RE:fate/V   作:夜廻

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これは此処に置いておく。


一章六節「考えたくもない」

縦横無尽に駆け回り、敵を蹴散らすクイーン。そして片や、手駒を潰されチェックを掛けられたキング。もはや状況は絶望的。逆転の余地は残されていない。そんな場面が、今Vに突き付けられていた。

 

この状況は、初めてではない。圧倒的な力を持ったセイバー。そしてそれを前にすれば無力に等しい俺の力。

 

思い出すのは“アレ”を前にした時の恐怖。全身の毛が逆立ち、嫌な汗が流れ 体が震える。その醜悪な姿はもとは自分の力とはいえ、まるで自分のモノではないような。

 

だがこの絶望的な状況は傍目で見ればの話だ。実際は見えていないだけで駒は隠れている。

・・・味方がそこにいるだけでどれだけ心強いか。

 

アレに比べれば、どれだけコレが卑小なことか。

 

「チェックメイトだ・・・!!」

 

セイバーの剣に途方もない量の魔力が収束する。爆発的に高められた魔力は留まることを知らず、噴射する。

宝具の開帳。奴自身の神秘の開放。あれだけの魔力だ。この身に受ければ木端微塵だろう。

 

だが撃たせる気は毛頭ない。

 

ルシフェルから剣を引き抜き二本投擲する。そのことは解っていたのだろう。セイバーは魔力を放出してソレを弾き飛ばす。セイバーの顔には、侮慢が見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

一人になった奴と向き合う。

手駒は潰され絶体絶命。そんな中でも奴の表情は余裕を保ったままだった。次の手があるのか、はたまた現状を受け入れているのか。

 

だが何をしようが結果は変わらない。聖剣を放ち奴を塵一つ残さず消し飛ばす。次の瞬間に起こるその事実は 最早揺るぎのない“結末”。

 

苦し紛れに放った剣は無情に弾き飛ばされ左右側面に飛ばされていく。それが貴様の次の手か。凡手、まさに凡手。意味のない手とはこのこと。

 

嘲りの念を込めて奴を見る。だが、次の瞬間には それらの考えが一瞬で吹き飛んだ。

 

「なんだ、それは」

 

絶望に歪んだ顔が見れると思った。諦観し、死を受け入れていたのかと思っていた。だが、その実態は 一輪の淡い空色の薔薇を持った奴の姿だった。

 

「これは貴様への献花だ」

 

「何をッ」

 

何を言っている────?

 

その言葉を繋ごうとした直後、奴はソレ(薔薇)を私の方に投げてきた。

 

一見何の意味のないソレは、微弱ではあるが 魔力を帯びていた。そしてこの戦いにおいて最大級の警笛を私の直感は打ち鳴らす。

 

まだ溜まり切っていない宝具とも言えない剣を振るおうとする。だが、その前に薔薇が私の周りに刺さっている剣に触れた。

 

「もう遅い」

 

薔薇は剣に触れるとその花びらを散らせた。その瞬間、けたたましい破裂音と共に周りの剣が連鎖的に爆発を起こした。

 

「──がっ!」

 

幸いというべきか、剣夫々の威力は低かった。鎧が砕けた程度の衝撃、致命傷には至らない。だが、奴に隙を与えたのは事実。そして私は振るおうとした剣を留め、止めていた魔力を聖剣に流し込み始める。

 

隙を与えたのならそれを補う攻撃をすればいい。幸いもう宝具は開帳できる魔力は溜まった。先の爆発で巻き起こった土煙が晴れるまで待ち、奴を視認した瞬間に宝具を放つ。死角からの攻撃は魔力放出で防げばいい。

 

そう思案し、感覚を研ぎ澄ます。まだ晴れぬ煙からの奇襲を待つ。そしてふと、視界の端に奴の剣が落ちてくるのが見えた。

 

魔力を放出しようとするが、妙な違和感を感じ剣を見る。その剣は落下しながら回転しており、従来のように投げつけられたモノではなかった。

 

(何故、落ちてきている・・? 脳天を狙ったか? だが居場所がわかっているのに何故わざわざ的を外す必要がある?)

 

視界の映像が鈍重に動き、思考が加速する。そして“ソレ”に気付いた時には、もう手遅れだった。

 

フィンガースナップの軽快な破裂音が響き膨大なナニかが背後に突如現れる。即座に振り向き聖剣を振るおうとする。だが先手を取ったのは、巨大な黒い拳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かな手応えと共に砂埃からセイバーが吹き飛び、壁に叩きつけられる。決着をつけるべく飛び出し、間髪入れず復活したグリフォン達を向かわせ追撃を加える。

 

セイバーは追撃を防ごうと宝具を振るおうとする。だが、もう手遅れな状況まで事は進んでいた。懐に入ったシャドウに持ち手を斬り飛ばされ、宙に舞う聖剣をグリフォンが奪う。

 

セイバーの腕から血が噴き出し、地面を濡らす。それを傍観しながらセイバーに近づく。

 

まだある方の腕で即座に殴りかかろうとしたセイバーを寸での所で蹴り倒し、胸部を足で抑えつける。そして首元に杖を突き付け静かに宣言する。

 

「チェックメイトだ」

 

俺の足を握るセイバーの手の力が強まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が揺らぎ、吐き気がする。背景を映していたディスプレイの画面に諸に激突したのだ。恐らく奴の作戦通り、嵌められたという訳だ。

 

「糞ッ・・・!!」

 

悪態をついている間に倒した筈の使い魔が迫ってくる。何故? そんなことを考えている余裕など無く、急ぎ宝具を放出しようとする。だが、もう何もかもが遅かった。

 

「エクスッ────クッ!」

 

懐に入られ聖剣を握る右手を斬り飛ばされる。そして取り返すも間もなく聖剣を奪取された。

 

剣を奪われるなど騎士の恥。思考が行動を邪魔をする。そして無意識に傷口を抑えてしまう。

だからだろう。奴の接近を許してしまったのは。

 

殴りかかる。この距離、しかも奴は人間だ。こちらの攻撃が当たれば例え拳だったとしても勝ちだ。だがその思惑は簡単に打ち砕かれる。

 

右側頭部から衝撃が起こる。奴の廻し蹴りだ。そして無様に転げまわり地に臥す。即座に起き上がろうとするが胸を足で抑えつけられ起き上がれない。足を掴み退けようとする。だがその間に首元に杖を突き付けられる。

 

そして無慈悲にも宣言される。

 

「チェックメイトだ」

 

その言葉を聞き、握った手に力が篭る。だが、思いとは裏腹にやがて力は抜けていきその手を放す。

 

もう認めてしまったのだ、負けを。

騎士王の名折れ。円卓の騎士達がこの醜態を見ればそう罵倒するだろう。

 

「・・・フッ」

 

自嘲する。あれだけの啖呵を切っておきながらのこの体たらく。しかも最後の最後まで奴を侮っていた。ただの魔術師、人間。だがその認識は間違いだった。

常識を疑うべきだったのだ。奴が得体のしれない魔獣を出した時点から。見たこともない無尽の剣を出す宝具を人間が持っていると分かった時から。

思い返してみれば至る点がそうだった。しかしもう後悔しても遅い。私が負け、奴が勝った。その事実だけが今此処に存在している。

 

「私の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

「そうか」

 

私の言葉に奴は一言 そう呟くと豹の魔獣が咥えていた腕を受け取り、切り口を合わせるように置き始めた。

 

「・・・何をするつもりだ?」

 

訝しげに問うた問いに奴はこう答えた。

 

「これからお前との契約を始める」

 

どうやら奴はまだ私を使う気でいるらしい。

 

 

 

 

実際の所、俺とセイバーは戦う必要は無かった。契約は召喚された時点ですでに終わっており、問題なく運用できる。意思が伴わなければ、令呪を使えば事足りる。

無論こうなったのは俺の挑発に問題があったからなのだが。

 

では何故、態々挑発までして戦う必要があったのか。それは“俺”が十全にサーヴァントを使役するための儀式に他ならない。

最初に必要は無いと言った。だがそれはカルデアにサーヴァントの運用を任せている場合の話だ。そしてこれは通常の聖杯戦争でも同じことが言える。

 

藤丸や他の魔術師達の只人がサーヴァントを使役するためには途方もない魔力が必要だ。機械と同じようにサーヴァントが動く為には燃料が必要となる。そしてそれを負担し、マスターの負担を軽減しているのがカルデアだ。

 

ならば俺はどうするのか。端的に言うならば使い魔より高位な存在であるサーヴァントを俺の使役しているグリフォン達と同じ存在に落とし込む。これは俺自身だからこそ出来る外法だ。俺の存在が曖昧である事、そして俺がスパーダの息子であることがこれを使える要因となっている。

とはいえ何故この方法を知っているのかも曖昧ではあるが。

 

悪魔が魔具として人間に使役される原理を利用して英霊を使役する。だがタダで悪魔は魔具として人間に手を貸さない。力を誇示し、屈服させる必要がある。

 

そしてこれはサーヴァントが召喚されている場合に限る。俺自身が器となりサーヴァントを召喚するのは不可能だ。故にカルデアで召喚したサーヴァントが必要となる。

 

長々と説明をしたが、要はセイバーはグリフォン達と同じ存在になるということだ。サーヴァントのように面倒臭い運用方法ではなく。常に一心同体。俺が死ねば、セイバーも死ぬ。だが、逆はあり得ない。

 

杖を閻魔刀へと戻す。閻魔刀の刃で指先に切り込みを入れる。やがて指先に血が滲み出して来る。

 

儀式の最後には必ず俺の血が必要となる。それを相手に受け入れさせ、初めて契約が成立する。

 

滲み出た血滴が零れ落ちる直前、セイバーに問う。

 

「後悔しているか」

 

俺の問いをセイバーは鼻で笑う。

 

「いいや」

 

「・・・そうか」

 

何とも言えない謎の疑念と共に、指先から血が滴る。そしてそれはセイバーの鎖骨部分に着滴する。血はセイバーへと浸み込んでいき、やがてそれは剣の形を模した刺青へと変化した。

時間が巻き戻ったように腕が繋がっていく。再び繋がった腕の機能を確認し終えたセイバーは改めて俺へと向き直る。

 

「最早私は王でも騎士でもない。お前の使い魔(サーヴァント)となった。好きに使うといい」

 

「“自分の翼で飛ぶなら、鳥は高く舞い上がることはできない”。この騒動が終わるまで力を貸してもらうぞ」

 

「フーッ! やっと終わったゼ。兎に角マァ、歓迎するぜ! セイバーちゃんよぉ! オレが先輩だから命令は聞けよ!」

 

「五月蠅いトリだ。その嘴を閉じろ、手羽先にするぞ」

 

「ヒェッ」

 

そんなやり取りを尻目にトレーニングルームを後にする。戦力を確保できた今、特異点の修復へ乗り出してもいい頃合いだろう。

 

ある程度思案しながら歩いていると向かいからダヴィンチが歩いてくる。

 

「見てたよ。無事に終わって安心した」

 

「時代の特定は終わったのか?」

 

「ロマニが終わらせた。今は他の特異点の年代を特定をしているところさ」

 

「そうか、ならば直ぐに向かうとしよう」

 

「まぁ、待ちたまえ」

 

管制室に向かう所で肩をダヴィンチに掴まれる。心なしか力が強い。

 

「キミ、今すぐトレーニングルーム戻ってどんな状況か見てくるといいよ。トテモ面白い事が起こってるからさ」

 

ダヴィンチの笑顔に冷ややかなものを感じトレーニングルームへと踵を返す。扉に辿り着き、自動ドアが開く。そして目の前には・・・。

 

「フンッ!!!」

 

「ワーー!!!! 俺はオイシクねぇーーー!!!!」

 

呆れて思わずこめかみを抑える。もしかしたら特異点の修復より先に関係性の修復の方が先なのかもしれない。

 

「おー、随分やってくれてるねー」

 

棒読みにダヴィンチが呟く。トレーニングルームはかなり荒れており、修復が必要だろう。

 

「レイシフトの前に報告書、書いてもらうからね。今までサボってたみたいだけど、私の前でサボれると思わないでくれ給え」

 

「・・・・・・」

 

レイシフトは少し先になりそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分次から二章。
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