特典無しで救世主になれと言われましても 作:さすさすみ
目を覚ますと真っ白い世界で少女と対面していた。少女の年の頃は十五、六くらいだろう。あどけなさが残りつつも大人の色香がほんのりと感じられる顔立ち、この白い世界と同化してしまうほど白く柔らかな腰ほどまで伸びた髪の毛。美しい。これまで見た何よりも美しい。
彼女の美しさに見入っているとにわかに彼女は微笑んで口を開いた。
「ハロー! 人間! 突然だが君は死んだ!」
そして、目の前の白髪美少女は明るく俺の死をなんでも無いことのように告げた。
何故、死んだのにここに存在するのかと声を出そうとして初めて身体が存在していないことに気付いた。しかし、声はちゃんと発された。
瞳が存在していないのに見える。耳が無いのに聞こえる。声帯がないのに喋れる。自分が極めて異常な状態であることを知覚した。
そして、ここである考えが浮かぶ。今、俺は夢を見ているのだと。
そうだ。これは夢なんだ。この突拍子もなく死を告げる美しい少女も白い世界も異常な状態も全て俺の脳が作り出した夢に過ぎない。
「んにゃ、夢じゃないよ。ここは狭間さ。世界の狭間」
俺が死んだのならばここはあの世とこの世の境目といったところか。破綻している事が多い夢にしては良く出来た設定じゃないか。
「だから、夢じゃないって。それにここ、死と生の狭間でもないよ。ここは文字通り世界の狭間。二つの世界の間だよ」
俺がどうして二つの世界の狭間なんて大層な場所にいるのか。全く持って意味不明だ。
「まぁ、簡単に言うと君は選ばれたんだ。救世主としてね」
また、変なことを言われてしまった。俺が救世主として選ばれた? なぜ? どうして? 優れた人間でなく俺を選ぶ理由が見当たらない。
「ありゃ、喜ぶと思ったんだけどなぁ。ライトノベルっていうのかな? そういうのの始まり方ってこんな感じじゃない? もしかして、好きじゃなかったかな?」
ライトノベルは好きだが現実にそんなことされたら飲み込めない。突然、死んだと言われたと思ったら救世主に選ばれたとか。濃過ぎて正直お腹いっぱいだ。
「気に入るか、気に入らないか。そんなことはどーでもいいんだけどね。気に入らなかったとしても『強制的に送っちゃえ』ばいいし。そういうことは置いておいて。兎にも角にも君は選ばれたんだ。主人公不在の世界を救う救世主としてね」
主人公不在の世界を救う? 一体、それってどういう?
「おっ、乗ってきたね。君を送りたいのは『ポケットモンスター』の世界。君も作品名くらいは聞いたことあるだろう? この世界にはね、いるべきはずの主人公がいないんだよ。おかげさまで世界は詰んでしまったんだ。悪の組織が念願叶えて世界征服しちゃってさ。詰んでしまった世界は消すしか無いんだ。でも、それってあんまりだろ? だからさ、後付けで主人公を足すんだ。後付けの主人公が悪の組織を壊滅させれば詰んだ世界に先が生まれる。僕も消さなくて済む」
いい話じゃない、と彼女は微笑みかけてくる。どんどんラノベっぽくなってきたな。どうせ夢だし、彼女の誘いに乗ってもいいだろう。
「夢じゃないけど……。ともあれ乗ってくれるならそれに越したことはない。早速行ってもらおうか!」
転生ものなら特典を貰えるはずだが何も無いのか? 特殊能力の一つも無しで世界を救えと? ハード過ぎないか? そんなラノベあったら売れないぞ。多分。
「過ぎた力を持たせた人間は破滅をもたらす。これはどの世界でも共通したことさ。だから、君には特典とかいうのは渡せない。身の丈に合った力で世界を救ってくれたまえ」
それじゃあ、世界を頼んだぞ。救世主殿。
その声とともに緩やかに意識が消えていく。
意識が消えていった時と同じようにゆっくりと意識が浮上していく。不思議な夢だったな。そう思いながら目蓋を開くと見知らぬ天井。
えっ?
見間違いかと思い、目を擦ろうとして手が小さいことに気付く。起き上がって周囲を見渡す。家になかった家具。見た事もない文字。
ゆ、夢じゃなかったのか……。
頬をつねる。痛い。顔を叩く。凄く痛い。
本当に転生してしまった……。
どうしたものかと頭を抱えているとドアがガチャリと開く。ドアノブには大きな黄色い鼠みたいな生き物がぶら下がっていた。
…………どこからどう見てもピカチュウだ。アニメで見ていたまんまだ…………。
一体全体どうやって特典無しで世界を救えっていうですかね?