを置いて逃げるわけにはいかない。それにこの街にも愛着が湧いている。できるなら俺も何とかしたい。

 だが話を聞く限りでは対策は絶望的。努力どうこうでひっくり返せる相手ではなさそうだ。詰まるところ、限りなくゼロに近い可能性しか残ってないのだ。

 そんな中、先程から黙って様子を見ていたエリスが口を開いた。

 

「ダクネス。私は女神として何度もデストロイヤーに挑み、そして敗れていく人々を見てきました。はっきり言ってあなたが行ったところで状況は何も好転せず、逃げないという選択は命を投げ捨てに行くのと同じでしょう。……それでも、あなたは行くのですか?」

 

 女神エリスとして真剣に、そしてどこか試すように彼女は尋ねた。

 

「それでも私は行く。無謀と言われようと行かなければならない。この街を守ることは私の義務であり、誇りだからな。最後の一秒まで諦めたくはないんだ」

 

「…………はあ。まったく、しょうがない人ですね」

 

 何を言われようと折れない、そんなダクネスの姿に、エリスは呆れつつもどこか嬉しそうに苦笑していた。彼女ならそう答えると分かっていたかのように。

 そして何か決心をしたのか、今度はめぐみんの方を向き尋ねた。

 

「めぐみんの爆裂魔法は、魔力結界があるから防がれるんですよね。もし私が女神の力でその結界を破ったとして、デストロイヤーを破壊することは可能ですか?」

 

「……できると言いたいところですが、さすがに我が爆裂魔法でも一撃であの巨体を破壊するのは無理があります」

 

「一撃では無理……なら、数発撃ち込めるようにするには……」

 

 めぐみんの申し訳なさそうな返答に、エリスはどうしたものかと考え込んでいる。デストロイヤーの破壊方法を考えているのだろうが、そもそも別の問題があるのではないだろうか。

 

「エリス、天界の規定とやらはいいのか? 今回の規模だとさすがに正体隠しながら行動するのは無理だと思うぞ」

 

「そ、そこはまあ、大丈夫だと思います。人類が滅びるような相手なら力を使っても構わないはずですし。デストロイヤーが相手なら、きっとおそらく問題ありません、はい」

 

 どうやらグレーゾーンらしい。目を泳がせて自分に言い聞かせるように話しているのが何よりの証拠だ。

 

「それと女神の力で結界を破壊できます、なんて誰も信じてくれないと思うぞ。さすがに他の冒険者達の協力なしで、要塞なんて相手取るのは無謀にもほどがある。そこはどうするつもりなんだ?」

 

「ああ、そのことでしたら」

 

 エリスは先程とは一転して、少し悪戯っぽく笑いながら。

 

「頼りになるリーダーさんにお願いします。そういった人を動かす作戦、考えるの得意ですよね」

 

 そんな無茶苦茶なことをお願いしてきた。

 

 

「…………いや、確かに作戦は毎回俺が立ててるけどな。人を動かすって、今までと方向性が違いすぎるだろ。俺はそんなカリスマ性、持ち合わせてないぞ」

 

「そうですか? 案外やってみたら上手くいくかもしれませんよ。あ、それとデストロイヤーを破壊する方法も一緒に考えてくれたら嬉しいですね」

 

 さらに追加注文のようだ。無茶振りがすぎやしませんかね。

 そもそも俺はまだ戦うと決めたわけではない。

 たとえこの街に愛着が湧いてきていようとも、デストロイヤーなんてヤバそうな物を相手にするのはご遠慮願いたい。小心者の俺に命をかけるだけの度胸なんてないのだ。

 だが、それでも。

 

「そんな無茶苦茶なお願いを二つ返事で引き受けるほど俺は安くないぞ。…………まあ、昨日の借りをチャラにしてくれるって言うなら、考えてやらんこともないが」

 

「はい、分かりました! それじゃあこれで貸し借りはなしってことで、よろしくお願いしますねカズマさん!」

 

 それでも、悪戯っぽく笑う中に不安な表情が混じっていたなら。誰かに頼るのが苦手だった彼女が頼ってきたのなら。

 俺ができることなら何だって手伝うと約束した。

 

「俺って案外チョロいのかね」

 

 嬉しそうに笑うエリスを見ながら、独り呟いた。

 

 

  

「ところでカズマ、昨日の借りとは一体何のことだ? 私としては詳しく聞きたいのだが」

 

 おっと予想外の方向からやぶへびが。ダクネスさんは知らなくていいことですよ。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

「おっ! ようやく来たかカズマ。あんまり遅いから、てっきり逃げたかと思ったぞ。……ん? なんで貧乏店主さんと一緒に来たんだ?」

 

「遅くなったなダスト。ちょっと先にウィズの店に寄っててな。色々用意するのに時間がかかっちまった」

 

 重装備で固めたダストに軽く返事をしてギルドの中を見回すと、対デストロイヤーの作戦会議をしているのであろう冒険者達が大勢集まっていた。ギルドの中心にテーブルを寄せ集め、様々な意見が飛び交っている。冒険者達の焦った表情を見るに、案の定会議は難航しているようだ。

 人混みを掻き分けながら会議の中心に向かう。そこでは受付のお姉さんが冒険者達の意見を纏めているが、まだ決定的な案は出ていないようだ。

 

「お姉さん。すみませんが、ちょっとこの場をお借りしてもいいですか?」

 

「サトウさん? それに皆さんも。一体どういう……」

 

 急に現れた俺達にお姉さんは困惑した表情を浮かべていたが、その返事を待たずに冒険者達へと振り返る。軽く深呼吸をし、大声で呼びかけた。

 

「よう、お前ら! 随分と辛気くさい顔してるな! まるでこの世の終わりみたいな顔だ! そんなお前達にこのカズマさんがいい作戦を持ってきたんだが! どうだ、ここは一つ乗ってみないか!」

 

 さあ、ハッタリのお時間だ。

 

 

 

 冒険者達は急に会議の中心に現れた俺達パーティーとウィズの計四人に注目している。別行動中のクリスがいないことは特に疑問に思われてないように見える。

 すでに作戦会議が行き詰まっていた彼らは、俺の話に素直に耳を傾けてくれるようだ。

 

「さて、俺が提案する作戦は至極単純明快だ。機動要塞デストロイヤー、あいつを爆裂魔法でぶっ飛ばす!」

 

 俺の作戦に冒険者達は呆れたような表情を浮かべている。自分達が何故こんなにも困窮しているのかまるで分かってない。そんな目を向けてくる。

 その中の一人が手を挙げ、苛立ちを隠そうともせずに意見してきた。

 

「おい、確かにあの紅魔族の嬢ちゃんの魔法はすげえ威力だがよ。デストロイヤーには魔力結界ってのが張られてて、魔法は通じないんだぞ」

 

「ああ、そんなことは百も承知だ。確かに爆裂魔法の一発程度、難なく防がれるだろうよ。……じゃあそれが何発も撃ち込まれたらどうなると思う? 人類最強の火力が何発もだ」

 

 俺は持っていた袋をテーブルの上に置き、その中身をぶちまけた。それを見た冒険者達、特に魔法職の者は驚きの声を上げた。

 

「ちょっと、それってマナタイト?! そんな高純度なの見たことないよ! それがこんなにたくさんあるなんて!」

 

「ええ、その通りです。これだけ高品質な物なら爆裂魔法に必要な魔力でさえ肩代わりできますよ。魔力結界は魔法を無効化する結界ではなく、魔法に強い結界です。つまり数を重ねていけば突破できるものなんですよ。さて、我が爆裂魔法の破壊力に魔力結界が何発耐えられるのか、見ものですね」

 

 めぐみんは机にばらまかれた十数個ほどのマナタイトの中から一際純度の高い物を取り、不敵な笑みを浮かべていた。

 ギルド内の全員が息を呑む中、先程とは別の冒険者が尋ねてくる。

 

「だけどよ、魔法ってのは威力が高いやつほど詠唱が長くなるんじゃないのか? 爆裂魔法なんて二発目を詠唱してる間に引き潰されるだろ」

 

「わ、私も爆裂魔法を使えます。だから、えっと、大丈夫です!」

 

 ウィズがしどろもどろに答えている。商売人のくせに素直な彼女には、人を騙すことが苦手なのかもしれない。

 

「聞いての通りウィズも爆裂魔法が使える。めぐみんと交互に撃つことで、デストロイヤーを押し返して詠唱の長さはカバーする。だけどそれでも押し切られる可能性はある。だからみんなに協力してほしい。落とし穴やバリケードじゃ止めることはできなくても、時間稼ぎくらいならできるはずだからな」

 

 ウィズをフォローしつつ協力を要請する。冒険者達の中から賛同の声が上がり始めた。

 そんな中、また別の冒険者が意見してくる。

 

「でもデストロイヤーは城並みの巨体だぞ。魔力結界を壊して、そこからさらに城を破壊するなんて、そこにあるマナタイトの量でも不可能なんじゃないのか」

 

「魔力結界を破壊したら、次は真っ先にデストロイヤーの脚を破壊する。あいつの一番の脅威はその巨体による蹂躙だ。機動力さえ潰せば後はただの動かない城。乗り込むなり、放置して応援を待つなり、なんとでもなる」

 

 場が騒がしくなっていく中、俺は冒険者達に尋ねた。

 

「さて、まだ他に何かあるか?」

 

 

 

 

「なあ、もしかたらいけるんじゃないのか?」

 

 一人の冒険者の言葉を皮切りに、どんどんと声が増えていく。

 

「ああ、やってやろうじゃないか!」

「何がデストロイヤーだ! アクセルの街にはそれ以上におっかないのがいるって教えてやる!」

「今まで誰もなし得なかった偉業、俺達でやってのけようぜ!」

「前々から気に食わなかったんだ。息子のやつがパパよりデストロイヤーの方が好きだなんて言い出して……。デストロイヤーの真似してだなんて言われても、できるわけないだろ!」

「そんなあなたにアクシズ教! 入信すればなんと、芸達者になれますよ!」

「俺、この戦いが終わったら、お前に言いたいことがあるんだ」

「先に言っとくけど、私あんたのこと恋愛対象だと思ってないから」

 

 俺の提案した作戦により、若干数名を除いて、冒険者達の目に光が戻ってきた。

 この作戦なら勝てる、と盛り上がっている。半ば諦めかけていた分反動が強いのだろう、どこか浮かれ気味にすら感じるほどに。

 これなら問題なくことを進められそうだ。

 

 

「なあお前達、少しいいか」

 

 だがその空気に水を差すように、一人の男が異を唱えてきた。見るからに熟練といった風貌の冒険者は、よく通る声で冒険者達に呼びかけた。

 

「確かに作戦としては今までで一番可能性があるんだろう。デストロイヤーの情報もよく調べてあるし説得力がある。そこに文句はない。……だがな、それで上手くいくのは机の上だけの話だ。何発撃てば結界を壊せるか分からない。足止めをしても詠唱が間に合わないかもしれない。脚を破壊しても終わりではないかもしれない。不明瞭な点は多くある。……そんな作戦にお前達は本当に命を預けられるのか?」

 

 男の呼びかけに、浮かれていた冒険者達は押し黙る。

 あの男も悪意を持って尋ねているのではないだろう。冒険者の先立として、場に流されず自分の意思で命をかけろと言っているのだ。

 場が静まり返る中、ダクネスは一歩前に出て話し始めた。

 

「危険な作戦なのは提案している私達も重々承知している。冒険者が街を守るのは決して義務ではない。自分の命こそ何よりも優先するべきものだ。……だから、これは私個人としてのお願いだ」

 

 始めは淡々と、だが徐々に熱がこもった声に変わっていく。

 

「ここアクセルの街は私にとって、生まれ育った街で、愛してきた街で、どうしても守りたい街なんだ。だが、この街を守るには私一人の力では到底及ばない。守るためにはお前達の力がどうしても必要不可欠なんだ。だからどうか、この街を守るために力を貸してくれないだろうか」

 

 ダクネスはそう言って深く頭を下げた。

 交渉でも駆け引きでもない、ただただ真っ直ぐな言葉。しかし冒険者達の心を揺さぶるのには充分な言葉だった。

 だがまだ足りない。

 どれだけ思いを込めようと、結局それはダクネスにとっての戦う理由で、他の冒険者達にとっての理由にはなり得ない。彼女もそれを分かった上で頼み込んでいる。それでもどうか頼む、と。

 

 

 

 予想外の事態に少し呆気に取られたが、落ち着いて思考を回す。少し予定とは違ってきたが、この状況はむしろ好都合かもしれない。

 ダクネスの真摯な言葉によって、冒険者達の心に再び熱がこもっている。後ひと押し、何か一つ決定的な要素があれば、もう一度火がつく。先程のものよりさらに大きな火が。

 そして俺はその決定的な要素を、冒険者達が戦う理由を事前に用意してある。

 

「ダクネスやそこのあんたの言う通り、この作戦が成功するかどうかはわからない。結局は妄想や願望を織り交ぜた脆い作戦だ。確実性を保証することはできない。………だけどなお前達、忘れたのか? 俺達には守るべきものが、守るべき夢があるだろ」

 

 ここが正念場だ。俺は努めて平静に言葉を選んでいく。

 察しのいい数人の男冒険者達は、ハッとした表情で顔を上げている。

 

「俺がこの街に来てからまだ半年も経っていない。だからそのことに気付けたのはつい最近のことだ。献身的に俺達を支えてくれる人達がいるってことに気づけたのはな」

 

 街の裏側でひっそりと生きているあの人達を思い出す。この街がなくなってしまったら、あの人達はどうなるのだろうか。もう一度商売を始めてくれるのか、そしてこの街のように上手くいくのか。そんなのは身勝手な妄想だ。

 

「俺達に寄り添ってくれた優しい人達。そんな人達にデストロイヤーなんていうふざけた奴が今、牙を剥こうとしている!……なあ、今なんじゃないのか、今までの恩に報いる時は」

 

 一人、また一人と男達は顔を上げていく。その目は駆け出しのものではなく、勇敢な漢の目をしていた。

 その様子に先程の熟練冒険者は満足そうに頷いていた。あの男も志しを同じくする仲間だったようだ。

 

「俺はお前達に可能性を示した。限りなくゼロだった未来に一筋の道を切り開いた。お前達なら、同じ夢を望むお前達なら、この作戦を成功されてくれると信じているからだ!」

 

 彼らの目にもう迷いはない。ここにいるのは己の意思で戦うことを決めた勇者達だ。

 

「敢えて言う! 命をかけてくれ! そして見に行こう! あの夢の先を!」

 

「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 男達の咆哮が轟く。

 不安、恐怖、絶望。そのこと如くを乗り越えてきた彼らを止められる者はもういない。後は突き進むのみだ。

 ギルドを揺らさんばかりに響くその声は、きっとあの人達にも届いているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、男連中はなんであんなに盛り上がってるの? そんなに感動するようなこと言ってた?」

 

「知らないわよ。熱気の割には顔が緩んでたり、変な紙持ってたり、なんか気持ち悪いんだけど」

 

「というか夢って何? あの人達って誰?」

 

 女冒険者達が冷めた目をしているが知ったことではない。

 ありがとう、サキュバスのお姉さん達。あなた達のおかげでみんなの心が一つになりました。やっぱりエロは世界を救うんだな。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

 空は快晴、頭上にある太陽のおかげで冬場にしては暖かい。景色もよく、普段なら弁当を広げてゆっくりしたくなるような陽気だ。そんな穏やかな昼過ぎに、空気の読めない来客が来るそうだ。

 街を囲む城壁、その上で俺はデストロイヤーが来る方角を見つめている。小高い丘がいくつもあるせいか、スキルの千里眼でもその姿は確認できない。

 

『冒険者の皆さん、後三十分ほどで機動要塞デストロイヤーが見えてきます! 姿を確認次第バリケード作りを中断し、デストロイヤーの進路から離れてください! 街の住人の皆さんはギルド職員の指示に従って速やかに街の外に避難してください!』

 

 俺の隣で受け付けのお姉さんが拡声器のような魔道具を使い、正門前の平原で作業を進めている冒険者達に指示を飛ばしていた。そして最後の指示が終わったお姉さんはその魔道具を俺に手渡してきた。

 

「サトウさん。後の作戦の指揮はあなたに一任します。どうかこの街を守ってください」

 

「俺はタイミングの指示をするだけなんですけどね。でも任されました。お姉さんも早く避難してください」

 

「ギルド職員一同、健闘を祈っています。ウィズさんとめぐみんさんも、どうかよろしくお願いします」

 

 

 

 お姉さんは最後に一礼をして城壁を降りていった。

 城壁の上で待機する人員は、指示を出す俺と爆裂魔法を撃つめぐみんとウィズの計三人となった。他の冒険者達は正門前の平原で足止め用の罠を準備したり、爆裂魔法で脚を破壊し尽くせなかった時の保険として待機なりしている。戦えないギルド職員達は住民を先導し避難している。

 つまりは、ようやく一息つけるというわけだ。

 

「…………ぶっはぁああああ! マジで緊張したぁあああ! なんだよあいつら、俺が少し喋っただけで、ゴミを見るような目向けてきてさ! 一言喋るだけでゴリゴリ精神と体力削られるよ! やっぱり善良なカズマさんには人を騙すなんて悪行、荷が重すぎたんだよ!」

 

 極度の緊張から解放され盛大に溜息を吐く。気が抜けたせいか足からも力が抜け、その場に座り込んだ。ギルドで作戦を提案してからどれだけ経っただろうか。ずっと気を張っていたせいで時間感覚が曖昧だ。

 正直今まで焦りが顔に出なかったのは奇跡だと思う。受け付けのお姉さんがここを離れると言った時、内心狂喜乱舞していた。

 そんな俺の姿を、めぐみんは可笑しそうな顔で見てくる。

 

「そうですか? その割には中々の演技力でしたよ。カズマは将来立派な詐欺師になれるでしょうね」

 

「詐欺師に立派もクソもあるか! 褒めるならもっと別の言葉を選んでくれ! というか悪意を持って騙したわけじゃないから、詐欺師呼ばわりは不適切だ!」

 

「おや、すねないでくださいよ。これでもちゃんと褒めているんですから。最後の冒険者達に飛ばしていた檄も、紅魔族的には中々のものでしたよ」

 

 別に言葉選びのセンスを褒めて欲しいわけではないのだが。というか紅魔族的に中々とは褒め言葉なのか?

 あれだけの大立ち回りをしたんだから、もっとちゃんと労ってくれてもいいだろうに。

 

「それはそうとサンキューなウィズ。ウィズがいなかったらあの作戦も思いつかなかったし、こんな高価なマナタイトも用意できなかったよ。ほんとウィズ様々だな」

 

 作戦会議の時にばらまいて見せたマナタイトはウィズの店のものだ。少し前にウィズが、爆裂魔法の魔力すら肩代わりできるマナタイトを仕入れた、と話していたのを思い出し一番初めに彼女の店を訪ねたのだ。

 その時にウィズも爆裂魔法を使えることを知り、エリスの事情を把握している彼女に協力を頼んだ。彼女と共にデストロイヤーの情報をすり合わせ、今回冒険者達に提案した作戦が出来上がった。

 

「いえいえ、私もこの街を守りたい気持ちは一緒ですから。私の方こそ作戦会議の時のフォロー、助かりました。私が口下手なせいで冒険者さん達を上手く騙せずに、ご迷惑をおかけしました。次はカズマさんみたいに上手く騙せるよう精進します!」

 

「……そんな騙す、騙すと連呼しないでくれ。本物の悪人になった気分になるから」

 

 冒険者達に提案した作戦。あれは絶対に成功しない。

 冒険者達に見せたマナタイトの中で、爆裂魔法を使える程高純度な物は一つだけ。他のマナタイトは高品質ではあるものの、爆裂魔法を撃てるほどの魔力はこもっていない。 

 つまり、作戦の要である複数回の爆裂魔法は、はなから不可能なのである。

 だけど駆け出し冒険者達からすれば、どちらも規格外の上物にしか見えないだろう。よしんば冒険者達がマナタイトの質の差に気づいたとしても、爆裂魔法を撃てるだけの魔力があるかどうかは分からない。

 爆裂魔法で消費する魔力、その正確な量を知っているのは使っている者にしか分からない。そして爆裂魔法を使えるのは、ウィズのような人ならざる者か、ウチのパーティーの爆裂バカくらいだ。

 

 まあそもそも、その作戦自体三流がいいところだろうが。最後に発言していた熟練風の冒険者の指摘はかなり的を射ていた。

 確かに爆裂魔法を複数発撃てば魔力結界は壊せる。だがその複数発が何発必要かは分からないのだ。なにせ前例がない。ウィズとめぐみんも壊せるということは保証していたが、十数個のマナタイトで足りるかどうかは判断できなかった。

 足止めのことも、詠唱が間に合うかどうかも、結局のところは過去の記録から都合よく想像した物に過ぎない。仮にマナタイトが全部本物だったとしても、あの作戦の成功率は低かっただろう。

 だが提案した俺達から見れば、作戦の成功率は低くても問題はなかった。重要だったのは可能性があるということ。

 可能性さえあれはギルドも動くし、冒険者達(男限定)を扇動できる自信もあった。まあたとえ俺が扇動しなくとも、住み慣れた街を簡単に見捨てるような奴らではないだろうが。

 

 嘘の情報で塗り固め、人の弱みにつけ込むような作戦とは、なんともタチが悪い。こう考えていると詐欺師呼ばわりはまだマシな気がしてきた。そのまま作戦を決行したなら街は滅びて、冒険者達にも少なくない被害が出ただろう。魔王軍も真っ青な極悪人の誕生だ。

 

 

 

 まあ、そうならないために彼女がいるのだが。

 

「もう部外者はいなくなったぞ。どこに隠れてるかは分からんが、そろそろ出てきたらどうだ」

 

 城壁の上、俺を含めて三人しかいないように見える空間で彼女を呼ぶ。

 すると急に視界が何かで覆われた。この柔らかい感触は手のひらだろうか。背後から楽しげな声が聞こえてくる。

 

「どこにいるかと聞かれたら、あなたの後ろと答えましょう。隙だらけだよ、カズマ君」

 

「……お前な。俺が必死こいて人をかき集めて来たっていうのに、何遊んでんだよ」

 

「だって、待ってるだけって退屈だったんだもん」

 

 なんだそのぶりっ子みたいな語尾は。あざとい、さすが女神あざとい。

 目隠しをしてきた手を振り払い背後を振り返ると、悪戯が成功した子供みたいに笑うクリスがそこにいた。

 

「おやクリス、いつのまにそんな所に。さすがの私も気付きませんでしたよ」

 

「これでも本職は盗賊だからね、隠れるのはお手の物だよ。めぐみんなんて簡単に欺けるんだから」

 

「そんなに言うのなら今度隠れんぼでもしてみますか? 我が爆裂魔法で隠れ場所から燻り出してあげますよ」

 

 それはもはや遊びの範疇を超えているのではなかろうか。遊びにも本気になれと言う輩はいるが限度がある。

 

 今回クリスには別行動をしてもらっていた。理由は見ての通り、誰にも気付かれることなく、真っ先にここに潜んでもらうためだ。

 ここは城壁の上。見通しが良く、爆裂魔法を撃ち込むには適している反面、もし作戦が失敗したなら逃げるのに時間がかかる場所だ。そんな場所に好き好んで来るやつはいない。

 それに高低差があるので下からの目線が通りづらい。そもそもデストロイヤーを迎え撃つために忙しく作業している冒険者達が、こちらを見上げてくることは滅多にないだろう。気をつけていればまず見つかることはない。

 つまり隠れ場所としては絶好のポジションというわけだ。

 

 今回の作戦の本当のシナリオはこうだ。

 デストロイヤーに立ち向かう冒険者達。望みが薄いと分かっていながら諦めずに挑む彼等の姿を見て、慈悲深き女神エリスが天界から降りてきて冒険者達に手を貸す。女神の力によって結界は破られ、その後は彼らに話した作戦と同じ流れをたどる。

 なんとも陳腐な筋書きだ。子供でももっとマシな物を書く。まあこの作戦を考えたのは俺だけど。

 エリスにはデストロイヤーの結界を破壊した後はすぐに退散してもらう。今回デストロイヤーを討伐するに当たって、エリスは女神として衆目の前に出るのを良しとした。だが、クリス=エリスの関係まで教える必要はないだろう。

 

「それじゃあ二人とも、あたしがしっかり結界を壊すから、その後は任せたよ。デストロイヤーに一発派手なの撃ち込んでやってね」

 

「わ、分かっていますとも。たとえ相手があのデストロイヤーと言えども、わ、我が爆裂魔法の前に敵はいません。ええ、きっと」

 

「任せてください! 作戦会議の時に迷惑をかけた分、しっかり働かせてもらいます! リッチーは最上位のアンデッドの一人。その力、今こそ発揮して見せます!……でも、もし失敗しても怒らないでくださいね」

 

 クリスが作戦の要である二人を鼓舞している。めぐみんが落ち着かない様子に対して、ウィズは割と余裕そうだ。

 

「ほら、めぐみんはもっとリラックスして。ウィズさんみたいに気楽に構えてたらいいから。でも、もし失敗したら気紛れで浄化魔法を撃っちゃうかもしれないから、ウィズさんはそのつもりで頑張ってね」

 

「さっきのは冗談ですから! そんな怖い顔しないでください!」

 

「わ、私の手にウィズの命までかかってくるとは。………いえ、よく考えたら既に死んでいるリッチーだから気にしなくてもいいのでは?」

 

「めぐみんさんまで酷いです!」

 

 もうすぐ作戦の時間だというのに、クリスとウィズはいつも通りといった感じで冗談を言い合っている。まあクリスの方は二割は本気で言ってた気がするが。

 だがめぐみんはまだ緊張しているのか、落ち着かないそぶりで杖を握りしめている。

 本当は預けたくないんだが、仕方がない。俺は袋から一番質の良いマナタイトを取り出し、めぐみんに手渡した。

 

「ほら、これはお前が持ってろ。絶対に無くすなよ」

 

「え? カ、カズマ! これ貰ってもいいんですか?!」

 

「バカっ、違うに決まってるだろ! それ一個で俺達の借金が返せるくらいの値段がするんだぞ! それはお守りみたいなもんだよ」

 

「お守り?」

 

「そうだ。もしお前がデストロイヤーの脚を壊し損ねても、もう一発分あれば安心だろ」

 

「おい、どうして私が失敗する前提で話を進める」

 

 しおらしい態度から一転、チンピラモードに早変わりするめぐみんであった。実はこいつあんまり緊張してないのではなかろうか。

 

「そういう意味じゃない。保険があるんだから失敗なんて気にするなって言ってるんだよ。どうせお前は爆裂魔法を撃つしか能がないんだ。ならその一つのことだけ考えてればいいんだよ。いつも通り、ただただ全力で撃て。それが今日のお前の役割だよ」

 

「……物申したい点はいくつかありますが。……そうですね、おかげで目が覚めました。我が爆裂道に余分な思考は不要。カズマにはいつも通り、全力の我が最強魔法を見せつけてあげますよ!」

 

「ああ、いつも通り期待してるよ」

 

 ようやく本調子に戻ったのか、めぐみんは力強く宣言してきた。

 まったく。手のかかるやつだが、やはりこいつはこうでないとな。

 

 

 

「人手をもっとこっちによこしてくれ! 今のままだとバリケードが間に合わないぞ!」

「土木業者の住民が手伝ってくれてるんだ! それ以上人数を増やしてもかえって邪魔になるぞ!」

 

「クリエイター連中はそろそろ切り上げろ! もう少しでデストロイヤーが見えてくるぞ!」

「心配してくれるところ悪いが、俺達はもうちょっと粘らせてもらう! デストロイヤーみたいなデカブツを相手にするんだ! 半端なゴーレムじゃ意味がない!」

 

 デストロイヤー到着までおよそ十分。正門の前ではまだ作業をしている冒険者達がいた。あの様子だとデストロイヤーが来るギリギリまで作業をしてそうだ。

 クリスはそんな人達の姿を、頑張る子供を応援する母親みたいな目で、愛おしそうに眺めていた。

 

「あんまり顔を出すなよ。せっかく隠れてたのにバレたら台無しだろ」

 

「大丈夫だよ。潜伏スキルで気配は薄くなってるし、みんな目の前のことを頑張ってるから気づかないよ」

 

 俺が注意しても止める様子はないようだ。まあ本人が大丈夫と言うのならそれでいいか。

 作戦開始まで時間も残り少ない。最終確認もかねて、気になっていたことを彼女に尋ねてみた。

 

「いまさらだけど、本当にあの作戦で進めていいのか? 後で文句言ってきても受け付けないぞ」

 

「本当にいまさらだね。もうちょっとでデストロイヤーが来るんだよ。それともカズマ君は別の作戦でも思いついたの?」

 

「そんな都合のいい物はない。……ただの確認だよ。悪魔が来た時も、ベルディアが現れた時も、お前は極力女神としての姿は見せないようにしてただろ。今回、無理してんじゃないかと思ってな」

 

 天界の規定とは別に、エリスは自分の意思で今まで素性を隠してきた。感情的に女神の力を使おうとしていたことはあったが、結局人前で使ったのは俺を蘇生させるために使った一度きりだ。

 今回、エリスは女神として大勢の前に出ると決めたが、彼女にとってそれは軽い決断ではないはずだ。いまさら作戦を変えることはできないが、話ぐらいは聞いてやりたかった。

 だがそんな俺の心配とは裏腹に、クリスは、あーそのことか、とあっけからんに話し始めた。

 

「カズマ君には前に一度話したよね、あたしが女神として人前に現れない理由。この世界の人達が女神という存在に頼り切りにならないようにってやつ」

 

「ちゃんと覚えてるよ。いや、細かいところまでは怪しいけどな」

 

 あれはホーストとかいう悪魔に逃げられた時だったか。森の中でどこか苦しそうに話すエリスの姿が脳裏に焼きついている。

 

「あたしは女神エリスとして、この世界の人達には平和に暮らしてほしいんだ。でもその平和は神様が与える物じゃなくて、自分達の手で掴んでほしいとも思ってる。だから女神として直接手助けするのは控えてるんだ」

 

「それだとこの作戦はお前の望む展開と違うんじゃないのか? お前は女神として俺達冒険者を助けるって筋書きなんだぞ」

 

「そうだね、言ってることと矛盾してる。だから今回の事例は特別。女神の気紛れってやつだよ」

 

「気紛れって、お前な……」

 

 適当が過ぎないか。それじゃあ今まで必死に隠してきたのはなんだったのだろうか。

 俺の呆れた視線に、クリスはクスクスと笑っている。

 

「だってしょうがないでしょ、あの子頑固なんだもん。あたしが忠告しても、この街のためだって引く気はなし。まあ、そこがあの子のいい所でもあるんだけどね。……だったら友人として、力を貸してあげるしかないじゃない」

 

 冒険者達が作っているバリケード、その更に先で立ち塞がっているダクネスを見ながら話している。人が再三説得してもあの場所を動こうとしなかったあいつは、なるほど確かに頑固クルセイダーだ。

 

「それに、冒険者や街の住人関係なく、こんなに沢山の人達が自分達の街を守ろうって頑張ってるんだよ。そんな姿を目の前で見せられたら、手伝ってあげたくなっちゃうよ」

 

 眼下の冒険者達はまだ作業を続けている。目視してないとはいえ、デストロイヤー襲来までもう時間がないはずだ。これ以上の作業は誤差にすぎないのだが、それでも彼らが手を止める様子はなかった。

 

「あたしはね、人が頑張ってる姿を見るのが好き。一生懸命努力して望む未来を掴み取ろうとしてる人達が大好き。そういう人達こそ、報われてほしいと思ってる」

 

 街を守るために最後まで戦うと誓ったダクネス。意味がないかもしれないと分かっていながら、それでも自分のできることをやろうとする冒険者達。

 そんな彼らの諦めない心が、女神の琴線に触れたのだろうか。

 

「だからあたしは女神として、この街を守るために力を使う。そのことに対する迷いなんて、これっぽっちもないよ」

 

 彼女は迷いのない声で言い切った。そこにいつかの森で見た葛藤は欠片も見られない。

 俺みたいな小狡いだけの一般人に、神様視点の考え方なんて分からない。今回の彼女の決断が正しいかどうかは判断できないし、彼女みたいな綺麗な思いを真に理解することはできない。

 だけど、彼女が何も抱え込んでいない、ただ自分の在りたいように振る舞っているのが分かれば、それで充分だ。

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

「デストロイヤーが見えてきたぞ! 罠作りを中断して急いで進路から離れろ!」

 

 遠目がきくアーチャー職が大声で周りの冒険者達に呼びかけている。

 

 機動要塞デストロイヤー。

 俺と同じようにこの世界に送られてきた日本人の誰かが、その名前をつけたそうだ。ふざけた名前だと一蹴したくなるが、なるほど、その姿を見たらその日本人の名付けも納得してしまう。

 遠く離れた丘の向こうからその頭が見えてきた。

 次に感じたのは震動。足の裏から大地が震えているのを感じる。

 そして丘からその全容をあらわにした時、正直さっさと逃げればよかったかな、なんて思ってしまった。

 

「これ、本当に俺達で倒せるのか?」

 

 心の声がつい口から漏れてしまったのは、仕方がないことだろう。

 

「なあ、クリス! 大丈夫だよな! 本当に大丈夫だよな! お前が作戦の要なんだからな! 絶対失敗するんじゃないぞ!」

 

「ちょっとカズマ君、落ち着いて! さっきまでの余裕そうな雰囲気はどこ行ったの?! 大丈夫だから、あたしが頑張って結界は壊すから!」

 

 クモみたいな姿をしたそれは、八本の脚を動かしながらこちらに向かってくる。なるほど、大きさは城並みと言って差し支えないだろう。千里眼で見る限り、手配書や伝聞から想像していた姿となんら違いはない。

 しかし当然のことだが、現実と想像は違う。

 想像の中ではこんな圧倒的な質量は感じなかった。押し潰してくるような威圧感は感じなかった。こんな、絶望は感じなかった。

 敵は大物賞金首、機動要塞デストロイヤー。何百年と国を荒らし続け、誰一人その走破を止められなかった破壊者だ。機械仕掛けにそんな物があるのかと言いたくなるが、感じる年季が違う。その規格外の巨躯から感じる存在感は人の精神を容易くへし折りにくる。

 どれだけ情報を精査して想像を重ねようと、現実はそれを軽く砕いて蹂躙してくる。そんな分かりきっていたことを、あの巨大な化け物は体現してくる。

 

 めぐみんとウィズは既に配置に付いている。城壁の上で左右に分かれるように位置して、俺達の動きを待っている。

 作戦の起点はエリスが魔力結界を破るところからだ。エリスに姿を変えた時点で潜伏スキルは効果を失い、結界を破るための魔法を使えば確実に冒険者達の目につく。

 冒険者達は困惑か驚愕するかの二択だろうが、俺は偶然の出来事を装って、めぐみんとウィズに指示を出す。そして二人がデストロイヤーの脚を破壊して機動力を奪い、動きを止めた後に内部に突入する。

 

 作戦の筋書きはできている、後はそれをなぞるだけだ。だがあの巨体を見ていると二の足を踏んでしまう。失敗した時のことを想像して躊躇ってしまう。

 今回の作戦は俺が発案したものだ。冒険者達は自分の意思で戦うことを決めたとはいえ、それを扇動したのは俺だ、責任は俺にある。

 もしデストロイヤーの破壊を失敗したら。もし街を守れなかったら。もし誰かが死ぬようなことがあったら。結果を見ることが怖い。逃げ出してしまいたい。全部投げ出してしまいたい。

 後ろ向きな思考が脳を侵食していく。デストロイヤーがもうすぐ射程内に入るというのに、いまさらになって怖気付いてしまった。

 迫り来る巨大な化け物、無くなっていく時間、責任による重圧。焦りがまた別の焦りを呼び、呼吸すらままならなくなる。

 俺の役目はただ指示を飛ばすだけだ。そんな簡単なことのはずなのに、喉に粘っこいものがへばりついて声が出ない。

 だが俺が指示を出さずとも、彼女達は自分で判断できるだろう。ならばもう流れに身を任せて、目を逸らしてしまえ。俺にできることなんて何もないのだから。

 思考がどこか自暴自棄に染まっていく中。俺の手に優しい温もりが重ねられた。

 

「カズマ君は知ってる? 神様にとって信仰心、人の思いってすごく大事なことなんだ。それがそのまま神様の力になるからね。その思いが強いほど神様の力は強くなるんだよ。だから…」

 

 俺の横顔から何かを察したのか、クリスは俺の右手を両の手で包み込みながら、優しげな笑みを浮かべている。そして。

 

「だから、私を信じてください。あなたの思いがあれば、きっと私はやり遂げられます。めぐみん達を信じてください。いつもみたいに全部吹き飛ばしてくれますよ。ダクネスも……そうですね、ダクネスも信じてあげてください。たとえデストロイヤーが止まらなくとも、きっとあの子が押し留めてくれますよ」

 

 最後に冗談めかしたように笑いながら、エリスはにこやかに励ましてきた。

 握られた手からじんわりと熱が戻ってくる。霧がかった思考が晴れていく。あんなに大きく見えたデストロイヤーが、今では小さくすら見える。

 彼女がいればなんだってできる。そんな馬鹿げたことまで考えてしまいそうだ。

 

「……なんかカッコ悪いとこ見せちまったな。せっかくの頼りになるリーダー像が台無しだ」

 

「残念ですが、カッコ悪い所はもうたくさん見てますよ。いまさら一つ増えたところで変わりません」

 

「じゃあ帰ったら今日のカズマさんのカッコイイ活躍を語ってやろう。感動のあまり泣き出すこと請け合いだ」

 

「それは楽しみです。それじゃあ、あそこにいる変なヤツをさっさとぶっ壊しましょうか!」

 

 デストロイヤーを指差しながら、女神とは思えない物騒な発言をするエリスに思わず笑ってしまう。だが確かにあのデカブツのせいで今日一日大変だった。腹いせに盛大にやってもらおうか。

 

「お前の魔法が作戦の狼煙だ。魔力結界とやら、しっかりぶっ壊してやれよ!」

 

「ええ、そこで見ていてください。あなたがここまで頑張ってくれたんです。私もその思いに応えるため、全力を尽くします!」

 

 いつも頼りになる彼女が、いつも以上に気合十分といったところか。

 俺ができることは後一つ、彼女や他の仲間達を信じて待つことだけだ。

 一歩前に出たエリスの背に声をかける。

 

「任せたぞ、女神様!」

 

 

  ーーーーーーーー

 

 

「でけえ! それにこええ!」

 

「落ち着け! そんな所に突っ立ってると踏み潰されるぞ!」

 

 機動要塞デストロイヤー。数多の街、数多の国を踏み潰してきた最悪の賞金首は、駆け出しの街を蹂躙せんと、その八本の脚をせわしなく動かしている。クモの様な外見の巨大ゴーレムはその背に砦を乗せ、進行方向にある街も人も気にせず、ただ機械的に前へ前へと進んでいく。

 

「カズマ達はまだなのか! このままじゃ街が潰されちまうぞ!」

 

「まだ射程外のはずだ! 無駄口叩いてないで信じて待ってろ!」

 

「そんなこと言っても、早くしないとあの嬢ちゃんも踏み潰されるぞ!」

 

 確実に近づいてくる暴威に、冒険者達は見ていることしかできない。 

 バリケードはできる限りの数を用意した。罠も時間が許す限り設置した。ギリギリまで粘ってゴーレム達を起動させた。

 彼らは全力を尽くした。これ以上ないほどに。自分の持てるもの全てを使って。

 だからもう彼らにできることは一つだけ。作戦が成功するよう、神に祈りを捧げることぐらいだ。

 日頃から神を崇めているプリーストから、酒場に入り浸っている無信心な荒くれまで。信仰の差はあれどその場にいる誰もが、迫り来る絶望から救ってくれと心の中で願った。

 そしてデストロイヤーが射程内に差し掛かり、冒険者達は自然と爆裂魔法を撃つ二人がいる城壁の方を見上げると。

 

「誰だ、あの嬢ちゃん?」

 

「……あの御姿は、もしや……」

 

 見慣れない少女が一人、正門の真上、今回の作戦を立てた冒険者の隣に立っていた。遠目から見ても分かるほど神々しさを感じさせるその姿に、知っている者は驚愕し、知らない者もただ人ではないと判断した。

 

 突然の謎の少女の登場に動じなかったのはただ一つ。機械的に前へと進むデストロイヤーだけだ。もはや災害の一つに数えられるまで畏れられたその暴威は何者も恐れず前へ進む。

 冒険者達の仕掛けた罠をものともせず、残るは最後の砦であるバリケードと女騎士だけとなった。それすらも踏み潰し街へと向かおうとする。

 それを許さないとばかりに、少女は複雑な魔法陣を展開、その手に白い光の玉を浮かべた。それを目の前にかざし暴威を振り撒く災害へと撃ち出した。

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』っっ!!」

 

 撃ち出された光はデストロイヤーに触れる前に何かの障壁と接触する。魔力結界、ただでさえ破壊が困難な要塞をさらに強固な物にしているそれは、撃ち込まれた光と一瞬こそ拮抗したように見えたが、ガラスのように粉々に弾け散った。

 結界の破壊を見た冒険者が次の指示を出す。

 もしこの機械仕掛けに精神が宿っていたならこう考えていただろう。たかが守りが一枚抜かれただけ、己が巨躯を破壊する術など存在しない、と。

 だがこの街にはその術がある。人が扱える攻撃手段、その極点に位置する魔法、爆裂魔法を扱える者が二人存在している。一人は魔道の果てにその魔法を習得し、一人はその魔法を己が人生と定めた。

 城壁の上で二人は朗々と詠唱を紡ぐ。言葉一つで周囲の魔力が猛り、昂り、荒れ狂う。

 ただの災害が神すら滅ぼしうる究極の破壊魔法、爆裂魔法に打ち勝てるのか。否である。暴威はさらにその上をいく圧倒的暴力によって叩きつぶされる定めだ。

 詠唱が終わる。周囲の景色が歪むほどの高密度の魔力の塊が二つ。撃ち込む相手はただ一つだ。

 そして、それは放たれた。

 

「「『エクスプロージョン』っっ!!」」

 

 天高く立ち昇る爆焔。吹き荒ぶ暴風。大地を揺らす轟音。

 人類最強魔法、その名に恥じぬ様相が過ぎ去った後。

 同じタイミングで放たれた二人の魔法は、機動要塞の脚を一つ残らず粉砕していた。

 

 

 

 




作戦がガバい、そうはならんやろ、キャラ違くね? 等のツッコミは受け付けていませんので悪しからず。

というわけでデストロイヤー戦前半でした。
色々ごちゃごちゃやってますが、結局行き着くところは原作と同じ作戦です。正直アレ以外でデストロイヤー倒すのかなり厳しいので、しょうがない。

原作アクアは特に気にせず女神として振る舞ってる分、この作品のエリス様がまるで縛りプレイを楽しんでるみたいですが、二重の意味で違います。
この作品の解釈では、
アクアは天界の規定なんて知るか、私は自由にやるのよと、その場のノリで生きてます。自由奔放さはある意味神様らしいです。
エリスは天界の規定を守るのがこの世界の人のためだと考え、人々のためにあえて女神の力を使わない。別にルールに縛られているわけではなく自分の意思でルールに則っています。
一応そこら辺の説明は今回の話と『怒れる女神と男の思い♯2』の後半部分でしています。
まあつまり、別にエリス様は非情な人じゃないよ。変な制限付けた作者の設定の練りの甘さが悪いんだよ。ということが言いたいわけです。


カズマさんが原作と違い余裕がない雰囲気でしたが、原作はなんだかんだ流れで作戦が決まっていったのに対して、今回は自分の意思でこの作戦を決行したので責任の重さが増えてるとかそんな感じです。



読んでくださった読者の皆さんに深く感謝を。
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