成金社長がヒーローになる話   作:低次元領域

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 魔が差しました


M1『オレがクソカネモチで社長で仮面ライダー』

 朝。

 生きとし生けるものならば誰もが迎える朝日に照らされ、猛者たちはアスファルトの地面を蹴っていた。

 向かうは仕事場という名の戦場。明日への糧のために、誰かの今を支えるために働く者達。例えどれだけ朝が辛くとも、今に絶望していたとしても。

 

「──ふっ朝から皆、ご苦労なことだ」

 

 男は彼らを横目に通り過ぎていく。名も知らないクラシックを車内に流し汗水たらさずに。

 運転の任をするわけでもなく後部座席に座り、未だ眠そうにに語目を瞑っていた。

 皺ひとつのないスーツに袖を通しながらも気にするそぶりもしていない。

 

 欠伸一つ吐き出せばグゥゥと音が一つ、クラシカルな音色に飛び入り参加した。

 

「……草分(くさわけ)様、本日の朝はどうされますか?」

 

 それを聞いて、運転手は眉一つ変えずに尋ねる。

 男はいつも朝食を取らずに家を出る。だから道中で腹の音が鳴るのは珍しくはない。

 

 ならば、腹の音が鳴る前に聞いて寄れば恥も欠かせずすむのではないか? と、考えた運転手は担当を移ることとなった。

 曰く、「腹が減ってもいない時に何度も聞くな」だそうだ。

 

 男は運転手の言葉を聞いてさて朝は何にしようかと悩もうと瞼を閉じしばし……何か一つ思いだしたように手を顎に当てる。

 

「ん、待て今日は……? 少し遠くに出来た極厚醇亭(きょっこうじゅんてい)というカフェに向かってくれ」

「?……かしこまりました」

 

 男には情報があった。今日開店するその店を、味を。だから軽く言ってのけた。

 しかし、残念ながら運転手はその店の情報を持ち合わせていなかったらしい。幾許か時間を使った後、了承の意を示す。

 果たして無事につくのだろうか──、

 

「──検索完了、付近の駐車場ならびに食事のご予約をいたします」

「ご苦労さん、運転手くん。けど予約はいい、それはキミの仕事ではないからな。運転に集中してくれ」

「かしこまりました」

 

 杞憂だった。

 ほんの十秒にも満たない間にハンドルから手を放すことも、或いは視線を外すこともなくに作業を終えていた。

 人間業ではないことは明白だ。

 

「やはり飛電からキミを買って正解だったよ」

「お褒めいただき、大変光栄です」

 

 運転手の耳に備え付けられた、青く光を放つのものの名は「ヒューマギアモジュール」。

 彼が人間ではなく、機械人形(ヒューマギア)であることを指し示していた。

 

 モジュールの存在さえ除けば見た目は全くもって人と変わりがない人形、ヒューマギアの運転技術は少なくとも、彼が今まで雇って来たドライバーの中で誰よりも丁寧である。

 精密機械の如く──否、そうであるのだが。道路の状況を隅々まで把握し、アクセルを踏む足を調節。心地の良い乗り心地を男に提供していた。

 

 ただ一つ、彼の右腕につけられた腕時計を除けばの話だが。

 

『──Mr.草分』

「……()()()。今日の予定を運転手くんに伝えていなかったな?」

『いえ、これからしようと思っていた所ですよ。思っていたよりも早く腹の音が鳴ってしまいましたので、HAHAHA』

「……はぁ、お前の仕事は済んだのか?」

 

 声がした。

 ヒューマギアが自然な人の声を放すものだとしたら、こちらは人の声をツギハギした機械音声。

 右手首から発されたわずかな振動も合わせれば、草分の意識を割くのに十分だった。運転手のものとは全く違う喋り方に追わず眉を顰める。

 

『それは勿論。駐車場はB-5のスペースを、注文はハニートーストバニラアイス乗せとアイスコーヒーのL。ミルクとガムシロを多めの多めに……練乳入りコーヒー牛乳に変更いたしましょうか?』

「からかうな。駐車場のデータは運転手くんにも送信」

『かしこまりました。では支払いは……いつもの通りで?』

「当然」 

 

 右腕の時計はかつて作り出されたとされるスマートウォッチと呼ばれていた物よりもやや大きい。

 リドルと呼ばれた腕輪は小さな震動をいくつか鳴らし、やがて一つのアプリを起動する。

 画面には「ライズpay」と表示されており、数秒をして、支払いが済んだことを知らせるポップが表示された。

 

「いい値段だ」

『……Mr.草分との関係性からいって、店頭で直接注文すれば無料で貰えたのでは?』

「馬鹿を言うな。どこの世界にタダでものを受け取る社長がいるものか」

 

 まったく、AIの育て方を間違えたな。そう言い切ると……彼はパン屋までの道のりの間まで眠りにつくことにしたらしい。

 シートを後ろに倒し、どこからか取り出したアイマスクを付けると何かしゃべっているリドルを無視し……意識を暗闇へと沈めた。

 

「はぁ……着いたら起こしてくれ」

「かしこまりました」

『アラーム音声は「DANZEN!那由多のプリキュア」にいたします』

 

「……許可するとでも?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景はただの店員と客のものではなかった。

 片方がまるで生まれついての上位者のごとく、店の者は奉仕を重ねていた。

 

「パンの味はいかがですか? こちら、追加のドリンクでございます!」

「これはどうも……いやすばらしい、以前試食させていただいた時よりも更に香りが豊かになっている。蜂蜜を変えたのかな?」

「は、はい! 草分社長に紹介して頂いた養蜂場でコウジュの蜜を混ぜたものを──」

 

 テラス席に座り優雅なブレックファーストを楽しんでいる男、草分。傍目から見て多すぎる

 甘ったるいものに甘ったるいものを組み合わせる男の味覚は果たして大丈夫なのだろうか。一瞬不安に思ったカフェの店主であったが、決して口にすることなく説明を続けていた。

 

『計測完了。アイスハニートーストはおよそ650キロカロリー、ほぼガムシロと牛乳のアイスコーヒーは約250キロカロリー。お代わりもしたので朝から1100キロカロリー超えですね』

「リドル、そんなことは命じていない。そんなことより、お前は写真を使って宣伝記事でも書いておけ。

──養蜂場、あぁ彼方も新しい商品を開発したいと口にしていました。上手くいったようで何より。そして……コウジュの蜜? 恥ずかしながら知識にない花の名前だ。珍しいだけでなくこうして味にもしっかりとクオリティの向上につなげるとは……さぞ苦労があったのでは? 素晴らしい努力家だ」

 

 対して草分はリドルの攻撃もなんのその。嬉しそうに話す店主の言葉を一つ一つに対し繰り返したり、或いは驚いたように褒めたたえたり。

 その間も隙を見ては彼の口の中には甘味が放り込まれていき消えていき、反比例して彼の表情が喜色に染まっていく。

 釣られるように店主の顔も綻ぶ。

 

「い、いえいえ……! こうして長年の夢でしたお店を開くことが出来たのは社長に支援していただいたおかげで……!」

 

 やがて、彼は拾われた犬のごとく尻尾を振り破顔した。周りを少し見渡せば、ワックスがけが行き届き光沢を持ったダークブラウンの木目床。自分のアイディアを一流のコーディネーターに整えられ整備されたカウンターや座席。

 決して自分では借りられなかっただろう、高級住宅街に近い物件。そしてそれらを揃えられる人物が自分を褒めてくれている。

 

『……』

「なに、それも仕事の一つだからというのもあったが……闇雲に支援したわけじゃあなく、キミだからこそオレは手助けしたかった。というのもある」

「私だからこそ……?」

 

 リドルが小さく振動を伝える。

 だが草分は無視した……口角をほんの少し吊り上げて。

 

「ええ。キミが十年間没頭し研究したパンは、間違いなく多くの人が美味しいと言う。だが、だからこそ資金の不足で、或いは他の要素が足りず陽の目を浴びないなんて我慢が出来なかった。

……お邪魔だったかな? なんて」

「と、とんでもない! 私は経営もろくに学んできませんでしたから、社長が送ってくださったコンサルタントの方にはもう頭が上がりませんよ……!」

 

 店主は元はとある売れないパン屋の店員であった。いつかは店を持とう、美味しいパンを焼いて人を喜ばせよう。

 そう考え日夜努力し……あくる日、客として訪れた草分に提案された。「自分の店を持たないか?」と。

 

 そして今に至る。

 最初は不安ばかりだった開店作業だが、草分の会社による手厚いサポートを受けたことで開店当日の朝だったというにぐっすり眠りが取れたほどに安心していた。

 絶対成功する。確信と共に。

 

 恩を感じないわけがなかった。

 

「──それはよかった」

 

「え?」

「……いえ、助けというのは一つ間違えればお互いの為になりませんから。気に入っていただけているようで何より。ふっふっふっ……!」

「あっ、そ、そうですよね。アハハハ……!」

 

 そう、これこそが草分……「竹innovation」代表取締役のやり方であった。

 innovation、革新を掲げ多くの企業、個人に出資・支援を重ねる。そうして将来有望な種に花を咲かせてもらい、利益を得る。

 或いは……子会社同然にしてしまう。

 契約書とも違う、心の鎖を巻き付け言う事を聞かせる手駒として支配すれば人は多少の無茶は効いてしまうものである。

 

 あの時助けられたから、この人のいう事に間違いはないのだから。

 考えることを止めてしまった者達に夢を見せ甘い汁を吸う。

 

 決して善意などから来るものではないのだ……! どうだ恐ろしかろう!?

 ちなみに草分の計算によればこの店は開店一週間足らずに話題のお店となりテレビの特集すら組まれ、ゆくゆくはチェーン店にも出来るだろうと睨んでいる。笑いが止まるわけがない。

 

『……HAHAHA』

「ふっふっふ……!」

「アハハハハ!」

 

 悪事が上手くいったと大笑い(?)をする草分と、棒読みのリドル。

 これからの人生バラ色だと幸せそうに笑う店主。

 三者三様の笑い声が響き合う店内を──、

 

 

 

 

 

「──いやどういう状況!?

……はっ! 三人の笑い声に思わずぅ~? ()()()()()()、退いちゃう!

 

はぁいっ、アルトじゃあ~ナイトォー!!

「ただいまのはお三方の笑いをスリースマイルと例え、スリーマイル……つまりは3マイル。およそ4830mも離れてしまうほど恐ろしい状況だと現した大変ユニーク且つ、詩的なジョークであり──」

「あぁっー! イズ、お願いだからギャグを解説しないでぇー!!」

 

 

「……うん?」

『Uh-huh?』

 

 謎のお笑い芸人が切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──日本を代表するホールディングカンパニーである、竹innovation社現社長。

2008年に入社。その後技術力と発想を買われ、入社3年目にありながらも異例の早さで技術部長へ。

現在多大なシェア率を誇る非接触型清算システム──『ライズpay』を完成させ、会社に大きく貢献した人物とされています。

同年、前・竹光社長がデイブレイクの爆発事故に巻き込まれ亡くなられた後は、混乱する会社を治め……一昨年には社長に就任」

「え、えーとつまり……? 2008年入社で2010年で部長、2018年にトップ……!?」

 

 先ほどの運転手とは違うヒューマギアが淡々と事実が述べていく様を草分は対面席から眺めていた。

 機体名を「イズ」と名乗った女性秘書型──白と、やや青みがかった緑色の燕尾服にも似た上着。黒のレザータイツが特徴的だ──ヒューマギアは、自身の横に座る若者に目を合わせている。

 若者は……先ほど謎のジョークをかました青年は、男の経歴に目を見開いていた。

 

「……」

 

 一体何しに来たんだこの二人と店主は目を向けている。

 はたから見たら奇人変人の類だが……草分にとって、この二人は決して「見知らぬ人」ではなかった。

 

「(……飛電インテリジェンス前社長、飛電是之助の秘書を務めていたイズ。そして……先日、()()()()()になった男、飛電アルト)」

 

 黒いジャケットの中には赤のフード。まだ垢ぬけていない顔に染めたのだろう茶色の髪。

 おおよそ社会人とも思えぬ服装だが、知らない訳がない。

 

 ……目の前のこの男こそが、自分の会社を上回るほどの大企業の社長であることを。

 

『やれやれ、今日はこんな面談の予定は入っておりませんが。また勝手に予定を変えられましたか、草分様?』

「冗談をよせ。こちらはヒューマギアを一体注文しただけだ。今話題の社長との対談なんて時価いくらかかるかも分かったものではない」

 

 以前から懇意にしていた大企業の創業者且つ社長であった是之助が大往生、次の社長は誰だと目を光らせていた草分にとって……全く無名のお笑い芸人であり実の孫。飛電或人(アルト)

 はっきり言って異常というほかない。いち会社員から十年足らずで社長に上り詰めた草分ですら、その判断に全く理解が及んでいない。

 今は亡き是之助の遺言書に従った結果ともされているが……経営のけの字すら学んでいない男にどうして社長の座が渡されたのか。

 

『この間の記者会見も凄かったですねぇ。飛電を狙ったハッキング組織を社長自ら特定し撲滅を宣言。是之助前社長の飛電が安寧とするならば、今の飛電はさしずめ波乱。

更に、彼が持つ顔は芸人、社長……だけではない』

「(奴が……件の)」

『Mr.草分? ああ駄目だ、すっかり自分の世界に入り込んでいますね』

 

 そしてもう一つ渡された「ある力」。

 理由を知りたかった。是之助の葬式に出席した時は影も形もなかった存在に何故与えたのか。問いただしたかった。

 ……自然と、足元に置いてあるアタッシュケースに意識が向く。 

 

「──失礼、アルト様へのご説明のお時間をいただきありがとうございます。」

 

 イズの声が先ほどよりもはっきりと耳に届くようになった。彼女がこちらを向いたらしい。

 それが意識の一部引き裂き、とっさに笑顔を作りはにかんだ。

 

『いえいえ……本日はお時間いただき誠にありがとうごさいますMr.飛電、Ms.イズ。これから司会進行を務めさせていただきますは、竹innovation社最優にして草分が作り出した最優のAI、リドルと申します』

「務めなくていい。静かにしていろお前は」

 

 ……聞くにはあまりに不向きな場だと、男は直ぐに思いなおす。

 ケースを軽く、つま先で小突き意識を現実に完全に戻し改めて前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 雲が広がる。乾燥し風に埃が舞う。

 乾ききったアスファルトの大地は雨粒がが零れ落ちてくるのを今か今かと待っていた。

 高層ビルが立ち並ぶ街を行く人は傘を片手に、中にはもう開いてしまっている焦り者もいる。

 

「いやしかし、まさか商品を飛電の社長さんが直接運んできていただけるとは……」

「まだ入りたてで自分の会社が何をしているかもわからないことだらけで……イズに勧めてもらいましてね」

「はい、アルト様に今必要なのはヒューマギアがどういった現場に必要とされているのか。また現場でどう活躍するのか、と認識。

また、就任したばかりですので顔人脈を広げるという事を含めての営業をすべきだと判断いたしました」

 

 コーヒーを楽しみながらの談話は、彼らをガラス越しに眺めつつ行われていた。

 忙しなく、昼休憩もとうに過ぎた者達が己の仕事を全うするために動いている。

 ここまでなら少し前でも見られた光景だったが……男の記憶の中でかつての「仕事の風景」とはかみ合わない一つの存在がそこはにいる。

 

「──初期設定完了。ベイカー・サント、起動完了いたしました」

「……いやぁすごいなぁ……本当に人間とそっくりだ」

 

 路上駐車されたトラックから降ろされた大きな箱。ひも解いて出てきたるは一人の人間。

 ……ではなく、女性型ヒューマギア。汚れ一つないコック服の上から赤い頭巾とエプロンを着こなし見せる笑顔は、見れば自然とこちらも笑ってしまうだろう。

 店主はテクノロジーの発展に思わず口を開いたまま彼女を観察している。

 

 ヒューマギアモジュールの光は若葉マークを作り投影しており、新品だという事を現していた。

 

「そうだろう? まだまだぎこちないところがあるやもだが……既にパンについての知識は一通りラーニングされているはず。そうでしょう? アルト社長」

 

 だが新品と言えど使い物にならない訳ではない。既に一般人とは隔絶した知識を持っているのだ。

 ここからさらに経験を積み、より現場に適したパン焼き職人兼店員として活躍してくれるはず。と説明しようとして、途中で「ああこれは飛電社長に話をさせた方がいいな」と気がついて話を振った。

 

「えっ、えーと……イズ?」

「(おいおい嘘だろう……!?)」

 

 失敗だった。どうやら思っていたよりもヒューマギアについて知らないらしい。

 狼狽え隣に座る自身の秘書に助けを求める彼に思わず頭を抱えそうになった。

 

 大丈夫か彼に営業擬きをさせて飛電。

 本当は何も知らないから業務に携われず会社から追い出されたのではないかと良くない考えが浮かんだ。

 

「アルト社長に変わりご説明させていただきます。ベイカー・サントには今の今まで他の個体で積まれてきた経験だけでなく、湿気、発酵による生地の変化を瞬時に判別する機能を備えております。

これからお店の工程を学ばせていただければ、例え店長がお休みの日であっても……寸分の味の違いも出さない事をお約束いたします」

 

 秘書はかなり優秀だ。

 まさか製造企業の社長の前で解説する、なんて事態に陥らず一安心し焦りも消えた。

 

 これさえあれば……元々輝いていた目の光がさらに強まるの感じる。ここが詰めかけどころだ。

 

「ご説明ありがとう、イズ秘書。と、いうことでありまして……今は人手が揃っておりますが、急な退職で人手不足に悩まされる飲食店も増えている。オープン期間中に彼女を育てれば、そのことについても安心かと。

当然、オレからのプレゼントです。お代は頂きません」

『後で所有権についての書類をお送りさせていただきます。それが終われば晴れてあなたのもの。メンテナンス費用などは一年分こちらで既に支払っております』

 

「……えっ! い、いいんですか草分社長!? わ、私も知識はそんなにありませんがヒューマギアってかなりお高いんじゃ……」

『なぁに、軽の車を買うよりも安いもんですよ。メンテナンス費用、税金、電気代も含めても……人を雇うよりか断然お安く済みます』

 

 せいぜい初期投資がでかいくらいだとリドルは囁いた。その初期費用がこちら持ちなのだからデメリットはほぼない。

 

「(……まぁ数年もせずその分のお金は回収させてもらうがな。ふふふ)」

 

 ここでも草分の悪人顔がにじみ出ようとしていた。

 が、複数人が見ていることに気が付き直ぐに取り繕う。幸いにも誰にもバレていないようだ。

 

「……さて、そろそろキミもキッチンに戻った方がいいんじゃないか? めでたいことに、他のスタッフの顔が慌ただしくなってきているぞ?」

「──あっ! ありがとうございます……! では私はここで……絶対に成功させて見せますよ。 恩に報いる為にも──私の夢の為にも!」

『ええ、楽しみにしていますよ』

「何故お前が答えるリドル?」

 

 目の前で店主は最早信者の如く草分を見ているのだ。間違いない。まさか男が心の中では悪事(?)を企んでいるとは夢にも思うまい。

 店主はもう一度深くお辞儀すると、カウンターの奥へと消えていく。パン焼きヒューマギアもこちらに一礼すると、その後を着いて消えていった。

 

「……ふふ、成功させて見せますよ。か」

 

 成功するから、金を出したのだ。そう言いたげに彼はリドルが入っている腕輪を撫でる。

 そして残っていた甘ったるいコーヒーを飲み干した。

 

「夢の為、か。やっぱりヒューマギアは夢に向かって跳ぶ人のパートナーだ……!」

「素晴らしいことですね。……それでは草分社長、本日はお邪魔いたしました。また機会があればお話をお聞かせ──」

 

 AI技術が発展したこの世の中で誕生し、日々良き働き手として稼働してきた機械。

 それさえあれば、どれだけ人手不足、技術の不足に悩む人を救えるだろうか。

 店主とヒューマギアをほほえましく見つめていたアルトはなにか確信に至るものを得たらしい。ただゆっくりと頷く。

 

 イズも用事は済んだとばかりに立ち上がり、こちらに深くお辞儀をしようとする。

 

「──いや待て。オレから一つ……いや二つ、聞きたいことがある」

 

 男は手で制した。

 夢のパートナーだと済ませようとする男に、それが見せた悪夢を知っているはずの男の真意を知りたくて手を伸ばした。

 

「えっ? 聞きたいこと……?」

『Mr.草分? そろそろ出なければ定例会議に間に合いませんが』

「短く済ませる──流石に店主の前では話し辛かったがな。まず一つ目は……」

 

 だが偶然か、草分の言葉は──、

 

 

──!!

 

 

「っ、爆発?!」

 

 近くで響いた、銃声にも似た音で防がれた。

 先ほどまでの優雅な時間は何処に消えたのか、店内は一転して悲鳴に包まれる。

 

──な、なんだ!?

──熱っ、コーヒーが、コーヒー零した!

──お、おい煙が昇ってるぞあっち!?

 

 客のうち一人が指さした方に皆が向けば確かに煙が立っている。道一つ超えた向こうで車が炎上し燃えている。

 黒煙をモクモクと上げ、人々が離れる様に逃げていく。

 

「……単なる自動車事故? ……あれは!」

『視認、炎上する自動車は……Mr.草分の車です』

 

 そう、それは……男が今朝乗っていた車だ。付近の駐車場に止めていたはずのものが、何故通りで炎上しているのだろうか。

 待機していたはずの運転手くんは何処に消えたのか。

 いやそもそも本当に自動車事故か? いやそれにしては周りの反応がややおかしい気がする

 

 まるで……なにか、炎上する車よりも、より危険な者から逃げようとしている様な。

 

「……まさか! え、ええと草分さんは危険ですからここに!」

「……キミは?」

 

 考えごとをしていれば、突如として飛電が立ち上がりこういった。

 何か思い当たる節があるらしいが……。

 

「え、ええと……確認! ちょっと確認してきます! 行こう、イズ!」

「あ、おい待たないか……!」

『……行ってしまいましたね。と言いますかアレ、()()ですよ?』

 

 明らかに何かを誤魔化して、彼と彼女はそのまま店を出て行ってしまった。

 ……ジャケットのポケットから、()()()()()()()をのぞかせながら。

 

 男はその存在を知っている。だからこそ、彼らが何しに行ったのか、その瞬間おおよその健闘がついてしまった。

 加速していた思考は落ち着きを取り戻し、一息も付ける。騒ぎとなっている店内の中、コーヒーのもう一杯も貰えないかとすら思えた。

 足元に置いておいたケースに手を伸ばし、テーブルに置く。

 

「……アレは、「プログライズキー」……だろうな?」

『ほぼ間違いなく。携帯、ライズフォンを発光イエローに塗りたくったとしても形状が違います』

「となればやはり、あの爆発も……」

『そうでしょうね。このまま騒ぎが広がれば、ヒューマギアを導入したこの店の評価にも関わります』

 

 混乱する店主を他所に、男はケースのロックを解く。

 

「ふん、困ったな。であれば……ヒーローが必要だな?」

『Yes,Mr 早急に、なおかつ派手に解決するヒーローが必要です』

 

 堅牢なケースを開けて出てきたのは……二つの道具。

 

 一つは、エメラルドの様に深い翡翠の光沢を放つベルト。

 もう一つは……成人の掌におさまる程の大きさを持つ、直方体の物体。

 

 プログライズキー、そう呼ばれる物。

 表面には「DISBURSING(ディスバースィング) SCARAB(スカラベ)」、「ABILITY-PAY」と書かれており、スカラベの横顔だろうか?

 模された黒のシルエットが記されていた。

 

 男はそれを見ると、今日一番に頬を緩ませる。

 そして取り出し……外に出ようとした。

 

「お、お客様落ち着いて……! あ、く、草分社長! 何処にお行かれになるので……!?」

 

 ただ、慌てている店主が彼を追い止める。その顔は不安に染まっており、頼む行かないでくれと、今にも何か知恵をくれと泣きついてきそうだ。

 だから草分は……。

 

 

「趣味の時間だ」

『コーヒータイムにも満たない時間です』

 

 

 はっきりと答え、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゼ、ゼゼツゼ、ゼツメツツツ……???!』

 

 車は炎上している。

 付近の街路樹をなぎ倒し、大きくゆがみ燃料が漏れたのだろう。

 下手人である機械人形は酷く愉快そうに、まだ破壊を繰り返そうとしていた。

 

 暴走機械……かつて運転手くんと呼ばれたいた人形を囲むのは、人間らしい皮膚も全てをそぎ落とした機械人形たち。

 どこから取り出したのか鋭利なナイフと銃火器を手に、逃げ遅れた人たちを襲おうとしている。

 

 さながら戦場だ。

 

「ぐっ、数が多い……! みんな、早く逃げてください!」

 

 それを止めようとしているのは黄色のバッタの面をつけたロボット。

 否、パワードスーツだろうか。人型であり動きからして中に人が入っていることが伺える。

 赤い複眼を輝かせ、先ほどどこかで聞いたような青年の声に似た声を響かせていた。

 

ベリルドライバー!

「……えっ?」

 

 草分は、それを見て満足げにベルトを下腹部に押し付ける。

 低い人工音声の声が響き銀色のベルトが出現。男のワイシャツを上から締め付ける。

 

「リドル、支払いの準備だ」

『Yes,Mr.草分。……「マネカライザー」起動、登録口座確認。残高一万円以上な事を確認。ライズpay、いつでも支払い可能です』 

 

 暴走人形たちが、バッタ仮面のロボットが草分を見た。

 だが気にせず、草分は……ベルトの右側に、腕輪をかざす。

 

「Bet、()()()

 

 コインが地面に落ちていく音がする。金属が擦れ合う音へ次第に大きく変貌していく。

 同時に暴走人形の一体が草分に向けて銃撃を放った。

 

カネバライズ! Welcome!!

 

 だがそれらは、生成されたパワードスーツによって弾き落とされた。

 黒い金属でできた機械が彼を覆い、人としての姿を隠す。

 やがて覆いきった時、右手に握られたプログライズキーのスイッチが押された。

 

Pay! ──オーソライズ

 

 すぐに、マネカライザーがかざされた部分に同じようにスキャンされる。

 オーソライズ、認証されたとベルトが教えてくれる。

 

 同時に、ベルトの中心部分が強く光を放った。

 光が線を作り、形を作る。

 

 金属でできた骨組みを作り出す。

 

 現れたのは──昆虫、スカラベ。

 推定にして4メートルはある超巨大な昆虫だ。

 

 ひとしきり飛び回り瓦礫を蹴散らかしたかと思えば……草分を包み、とまった。

 

「ちょっえっ!? 飲み込まれた!?」

 

 外野がやや騒がしい。

 が、手順は滞りなく進められる。認証され、電子ロックが外れたキーを解錠し、ベルトの右部分に差し込まれる。

 

プログライズ

 

 歓声の砲音が響き、迎え入れられたキーが読み込まれる。

 データがベルトを通し写し出され骨組みへと注がれる光と変わる。

 骨組みと骨組みの隙間を、翡翠色の宝石が埋め尽くす。

 まるで一つの原石となって──

 

【──Kick away the ladder!

ディスバースィング スカラベ!!

──Millionaire is 1 percent fortune and 99 percent property.】

 

 砕け散った。

 宙に舞った宝石が、雲の切れ間から覗いた日の光を受け輝く。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「さあ、ヒーロータイムの始まりだ」

 

 

 

──時は2020年。

 人工知能技術、AIの発展。日本を代表する大企業「飛電インテリジェンス」が作り出したヒューマノイド「ヒューマギア」により、多くの人の仕事は機械のものへと移り変わっていく時代である。

 そんな中、ある会社の社長が起こした物語が、ようやく始まりを迎えようとしていた。

 

 

 




~オリキャラ紹介~
・草分 カツラワ 男 30歳
 竹innovation社現社長。
 自分が悪人だと思い込んでいる成金社長。技術畑の人間である。

 最近アラームに女児向けの音楽を選曲されるのが悩み。

・リドル AI 10歳
 草分の腕輪に装着された「マネカライザー」に生息するAI
 小悪魔を意識して作られているためか、やたら悪戯をする。その代わり性能は間違いない。


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