名探偵コナン 探偵世界の転生者〈レインカーネイター〉 作:げろっぱ
やっと来ました本編の事件偏。
最初がまさかまさかのこの事件。
覚えてる人がいるのかこの事件。
長風呂の事故(?)から二日。
相変わらず、この世界が原作かアニメか、どの辺りかもよく分からない。
最近の変わったことといえば、
『秋』に、『ある男を尾行してほしい』……。だめだ、さっぱり思い出せん。生憎俺はそんな些細な話で思い出すほど『名探偵コナン』読み込んでいない。
…ん?あれ、なんか、なんの脈絡も無く今気付いたのだが、いや秋って時点で気付くべきだったのかもしれないが『ピアノソナタ『月光』殺人事件』終わってんじゃね?
あぁ~残念だなぁ~。違和感無く女医に化けられる野郎ってのも見てみたかったんだが。あと、今現在、個人的には親の復讐って動機はすごく理解できるからな…。できるなら死なせたくなかったんだが。
しかもこの世界が原作準拠だとしたら、『黒の組織十億円強盗事件』も終わってるよな。
宮野明美、会ってみたかったなぁ。助けられるなんて大それたことは考えてないけど、ゲスト犯人のフリして超重要キャラクターだしなぁ。
まぁ仕方ないのかもしれないな…。これも運命ってヤツかね…。
――ん?転生する時神様に記憶処理くらったはずなのに何でそこらへん覚えているかと?
決まってんだろ、あの神の記憶処理がテキトーだったからだよ。
転生後コレまでの17年、記憶処理にムラがありまくることはよーーーく思い知らされている。
たとえば。10年前、幼児化する前に、当時幼児だった俺は毛利夫妻に会ったことがある。――伯父さんははっきり覚えていないそうだが。ほんで伯母さんはよく覚えてるような気がして、こんど会う時すげえ怖いのだが。
ともかくそのとき、二人を見た瞬間、恐ろしい量の情報が、具体的には「毛利小五郎」「妃(毛利)英理」に関する原作知識、アニメや原作から分かる来歴や、それから二人が別居するだとかの印象的な道のり、更には関係者各位、特に娘さんの毛利蘭や息子さんになるであろう工藤新一に関するまで、転生前に覚えていたと思しき二人関係のあらゆる記憶が俺の頭に流れ込んできたのだ。ああいうのをフラッシュバックって言うんだろうね。
その結果、知恵熱起こして倒れて寝込んで、思い出した分ほとんどトんだのだが…
まあそれはおいといて、重要なのは「印象的な登場キャラクターに会ったとき、関連する原作知識を思い出す」ということだ。
「工藤新一」なんかは、探偵事務所に来るまで直接あったこともないのに、毛利小五郎に会っただけで大分思い出していた。
群馬県警の山村ミサオというヤツは、一回だけ直接会ったことがあるが、それでも「ああ、原作にいたな。」ぐらいにしか思い出せなかった。知恵熱も起こさなかった。
この例から分かることは、「印象的な原作キャラクターに会ったとき、印象的な単語を聞いた時、その関連する記憶を思い出す」「思い出す記憶は俺が転生前に覚えていた事柄だけ」「どの程度思い出すかは俺の個人的な印象の濃さによる」「余り印象が濃すぎると関係者に会うだけでも細部まで思い出すが、逆にどうでもいいやつは直接会ってもほとんど思い出せない」ということだ。
そんなわけで、俺は現時点でいくつか原作ブレイクを行っているし、原作知識も大分思い出している。…っていやいやどんなわけでそうなったと。
まあなんにせよ、それは偏に、俺の転生を担当した神が下っ端だったおかげだ。記憶処理にムラがありすぎて「だから下っ端なんだよバーカ」みたいなね。
閑話休題。
伯父さんは尾行初日。あと二日で金が入るらしい。まぁ俺としてはどっちでもいいがね…。
おっ、我が友人、同居人江戸川コナンが帰ってきた。
「お帰り~。」
と言って江戸川の方を振り向いた。
学校終わって先に帰っていた俺は、ちょっと吃驚した。
江戸川ちょっとコゲてない?
つーかコゲてるよね。
何でだっけ。
――――――――――おっ!
思い出せない!!って事はつまりどうでもいい事ってことだ。
まぁ、大方博士の実験か何かでコゲたんだろ。
~それから二日後~
「イヤ~楽な仕事だったな~」
と伯父さんは札束にデコピンっぽい何かをしながらナハハ的な笑い声を上げながら言っている。
「三日間男を見張ってただけで、五十万!!こんな割のいい仕事もあるんだな~」
となんか伯父さんが言ってると、蘭さんが
「それって、お父さんの名探偵ぶりを世間が評価してるって事ね!」
イヤ蘭さん。それ正確に言えば、江戸川、いや工藤新一の名探偵ぶりが相変わらずってことです。
「ココンとこ自分でも不思議なくらい、次々と難事件を解決したからな!」
イヤ、だから伯父さんそれって、江戸川が優秀ってだけですって。ホラ、江戸川も「解決したのはみんなオレだよ」みたいな顔してるじゃないですか。
「そういえば、コナン君が来てからね。仕事が上手くいくようになったの。もしかしてコナン君が幸運を運んできてくれたのかな」
いや蘭さん、それも違いますよ。正確に言えば江戸川がこの街を中心に様々な不幸を引き寄せてるだけです。(断言)
「それより蘭。そのガキいつまで預かってるつもりだ?」
と伯父さんが問えば、
「いいじゃない。朝巳君もいるんだし、子供の一人や二人変わらないでしょ。近頃お父さん稼ぎ良いんだから。コナン君のご両親から連絡があるまで預かっておきます!」
と答えた。
アレ?こういう時って大抵博士の家行って、両親の事聞いて
「もう外国へ行ってしまったんじゃよ」「えぇぇ!!」
てのが定番だろ。蘭さん強気だなオイ。
とその時、キャスターがニュースを読み出す。
つかテレビつけっぱかよ省エネにご協力を。
『今夜八時ごろ観光客で賑わう群馬県、赤鬼村火祭りの櫓の中から男性の焼死体が発見されました。遺留品等から遺体は
根岸正樹?どっかで最近、かなり身近な人間から聞いたな、そんな名前。
とコッチで思っていたら、
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
と伯父さんが大絶叫。うるせぇ
「どうしたの、お父さん!?」
急な絶叫に蘭さんも吃驚。だからうるせぇって。
「確かにコイツだ…」
伯父さん、ブツブツ。
「どうしたのお父さん?知ってる人?」
と蘭さんは聞いた。
「知ってるも何も、コイツはオレが三日間傍にいたんだよ」
この毛利探偵事務所に電流が走った。いや表現だけどね。
「それって!!!!」
「まさか!!!」
と江戸川&蘭さんが吃驚。
「あぁ、尾行してたんだよ。オレはこの男、根岸正樹をな!!!」
「…道理で聞き覚えがあるわけだ」
一人、間抜けなことをつぶやく俺に、江戸川が「オイオイ…」と半眼向けてツッコんでた。
~米花警察署前~
「遅いね。お父さん。ちょっと証言するだけって言ってたのに」
と蘭さん。
まぁそう心配しなさんなや。心配したって、何にも始まりゃしませんぜ。
それに伯父さんは亡くなった根岸と前日まで一緒にいたんだから、警察からすりゃココまで有力な情報は無いですよ。
とはいえ暇なので、すぐ近くで江戸川がメチャクソすげぇリフティングやってたボールを引っ手繰って(あくまで引っ手繰って)、負けじとリフティングしだす。
そんで、リフティングしつつ、そしてボールを取り返そうとする江戸川を四苦八苦しながらあしらいつつ、小さくなる前にそっち系サイトで買って、今は伯父さんにつけてある盗聴器から、事情を盗み聞きする。
どれどれ…?
~米花警察署内~
『ご…五億円!?』
『そうだ。亡くなった根岸さんには五億円の生命保険が掛けられていたんだよ』
ご…五億円…ゴクリ…。
『おかしいじゃないすか!それ程の巨額の保険金の受取人が、なぜただの友人に過ぎない、あなたなんですか!
『しかも、あなたは私に依頼して、根岸さんを尾行させた張本人だ!何故そのあなたが保険金を!』
そりゃ、普通に考えれば保険金殺人だろうなぁ…。
『ふっ、ゲームだったんですよ』
ほぅ、ゲーム…?
『何ぃ!?』
『私と彼は大学から二十年来の付き合いだったんですが、ある日、酒を飲んでいた時、彼が…
~安部回想~
バーで安部と根岸は二人で酒を飲んでいた。そのとき、ふと、なんの拍子にか、根岸がこう切り出した。
「俺達ももう四十二歳だ。もう若くない。なぁ、一つどちらが長生きするか、賭けてみないか?」
どんな話をしていてそんな話に結びついたか、安部自信よく覚えてはいない。根岸が何故そんなことを言い出したかも、安部にはさっぱり分からない。
――四十二歳。まあ若いとは言いがたいが、百年前ならいざ知らず、現代ではまだまだ長生きできる年齢である。「どちらが長生きするか」なんて賭けを言い出すにはいささか不自然が否めない。
しかし酔っていたからか、当時安部はその発言になんの疑問も持たなかった。だから安部は、こう答えたのである。
「へぇ、面白いじゃないか」
すると根岸はこう言った。
「掛け金は五億円でどうだ?」
~回想終了~
とまあ、だいたいそんな内容だった。
いやいやいや、四十三はまだ若いよおっさん。モノホンのジジイどもにキレられるぞオイ。
『――という彼の誘いに乗って…』
『それでお互いに五億円の生命保険に…』
『まさか、三ヶ月で勝負がつくとは思いませんでしたけどね…』
『じゃあ、何故毛利君に尾行の依頼を?』
『いや、大した理由じゃないんですけどね。最近、彼から、相談を受けたんですよ。「オレは誰かに狙われている。もうすぐ殺される」って』
『こ…殺される…』
目暮警部…殺される発言なんかで驚いていたら、この街守れませんよ?特にこの街他のところに比べてかなり物騒だし…。この街は1kmも歩けば殺意の二つ三つ、楽にたどり着けますから。
『最初は冗談だと思ったんですが、ちょっと、態度が普通じゃなかったので、念のために、三日間だけ、毛利さんに調査してもらったんですよ。そうですよね?毛利さん?」
事実ゆえか、呻き声しか返せない伯父さん。
『――では私は仕事があるのでこの辺で…。これでも小さな会社の社長なので結構忙しいんですよ。
…根岸を殺した犯人早く見つけてくださいね』
『フン…見つけたら真っ先にお知らせしますよ。“あなた”にね』
『楽しみにまってますよ、名探偵さん…』
ガチャ…バタン。
『犯人は安部豊以外考えられんのだが…。あいつにはアリバイがある。完っ壁なアリバイがな』
―――――――いやー事件の概要バッチリ聞けちゃったよ…。
あ、ボール取られた。
で、「起きてる小五郎」が探偵の勘とやらで、完璧なアリバイを持つ安部氏を疑ってる帰り際、自分は
(――しっかし改めて見ると根岸正樹、もう見るからに悪人面じゃねぇか――これがダチに「殺されそう」って相談とか――完全になんかお近づきになりたくないことに首突っ込んだフラグwww――あの回想語り自体がいわゆる一種の幻想描写ですね、分かります――ああそういやぁ、今日、少年探偵団と話してみたなぁ。最新刊時点の、完全に確定した印象を持って話すとなかなかに違和感があるんだよな。こう、首かきむしりたい感じ?――首といえば、小嶋の首の埋まり具合で物語の進行がどの辺か分かると気付いた時はクソワロタ――)
てな事をつらつら考えていたので、伯父さんの推理、全部聞き逃したという…。
~毛利探偵事務所~
帰ってきたら、まずゲームの準備。
推理しろ?オリ主らしいことしろ?いやぶっちゃけ、俺が関わらなくても犯人捕まるだろ。推理?ナニソレオイシイノ?
思えば俺、初期の頃のエピソードでは好きなのあんまり無いんだよね…。メインキャラ初登場回でもなきゃ覚えてもいないし。この件だって全く思い出せない。他に容疑者らしい容疑者も出てこねえから安部が犯人で間違いないと思うし。
ピピコピコ~とゲームしながら二時間弱。―――クオリティーの低いゲームだ。…しょうがないか、「名探偵コナン」初期ってたしか二十一世紀ですらないわけだし。
…むっ、蘭さんに呼び出された。
流れ的に、タイミング的にいよいよか…。
いよいよ犯人捕まるのか…。安部、乙。
~新東京国際空港~
はてさて、空も暗くなったこの時分、俺と江戸川は、車のいっぱい止まった正面駐車場で待機している。
「俺と江戸川は」、といっても、江戸川は俺が近くに潜んでいることを知らない。
というのも、今現在、江戸川は誰かの車のボンネットに座っている。行儀悪いからやめなさいとか言うのはおいといて、俺は彼に見つからないよう、かつ彼のことが見えるよう、適当な車の陰に隠れている。
でまあ、そんなところでなにをしているかといえば…そうだな、「名探偵コナン」風に言えば…あー、思いつかないからいいや、罠に掛けた犯人がのこのこ出てくるのを待っているところである。――江戸川が。で、俺はそんな彼をじっと見ているわけである。
蘭さんからの呼び出しで事務所前に言ってみれば、小五郎伯父さんに「遅ーぞ!」となじられる。
これはどうしたことか?と江戸川に聞けば、「安部のアリバイが崩れた」と目暮警部から連絡が入り、午後9:00に安部が国外に高飛びすると思われる、新東京国際空港に向かうとの事。
なるほど、「蝶ネクタイ型変声機」を巧みに使って警察を呼び寄せつつ、また毛利小五郎を呼び出す形で空港へ行き、そこで探偵しようってわけか。
そんなこんなで見事に江戸川の目論見通り、空港にやってきた俺たち毛利探偵事務所一行。
待つこと暫く、やがて時計を見て焦った表情を浮かべたあとこっそり離れていった江戸川を視とめた俺は、これまたこっそり彼を追い、今ここにいるわけである。
そうして何をするのかと思えば彼は、超、じゃない「蝶ネクタイ型変声機」をまたも巧みに使い、「ある男」の名を使って空港に呼び出しを掛けた。
この
釣りの醍醐味は待つこと。仕込みが終わり、釣り糸たらした今は只々、息を潜めて待機だ。
――――――ピンポンパンポーン。
お客様にお知らせします。
シアトル行き99便にご搭乗予定の安部豊様。
空港正面出口の駐車場で根岸正樹さんがお待ちです。
繰り返しお知らせします――――――
さて…始まったな…。
そう、名を借りた「ある男」、それは被害者「根岸正樹」その人である。そりゃ自分が殺した死者からの呼び出しだ、恐ろしいことこの上ないだろう。
自らが息の根を絶った餌に釣られて、間抜けなホシは現れる…。
駐車場に現れた、痩せ気味で、パッと見では気の弱そうな印象の男。全く覚えていないから一概には言えないが、江戸川が臨戦態勢に入ったからアレが安部で間違いないのだろう。
――――哀れな殺人犯が餌に乗せられてホイホイやって来た…。
さあ、見せてくれ名探偵…原作主人公の名推理を!お前が見抜いた、「たった一つの真実」ってやつを!…ってか何だ俺のこのキャラ…テンションがおかしなことに…ふぅ。
【SIDE:STORYTELLER】
安部は挙動不審にキョロキョロしている。もう全身から「私、怖がってます」と主張しているかのようだ。
その彼に、名探偵、と呼ぶには些か違和感を禁じ得ない、幼い声が降りかかる。
「上手いこと考えたね、おじさん」
「だ、誰だ…!?」
突然の声にはっきりと狼狽し、振り返る安部。
しかし彼の視界に映る人影はなし。
うろたえる安部に構わず、なぞの人物の言葉は場に響いていく。
「根岸さんが死んだのは、ホントは金曜日の夜なんでしょ?」
「っ!?」
その声の主の、疑問というよりは確認の言葉に、口を開き、声にならない悲鳴を上げて驚愕する安部。その顔には「何故バレた!?」とはっきり書いてある。
「そう、おじさんが旅行に出かける前の日だ。そして次の日、毛利探偵に根岸さんを尾行させた」
隠したかった真実が白日の下にさらされていく。
焦りと恐怖に駆られた安部は駆け回り、必死に声の主を探そうとする。
「どこだっ、どこにいる!?」
そんな彼をあざ笑うかのように、推理ショーの声は続く。安部の声に一考することも無く、その声は真実を暴き出す。
「根岸さんが土曜日まで生きていると思わせるためにね。
そして、予め祭りの日時を調べていたおじさんの計画通り、死体は日曜日の夜に発見される。
やぐらの火で燃えた死体からは、死亡時刻が割り出せず、結局、毛利探偵の証言から、死んだのは、土曜日の夜から日曜日の夕方ということになった」
「クソォッ」
焦りも顕に駐車場中を駆け回り、車の下を覗き込んだりしてみても、一向に声の主は見つからない。
早くこのふざけたショーを止めなければ…!!
「そして月曜日の昼、おじさんは何食わぬ顔で帰ってきた。コレでアリバイ成立だ」
近くの車の陰にこっそり隠れて盗み聞いている明智朝巳が、「ほぉ…」と本当に小さく感嘆の息を漏らしたその時。
立ち止まった安部の視界に人影が映る。
そこかっ!
目を向けたそこには――
「どう?当たった?」
――こ、子供っ!?
紺色のブレザージャケット、白いYシャツ、灰色のハーフパンツ、赤い蝶ネクタイ、赤と白の靴、大きなメガネ、という、正直「今時それはどうなんだ…?」と問いたくなるような格好をした少年。
そこにいたのは、車のボンネットに座ったわれらが主人公、名探偵「江戸川コナン」その人であった。
呆然とする安部をよそに、夜空を見上げてコナンはしれっと言葉を続ける。
「さっきそこにいた刑事さんが事件のことを話してたんだ。それで僕なりに推理してみたんだけど――」
ぇぃっ、という可愛らしい声と共に、ぴょん、とコナンはボンネットから降り、ポケットに両手を突っ込んで、安部からしたら腹立たしいことこの上ない笑みで安部に向き直る。
「――根岸さんの代役に選んだ人は失敗だったね」
安部に歩み寄り、続ける。
「探偵さんは上手く騙せたかも知れないけど、写真は騙せないよ?
代役の人は根岸さんと違って左利きだったんだ」
隠れて盗み聞いている朝巳は、この瞬間半眼になり、「馬鹿だろコイツ…」と思わずつぶやいた。そんなことは露知らず、コナンは腹立つ笑顔で安部に促す。
「自首しなよ。刑事さんいっぱい来てるしさ」
朝巳は「俺が安部なら江戸川の顔に蹴り入れてる自信あるわ。まあ俺が安部ならそもそもちゃんと右利きのやつ雇うけど」と呟くが、勿論崖っぷちの船越と犯人には聞こえていない。
自首しなよ、と言われた安部は顔を強張らせていたが、ふと、何を思ったか顔を緩め「ふっ」と息を吐いた。そして、
「ふっふふふふ、はははははははは!」
と顔を天に向けて大笑いを始めた。
朝巳が「某ライトくん的なあれか?」と呟いたとき、安部は不意にコナンの頭に手を伸ばし、がしがしと撫でる。そして、近所のやさしいおっさんみたいな調子で口を開く。
「偉いぞ坊や、名推理だ」
まるで子供が賞を取ったのを褒めるみたいに言うその顔は、先ほどまでの狼狽や強張りは無い笑顔で、どこか余裕すらも浮かんでいた。
「たしかに、根岸正樹を殺したのは私だ。――この、安部豊だよ」
笑顔ではあるが、どこか凄みを感じさせる表情で彼はこう言い切る。
「だが、私は自首などせんよ。外国でのんびり暮らすんだ」
「え~、でも僕、おじさんが白状したこと喋っちゃうよ?」
不満げに、しかし余裕げに告げるコナン。
「それも『日本警察の救世主』サマの声で、筋道立てて、だろ」と朝巳が小さな声で、誰に聞こえるわけでもないのに補足する。
が、それにも耳を貸さず――朝巳の呟きが聞こえていればあるいは違う反応を示したかもしれないが――、安部はその主張を鼻で笑う。
「ハッ、誰も信じてはくれないよ。子供のいうことなんて」
余裕綽々にきびすを返し、そういう現実を告げる安部。
「ん?もしかして安部って『クレヨンしんちゃん』の園長先生の声?いや違うか?」と全く事件と関係ないことを訝しむ朝巳には全く気付かず、コナンはポケットに突っ込んだ手をゴソゴソ。
「でもね、おじさん」
「あるもの」を持った状態の手をポケットから抜き、更なる現実を突きつける!
「おじさん自身の言葉なら信じてもらえるでしょ?」
と、実に腹の立つ笑顔で告げるコナンの手の中で、朝巳曰く「おいおい、手のひらに余るサイズにカセットテープとかもう、古めかしいとかそういう次元じゃねえぞ」という、ボイスレコーダーのスイッチがカチャっと入る。
『根岸正樹を殺したのは私だ。この、安部豊だよ』
「ああっ!!?」
便宜上、上記の様に描写したが、実際には筆舌に尽くし難い、いうなれば痰を「カーッ」とするような驚愕の声を上げたのである。
しばし驚愕の表情で固まっていたのだが、数瞬の後、突如鬼気迫る表情へと豹変した安部は「このオオオオォォォォッ!!!」と叫び声を上げ、その見た目からは想像も付かない獰猛さでコナンに襲い掛かり、その手はコナンの細い首を捕らえた!!
「舐めるなよクソガキィッ!!」
首を締め上げられ、コナンの小さな体は、地面に押さえつけられてしまった―――――
【SIDE:ASAMI AKECHI】
ぬぁにやってんだあのブァカはあああああああああああああああああああっ!!!?
なに調子こいた結果殺されかかってやがるうううううううううう!!?
いや待てwait、落ち着け朝巳、主人公がこんなところで殺されるわけが無い。記憶は無いが、何らかの手段で助かっているはずだ。自分で脱出するか、蘭さんか誰かが助けに来る的な…。
いやそれこそ待て、早合点するな俺!この事件、あるいはこの展開が、
転生生活17年!探偵モノ世界で揉まれた実力!見せてやんよオオオオオオオオオオ!!!
「貴様に分かるか!!倒産寸前の会社の社長の気持ちが!!」
靴を片方脱ぎ、何か喚いてる安部に投擲!!
「っははははははははは!騙される方が悪いんだよ!!」
間髪いれずにダッシュ!!
「私の口車に乗って、疑いもせずに、あんな保険に入った根岸のヤツが馬鹿だったんだ!」
そして靴はヤツの顔の真横を通り過ぎる!!
「殺されるとも知らずっ、な、何!?」
怯んだヤツの真後ろへ!
ここでQ.幼児化して身体能力大幅減退状態の俺が、殺気立った大人の野郎を倒すには?
「くらえ!伝家の宝刀!!」
急所を打つべし!!で、ファイナルアンサー!!
「必殺!玉砕キィィィィィィック!!!!」
江戸川を締め上げるのに片膝立てた体制になっている安部の足の付け根!キ○タマへ!!ドゥラアアアアアア!!!
そして、靴を履いている方である俺の左足は、その爪先は、吸い込まれるように安部のオトコに直撃する!!
「はぅあぁっ!!」
目を飛び出さんばかりに剥いて、割とセオリー通りの悲鳴を上げる安部越しにこちらを驚愕の表情で見た江戸川に、「江戸川っ!!」と声をかければ、察しのいい彼は安部の殺意の手を抜け出し、俺の方にややフラつきながらもやってくる。
「明智っ、お前なんで!?」
開口一番の悲鳴のような問いに
「それはあとで!!」
と答え、逆に問う。
「切り札は、持ってるよなぁ?名探偵!!」
一瞬キョトンとした江戸川は薄く笑い、「あぁっ!」と頷いた。
次の瞬間、江戸川は片膝を付いて、靴のダイヤルを回し「キック力増強シューズ」を起動させる。
起動した「キック力増強シューズ」は放電反応により、眩く輝く!!
盛り上がってきたぁ!!
俺は左足に残っていた方の靴を脱ぎ、江戸川の前に放る。
「なんだ、何者なんだ、お前たちはァァっ!?」
安部が股間を押さえて必死の形相で叫ぶ。
答え?当然
「江戸川コナン!探偵さァァアア!!」
名乗りとともに、足を振り切る「名探偵コナン」。
地面に落ちる刹那、俺の靴は江戸川に蹴られ、恐るべきスピードで安部目掛けて飛来し、踵の部分が安部の顔面に直撃!
見事な顔芸を披露して吹っ飛んだ安部は、倒れたあと、ピクリとも動かなくなってしまった。
では、ここで一言。
「因みにだ。最後に言っておく。俺は通りすがりのただの小学生だ。覚えておけ」
「うそつけ!!」
~~~~~~~『迷宮のラヴァーズ』song by heath~~~~~~~
なんでEDかかったし。
それはともかく後日談だが。
伯父さんの話では、安部は捕まった後、取調べで「ガキどもにやられた」「証拠を取られた」「タマをあのガキが」などと供述しているらしいが、どうでも良いな。
個人的には久しぶりに他人を思いっきり蹴って、ちょっとすっきりした気分だった。
あと、あんなに早く生名乗りが聞けてラッキーだった。以上。
で、現在学校で。
「―――結局なんであそこにいたんだよ明智」
「なんでっておまえ、ソロリソロリと離れていく同居人が気になったら着いていくだろ普通」
「普通はおっちゃんか蘭姉ちゃんに話すんじゃ…」
「俺の普通とお前の普通は違うのさ」
「そうかよ。
―――ありがと」
「…ほへ?」
「だぁからぁ!ありがとうって言ってんだよ!!」
「……」
「んだよ!言いたい事あんなら言えよ!」
江戸川がデレた…。
まあしかし、これはいい傾向だ。
「…貸し一な」
「…は?」
「だから。今度俺が殺されそうになったら助けろってんだよ」
「…ハァ?おめえなぁ…」
「この御時勢、全く無いとは言えねえだろ?」
「…わーったよ。俺は借り一、だな」
「ま、できれば俺は貸しを返してもらう様なことにならないように祈ってるよ」
俺たちは、隣同士で薄く笑いあいながら、メンチきり会うのだった。