彼と彼と彼女達   作:がむ

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少年ハート

『と、このように。2人目の男性IS操縦者である柊湊くんは15歳とは思えないほどに非行が目立つ少年です。12歳にしてチーマーを立ち上げ、僅か3年にして関東一のチームにまで育て上げました。喫煙、飲酒は証拠の写真もあり、明確な証拠は不特定多数からは麻薬にも手を出しているとのリークもあります。彼をIS学園へ入学させることは非常に危険であるというのが世間の意見です』

 

『確かに、その通りです。しかし、彼の人権を尊重しつつ保護するにはIS学園への入学がベストなのです。誘拐、暗殺、世界で2人目の男性IS操縦者となった彼を狙う者がどれだけいるのかは計り知れません。まさかこの先ずっとどこかに閉じ込めるわけにもいきませんから』

 

『しかし全国から彼の悪評が大量に寄せられています。何かあってからではIS学園の生徒さんにも保護者にも説明がつかないでしょう?』

 

『それと同じだけ、彼や彼のチームに助けられた方の擁護意見も届いているのです。片一方だけを見て判断するのは早計でしょう』

 

 

「ハハハ! たった数日で随分人気者になったものですねえ!」

「まあ、当たり前だろうな」

 

 私、織斑千冬の警護対象である少年はカラカラと笑いながら缶ビールを煽った。缶詰生活に随分とストレスが溜まっているようで、起きた時から絶え間なく酒とタバコをやりながらテレビを見ていたようだ。

 この少年、柊湊は掴みどころのない少年であった。基本的には物腰柔らかく丁寧な少年だが、目的を通すためならば平気で拳を振るう。人と話すときにも薄皮を一枚被ったように本音を隠している感じがして、その本質は計り知れない。

 ならば、と彼の周囲を探ってみるが、それでも彼という人物がわからない。彼のことを心底恐る者がいれば、大恩を感じている者もいる。女を人質にとって恐喝をして最終的には殺したという話を聞くし、友人のために素手で1対300の喧嘩に突っ込んだという話もある。

 

 関東一のチームのリーダーは伊達じゃない、ということだろう。その強大さ故に、良いことも悪いことも数百倍に膨らまされて噂されるというわけなのだ。

 

「自分のチームが関東を制覇したと思ったら、今度は俺が世界に名を轟かすとは思いもしませんでした。しかし、最近のマスコミってのは個人情報の概念がないんですかね? 仮にも未成年ですよ、俺」

「奴らは知る権利というものを履き違えているからな。私も一時期は随分と悩まされた」

「ああ……世界最強はその辺も大変ですよね……」

「全くだ……」

 

 世界一のIS操縦者としてマスコミに付き纏われた経験がある私には、痛いほど彼の気持ちが理解できた。彼も例外とはいえ中学三年生の少年。世界中に顔写真や喧嘩の動画、悪行の数々をばら撒かれればメンタルにも来るものだろう。

 

「そういえば、織斑さんは弟さんの件もあるでしょう? お疲れでしょうに、俺にまで気を使っていただいて申し訳ないです」

「お前がアルコールとニコチンのためにこの部屋を抜け出すことをやめれば、私も弟の件に集中できるのだがな」

「それを言われると弱い……しかし、弟さん、一夏くん。彼の方もだいぶ参ってそうですね……俺はまだ慣れてる方なんでいいんですけど、彼には一層堪えるでしょう」

 

 彼に対しての判断を鈍らせるのがこういうところだ。ただの不良かと思えば、少なくとも人を気遣うような発言も自然にしてみせる。

 これは果たして彼の素なのか、それとも巨大なチームのリーダーとしての技術なのかはわからない。ただ、同い年の弟を持つ身としては彼の純真さを信じてやりたい気持ちもある。

 

「慣れてる、というのはチームでの話か?」

「ええ、いろんな人間から注目されるのはそこで慣れてて……テレビとか雑誌とかに載せられたりもしましたからね」

「関東一は伊達じゃない、ということか」

「えへへ……確かにそうかもしれませんね」

「素直に受け取るとは珍しい」

 

 これは初めてみる表情だ。照れて頭を掻く彼は、確かに年相応の男の子の顔をしていた。それに何を褒められても謙遜するようなこの少年が、正直に受けとって肯定するのも初めて見たかもしれない。

 

「あのチームにいる奴らはね、俺の誇りなんです。そんであいつらにとってもあのチームは誇らしいものなんですよ。みんな、自分1人に自信を持つことが出来ないから大きなチームを拠り所にするんです。大人にとっては良くないことだと思うかもしれないんですけど、俺たちにとってはそれが救いだったんですよ……だから、俺はあのチームに関しては謙遜したりへりくだったりは絶対に出来ないんです」

 

 誇らしげなその笑顔は、私の弟と、一夏となんら変わりない少年の顔だった。

 とりあえず彼を、彼の中の少年を信じることにしよう。問題があればこの私が処置を下せばいいだけの話だ。

 

 

「でだ、柊よ。今日私はお前をIS学園へ入学させるか否かの最終決断をしに来た」

「ほう……で、結果はいかがです?」

 

 

「認めよう。お前のIS学園への入学を」

 

「いいんですか? 俺みたいなのを入れちゃって」

「この私が責任を取るのだから問題はない」

 

「へへ、ありがとうございます」

 

 彼は一瞬驚いたような表情を取るが、すぐに貼り付けたような微笑みに戻り、頭を下げた。

 

 

 

「あっ、でも禁酒禁煙はしてもらうぞ」

「そんなご無体な!」

 

 

 

 

 ♡♥︎♡

 

 

 

「で、信じた結果が入学早々の決闘だ。私の勘も鈍ったか?」

「騒ぎを! 起こすつもりは! なかったん! ですがね!」

 

 グローブを嵌めてサンドバッグを打つ彼の背中に話しかける。口論により決まった一週間後のISでの試合に備え、トレーニングを開始しているのだろう。ここIS学園にある誰でも使える巨大なトレーニングルームに目ざとく目をつけたらしい。

 

「一夏くんは! どうでした!?」

「篠ノ之と剣道をやっているらしい。発想はお前と同じだな」

「そうですか! やっぱり! 男ってのは! こうでなくては!」

 

 突きも蹴りも殆どが我流であろうに、綺麗にサンドバッグを揺らすものだ。

 2日後ほどには彼には量産機であるラファール・リヴァイヴが専用機として渡される予定だが……

 

「言っておくが、ナックル系の武装はすぐには用意できんぞ?」

「えっ! マジですか!?」

「マジだ。あんなゲテモノ使うやつもいないから、倉庫のずいぶんと奥の方に仕舞い込まれている。まともに使うならメンテナンスも必要だから、どう頑張っても一週間後には間に合わないだろうな」

「まあ……だったら素直に刀とか銃とか使います……」

「賢明な判断だ」

 

 サンドバッグ打ちを中断した彼は残念そうな表情で水を口に含んだ。しかしまあこの勝負、拳が使えなくとも彼には十分に勝ち目があるだろう。セシリア・オルコットは国家代表候補生とは言え、試合以外の経験がない。死合を何戦もしてきたであろう柊とは経験の密度が違う。

 

「お前の機体は届いたら整備棟の5番ガレージに保管される予定だ。2日後にまた通知はするが、一応覚えておくように」

「はい!」

 

 休憩は終わりのようで、彼は再びサンドバッグに向かい合った。

 まあ、励めよ少年。

 

 

 ♧♣︎♧

 

 

 

「不良少年よ、私はまず何からお前を叱り始めれば良いのかがわからん」

「えへへ……申し訳ないです……」

 

 クラス代表決定戦のあった夜、つまりはこの柊がオルコットに対して思い切りやらかした後のことだ。消灯時間はとっくに過ぎているが、割り当てられた1人部屋を抜け出した彼は寮の屋上で紫煙を吐き出していた。

 試合中の行動についても、夜間に部屋を抜け出したことも、禁煙を破っていることも、まずどこから指摘すれば良いのか分からないほどに彼は問題だらけだった。

 

「セシリアとのアレについては……丁度さっき、先生が来る10分ほど前に話をつけたあとなんで……どうかそこだけはご容赦を」

「あいつも夜間外出か?」

「ゲッ、誘導尋問とは姑息な手を使いますね」

「完全にお前から勝手に話しただろうに……」

 

 一夏がISを動かしてからというもの、私には心労が絶えない。この学園についても覚悟を決めてはいたが、開始一週間でここまでやられるとその覚悟も揺らぐものだ。全く、私も、こいつらも、どんな星の元に生まれればこんなにトラブルに巻き込まれたり引き起こしたりするものなのか。

 

「……まあ、なんだ。見事な戦いだった」

「おや、まず褒められるとは思いませんでした」

「大した練習期間もなく、ズブの素人が代表候補生に勝って見せた。これは大きな意味を持つものだ。その点においては評価している。ただ……」

「ただ?」

「ただ、もっと他のやり方はなかったのか? 衆目の中であんなことをやらかすのが馬鹿なことだと、お前ならわかるだろうに」

 

 すると柊はカラカラと笑った。煙草を摘む指元も、煙を吐き出す唇も、夜の闇を見つめる眼も、どれもが所在なく、戸惑っているようにすら見えた。

 

「あの時、俺は本気で勝ちたかったんです。あんなことは久しぶり……いやむしろ、初めてだったかもしれない。ここに来て、ISに乗って、彼女と対峙して───俺は初めて本気で戦えたんです。その上で彼女を負かすにはアレしかないと思ったからそうしたってだけなんですよ」

「……はぁ、不良少年め」

「へへ、俺、悪い子ですから」

 

 吐き出されて、風に揉まれて消える煙が彼の姿のようだった。初めて顔を合わせた時からそう思っていたが、彼はどこか自らの破滅を見据えているような気がした。吹いて消える煙のように、踏まれて消える炎のように、名も無き一陣の風のように、誰にも知られることなく消えていくのを悟って、そして望んでいるようにさえ感じられた。

 獣のような力強さと、煙のような儚さを同じ身に飼うという矛盾を抱えた少年だ。

 

 

「励むことが見たかったのなら、良いことじゃないか。目指せよ少年」

「目指す? 一体何を?」

 

 

「頂点さ、世界最強だよ」

 

 

 切れ長の目をまん丸にして、珍しく驚いた様子の彼はこれまた珍しく弱々しいような声色で言葉を紡いだ。

 

 

「なれますかね、俺なんかが目指して、いいんですかね」

「目指すのなら自由だ。それに本気になれることを見つけたのなら、後はそうする他にないだろう」

「へ、へへ……」

 

 

 それ以上の言葉はなかった。しかし、気づけば彼は力に漲っていた。

 

 来いよ少年、見ていてやろう。

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