彼と彼と彼女達 作:がむ
色々と許してください!!
飛び交うレーザーの光、ハンドグレネードの爆音、耳をつん裂くようなスラスターの音。その全てがわたくしにとっては聞き慣れたものだ。
だが───
「クッ!」
「大口叩いといてもう被弾かい!?」
「言わせておけば!」
───この男は、
彼に熟達の技術などはない。レーザーの狙いはアシストを受けた上で尚無茶苦茶、ハンドグレネードはあらぬ方向で爆発し、彼自身もスラスターの急加速でむしろ危うい方へと飛びまくる。
素人だから逆に思考が読みづらい? いや、そんな次元の話ではない。そもそもわたくしは相手が素人だからといって、その動きを予測できないほどに未熟でもない。
天才、一重にこの男は天才なのだ。
動きの一つ一つが紙一重の域で思考の上を行く達人の技。意識外を突けば彼は意識外でそれを回避する。同時に私の無意識に爆発と光線を捻じ込んでくる。厄介だとかそんなレベルではない。
思考が焦りに支配されたその瞬間。わたくしを取り囲むようにハンドグレネードが爆発し、ほんの一瞬意識が奪われる。
まずい。
練り上げられた兵士の勘が警鐘を鳴らす。
♤♠︎♤
「えっと……
わたくしの彼への最初の印象は『感じの悪い男』だ。偏見をフルに込めて貶めるように言うなら『女性に媚びる哀れな男』になる。随分と癖のかかった髪型、猛禽類のような目つき、左耳を覆い隠すほどに飾られたピアス、平均を優に越す身長も、筋肉のついた屈強な肉体も。女にない強さと言うものを全て持ち合わせている。だと言うのに、自己紹介の時にも人と話す時にも物腰柔らかく、むしろ甘えるような声で微笑みながら話をする。ニュースで聞いた悪評とは正反対のような人物だ。
この時のわたくしにはそれが酷く愚かで下賤な行為であり、そしてこの『IS学園』には相応しくないと感じた。
そしてもう一つ、ISは『女性にしか動かすことができない』という欠点を抱えていた。女性が手に入れた新たな武器により、男女のパワーバランスは大きく女性に傾いた。
だからこそ私はこのISを起動させた男が気に食わなかったのだ。身体的な強さとISを操れるという強さを抱えておいて、いまだに人に媚びるような態度のこの男が。
「ちょっと、よろしくて?」
「ああ! どうぞ! えっと……オルコットさんだっけ?」
そうだ。この顔と声だ。驚異の塊のような見た目のこの男が、その牙や爪を隠すようにして背中を丸めて話すのだ。なによりもそんな力を求めていた私には、それが不満でたまらない。
「あら、あなたの方はご存知でしたのね?」
「あなたの方、っていうのは?」
「もう1人の男性ですわ。ご挨拶に行ったんですけれど、どうもわたくしのことどころか一般常識すらもご存知なかったようでしてね」
それを聞くと、彼はクツクツと笑って見せた。ニヤリと、口を釣り上げて白い歯を覗かせるような獰猛さを感じさせる笑い方だ。ほんの数秒笑った彼は、さっきまでの作ったような微笑みを顔に貼り付けていた。
「俺もまだ挨拶行けてないからどんな人かはわからないんだけどさ、彼もここの常識には慣れてないと思うからしょうがないよ。まあ内容にもよるかもだけどさ」
「……やはりあなたの方も同類でしたわね」
我ながら理不尽な発言だなあ、と思う。この時わたくしは随分と頭に来ていたのだ。女に媚びるような態度を取っていたこの男が、わたくしに対して表情でも会話でもちょっとした牙を向いて見せたからだ。
自らの強さを隠すことも、見せつけることにも怒りを覚えるとは本当に理不尽な話だ。過去の自分をここまで悔いることがあるとは。
「ああ、あなたにも挨拶に来たんでしたわね。あなたが自己紹介で言っていた通り、困ったらこのわたくしでISについて教えてあげますわ。もちろん必死に、それも土下座でもして頼み込むなら仕方なくですわ」
「ハハ、じゃあその時は跪いてお願いすることにするよ。よろしくね、オルコットさん」
「……ええ、よろしくお願いいたしますわ」
最後にもう一回ニヤリと笑って見せた。その動作にまた堪えようもなく腹が立って、来た時よりも早足に自分の机に戻った。
さて、問題はこの後だ。
このクラスの代表を決める中で推薦されたのは織斑一夏と柊湊。学園で2人だけの男性という物珍しさだけで、クラスの他の女子たちが面白がって推薦したのだ。当の本人たちは狼狽えたり、困ったように笑っていたりと頼りない態度であった。
そしてその中でイギリス国家代表候補生、つまりイギリスでも指折りの操縦者でありこのクラスで最もISの操縦に秀でたわたくしを推薦する声は一つもなかった。
そこから先は酷いものだった。わたくしの男に対する不満だとか、イギリスを離れてこの日本へ来なければいけなかったストレスだとかで、およそ代表候補生には相応しくないような発言をいくつもしてしまった。
結局我に帰った時にはもう遅く、担任の織斑千冬先生が一週間後にISでの試合によってクラス代表を決めるというふうに話をまとめた。
流石は世界最強のIS操縦者、実力主義というものをよく理解した素晴らしい落とし所だと思う。もう1人の方、織斑一夏にも姉である織斑先生を見習って欲しいものだ。
しかし、わたくしの脳裏には一つの映像が刻み付けられた。
さっきよりも激しく牙を剥き、愉快そうに顔を歪めて笑う───
「面白そうじゃねえか。やってやろうや」
───柊湊のその顔だ。
この時わたくしは確信した。一週間後の戦いは試合ではない。獣狩りだ。特別凶暴で強大な獣との戦いとなる。一週間後、奴の牙も爪も抜いてみせる。
だからわたくしは一週間、随分と詰め込んで訓練をした。そのおかげでわたくしの機体、ブルーティアーズが持つ独自の兵装。機体から離れつつも操縦者からのコントロールを受けて攻撃を行う兵器、
当日、試合が行われるアリーナには大量の生徒が集まっていた。皆、男性操縦者を一目見にやってきたのだろう。ちょうどいい、この人数の前で彼らを無様に下してみせる。
本来なら先にわたくしと戦う予定の織斑一夏は、今ようやく届いた機体の調整に時間がかかるそうで、先に柊湊が相手をすることになった。
彼が身に纏っていたのはラファール・リヴァイヴ。疾風の名を冠するフランスのデュノア社製の量産機だ。兵器をデータ化して格納するための
「今から泣いて謝るならほどほどで許してあげても構いませんことよ?」
「お互い何を言われたってその程度じゃ足りないだろ? 心いくまでやろうや!」
そこから先は予想以上だった。彼はもはや獣なんて言葉で表現できるような生温い存在ではない。まさしく血に飢えた
グレネードで逃げ場を潰し、鋭いレーザーライフルの一撃が体力をすり減らす。まさしく狩りの手法。化物が銃火器を持つとこうも恐ろしくなるものなのか。
同じレーザーライフルでの撃ち合いではあるが、お互いに戦法が全く違う。回避を最低限にBTでの攻撃を主としたわたくしに対し、相手は常に動き回り、グレネードの爆音と黒煙で絶えず撹乱してくる。射撃のセンスは比べ物にもならないが、戦闘のセンスは圧倒的に向こうに軍配が上がる。
わたくしのレーザーライフルも、4機のレーザー搭載のBTも彼の装甲に傷をつけることはできない。
そしてわたくしを取り囲むように投げられたグレネードの爆炎、それを切り裂いて飛んできたのは彼が左手に装着していたシールドであった。
即座に反応し、レーザーライフルで撃ち落とす。しかしその裏から銃口にエネルギーの刃を生やした彼のレーザーライフルが真っ直ぐに飛んでくる。
「二段構えですか。素人にしては考えましたわね」
そちらも難なくレーザーで弾く……ことは叶わなかった。こちらのレーザーが当たるよりも前に、そのレーザーライフルのストックをグレネードの爆発が強烈に押し、更なる勢いと回転と共にこちらへ突っ込んでくる。
思わず驚愕の声が出るが、半身になってかわしたところへまた飛んでくる二本の柄付きグレネード。
「本来なら見せたくはなかったのですが!」
咄嗟にとった選択はわたくしにとっての切り札、できるならば今日切りたくはなかったいざというための一撃だ。それはBTの弾道型ミサイル。レーザー搭載のBT同様に、わたくしの意思通りに動く二発のミサイルがグレネード粉砕する。
が、その爆煙を再び切り裂くものがあった。
橙の閃光。彼のラファール・リヴァイヴの右手に握られる、熱エネルギーで攻撃力を増した実体剣がわたくしの肩部装甲を貫く。ISの表面に貼られたエネルギー・シールドが防いだ上で抉られた装甲が一撃の重さを表していた。
約半分ほどまでに削られたエネルギーが焦りを助長する。苦し紛れに取り出したブレード『インターセプター』で応戦するが、ブレードだけでなく殴りや掴みや蹴りを駆使しての打撃戦には全く歯が立たず、エネルギーがだんだんと削られていく。
互いに振りかぶった一撃がかち合って、鍔迫り合いの形になる。
「常に遠距離ライフルとハンドグレネードで立ち回って遠距離型と見せかけ、一瞬の隙をついて何段重ねもの不意打ちと同時に接近、得意の接近戦に持ち込む。素晴らしい作戦ですわね」
「へへっ、この一週間考え抜いた作戦だ。通用したようで嬉しいねぇッ!」
考えをさらに改める必要がある。
本能頼りの化物のような戦い方をしながらも、策を弄する狡猾な人間としての強さを持つ。もはや彼を形容する言葉はない。敢えて言うのならば柊湊という生き物なのだ。
「休憩はここまでだ!」
「クッ!」
全力の鍔迫り合いも彼にとっては休憩に過ぎなかったのだろう。蹴り飛ばされると同時に慣性を無視して肉薄してくる。
わたくしとて、ここで負けるわけにはいかない。インターセプターを最低限の動作で相手へ投げ飛ばす。これが逆転のための一段目とする。ギャラリーから見ればこの行為はただのヤケクソに映るだろう。でも、わたくしはもはやそんなものにはとらわれない。どれだけ醜かろうと彼に勝ってみせる。
彼が当然のようにブレードを弾くと同時に、二段目として4機のBTからレーザーを一斉射撃、最も効率的な逃げ場は前方。つまりわたくしに突っ込むルート。彼はわたくしが逃げると予測して追いかけるように肉薄してくる筈だ。
だからわたくしは前に行く。これが三段目。渾身のタックルと同時に彼を全力で抱擁する。特にブレードを握る腕が動かないように押さえつける。
「えっと……そういうのは順序を踏んでから……」
「あら、わたくしとあなたの仲ではありませんか?」
彼の顔が驚愕と焦燥に染まる。拘束された時点で悟っているだろう。
四段目。4機のBTが光を吐き出し、彼のISのエネルギーを削る。この試合で初のダメージとは言え、全弾直撃。もう一発当てれば間違いなく彼のエネルギーを全て消し去るだろう。
「……予告だ。俺は残り二手で勝つ」
「随分と余裕ですわね? この状況からどう抜け出す気ですの?」
「先に言っとくけど……ゴメンね」
わたくしがその言葉を頭で理解する前に、体が理解した。
彼の唇が、わたくしの唇を固く塞いでいた。それだけではない。舌が唇を割って口に侵入してくる。初めての感覚だ。彼の舌は人の口内で不躾にうねり、わたくしの舌を見つけると情熱的に絡み始める。
次に驚愕と焦燥を感じるのはわたくしだった。思わず彼を拘束する力が緩み……彼が抜け出し、わたくしのエネルギーを削り取るにはその一瞬は十分すぎた。
エネルギーの全損と緊張の途切れによりISの展開が解除され、生身で墜落しそうになったわたくしを彼が抱きとめる。そこに浮かぶのは貼り付けたような微笑みではなく、牙をむき出しにした獰猛な笑みであった。
やりたい放題やりました