このすば〜もしもカズマがポケモン大好き野郎だったら〜 作:クロウド、
―――二人から石を見せてもらった数日後。
俺達のパーティは午前中に簡単なクエストを済ませて、一緒に昼食を取ろうということになった。
「………。」
壁際の席に座っている俺は、ギルドの窓から晴れ渡った空を見上げていた。頼んでいたパスタの皿はとっくに空になっている。
ギルドは相変わらず冒険者たちの喧騒が聞こえてくるが、なぜだか俺の耳には酷く遠くからのものに聞こえた気がした。だが、すぐ隣からの声は流石にしっかり聞こえる。
「カズマくん、カズマくん」
「お〜」
「ちょっとロトム君、貸してくれる?」
「お〜」
隣に座っていたクリスに頼まれてポケットからロトムを取り出してクリスに預ける。最近、クリスはロトムに搭載されているポケモン図鑑でかわいいポケモンを見るのが日課になっている。癒やされるんだそうだ。
『クリス、またロト〜?』
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「あっ、私もいいですか?」
「いいよ、いいよ、
そういえば、いつのまにかさん付けじゃなくなったらしい。パーティメンバーになったし年下なんだからもっと気軽に呼んでほしいって……ゆんゆんなりに勇気を出したんだと思う。めぐみんもちゃんづけじゃなくなった、こっちは普通に子供扱いが嫌だったらしい。
ただ、俺はそんな二人をチラ見しただけで、すぐに空へと視線を戻した。
―――ライトストーンとダークストーンをめぐみんとゆんゆんに見せてもらったあと、宿屋からエリス様に連絡したときのことを思い出していた。
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『そうですか、そんなものがこの世界に……。』
めぐみんたちが持っていたライトストーンとダークストーンのこと、その中に眠る二体の龍のことを説明すると、電話の向こうのエリス様は落ち着いた口調だがどこか戸惑うような声音が混じっている気がした。
「一応確認なんですが、俺のゼクロムとレシラムはそっちにいますか?」
『えっと、ゼクロムとレシラムというのはあの黒と白のドラゴンでいいんでしょうか?』
「はい、そうですけど?」
『すみません、アクア先輩のように地球のゲームなどに詳しくないので……。まだ、ポケモンの名前がうろ覚えなんです』
「じゃあ、アルセウスや伝説のポケモンのことって……。」
『アクア先輩に教わりました、ただ、先輩もカズマさんほど詳しくはありませんでしたから名前と特徴くらいですけどね』
そうだったのか……。
いや、寧ろ女神が地球のゲームについて詳しい方がおかしいと言える。なぜだかエリス様は仕事人な気がするし、なんか納得。
『話は戻りますが、今の所伝説のポケモン達は皆大人しいです。これと言ってなにかするわけでもなく、寧ろのんびりしていますね』
「そうですか、ならよかった」
伝説のポケモンはその立場上いろんな相手に狙われたり、役目があったりするから天界なら特にやることもなくのんびりできるってことのんだろうか。
「だとすると、やっぱり俺以外にポケモンをこの世界に連れてきたやつがいることでしょうけど……。」
『―――実は私もカズマさんという特例が現れたことで過去の転生についての資料を見返してみたのですが、そんな人物はいませんでした』
エリス様の返答に俺も戸惑う。
だとしたら、あのライトストーンとダークストーンは一体……。
『カズマさん、図々しいお願いだとは思うのですが……。』
「わかってます。俺のパーティメンバーが持ってるものですし、俺が監視しておきます。なにかわかったら、連絡しますので」
『ありがとうございます。こちらでもなにかわかりしだい―――』
『ポチャアアァァァァ!!』
『いったぁぁぁぁい!!』
エリス様がなにか言い終える前にポケモンの鳴き声とアクアの悲鳴が聞こえてきた。遠くから聞こえてきたので前みたいに耳からスマホを離すことはないけどそれでもまぁまぁうるさい。
エリス様が『ちょっと待っててください』といってスマホの側から離れ多分、おつきの天使(この前教えてくれた)さんらしき人との会話が聞こえる。ただ、通話中なので会話の内容は全部聞こえてきた。
『なにごとですか?』
『あっ、エリス様!それが、アクア様がカズマさんから預かっているポケモンのお世話中にペンギン?という動物に似たポケモンをいきなり掲げて『この子を我がアクシズ教団のマスコットにするわ!』とかろくでもないこと言い出して、怒ったその子にビンタされまして』
『…………。』
「…………。」
エリス様も俺も呆れて言葉が出ない。何やってんだあの駄女神。
多分、アクアを引っ叩いたのはポッチャマだろう。見た目は小さなペンギンのようで可愛らしいポケモンではあるがその実かなりプライドの高いポケモンで有名だ。ポッタイシ、エンペルトと進化するたびに群れを率いる役目を担うため孤高であろうとするからだ。
『わかりました、その
『了解しました!』
エリス様の指示を聞き天使さんが出ていく音が聞こえる。ただ……なんだろ今の会話。何か、違和感があったような気が。
その違和感の正体を探る前にエリス様の声が聞こえてきた。
『もしもし、すみませんお話の途中に』
「いえ、こっちこそうちのポケモンが迷惑かけたみたいで……。」
『構いませんよ、私達女神や天使は基本的に魂を導くこと以外仕事がありませんので寧ろ楽しいとさえ思ってます』
なら良かったとホッと胸を撫で下ろす。
あっ、そうそう、前々から聞こう聞こうと思ってたことがあったんだった。
「あと一ついいですか?」
『はい、私に答えられることなら』
「俺の記憶についてなんですけど……」
『記憶、ですか?』
俺はエリス様に俺の記憶に起き始めた変化について話した。ゲーム世界でポケモンたちと旅をしたことからゲームの画面ではわからない旅の間に起きた小さな出来事、旅の中で出会った人達から教わった小さな技術まで受け継がれてることを説明する。
『…………カズマさんよく聞いてください』
「はい?」
『それは私達によるものではありません』
エリス様の返答に一瞬頭が真っ白になった。
「えっ、それじゃもしかして、俺の妄想……。」
『いえ、そうでもありません。そこまではっきり記憶に残っているということは間違いないでしょう。ですが、私達は転生の際に能力や武器を与えることはできても記憶を追加したり操作したりすることはそもそも
する、しないではなく、
でも、エリス様達や俺の妄想の線もないなら一体この記憶はなんなんだろうか。
『私に一つ心当たりがあります』
「それは?」
『アルセウスです、貴方のポケモン世界での冒険を知っていてそんな事ができる存在がいるとしたら私達と同等の力を持つアルセウスくらいでしょう』
アルセウスが……確かにそれくらいしか説明がつかない。だけど、どうしてアルセウスが……。
「というか、アルセウスがエリス様と同等の力って」
『カズマさん、私達は貴方のポケモンを現実の存在としたんです、アルセウスが全能の神として存在していたなら当然、その力は私達と同等のものです。だからこそ、アルセウスや伝説のポケモンたちは私達の監視下にあるんですから』
エリス様の言葉に俺は納得する。そういえばそんな話だった気がする。
『―――アルセウスはよくここから貴方の姿を見ています。きっとここから貴方を見守っているのでしょう』
「アルセウス……。」
俺は窓の外から見える星空、その上にある天界で今も俺を思って見守っていてくれるアルセウスの姿を思い浮かべ、目尻に涙が浮かんだ。例え、離れていてもアイツは俺を守ってくれてるんだと感動したからだ。
『―――そのアルセウスがしたことならおそらく貴方の助けになることだと考えたからだと思うので、そのことについては心配いりません』
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「アルセウス……。」
「カズマ君ッ!!!」
「うわぁっ!?な、なんだよクリス……。」
雲の上にいる俺の守り神のことを思っているといつの間にか近くにいたクリスが耳元で大声で俺の名前を呼んできたので俺は驚いて椅子から転げ落ちそうになった。
「なんだよ、じゃないよ。いつまでも空を見てボーッとしちゃって」
「どうしたんですか、カズマ。最近ずっとですよ?」
「あっ、あー……イーブイの進化について考えてたんだよ!」
どうやらアルセウスのことを考えていたせいで上の空だった様子の俺はクリスとめぐみんの言葉で我に返った、ゆんゆんとダクネスも心配そうに俺を見ていた。
四人に心配をかけないように俺は適当な答えを返した。
「イーブイの進化、ですか?」
「そういえば、聞きそびれていたがポケモンの進化とは具体的にどんなものなんだ?」
「前は簡単に話してくれただけでしたよね?」
「どうせだし、詳しく教えてよ」
誤魔化しのつもりで言ったが四人から質問攻めにあい、腕を組んでう〜んとうなりながらどう話したものか考える。
「簡単に言うなら一定の条件が整うと起きる現象だな」
「一定の条件?」
「代表的なのは経験値を上げて起こる場合、これはトゲピー以外のお前らのパートナーに当てはまる」
「トゲちゃんは違うの?」
「トゲピーはトレーナーへよく懐いているときに進化する、通称なつき進化だな。だから、ぶっちゃけトゲピーに関してはいつ進化してもおかしくないんだ」
「へぇ〜、だってさ!楽しみだね、トゲちゃん!」
「チュキィ!」
相変わらず腕の中に抱いているトゲピーに笑顔で話しかけるクリス。トゲピーに関してはあれだけ懐いてるし戦わせなくても進化するだろうな。
「あとは、アイテムを使って進化させる場合とか、一定の時間にレベルアップするとか、ある技を覚えさせてのレベルアップとか結構種類があるんだな、これが。で、同じポケモンでも方法を変えることで進化先が全く変わるポケモンもいるんだ」
「「「へぇ〜(ほう)」」」
俺の説明に感心の声を漏らす四人。
これは後で知ったことだが、どうやらこの世界のあらゆるものには魂が宿っているらしく、例えば食べ物を食べてその魂を取り込むことでレベルアップすることもできるそうだ。
「それらの条件を満たしたときに能力や姿が変化すること、これをポケモンの進化というわけだ。わかったか?」
「なるほど!」
「勉強になりました!」
めぐみんとゆんゆんをはじめクリスとダクネスも頷いてくれてるから皆ちゃんと理解してくれたらしい。
ナナカマド博士みたいに進化を専門で研究しているわけじゃないが、ちゃんと説明できてよかった。
「さて、そんな進化だがそれを代表するポケモンがいる。な、イーブイ?」
「ブイッ!」
「ブイちゃんが?」
「イーブイは厳しい環境に対応するために様々な進化先があるポケモンなんだ、その数は八種類」
「「「「八種類!?」」」」
四人はその数に驚きの声を上げて、まじまじとイーブイのことを見つめる。
「だから、悩んでたんですね」
「まぁ、八種類もあればね……。」
「俺はイーブイが望む進化先にさせてやりたいんだが……。イーブイも迷ってるようで、なにかきっかけがあればいいんだが……。一応、自然に進化しないようにこいつをもたせてるんだけど」
俺はイーブイを抱き上げて首元につけてある紐を通した石を皆に見せる。
「なんですかこれは?」
「『かわらずのいし』っていうアイテムでな、持たせてるとポケモンが進化しなくなるっていう石なんだ」
「ほぉ〜、そんなのもあるんですね」
「進化しないほうがいいって人もいるだろうし、需要はありそうだよね」
かわらずのいしを眺める四人。
もうこっちの世界に来て三ヶ月近くたつし、そろそろ進化させるのがイーブイのためだと思うし……イーブイ自身は別に進化を嫌がってるってわけじゃなさそうだから、やっぱりさっきも言ったけどきっかけが必要なのかなぁ……。
―――そう思った矢先だった。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、支給冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、支給冒険者ギルドに集まってください!』
魔法か何かで拡大された大音量の音声が街中に響き渡った。
「なんだ?街にモンスターでも襲撃してきたのか?」
今までにない状況に俺は戸惑いを隠せないでいると、めぐみん達は特に気にした様子もなく、落ち着いた様子で俺に答えた。
「多分、キャベツの収穫だろう」
「そういえば、もうそんな時期だっけ?」
「はい?」
当たり前のようにそう口にした二人に俺は耳を疑った。
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「頭が痛いんだが……」
俺はスマホのカメラのズーム機能を使って遥か彼方からこちらに向かってくる緑色の波を見ながら額を抑えた。
―――街の正門の前、そこにずらぁっと並ぶのは各々の武器を構えた完全武装のアクセルの冒険者各員。彼らが待っているのは当然、あの波の正体―――キャベツである。
あのあと、皆知ってるようで聞くのが恥ずかしかったのでクリスにこっそり教えてもらった。
この世界のキャベツは飛ぶらしい。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかと言わんばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を超え、最後には人しれぬ秘境の奥で誰にも食べられずひっそりと息を引き取るという。
「皆さん!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき1万エリスです!すでに街中の住民は避難していただいています。では皆さん、一玉でも多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしないようお願いいたします!なお、人数が人数、額が額なので報酬の支払いは後日まとめてとなります!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
大きな檻を台車で転がしながら持ってきた受付のお姉さんが拡声器でいうと、冒険者たちから歓声が上がる。このクエストはキャベツの買取額がいいことからボーナスクエスト扱いらしい。
そんなこんなしていると、キャベツたちが俺達のもとまでやってくる。
「ロトムは隠れてろよ」
『了解ロト!』
ロトムは俺に言われると一目散に俺のポケットに隠れた。中のロトムは無事だろうけど、俺のスマホはそうは行かないだろうからな。
「キュウコン、頼む!」
「コーンッ!」
俺は呼び出しておいたボールから美しい毛並みの白い狐のようなポケモン、きつねポケモン、キュウコンのアローラの姿を呼び出した。アローラ地方でゲットした俺のお気に入りの一体だ。
一説では神の化身と言われるだけあってその姿は美しいの一言で表せないものだった。こんな状況でなければ、皆が見惚れていることだろう。しかし、すでにキャベツとの戦いのゴングは鳴っている。
「キュウコン、『ふぶき』っ!」
「コーンッ!」
キュウコンが放った凄まじい吹雪によってキャベツ達は氷漬けになってゴトゴトと地面に落ちていく。俺はそれをギルドで借りた籠に入れて檻の方に持っていく。そして、氷漬けになったキャベツを放り込む。
「よし、メラルバ。頼む」
「メラ〜」
俺が合図をすると俺の近くで待機させていたメラルバが体から熱を放つと氷が溶けると言った具合だ。俺はその方法を繰り返しながら、仲間たちの様子を見ていく。
前衛職のダクネスは、すでに最前線にいるのだが………振っている剣がキャベツにかすりもしない。
―――あのあと、クリスに聞いたんだがダクネスは不器用すぎて剣がまともに当たらないのだそうだ、タンクとしては一流なんだが、それが残念である。
「あぁっいいっ!いいぞっ!もっと来いっ!」
実際他の冒険者をキャベツの突進から庇ってるように見えて、実は自分が楽しんでるだけだったりする。あれ?ダンバルは?と思い、あたりを見回すとなんかボスっぽい目元に傷があるキャベツと対峙していた。
「ダァン……!」
「キャベェ……!」
一瞬の睨み合いの末、同時に飛び出してぶつかり合う。それを何度も繰り返す、なんだ、あの長年のライバルと戦うみたいな雰囲気は?
「『ライトニング』!」
そんなことを思っていると、近くのキャベツが雷に貫かれて地面に落ちる。雷がきた方向を見ると、そこにはワンドを構えたゆんゆんが、さらに足元にいるラルトスが青く光ると落ちたキャベツがひとりでに浮かび上がり檻の方に向かっていった。
「なるほど、ゆんゆんが魔法で倒してラルトスが『ねんりき』で回収か。あれ?そういえば、俺のパートナーはどこいった?」
さっきまで、一緒にいたんだが。
「ブイ〜……。」
あたりを見回してみるとイーブイはキュウコンの直ぐ側にいた。というか、キュウコンを見ていた。ただ、なんというか、キラキラした目で見ているというか……。
もしかしたら、キュウコンと会わせたのがいいきっかけになったか?
「『エクスプロ―――――ジョン』!!」
「!」
と、今度はめぐみんの爆裂魔法がキャベツ達を焼き尽くした。
相変わらず、爆裂魔法を撃ったあとに倒れるのは変わらないようでそのままぶっ倒れる。そんなめぐみんに狙いを定めたのかキャベツたちがめぐみんに襲いかかる。
「ガブッ!」
だが、めぐみんの側から飛び出したフカマルがサメのようにキャベツに喰らいつき、そのままムシャムシャと咀嚼して食べてしまった。別に討伐してもそれなりのお金はもらえるらしいからそれでもいいかもしれないが……。
「カフーッ!」
「あっ、フカマル!」
キャベツを一玉丸々食べ終えると、フカマルはめぐみんが呼び止めるのを無視して目をキラキラと光らせて他のキャベツに飛びついていく。フカマル、お前りくざめポケモンのくせにベジタリアンだったのか……そういえば、よく俺にきのみをねだってきてたな。
「すげぇな、あのちっこい……サメ?」
「ドラゴンです……!」
フカマルの様子を見ていた冒険者の誰かがフカマルをサメと間違えたが、秒でめぐみんが否定した。いや、りくざめポケモンでもあるから、サメでもあってるんじゃ……。
なんとなく、フカマルの様子が気になったのでキュウコンが凍らせたキャベツを回収しながら見ていると五玉位食べ終えたあたりで満足したのか腹をポンポンと叩いてケフッと一息する。
「カフッ?」
「えっ、フカマル?」
―――そして、そのときはやってきた。
フカマルの全身が青く発光を始めたのだ。
「えっ?えっ?カズマ、これはなんですか?フカマルになにが!」
「これは、まさか……。」
「カズマくん、これなんなの?」
キャベツを檻に入れる為に戻ってきていたクリスが尋ねてくる。ちなみ、クリスのトゲピーは危ないのでルナさんが預かってもらっている。
「―――進化だ」
「なぁんだ、進化か……って進化!?」
「し、進化って、カズマが言っていたあの進化ですか?」
驚愕しているクリスの隣から、立ち上がるくらいの体力が戻っためぐみんが杖で体を支えながらヨロヨロとこちらに近づきながら問うてきた。
「あぁ、ラルトスとダンバルはそろそろだと思ってたけど……まさか、二人より先にフカマルが進化するとは……。」
「もしかして、キャベツをいっぱい食べて経験値を得たからとか……。」
「それでいいのかドラゴンタイプ……。」
クリスの予測に多分、というか間違いなくそれだろうと思いながら呆れた。
キャベツを食べて進化って……長いことポケモンと一緒にいたがそんな話聞いたことがないぞ。あっ、りんごで進化ってのはいたな。
そんなことを呑気に考えてるうちにやがて光によってフカマルの姿が完全に見えなくなり、その輪郭すらも変えていく。その幻想的な姿に冒険者も、キャベツさえもその動きを止めていた。
口元が特徴的だった小さな体は小さかった手足がはっきりと区別ができるサイズになり、その両手には鋭い爪がある。体長も0.7mしかなかったのに対し倍の1.4mにまで大きくなる。
「ガァバッ!」
やがて変化が終了し、光が晴れるとそこにいたのは誰が見てもドラゴンだとわかる姿をしたポケモン、ガバイトが勇ましい咆哮を上げて。
「無事に進化したな……。」
「これが進化……初めて見たけど凄いね、これは……。」
無事に進化が完了しほっとする俺と初めて見るポケモンの進化にどこか呆気にとられているクリスを放って、フカマル、いやガバイトのパートナーであるめぐみんが爆裂魔法で体力が尽きているのにも関わらずよたよたとガバイトに近づく。
「……フカマル?」
「ガバ?」
心配げな声音で進化したガバイトに話しかけるめぐみん。ついさっきまで自分の足元にいたフカマルが今はまるっきり姿を変えて自分と同じ目線のところにいるのだから、戸惑うのは当然だろう。
俺も始めてギルガルドを呼び出したとき自分のことを覚えているか心配だった。多分、今のめぐみんと似た心境だろう。
ただ、そんな俺達の心配とは裏腹に―――
「ガァバッ♪」
「うわっ!」
―――ガバイトは笑ってめぐみんに抱きついた。
「ギャァバ!」
「……く、くすぐったいですよフカマル!」
嬉しそうな声を出しながら擦り寄る姿に、ガバイトはちゃんと自分のことを覚えていてくれたという確信が持てたんだろうめぐみんの表情から緊張の色が消えた。
俺も一安心してめぐみんとガバイトに近づく。
「めぐみん、そいつはもうフカマルという名前じゃない。今のコイツの名前はガバイトだ」
「ガバイト……それが今のあなたの名前なのですか?」
「ガァバッ!」
めぐみんが名前を呼ぶと嬉しそうに鳴き声を上げるガバイト。どうやら、進化しても大して性格に変化はない様子だ。
めぐみんに懐いているガバイトの姿に安心していると当然、ガバイトがめぐみんを俺に預けてキャベツ達に向き直った。
「ガバッ!」
「どうしたんですか、ガバイト?」
キャベツを視界に収め、やる気満々のガバイトの様子に俺はもしかしたらと思い言葉をかけた。
「もしかして、新しい技を覚えたのか?」
「そうなんですか?」
「ガバッ!」
めぐみんの質問に力強く頷くガバイト。
「「「キャベー!」」」
そして、そこに丁度良く飛来するキャベツの群れ。
「ガバッ!」
ガバイトが威嚇するように鳴くと彼の両腕に緑色のオーラが現れ、それが爪の形を形成する。そして、足に力を込めると一気に駆け出す。
「ガァバッ!」
ガバイトとキャベツ達がすれ違うと、キャベツ達は
「あの技は……。」
「『ドラゴンクロー』。ドラゴンタイプの代表的な技の一つだな」
「凄いですよ、ガバイト!『ドラゴンクロー』を覚えたのですね!」
ガバイトの鮮やかなドラゴンクローにめぐみんはいつの間にか完全に元気になった様子のめぐみん。
それにしてもあのすれ違った一瞬で羽だけを斬り裂いてキャベツを落とすとは何という繊細さだ……一撃必殺をモットーとしているめぐみんのパートナーとは思えないな。
「ガバイト、貴方は好きにキャベツを倒してください。回収は私がしますので!」
「お前、魔力切れで動けないんじゃ」
「何言ってるんですか、パートナーがあんなにやる気なんです!ここで気張らずしてドラゴンつかいは名乗れません!」
「明日の爆裂魔法に響くんじゃない?」
「―――カズマ、オボンのみをください」
「最初からそういえよ」
俺は念のために持っていた体力回復用のきのみ、オボンのみをめぐみんに渡してやった。人間にも多少は効果があるらしいことは、すでに実証済みだったからな。念のため。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ〜〜〜〜」
「いや〜、今年は狩ったねぇ〜〜〜」
夕方には全てのキャベツを回収し終え、冒険者たちが次々と街に戻るなか俺達は一度集まってそれぞれの成果を報告しあっていた。まぁ、もっとも……。
「数こそ俺が上だが、実質めぐみんの一人勝ちだな」
「ふっふっ〜♪」
ガバイトの隣で得意げな顔をするめぐみん、まぁ初めてのパートナーが初めての進化を遂げたんだ。当然といえば、当然か。
『それでは遅ればせながら、僕の出番ロト!
ガバイト ほらあなポケモン ドラゴン・じめんタイプ
フカマルの進化形。
ガバイトのウロコから作った薬が不治の病を治すと古くから信じられてきた。掘り出した宝石をすみかに集める習性を持つ。』
安全になったことでポケットからロトムから飛び出して、ガバイトの説明をする。
「ふ〜ん。それでそっちの白い子は、またカズマくんのポケモン?」
「綺麗なポケモンですね」
「コ〜ン!」
クリスとゆんゆんの言葉に鳴いて答えるキュウコン。
『キュウコン きつねポケモン こおり・フェアリータイプ
体毛から氷の粒を生み敵に浴びせかける。怒らせると一瞬で氷漬けにされる。』
「なんだとっ!!?」
「コッ!?コーンッ!」
「ひょわぁぁぁぁぁぁ!!」
「だ、ダクネスッ!?」
ロトムの説明を聞いて、大声を出したダクネスに驚いたキュウコンが吹雪を浴びせかけてめぐみんの心配虚しく氷漬けにされてしまった。キャベツにやられて鎧もボロボロでおまけに氷漬けにされてるのになんて幸せそうな顔してやがる。
「メラルバ、ダンバル出してやれ」
「メラ〜」
「ダン〜」
うんざりした様子ながら、メラルバが氷を溶かしてダンバルが氷を砕いてダクネスを中から出してくれた。
「ふ、ふぅ〜、氷漬けも悪くなかった……。」
「「大概にしとけ(きな)よ、ダクネス」」
全くこりた様子のないダクネスに俺とクリスがツッコむも、多分無駄に終わるんだろうなぁ。
「あ、あのカズマさん……。」
「どうしたゆんゆん?」
「進化ってあの光が合図なんですか?」
「そうだけど?焦る必要はないって、ゆんゆんのラルトスもそのうち」
「いや、そうじゃなくて……。」
「?」
「光ってるんです、ラルちゃん」
「「「「!!!?」」」」
ゆんゆんに言われて俺以外の三人も一斉にラルトスの方を向くと、確かにラルトスは全身から進化の兆候である青い光を放っていた。って、ちょっと待て!
「ダンバルとトゲピーも光ってんじゃん!」
「「うわっ、いつの間に!?」」
「「気付け(なさい)よ!!?」」
いつの間にか足元にいたトゲピーとダクネスの頭上にいたダンバルも進化の光を放っていた。
「また同時か」
孵化のタイミングと言い進化のタイミングも同じとは、仲がいいこった。
やがて、三体の進化が終了するとトゲピーだった光がクリスの目の前へと浮かび……いや、
「チックチック♪」
「トゲちゃん!トゲチックに進化できたんだ!」
トゲチックは丸っこかった体から首と手足が少し伸び、小さな白い羽で空を自由に飛び回っている。トゲピーのときは小さくて上手く動けなかったから、動き回れるのが嬉しい様子だった。
「クリス、なんでこの子の名前を知ってるんですか?」
「ロトムくんを借りたときに調べたんだよ、自分のパートナーの進化形くらい把握して起きたいし」
「ほ〜、私は進化するまでの楽しみにしたいですけどね」
進化談義が始まったが俺はそれよりも他の二人だ。
「メタ〜」
「キルッ♪」
他の二体も進化して、進化の喜びをパートナーに伝えるように笑っている。
「ラルトスの進化形のキルリアとダンバルの進化形のメタングだな」
「キルリアっていうんだ……。」
「キル〜!」
「ふふ、じゃあ今日からキルちゃんって呼ばないとね」
「キ〜ル」
ゆんゆんは足元にいる考えを読み取るための赤い角が二本になり踊り子のような姿となった、キルリアに嬉しそうに話しかけていた。
「メタング、まるでダンバルが腕になったような姿だな」
「メタ〜」
「それが両腕になったということは、私への攻撃も二倍にっ!」
「メタ〜」
「ん?何だこの光は、かっ、体が浮いてるっ!?」
あいも変わらず変態発言をするダクネスが急に青い光に包まれて宙に浮かびだした。メタングの方を見ると、メタングの目が青く光っている。
「メタングの『サイコキネシス』か」
「や、やめろメタング!あっ、でもこれも焦らしプレイみたいでいいかもしれないぃぃぃぃ!!」
メタングは変態じみた悲鳴を上げるダクネスを浮かせたまま街の中に戻っていった。進化して更に立派になって、これからはダクネスへのツッコミは本格的にメタングに任せようかな。
「俺達も頑張らないとな、イーブイ?」
「ブイッ!」
どうやらイーブイも自分の道を見つけられたようだし、キャベツ収穫クエスト。確かに色んな意味で美味しいクエストだったな。
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