この素晴らしい世界でエリス様ルートを 作:エリス様はメインヒロイン
今回はギャグ多め、過去最長ではありません。
(17500字)
二つの爆裂魔法により脚を破壊されたデストロイヤーは、その巨体を地に伏し慣性に従って街へと滑ってくる。轟音を上げながら大地を抉り迫るその姿は、まるで最後の足掻きのようだ。
だがそんな足掻きが長く続くことはなく、街の前に展開されたバリケード、その先にいるダクネスの目の前でその動きを止めた。起動から何百年も大陸を蹂躙してきた機動要塞デストロイヤー。その走破が止められた瞬間だ。
脚は左右どちらも一本残らず破壊され修復は不可能だろう。爆裂魔法が最強の攻撃手段と呼ばれるのも納得の破壊力だ。
だがめぐみんが壊した脚の方では大きめな破片が散らばっているのに対して、ウィズの方は塵一つ残ってない。つまりウィズの爆裂魔法の方が破壊力が上だったということだ。
「ぐぬぬ……。さすがはリッチーと言った所でしょうか。まさかこの私が爆裂魔法において後れを取ろうとは」
爆裂魔法の反動でぶっ倒れためぐみんを起こしに来ると、うつ伏せに倒れたまま無念そうに呟く彼女がいた。
「よう、お疲れさん。そんな悔しがってないで、もっと喜べ。お前は自分の役割をきっちりこなしたんだからな」
「同情の言葉なんていりません。我が爆裂道に敗北は不要なのです。カズマに最強魔法を見せつけると言ったのにこの体たらくとは……」
これだけの戦果を上げたというのにまだ不満があるようだ。こいつの向上心には目を見張るものがあるな。まあ方向性はお察しだが。
「はいはい、頑張るのはまた今度な。俺から見たら今回の爆裂魔法は百点満点だよ。今日はそれで満足してくれ」
「むう……カズマがそう言うのなら、今日の所はよしとしましょう」
渋々ではあるが納得してくれたようだ。俺は倒れためぐみんを起こし背負う。爆裂魔法とかいうとんでも魔法を使うにしては、あまりに小さな体だ。
エリスはすでに姿をくらまし、ウィズも下に降りていったようだ。俺達も早く降りるとしよう。
「それにしても、ウィズは普段おっとりとした雰囲気のくせして、あんなに凄まじい一撃を放つとは。あそこまでの物を見せつけられると、いっそ清々しいですね」
「なんだ、珍しくベタ褒めじゃないか。俺にはそこまでの差は感じなかったけど、そんなに凄かったか?」
「ウィズは無手、つまり杖なしであの威力の魔法を放ったんです。魔法使いにとって杖は魔法の安定と威力の向上を担う物。リッチーであることを差し引いても生前はさぞ名のある魔法使いだったんでしょうね。一体私と何が違うのか……」
めぐみんとウィズ、両者の違いか。まあ当然色々あるだろうが、パッと頭に浮かんだのは胸部装甲の違いだ。
俺の背中にギリギリ感じるかどうかの膨らみは、未だ発展途上。例えるなら初級魔法級だ。
それに対しウィズは普段おっとりとしているくせに、凄まじいものを持っている。こちらは爆裂魔法級と言ったところか。
なるほど。比べてみれば今回の勝敗は明らかだったというわけか。同じパーティーを組むものとして、今後のめぐみんの成長に期待したい。
「おい。何かとてつもなく失礼なことを考えている気がするのですが」
そんなことはない。俺はただ、ありのままの現実について考えを巡らせていたに過ぎない。
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あの後めぐみんと一悶着あったが、とりあえず安全な場所まで運び終えた。そしてデストロイヤーの様子を見に平原へと向かうと、待っていた冒険者達に囲まれた。理由はまあ、だいたい予想がつく。
「なあカズマ! あの隣にいた美人の姉ちゃん誰だ?!」
「あんな隠し球がいたなんて聞いてないぞ! 詫びとしてあのお嬢ちゃんのことを教えろ!」
「あの御姿はエリス様に違いありません! それをあなたはあんなに近くで……。羨ましい、ぜひ感想を教えてください!」
半壊してるデストロイヤーそっちのけで、冒険者達は一様にエリスのことを質問攻めをしてくる。騙していたという後ろめたいこともあってか、スキャンダル起こしてマスコミに取り囲まれる芸能人になった気分だ。
「ええい群がってくるな、鬱陶しい! ……俺もわけがわからないんだ。気づいたら隣にいて、私はエリスですって名乗ったかと思えば、頼んでもないのに魔法で結界破ってくれたんだよ。爆裂魔法を撃った後に礼をしようと思ったらまたいつのまにか居なくなってたしな」
事前に考えていたシナリオ通りの説明をしてやると、そんなこともあるんだなと、冒険者達はわりかしあっさりと納得してしまった。どうやって誤魔化すか悩んでいた俺としては大変都合がいいのだが、簡単に信じすぎじゃないか。
いや、日本人である俺からすればおかしな話だが、ここは神様の存在が当たり前に信じられている世界だ。だからこそ、こんな茶番じみたシナリオでも奇跡として自然に受け入れられるのかもしれない。
「ああ、でも本当に羨ましい。エリス様をあんな間近で拝謁した上に声をかけて頂いたなんて。エリス様は他に何か仰っておいででしたか!」
エリス教徒のプリーストなのだろう女性は、世間一般の清廉潔白なイメージは何処へやら大興奮のご様子だ。自身が信仰する女神のことを何でもいいから聞き出そうとグイグイ迫ってくる姿はあまりに狂信的だ。普通に怖い。
「そ、そうだな。確か、みんな頑張ってるから私が力を貸してあげますよ、とか言ってたぞ」
「ああ、そんなもったいないお言葉を! 感謝しますエリス様! 他に、他にはないですか!」
「他? 他は、えーっと。神前にはお酒をいっぱい奉納してほしいとも言ってたぞ。後は、胸の大きさなんて気にせずに強く生きて……」
「ちょっと! 何適当なこと言ってるのさ?!」
エリス教徒のあまりの圧に適当なことを口走っていると。間違った神の教えを吹聴する俺を罰するためにその御神体様、まあ端的に言ってクリスが唐突に現れ、抗議の声をあげてきた。
「あたしの……じゃなくて、エリス教徒の人に嘘つくのはやめてくれる?! ごめんね、あたしの仲間が変なこと言って。さっきの言葉は忘れていいから。というかお願いだから忘れて!」
「いえエリス様の隣にいた彼が聞いたお言葉ですから、真実に違いありません! このことを他の信徒達にも伝えなければ! あなたもエリス教徒のようですし、胸のことなんて気にせず真っ直ぐ生きていきましょうね!」
「待って! 違うから! エリス様は絶対そんなこと言わないからああああ!」
こうしてエリス教の教えにまた一つ、新しい文言が加わったのだった。何かとてつもなくまずい事をした気がするが、先程のエリス教徒は大変感激していたので大丈夫だろう。
ある程度周りが落ち着いたところで冒険者達から離れ、クリスに小声で尋ねた。
「そんなすぐに人前に出てきて正体バレないのか。遠目とはいえほとんどの冒険者達がエリスの姿を見てたんだぞ」
「大丈夫だと思うよ。この街の人はあたしのことをクリスという盗賊だと認識してるからね。さっきの人もあたしの言葉より君のでまかせを信じちゃったし。カズマ君みたいに酒飲み胸無し盗賊としか思ってないんじゃない」
心配して声をかけたのに刺々しい返事が返ってくる。俺も深く考えずに言葉を発してしまったとはいえ、エリスの普段の行動から鑑みるに、あながち的外れな言葉でもなかったはずだ。だからそんな睨まないでほしい。
だが確かにクリスの言う通り、冒険者達は特に驚いた素振りもなく、いつも通りの雰囲気でクリスを見ている。
エリスとクリスでは印象が正反対だ。癒し系女神様とボーイッシュ系盗賊。髪の長さや頬の傷、他にも細かい所で特徴が違う。同一人物だと判断するのは難しいのだろう。
まあそこら辺の話は後回しでいい。
改めて停止したデストロイヤーを見上げる。要塞の中にはデストロイヤーを暴走させた開発者が、アンデッドとなって今もなお操っていると聞くが、その割には不気味なまでに反応がない。
だが一番やっかいな機動力は潰した。後はゆっくり城攻めに移行すればいい。
そう考えていたのだが。
『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難して下さい。この機体は……』
「はい?」
大地が震えるような振動が始まったかと思うと、機動要塞内部から機械的な警告音が鳴り響いてきた。音声の内容と経験則から推測するに、エネルギーが消費できなくなったデストロイヤーは、いずれそのエネルギーを抑えられなくなり爆発するのだろう。
一筋縄ではいかないと思ってはいたが、まさか自爆展開とは。一周回って予想外だ。これを操っている奴はお約束という物ををよくわかっている。中で出会ったら一発ぶん殴ってやるとしよう。
「こ、このままデストロイヤーが爆発したらお店が…お店が無くなっちゃう……。ま、まだ借金が残ってるのに……」
ウィズがいろんな意味で悲痛な声を上げている。周りにいた冒険者の中にも、デストロイヤーが爆発することを把握して慌てている奴らがいる。
だがその動揺も一時。彼らには命をかけてでも戦う理由があるのだ。
「怖気ずくな! 俺達には守るべき場所があるだろ!」
一人の冒険者の掛け声に周りの男達も気合の雄叫びをあげる。
サキュバスの店。彼らの拠り所であり、この戦いへの参加を決定づけた物だ。それを守るためなら彼らはその生命だってかけられる。
アーチャー職がフック付きのロープがついた矢をデストロイヤーの甲板目掛けて放ち、それを伝って男達はデストロイヤーへと登っていく。
冒険者達がああなってしまったのは俺にも責任がある。爆発寸前のデストロイヤーなんて近づきたくもないが、俺もあいつらの後に続こう。
「よし、俺達も早くデストロイヤーに……」
「俺達には女神様がついてるんだ! あの店のためにも絶対に引けねえぞ!」
「ああ! あの遠目からでもわかる包容力の塊みたいな神々しさ、まさに女神、まさに母! 今晩の夢は決まりだな!」
「待っててくださいエリス様! 今夜あなたに会いに行きます!」
「…………」
冒険者達の後に続こうと思っていたのだが。
男達の欲望だだ漏れな雄叫びが聞こえてくる。やれ女神だの、やれ夢がどうだの、好き放題叫んでいる。
「カズマ君、あたし達も早く行こう!」
「お構いなく」
「この街のためにも絶対にデストロイヤーを………ねえ、どうしてそんな冷めた目してるの?」
この街もあの店も滅んでしまえばいい。
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クリスの説得により、嫌々ながらもデストロイヤーにかかったロープを登る。
デストロイヤーをうまく停止できるかはまだ未知数だが、とりあえず全部が終わったら速攻でサキュバスの店に行こう。そして女神エリスを夢には出さないようお願いする。つい昨日にサキュバスの子を助けたばかりだし、少しばかりは融通が利くだろう。危険な目に合ったのは俺の不注意のせいで、マッチポンプな気もするがこの際気にしない。最悪あの時のプリーストを送り込むぞと脅すのも辞さない覚悟だ。
「ゴーレム共をぶっ壊せ! 廃品屋送りだ!」
「崩して、潰して、ぶっ壊す!」
「ヒャッハー! このハンマーで叩き潰す感覚! たまらねえぜ!オラ、次かかってこい!」
甲板に上がると冒険者達が機動要塞内のゴーレム達と戦闘していた。大小様々なゴーレムがいるが、冒険者達は次々と破壊していく。駆け出しの街とは一体何だったのかと言いたくなる快進撃だ。
だがゴーレム達もそれに負けじと、要塞内部からワラワラと現れてくる。その内の一体がこちらを標的と定め向かってきた。某RPGみたくレンガを組み合わせた見た目のゴーレムが、目の前に迫ってくる。
「ここはあたしに任せて! 『スティール』っ!」
クリスはゴーレムが俺達に殴りかかろうとする前に、窃盗スキルを使ったかと思えば、次の瞬間ゴーレムの頭部が消え、クリスの手からゴトリと落ちた。重要なパーツを失ったゴーレムは機能を停止、そのまま崩れ落ちた。
「おお! やるな!」
「ふふん。盗賊スキルは攻撃系の物は少ないけど、こんな使い方もできるんだよ。まあ幸運が高いあたしだからできる芸当だけどね。でも……」
クリスが得意気に語る中、また別のゴーレムが近づいてくる。今度のやつは俺の方が距離が近いな。
「俺も負けてられないな。『スティール』っ!」
「あっ、ちょっと待っ…!」
窃盗スキルを使うと、俺の手にはクリスの時と同じように、ゴーレムの頭部が乗っていた。運がいいのは俺だって同じだ。計画通りゴーレムは停止し、持っていた頭部は、その見た目以上の重さから繰り出される圧倒的位置エネルギーを余すことなく俺の手に伝え、そのまま地面に直行、俺の手を押しつぶしたのである。
「いっでぇええええええ?!」
「だ、大丈夫?! 慣れてない人がやると、手を引くのが遅れて危ないから真似しちゃダメだよ!」
「そういう大事なことは先に言ってくれませんかね!」
「ご、ごめん。……じゃなくて、あたしが説明してる時に先走ったのはカズマ君だよ!」
俺とクリスが騒いでる間にも、ゴーレム達は問答無用で襲ってくる。今度は先程よりも大きい物が三体同時だ。
「おいクリス! とりあえずあのゴーレム達をどうにかしてくれ! 俺は手が挟まって動けないんだ!」
「三対一はさすがに無理だよ! それならカズマ君が持ってる頭をどかしたほうが、ぬぐぐぐぐ! ………ごめん、重過ぎて一人じゃちょっと無理みたい」
「そんなあっさり諦めるな、もっと頑張れよ! このままだとカズマさんがお前の胸よろしくペッタンコになっちまうだろ!」
「だ、誰の胸がペッタンコだい!」
クリスが激昂しているが、さすがにこの状況はまずい。早くどうにかしないとマジでゴーレム達に潰される。
迫ってくるゴーレム達の見るからに固そうな腕にぶん殴られることを想像していると、何故か急に動きを止めたかと思えば、三体のゴーレムは胴体を横一文字に切られていた。
「まったく、君達は何をやってるんだ。遊びに来たのなら早く帰った方がいい」
崩れ落ちるゴーレム達の先には、何時ぞやの魔剣の勇者が呆れ顔で立っていた。そいつは俺の手を潰していたゴーレムの頭を半分に切って軽くし、そのまま押し除けてくれた。
「いでで、もっと優しくどけてくれよ。こちとら怪我人なんだぞ。……というかミツリギ、お前いたんだな」
「君が作戦会議に乱入してきた時からいたよ。……というか待ってくれ。もう一度僕の名前を呼んでくれないか」
もう一度? 何で俺が男の名前を二度も呼ばにゃならんのだ。
「ミツリギ」
「違う、ミツルギだ! 君は一緒に戦った仲間の名前も覚えてられないのか!」
「そ、そんな名前一文字間違えただけで怒るなよ。ミツルギもミツリギも似たようなもんだろ」
「……そうか。君がそういうのなら、これからは僕も君のことをカスマとでも呼ぶことにするよ」
「ああ?! 喧嘩売ってんのか、てめー! 人の名前を何だと思ってんだ!」
「どの口が言ってるんだ! 一文字程度大したことないと言ったのは君じゃないか!」
「はい、そこまでそこまで。二人とも落ち着いて。こんな緊急事態に喧嘩しないの。とりあえず、カズマ君を助けてくれてありがとね。ほら、君もちゃんとお礼言う」
売り言葉に買い言葉、俺とミツルギが一触即発状態になったのを見かねて、クリスが仲裁してきた。確かに大人気ない喧嘩だったなと反省し、ミツルギに対して謝罪した。
「いや、僕の方こそすまない。つい頭に血が上ってしまって。……ところでカズマ、聞きたいことがある。さっき現れた女性、話を聞く限り女神エリスらしいんだが……」
潰された手に回復魔法をかけていると、他の冒険者達と同じようなことを尋ねてくる。
またその質問か。再三尋ねられたから面倒になってきたな。まあ先程の冒険者達と同じように、適当にあしらってしまえばいい。
そう思っていたのだが。
「君がどうやって女神を呼んだのか、その方法を教えてくれないか?」
俺が『呼んだ』と何処か確信を持った目でミツルギは尋ねてきた。
そうだ。失念していたが、こいつは俺と同じ日本人だ。女神という存在に出会い、この世界に送られて来た者だ。そしてこいつには以前、俺がエリスに生き返らせてもらったと話している。何か裏があると考えるのは当然だ。
それに女神という存在を知ってはいるが、この世界の住人とは価値観がまったく違う。周りの奴らは奇跡が起きたんだと簡単に納得しても、こいつはそんな簡単に騙せないだろう。
クリスを見ても何も言わないあたり、全部は気付いてないようだ。当のクリスは核心に近いことを言われてアワアワしているが。
まあ、こいつにならエリスのことを教えても、いたずらに話を広めたりはしないだろうが、万が一という事もある。教えるのはあまり気乗りしない。
どうしたものかと考える中、タイミングよく声をかけてくる者がいた。
「遅れてすみませんカズマさん。ダクネスさんが重くて登るのに手間取っていたのを手伝っていたら、時間がかかってしまいました」
「お、おいウィズ! 私じゃなくて、この鎧が重かったのだ! 誤解を招くような発言はよしてくれ!」
ダクネスとウィズがロープを伝って、甲板に登ってきた。どこに行ったのかと思ってはいたが、まだ下にいたとは。だが今は大変都合がいい。一旦ミツルギを無視してダクネスに話しかける。
「ちょうどいい所に来たなダクネス! 今回ほとんど活躍してないお前に、ついに出番がやってきたぞ!」
「なっ?! 出会い頭になんて事を言ってくるんだ! 私が何もしていないなど謂れのない事を……謂れのない……ことを……」
「おい、落ち込む暇があったら周りを見ろ! そこら中にゴーレム達が湧いてきて、内部への侵入の邪魔になってるんだ! だからお前のデコイでここらのゴーレムを全部引きつけろ!」
「ちょっと、カズマ君?! ダクネス一人にここいる全部を任せるなんて危ない………危ない………危ないかな?」
まあクリスの想像通りまったく問題ないと思う。ダクネスは防御力に関してだけはピカイチなのだ。あいつを倒したければこの三倍は持ってこいと言うやつだ。
「ここにいるゴーレム達を全部……石塊の軍団が私を押しつぶそうと一斉に襲ってくる……」
ダクネスは周りを見渡しながら、徐々にその頬を赤くしていった。活躍のチャンスに自分の性癖を満たす状況、そのための大義名分。俺の頼みを断る理由など微塵もないだろう。
「わかった! ここは任されたぞ、カズマ! お前達は先に行っていろ、『デコイ』っ!!」
興奮により顔を赤くしたダクネスが囮スキルを使うと、甲板にいたゴーレム達は一斉にこちらに向かって突き進み始めた。
「それじゃあ任せたぞダクネス。さて、俺達は先に行くとするか」
「いやいやいや、ちょっと待て! 君は仲間を一人置いていくと言うのか?!」
ダクネス一人に任せて先に進もうとすると、予想通りミツルギが食いついてきた。
「そんなこと言われてもなぁ? 艦内に侵入するためには、どうしてもゴーレム達は邪魔になる。俺だって申し訳なく思ってるんだぜ。ダクネス一人に重荷を背負わせるなんて」
「じ、じゃあせめて君達だけでも残ればいいじゃないか」
「俺や盗賊のクリスは戦闘向きじゃないし、ウィズは後衛職だ。俺達がいても邪魔になるだけだよ。あーあ、こんな時にゴーレムを簡単に倒せる強い冒険者がいたらなー。すまないダクネス。こんな俺を許しておくれ」
ミツルギは基本善人だ。そして自分の強さには過剰ともいえるほどの自負がある。多少演技臭い言動でも、こいつは乗ってくるだろう。俺の予想通りミツルギは剣を抜き、ゴーレム達に向け構えた。
「……わかった、なら僕が残ろう。その代わりと言ってはなんだが、今回の騒動が終わった後にさっきの話の続きを…」
「マジすか。さすがミツルギさんっすね。カックイイ!じゃあダクネス共々頑張ってくれよ。クリスとウィズはさっさと行こうぜ」
「ちょっ、まだ話は終わってな……」
ミツルギの言葉を無視して、クリスとウィズの手を取りその場を離れると、ゴーレム達の波が元いた場所を飲み込んでいった。
これでその場凌ぎではあるが、ミツルギの追及を逃れられた。問題の先送りでしかないが、まあそこら辺は明日の俺に任せよう。
ミツルギにはダクネスの性癖に付き合わせて少し申し訳ない気持ちもあるが、まあ大丈夫だろう。
「さあ! もっと来いゴーレム達よ! 私を潰せるものなら潰してみろ!」
「ハァッ! 確かお名前はダクネスさんでしたか。いかに防御に優れたクルセイダーとはいえ、攻撃を受け続けたら持ちません。少しずつ数を減らしながら……」
「何故邪魔をする! 私が楽し……じゃなくて懸命に戦っているのに! 騎士の誇りを侮辱する気か!」
「え、あ、あの。すいません」
ゴーレムの波に飲まれたせいで、二人の状況は声だけでしか判断できないのだが、とりあえずミツルギに言いたいことがある。
本当にすまんかった。
「ドアが開いたぞーっ!」
ダクネスとミツルギにゴーレム達が集中したことにより、手が空いた冒険者達でドアをこじ開け、要塞内部に侵入していく。中にも少しばかりゴーレムはいたが、他の冒険者達がいることもあり問題なく進めた。
そうして中を突き進んだ先、デストロイヤーの中心部分であろう部屋に着くと、先行していた冒険者達が人だかりを作っていた。その視線の先は部屋の中央にある椅子に腰かけた白骨化している死体に向けられている。
「これは……、骨格から見るに男性。死後何年経っているかは分かりませんが、アンデッド化することもなく完全に成仏していますね。おそらくデストロイヤーが暴走してからそう長くない内に亡くなったようです」
ウィズは死体から得られる情報を淡々と説明している。
デストロイヤーを暴走させた研究者は、今もなお内部で指示を出しているというのが通説だったが、どうやら違ったらしい。ホコリかぶった部屋の中、一人ポツンと死んでいる姿は、孤独な男の最期を連想させる。
その姿を見てクリスは複雑そうな顔をしている。彼女からしてみれば、この死んでいる男は自分の世界をめちゃくちゃにした張本人だ。孤独な最期を迎えたとはいえ、色々と思うところがあるのだろう。
そんな彼女から目を逸らすと、ふと机の上にある一冊の本、おそらくこの男の手記に目がついた。
この男が一体どんな気持ちでこのデストロイヤーを暴走させ、そしてどんな気持ちで死んでいったのか。俺は興味本位で本を開いた。開いてしまった。
「あれ? なんでこの手記日本語で書かれてんだ?」
「………………え゛っっ?」
俺の呟きが聞こえたクリスは、その場でピシリと固まってしまった。手記は俺にとって一番馴染み深い字体で書き綴られていた。つまりこれを書いた人物は。
「カズマはその古代文字が読めるのか。こいつがどんな奴だったか、読んで教えてくれ」
「あ、ああ……分かった」
俺は冒険者の言葉に促され、混乱しつつもその手記を読み上げ始めた。手記というだけあって中々の文章量があるので、かいつまみながら読むと。
『国のお偉いさんに対魔王軍の兵器を作ってくれと頼まれた。そんなの俺が作れるわけないでしょうが。俺だって自分の研究が忙しいんだ。ようやくゲームキューブの完成が見えてきたってのに。面倒だしこのクモを潰した設計図でも渡しとけばいいか』
『あの設計図で通っちゃたよ。というかむしろ大好評だよ。悪路でも走破できるよう八本脚にするとは考えたな、とか国のお偉いさんが言ってくる。すんません、なーんも考えてません』
『はえー、すっごい。トップが何もしなくてもプロジェクトって進むんですね。あ、プロジェクトの責任者に出世しました。イェーイ。それにしても何あのデカさ。考えたやつ馬鹿なんじゃないの。あ、設計図出したの俺だわ。ワロス』
『動力源? そんなこと言われても俺は知らんよ。ここまで来たら最後まで全部やってくれよ、めんどくさいな。まあ一応所長らしく伝説のコロナタイトでも持ってこい、と言ってやった。あー、なんかそれっぽいこと言えて気持ちいい! すっごいカタルシス!』
『マジで持ってきたよ。伝説って? というか、やべーよやべーよ。適当なこと言っちゃったけど、これホントに使えるの? 動かなかったらどうしよ。死刑とかマジ勘弁』
『ちゃんと動いてくれた。やったぜ! まあ動いたって言うより暴走したって感じなんすけどね。これどうやって止めるんだろ? 俺以外に乗ってる奴いないし。オワタくさい』
『うーわ、今潰したの王城じゃね? まあいいか、あの王様あんま好きじゃなかったし。俺に面倒な仕事押し付けすぎなんだよ。ざまあ。この機動兵器止められそうにないし、降りられないし、もうこのままここで暮らすか。とりま酒飲も』
『君がこの手記を読んでいるということは、私はすでに死んでいるのだろう。最後に、この機動兵器を止めに来た勇敢な君に言いたいことがある。正直すまんかった』
「……これで、終わりだ」
「「「…………」」」
冒険者達は何も言わずに黙り込んでいる。言葉を発せずとも彼らがどんな気持ちなのかよく分かる。
これを書いたのは確定的に日本人なわけだが、こいつを同郷とは思いたくない。恥ずかしいというか、申し訳ないというか、ふざけるなというか。とりあえず身内だとは絶対に思われたくない。
まあ冒険者達が黙り込んでるのは別の理由もあるのだが。
「そんな馬鹿らしい理由で私の世界は散々荒らされてたんですか。ちょっと思考が追いつかない。この人頭おかしいんじゃないでしょうか。というか日本人? 日本人ってことはアクア先輩がこの人を送り込んできたわけで。え? つまり先輩のせいで私の世界の人達が傷ついてたわけ? あ、ヤバイ。ちょっと黒い感情が抑えられない。ファッキンゴッド。あ、私も同じ神様でした。アハハハハ。本当に何考えてこんな人を……」
俺が手記を読んでいる途中から、クリスはずっと一人でぶつぶつと呟いている。何を喋っているかはよく聞こえないが、その尋常じゃない雰囲気に俺を含めた冒険者達はドン引きである。
「ク、クリスさん。皆さんが怖がっているので落ち着いてください。あまりの圧に変な瘴気みたいなのまで見えちゃってますよ」
ウィズの言う通り、今のクリスからは漫画的表現みたいなドス黒いオーラが出ているのが見える。というかあれ雰囲気じゃなくて本物の神気じゃなかろうか。
まあ自分の先輩女神が原因で、これまでの騒動が起きていたのだとわかれば、ああなるのも致し方ないのかもしれない。次にエリスとアクアが出会った時に殺傷沙汰にならないよう祈っておこう。
とりあえずこのまま放置してたら、闇落ち女神エリス爆誕になりかねないので早く正気に戻ってもらおう。
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「これが手記に書いてあったコロナタイトか」
デストロイヤー開発者の骨があった部屋のさらに奥。おそらく動力室であろうこの部屋に件のコロナタイトはあった。
部屋の中央にあるガラス製の円筒、その水溶液に煌々と輝く球体が浮かんでいる。円筒に数多くのケーブル類が繋がっている所を見るに、この要塞のほとんどのエネルギーがここから送られているのだろう。
大人数はいらないからと、クリスとウィズ以外の冒険者達には他の場所を探索しに行ってもらった。まあ実際の所は女神とリッチーとかいうバレたら即アウトな二人組が、全力を出せるようにするための配慮だが。
「今にもボンってなりそうなこいつの処理なんだが。 ウィズ、マナタイトみたいに爆裂魔法を撃ちまくって、この石の魔力を使い切ることってできるか?」
「難しいですね。マナタイトが魔力の塊だとするなら、コロナタイトは純粋なエネルギーの塊です。魔法でそのエネルギーを使い切ろうと思ったら、そのエネルギーを魔力に変換する術がないといけません」
「マジか。クリスは何かないか? こう女神パワーで封印とか、異空間に放りこむとか」
「君は女神を何だと思ってるの。そんなご都合パワーがあったらとっくに使ってるよ」
ウィズに続いてクリスまでも難色を示す。あれ、じゃあこれどうしたらいいの。
「え、じゃあ何? ここまで頑張ってきた分は全部無駄で、結局作戦は失敗しましたってなるのか? 実は隠し球があって、女神ひみつ道具とか出てこないのか?」
「だからそんな都合のいい物はないったらないの。とりあえず何か方法がないか考えてるから待ってて」
俺もクリスにならい打開案を考えるが、そんな簡単に妙案が思い付くはずもなく、刻々と時間だけが過ぎていく。デストロイヤー内に響く機械的な警告音声だけが、この場で発言をしている。
「………あの、確実ではありませんが、一つだけ手があります」
沈黙が続くこと数分、始めに口を開いたのはウィズだった。
ウィズは真剣な表情で俺に近づき、顔を近づけてくる。少し青白くはあるが、整ったウィズの顔が目と鼻の先にくる。冷たさを感じる手で俺の顔を触りながら、どこか躊躇いがちにウィズは頼んできた。
「カズマさん、お願いがあります。……吸わせて、もらえませんか」
「喜んで」
この切羽詰まった状況で、一体何のためにこんなお願いをしてくるのか分からないが、俺は女性の誘いを無下に断るような男ではない。それにしてもクリスが近くにいるというのにウィズは大胆だな。
「ちょっと二人とも、こんな非常時に何しようとしてるの?!」
クリスが慌てながら抗議の声を上げている。嫉妬だろうか? だが俺も男としてウィズに恥をかかせるわけにはいかない。これだからモテる男は辛いな。
「ウィズ、気にせずに続けていいぞ」
「ありがとうございます! では……」
緊張しているのか、頬に触れる手に少し力が入る。唇をなぞるように触れる仕草はこの先の出来事を期待させてくる。俺はウィズの行為を受け入れるよう目を閉じて……。
「ストォォオオオップッ!!」
間に割って入ってきたクリスに止められた。
「なっ?! クリス、邪魔をするな! 今からやる行為は俺の初体験になるものなんだぞ!」
「そんな雰囲気に流されてやったらダメだと思うよ! こういうのはちゃんと好きあった人同士が、段階を踏んでやるべきものであって!」
頑として引き下がらないクリスに、ウィズはおずおずと話しかける。
「あ、あの……。確かにクリスさんにとって、ドレインタッチは好ましくない行為だと思いますが。どうか見逃してもらえませんか?」
「「……ドレインタッチ?」」
「はい。あのコロナタイトをどうにかするには魔力が足りないんです。だからカズマさんから魔力を分けて貰おうかなと思いまして」
「「…………」」
いやまあ別に知ってたし。期待なんてしてなかったし。残念だなんてこれっぽっちも思ってないし。
「それなら何であんな紛らわしい仕草してたの?! あ、あたしはてっきり……その……」
「ドレインタッチは皮膚の薄い部分からの方が効率よく魔力を吸えるんです。それで、その……紛らわしいとは一体何のことですか?」
「………気にしなくていいよ」
クリスは顔を赤くしながらそっぽを向いている。一体何を想像していたのか問いただしてみたい所だが、確実にこちらにも飛び火するのでやめておこう。
ウィズに魔力を吸ってもらい、燃えるように輝くコロナタイトと対峙する。先程よりも強く光を放つそれは、いつ爆ボンしてもおかしくないように見える。
「それで、ウィズはどんな方法でこいつを処理するんだ」
「テレポートの魔法でどこか別の場所に飛ばします。ですが少し問題があって……。テレポートはあらかじめ決めた場所に転送する魔法なのですが、私の転送先は人が多い場所でして」
「なるほどね。じゃあその人達に犠牲になってもらって……、ってダメだよ! 街を守るためだからって他の人を巻き込むのは人としても女神的にもNGだよ!」
「そ、そんな酷いことするつもりはありませんから!」
俺はウィズの説明に食ってかかるクリスを抑える。話を最後まで聞かないクリスもだが、ウィズも紛らわしい言い方をしないでほしい。
「その普通のテレポートとは別に、ランダムテレポートというものがあるんです。名前の通り転送先がランダムで、魔法の使用者にも何処に飛ばされるかは分かりません。その転送先が人がいない場所ならいいんですが、もし街なんかに転送されたら……」
「なるほどな。つまり無事に成功するかどうかは運任せってことか」
ウィズがあれだけ躊躇いがちに提案したのは、そういう理由があったからだろう。
だが運任せならむしろ安心だ。何せ俺の隣には幸運の女神様がいるのだから。彼女も自分の役割を察したからか、女神モードに変身している。
「おいクリス。……いいや、エリス、出番だぞ。お前の一番の得意分野だ。自分が何を司る女神か、ウィズにしっかり教えてやれ」
「任せてください。幸運の女神として、全力を尽くさせてもらいます。ええ、この魔法に関してだけは誰にも負けない自信がありますので。絶対にうまくいきますよ」
「期待してるぞ。これが全部終わったら、また昨日みたいに高い酒とうまい料理で宴会でもしような」
「「HAHAHAHA!」」
勝利を確信した俺とエリスは余裕の高笑いをあげた。俺もエリス程ではないにしても幸運値が高い。それに加え、人がいる場所よりいない場所の方が圧倒的に多いのだ。つまり失敗するなど万が一にもあり得ないというわけだ。
ウィズは一人『本当に大丈夫でしょうか……』と心配そうに呟いていた。
「それではウィズさん。今から幸運が上がる魔法をかけますので、心の準備をしてくださいね」
「よろしくお願いします、エリス様! ………いえ、やっぱり少し待ってください。あの、心の準備とは一体何のことですか?」
「この魔法は女神の祝福なので、リッチーであるウィズさんには少し体に影響があると思います。ですが成仏する程のものではないので、我慢してくださいね」
「……え?」
作戦直前に衝撃の事実をカミングアウトされ、ウィズの表情が固まっている。だが作戦を成功させるためにも、これは避けては通れない道だ。心の中でウィズの献身に敬礼する。
「あ、あのー。……やっぱり別の作戦に……」
「それでは心の準備もできたようですし。幸運の女神の名において、あなたに祝福を! 『ブレッシング』っ!」
「ああっ?! 問答無用にっ?!」
エリスの祝福により幸運が上がったウィズは、体を薄くしながら必死に魔法を唱えた。
「テ、『テレポート』っ!」
ーーーーーーーー
コロナタイトはテレポートで飛ばされ、要塞内に鳴り響いていた警報は止んだ。どうやらデストロイヤーの爆発は防がれたようだ。
俺達が外に出ると他の冒険者達は引き上げにかかっていた。あれだけいたゴーレム達は全て両断されている。その功労者であるミツルギはというと。
「ほらキョウヤ、しっかり立って。あたしが支えてあげるから」
「あっ?! フィオだけずるい! キョウヤ、私の肩も貸してあげる」
「あ、ありがとう、フィオ、クレメア」
仲間の女の子二人に支えられながら引き上げていた。遠目から見ても疲労しているのがわかる。原因は大量に相手したゴーレムか、それとも一緒に戦っていた変態のせいか。どちらにせよエリスのことで俺に詰め寄ってくることはないだろう。
その変態クルセイダーことダクネスが、俺達が出てきたのを見つけて近づいできた。
「警報が止んだのはカズマ達のおかげか。急な事態だったのによくやってくれたな。……ところで、背中でぐったりしているウィズは大丈夫なのか?」
「ああ、これはクリスのせいだよ。中で色々あってな。今は気を失ってるだけだ」
「ちゃんと加減したつもりなんだけどね。急にやったのが悪かったみたい」
クリスは申し訳なさそうな顔をしている。その割には中々強硬な手段だった気もするが。まあ今回は非常事態だったので仕方ないだろう。ウィズが目を覚ましたら一緒に謝っておこう。
「それにしても、ようやく終わったな。最初はどうなるかと思ったが、こうして終わってみれば予想以上にうまくいったな。後はどっかに飛ばしたコロナタイトだけが気がかりだが」
「何処に転送されたか分かるには二、三日はかかるんじゃない? まあ転送先が何処だろうと、大したことにはならないよ。だってあたしが力を貸したんだもの」
「中で何か問題があったのか? また後で話を聞かせて……。ん?」
デストロイヤーから降り、めぐみんを回収しに歩いていると。ダクネスが急に後ろを振り返った。
「……臭う。臭うぞ。デストロイヤーめ。怨念がましくまだ足掻くか。二人とも、あれはまだ終わってないぞ!」
ダクネスの言葉に反応するように、機動要塞は地を揺らしながら震え出した。その振動音は死にかけの化け物の最後の咆哮のようだ。
「おいおいおい! なんであいつは震え出したんだよ?! 動力源は取り除いただろ!」
「私には詳しいことは分からないが。あそこを見てみろ。デストロイヤーの前面にできた亀裂が赤熱してきている。おそらくあそこから熱が放出されているのだろう。まだ大丈夫なようだが時間が経てば……」
ダクネスが指差す先を見ると、確かに大きな亀裂が徐々に赤みを増してきている。何が原因かは分からないが、止めなければ被害が出るのは確実だ。
「ど、どうしようカズマ君?! もう一回中に入って原因を調べる?!」
「いや、あの様子を見るに、悠長に調べてる時間なんてなさそうだ。何か別の手段じゃないと……」
だが別の手段と言っても、何をすればいいんだ?
おそらく時間が経てば、あの亀裂に溜まってきている熱により、爆発が起きるだろう。それを防ぐためには。
爆風を防ぐためのバリケードを作る。ダメだ、資材も時間も明らかに足りない。たとえ作れても、そんな急ごしらえの物など簡単に吹き飛ばされるだろう。
縦穴を掘って隠れて爆風をやり過ごす。ダメだ、時間は魔法を使えば解決するとしても、冒険者達にその気力も魔力もないだろう。そもそも街を守ることができない。
爆発を何かで相殺する。ダメだ、その何かが具体的に出てこない。一つだけ思い浮かんではいるが、すでに二人とも魔力切れだ。もう今日は一発も撃てない。
…………いや待て。あるじゃないか、一発だけ撃つ方法が。そうだ、あれは確かあいつに預けて……。
「おやおや、どうやらお困りのようですね。あなたが欲している物はこれですか?」
思考の海から浮上してくるのと同じくして、そいつは現れた。他の冒険者に肩を貸してもらいながら登場する姿は情けないが、その手に持つこの状況をひっくり返せる物、最高品質のマナタイトを見せつけてくる。
「ふっふっふ。どうにか倒したと思った敵が最後の抵抗にでる。どうすることもできずに絶望する冒険者達の中から、颯爽と登場する一人のアークウィザード。……そう! 最後の最後に全てを持っていくのは当然! この私ですよ!」
我がパーティーの火力担当ことめぐみんが、高らかに宣言した。
「いいタイミングで来たな、めぐみん! ちょうど俺もそのマナタイトのことを思い出してたんだ!」
「ええ、登場するタイミングは紅魔族にとって非常に重要ですからね。少し離れた所から観察して、カズマが閃いたタイミングで現れるよう調整したんです」
相変わらずよく分からない紅魔族の風習には呆れるが、今は後回しだ。俺は背に乗せたウィズを他二人に任せると、連れてきてくれた冒険者に礼を言ってめぐみんを預かった。
「よし、じゃあそのマナタイトを渡してくれ」
「……………はい? カズマは何を言っているのですか?」
「いや、爆裂魔法はウィズに撃ってもらうから、お前が持ってるそれを渡してくれって、……おい。そんながっしりと握り込むなよ」
めぐみんの手からマナタイトを取ろうとするも、強く握りしめられた手のせいで阻まれる。無理矢理こじ開けようにも、めぐみんの握力は俺より上なのかびくともしない。
「おいめぐみん、時間もそんなにないんだ。大人しくこいつを渡せ」
「嫌です、嫌です! これは私がカズマから預かった物ですから、私の物なんです!」
「駄々こねる子供か! いいから早く渡せ!」
「絶対に渡しません! 大体、ウィズはあの通りぐったりとしてるじゃないですか! あんな干物みたくなってる人より私の方が適任ですよ!」
クリス達に介護され伸びてるウィズを指差しながら、めぐみんは頑とした態度を取ってくる。確かにウィズはまだ回復していないが、それでも無理をして貰わなければならない理由がある。周りの冒険者達に聞かれないよう声を落として話す。
「マナタイトはこれ一個だけなんだぞ。つまり一撃で、確実に決めなきゃならない。失敗は許されないんだ。爆裂魔法の威力はウィズの方が上だってお前も認めただろ。だったら……」
俺がどうにか説得しようとするのに対して、めぐみんは真っ向から反発してくる。
「確かに私は一度負けを認めました。ですが今はあの時と状況が違います。私とウィズはレベル差や所持スキルの違い等ありますが、何よりも違うのは保有する魔力量です。魔法は込めた魔力量が多い程、威力を増す物。カズマも初級魔法とはいえ、体験したことがあるでしょう」
確かに俺の殺傷能力皆無な初級魔法でも、全力を込めるとモンスターを倒すことはあるし、使用目的に応じて魔力量を調節している。
「私とウィズは魔力切れで、このマナタイトを使わないと爆裂魔法を撃つことはできません。つまり使える魔力はこのマナタイトの分だけ、魔力量の差は無いのです。魔力量がイーブンなら今のウィズより私の方に分があります」
「そして何より、私は誰よりも爆裂魔法を愛しています! 爆裂魔法のことに関しては、私は誰にも負けたくないのです! だからこそ、この一発は私が撃つべきなんです!」
爆裂魔法をこよなく愛する少女は、これだけは絶対に譲れないと、その目を紅く輝かせていた。
こうなったら何を言っても曲がらないだろうな。こんな切羽詰まった状況だというのに、一体何を考えているのだろう。いや、こいつは爆裂魔法のことしか考えてないか。
「……はぁ、分かったよ。お前の話に乗ってやる。今回の作戦の締めはお前の爆裂魔法だ」
まあめぐみんに対して街のためとか、作戦の失敗とか、面倒なことを考えるなと言ったのは俺だ。なら俺ももっとシンプルに、エリスに言われたように仲間を信じて待つとしよう。
「ただし、お前に一つ言っておきたいことが……」
「言われなくても分かってますよ。いつも通り全力に、ですよね」
俺が言い切る前に、めぐみんは答えを言ってきた。気負った様子は見られない。なら、これ以上何か言うのは無粋という物だ。
「それが分かってるなら、俺から言うことは何もないな。よしっ! じゃあ、あのデカブツをぶっ壊してやれ!」
「ええ! 今度こそ爆裂魔法の真髄をお見せしますよ!」
どこか嬉しそうに笑うめぐみんは、意気揚々とデストロイヤーに杖を構えた。
大勢の冒険者達が見守る中、一人の少女と要塞が対峙する。
「常世の理よ、反転せよ。天地を返し、現世を逆しまに、永劫の秩序が崩壊せし時、創世の混沌は現出せん」
マナタイトからの魔力を体内に循環させながら詠唱を紡ぐ。一言一句が己が内側に働きかけ、魔力のうねりを一つの魔法に昇華していく。
「古きに生まれ、新しきを脅かし者よ。その身に刻め、我が力を刻め。我が力は原初の起こり、終焉の光、万象崩す権能なれば! 汝が敵う道理なし!」
杖先をデストロイヤーの亀裂に向ける。熱により赤く変色した裂け目が大きく口を開けている。
杖先に収束する光は、最高純度のマナタイトによるものか、常時の彼女が放つそれよりも、さらに強い輝きを放っている。
「この魔力は借り物で。我が魔道は道半ば。最強を謳うはあまりに遠い。……だが、それが何だと言うのです! 今はまだ後塵を拝していようとも、いずれは全部超えていきますとも! この一撃はそのための第一歩です! しかとその身に刻むがいい!」
爆裂魔法に魅入られ、それを極めんと突き進む少女は、その目を紅く輝かせ張り裂けんばかりに魔法を唱えた。
「『エクスプロージョン』っっっ!!!」
これにてデストロイヤー編はほぼ終わり。次回エピローグ挟んで終幕となります。
正直デストロイヤー戦は前回で綺麗に纏まってるので(作者目線)、後編って乗り気じゃなかったんです。書きたいことは前回に集中してるし、原作と比べて動きに大きな違いはないし。どっかの後書きでデストロイヤー戦をカットしたいとかぼやいてたのはそういう理由があったからです。
だからギャグに振り切りました。胸ネタを三回も使ったのはさすがにやり過ぎた感ある。結構エリス様が身バレしそうな行動してますけどギャグなんで許してください。
ちなみに今回の執筆で一番時間がかかったのは、めぐみん関連が多かったです。中でも爆裂魔法の詠唱は、あそこの百文字程度だけで投稿が1日遅れました。できに関しては深く突っ込まないでくれ。
読んでくださった皆様に深く感謝を。