『鬼さん達にも、笑ってほしい!』 異星種族からの、感謝の物語です。

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子供の頃に『泣いた赤鬼』という絵本を読んで感じた、
鬼さん達にも、笑ってほしい……という気持ちで書きました。

次の作品に元気をいただき、書き直しました。
イラスト:『黒猫』 https://www.pixiv.net/artworks/78448695
『☆★』 https://www.pixiv.net/artworks/89197183
『無題』 https://www.pixiv.net/artworks/97857464
『赤い薔薇の乙女』 https://www.pixiv.net/artworks/100438978
『花束とワンピース』 https://www.pixiv.net/artworks/74836045
動画:『萩原雪歩 Agape』 https://www.bilibili.com/video/BV1fs41127ao/?spm_id_from=333.788.recommend_more_video.2
『約束』(字幕は右下の吹出しをクリックで消えます) https://www.nicovideo.jp/watch/sm21988300
『We sing the world』 https://www.youtube.com/watch?v=4nRfReK7RI8
素敵な刺激を与えてくれる、文化的作品に感謝します。

神や悪魔は人間の理想像、拡大像だと思います。
特に悪魔は災害や疫病、戦争や犯罪などの象徴でした。
しかし今、人間は神魔の如き技術の力を持ち、
それらは全て、自己責任になりつつあります。
どうせなるなら我々は、〝責任のある神々〟になるべきだ
(Y.N.ハラリ)とも言われます。

不安定な農耕時代の物語は、混沌(カオス)を含むことが多いです。
規格品大量生産の工業時代には、明確な勧善懲悪の物語が人気でした。
大量の情報が流れる情報時代の物語では、是々非々の判断が可能になります。
人智を越えた最適化ができるAI時代には、むしろ多様性の活用が必須かも!?
現代の神話とは、我々自身の心の中にいる天使の独善を戒め、
悪魔さえ改心させ、全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。

ご興味がおありの方は他の小説や、
エッセイもご覧いただけましたら幸いです。


感謝

 

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今年もまた、異星種族から人類に向けて、

挨拶(あいさつ)の動画が公開された。

少女と黒猫が混ざったような生き物が、

感謝を示す赤いバラの花束を手に、

愛らしく微笑みながら(たたず)んでいる。

 

彼女達は量子頭脳への人格転移(マインドアップロード)を達成し、

高度演算能力や共有人格形成能力を得た、

銀河帝国の最先進種族のひとつだ。

そんな種族がよくするように、彼女達もまた、

ネコとコウモリの混血みたいな基本個体の

特徴を残す、人間型の分離個体(ヒューマノイド・アバター)を使っていた。

 

分離個体(アバター)は威圧的な印象を防ぎ、

好感度を高められるよう、

相手種族の基本的な遺伝子型を持った、

魅力的な若年個体の姿を取ることが多い。

つまりは、可愛い少女というわけだ(笑)。

 

とはいえ個体の寿命も克服し、

経験や認識を共有できる各種の量子頭脳や

多様な生物・機械的身体を乗り換えながら、

悠久(ゆうきゅう)の時を生きる種族のことだ。

彼女達自身にとっては年齢や性別の違いなど、

あまり意味を持たないのかもしれないが……。

 

彼女は語り始めた。

『人類の皆様。 

かつて私達は〝先帝〟種族の命により、

皆様の祖先を含む様々な発展途上種族の

文明発達を、(かげ)ながら支援しました』

 

 

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公式声明ではあるが、親書に近いものなので、

言葉も(やさ)しく、分かりやすい。

 

『しかし、その後帝国では、

〝中枢種族〟と呼ばれる皇帝側近種族を初め、

帝国建設に功労のあった軍事種族の多くが、

腐敗と抗争に陥ってしまいました』

 

『彼女達は〝先帝〟種族を傀儡(かいらい)化したうえで、

新興の技術・産業種族を抑圧し、

構成元素の異なる銀河系外周種族からも

収奪を行ったのです』

 

 

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いつの時代も、どこの国でも、

技術革新や歳月の経過で経済・社会は変わる。

それに応じて適切な政策をとり、

健全に発展を続けるのは大変なようだ。

 

『彼女達はまた、途上種族を配下にするため、

私達の文明支援計画に対しても、

組織への浸透(しんとう)や職員への買収、脅迫により、

非人道的な干渉を加えるようになりました』

 

当時の私達には知る(よし)もなかったが、

危険な軍事技術の供与から紛争の扇動、要人の暗殺、

遺伝形質の狂暴化まで、相手種族の存亡も(かえり)みず、

かなりえげつない手段を使っていたらしい。

 

『そのため、帝国の健全な繁栄を願う私達は、

厳しい制裁も覚悟のうえで改善の請願を行いました。

しかし、すでに(なが)らく抗争状態にあった

軍事種族間では、責任の所在を巡って内戦が勃発し、

それに巻き込まれた〝先帝〟種族も滅亡して、

帝国は崩壊の危機に直面してしまったのです』

 

 

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『この事態を受けた私達は、

友好種族と共に帝国を救うため、

〝先帝〟からの亡命者達に指導を(あお)ぎつつ、

人類を含む様々な種族に助けを求めました』

 

実を言うとそのあたりの経緯(いきさつ)については、

色々な(うわさ)が流れている。

そもそも戦前からの〝先帝〟亡命者達が衝突を誘発し、

腐敗種族の共倒れを図ったなどという説も聞く。

 

だがその内戦では〝先帝〟種族自身も滅亡し、

一時は帝国の存続さえ危うい状況になっている。

何より腐敗種族の自業自得(じごうじとく)という面が大きく、

真偽のほどは定かでない。

 

『ただ私達は、文明発展を助けるための

神話において悪役を演じたこともあったので、

皆様は突然現れ、伝説の悪魔にも似た

異星生物である私達を恐れました』

 

 

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それに加えて旧帝国派種族のテロなどもあり、

確かに当時の世界は大混乱となった。

もっとも私のようなSF愛好家(ファン)から見れば、

とても可愛い部類の異星人(エイリアン)だったのだが……(笑)。

 

『しかし、そんな私達の依頼に対し、

証拠に基づき真実を確かめた皆様は、

過去からの偏見に(とら)われず、

誠意をもって私達に協力してくださいました』

 

 

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『最も成功した若き種族の信頼を得た私達は、

さらに多くの種族から支持を受け、

平和回復と国家復興を果たすことができたのです。

また、皆様の惑星政府が模範となって、

多くの種族に民主政体が広まり、帝国自体もまた、

帝政から民主制への移行を決定できました』

 

 

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まあ民主化について言えば、

技術が進むと経済・社会活動は拡大すると同時に、

省力化して、複雑・加速化する。

そうなれば政策も、必要とあれば大勢が動くが、

衆知も活かせるよう、広域化する一方で、

民主化・自由化・市民参画など分権化するのは必然だ。

新技術でどんな社会を作るかを皆で考えるべき時代に、

奴隷や遊民ばかり増やしても国家的自滅行為だろう。

 

広大な星間帝国ではそれが一時的に退行しただけで、

実は彼女達も、それを知っていたのではないだろうか。

統一国家を確立できたら分権化も再開するため、

人類を〝お手本〟に見立てたのかもしれない。

 

『さらに、人類が政策的にAIを活用して

自然物と人工物の間の障壁を取り除き、

双方の長所を共有させて、惑星上における

持続的発展を達成したのも、偉大な功績です。

このことは帝国においても、

より問題となる種族間の障壁を取り除き、

星間文明の持続的発展を実現する、

種族間親和技術の開発につながったのです』

 

 

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AIの導入も、文明発展の歴史からは当然といえる。

ある技術段階で利害調整政策を極めたら、

その限界を越える新技術導入政策が必須となる。

彼女達はそのことも、分かっていたはずだ。

 

もっとも後に、惑星文明における農耕、動力、電算、

そしてAIといった画期的技術が、

星間文明での惑星適応、高次元動力、人格量子化や

種族間融和にあたると聞いた時は、私も驚いたが……。

 

言われてみれば、それらの技術は実際、

物質利用による惑星・星間文明の成立、

エネルギー利用によるその拡大、

情報利用によるその効率化、

技術と自然・社会環境の親和化による持続的発展と、

ちょうど平行的(パラレル)に進歩している。

 

技術開発の必要性や可能性の予測は難しい。

しかし開発の難易度や、社会変化・需要の動向、

惑星・銀河など環境限界との関係から予測して、

備えておけば役に立つことが分かった。

 

『皆様の素晴らしい貢献もあって、今や帝国は、

アンドロメダ銀河をも含む銀河間国家に発展し、

知性がもたらす文明の光が(あまね)く行き渡る、

輝かしい繁栄を謳歌(おうか)するに至っています』

 

 

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『以上から、ここに私達新皇帝種族サタンは、

理事種族アスモデウス、アスタロト、ベール、

バールゼブル及びアモンの賛同を得て、

このたび量子頭脳への人格転移(マインドアップロード)を達成した

人類の最先進種族認定を裁可し、

大いなる感謝と共に、祝福いたします』

 

やれやれ、とうとう私達も悪魔の仲間入りか。

とはいえ人類の方でも大喜びのお祭り騒ぎで、

むしろ彼女達を新たな大天使に叙任(じょにん)しよう、

という動きまであるという(笑)。

 

 

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まあ考えてみれば彼女達は、皇帝種族を神様に

見立てた神話の中で悪役を演じるなどして、

当時の人類など多くの種族の文明化を助けた、

いわば功労者といえる。

 

実際には〝神〟の最も忠実な臣下だったわけだし、

善悪二元論の神話が採用される以前には、

世界各地、あるいは途上星域各地の多神教神話で、

古い神々を演じていた連中も多い。

 

 

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そもそも、こうした多種族共生の流れは、

まだまだ〝新参者(しんざんもの)〟の人類には有難い話だ。

それに、ある意味では必然ともいえる

成行(なりゆ)きだったのかもしれない。

 

なぜなら昔、Y.N.ハラリという歴史学者が

次のように語っていたそうだ。

『人類は高い技術を得れば、神や悪魔に近づく。

どうせなるなら〝責任のある神〟になれ』と。

 

そして今こそ、神や悪魔や人間、

あるいは異星種族間の区別がなくなって、

互いのために全てを活かすべき時が来た、

といえるだろう。

 

 

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高度な技術と政策のおかげで、

違う誰かを悪者にして叩いたり、

不運な誰かの犠牲を(しの)んだり

しなくてすむ時代が、やっと来た。

 

人道的手段で自分達自身を高めることにより、

(なんじ)の敵をも愛』し、

『誰一人取り残さない』ことが、

宇宙規模で可能になったというわけだ。

 

 

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もしもいるなら本当の神様だって、

きっと喜んでいるに違いない。

 

今日は、地球暦の12月25日。

彼女達が人類にもたらした

最も有名な神話のひとつで、

救い主の誕生を祝う祝祭日(しゅくさいじつ)である。

 

 

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