忠犬と飼い主~IF~もしもオリ主が黒の組織の幹部だったら?   作:herz

10 / 12


・コナン視点。最後にオリ主視点。

・シリアス。


IF⑦ 後編

 

 

 ――ここに閉じ込められてから、一体、どれだけの時間が経過したのか。

 

 環境は整っていて、衛生管理は万全。水も食事も与えられる。……しかし、情報だけは与えられない。

 窓も時計もなく、正確な時間は分からない。入り口は部屋にある1つの扉だけで、当然そこは鍵が閉まっていて、密室だ。人間との接触もないため、それを問い詰める相手がいない。いくつか監視カメラを見つけたから、余計な行動は取れない……そもそも、博士が作ってくれた道具は全て取り上げられたから、そんな行動を取る手段すらない、という状態だ。

 

 

(…………八方塞がり、か。……徹底的に、反抗する術を奪われている)

 

 

 今、この状態で騒いでも、子供の体では体力を消耗するだけ。それに、下手をすれば食事も水も与えられなくなって、餓死もあり得る。……情報も与えられず、それを探る手段さえも奪われた状態が、こんなにも厳しいものだったとは……

 

 

(……これを考えた奴は、相当用心深く、頭が回る人間なんだろう。……あと、おそらく性格も悪いな。うん)

 

 

 悔し紛れに、そんな事を考えていた……その時だった。

 突然扉が開いて、誰かが入って来る。この部屋に閉じ込められてから、初めての事だった。一体、誰が――

 

 

「――っ、シンガニ…と、赤井さん!?」

 

 

 何をしに来たんだ!?

 

 

「やぁ、江戸川少年……いや――工藤新一」

 

「っ!?」

 

 

 ――何故、それを……!?……っ、まさか!

 

 俺は、赤井さんを見た。

 

 

「赤井さん……もしかして……いや、やっぱり気づいて……!?」

 

「……あぁ。その通りだ」

 

「……っ……」

 

 

 やはり、そうか……赤井さんはやっぱり俺の正体に気づいていて、組織にそれを報告していたんだ!

 

 

「とはいえ、最初は半信半疑だったがな。……念のために、お前の事をマスターに報告した時、組織がAPTX4869という薬を開発していたという事実を知った。そこから様々な情報を集め、精査し……共に推理した上で、お前の正体にたどり着いた」

 

「"不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる"……だったな?」

 

「!!読んでくれたんですね、シャーロック・ホームズ!」

 

「あぁ。……お前がやけに薦めてくるから、試しに読んでみた。なかなか興味深い話だったから、これからも読み続けてみる」

 

 

 こんな状況でなければ、シャーロキアンが増えるかも、と喜んでいたかもしれない。……こんな状況でなければ……!

 

 

「…………それで、あなた方は俺に一体何の用が?」

 

 

 正体がバレているなら、"江戸川コナン"の演技をしたってしょうがない。開き直ってそう問い掛けると、シンガニが俺に目を向けた。

 

 

「ほう……冷静だな、少年。他の無能共と比べれば、大分ましだ。……我々がここに来たのは君への処分と、それに対する報酬についての話をするためだよ」

 

「…………処分と、報酬……ですか。なるほど……俺に拒否権はなく、ただ決定事項を伝えるためにここに来た……という事ですね?」

 

 

 俺にも権利がある場合は、"取引"や"交渉"という言葉を使うはず。そうではなく、"処分と報酬"と言うのであれば……そうゆう事なのだろう。

 ここにずっと閉じ込められていたせいか、既に希望はなく、投げやりになっていた。……報酬は、おそらく――

 

 

「――俺の家族や幼馴染……それに、友人達や今回の作戦を知らない警察関係者達……そんな、俺の関係者に手を出さない代わりに、そちらの要求を呑め。……とでも言うんでしょう?それが、そちらが提示する報酬となる」

 

 

 すると、今まで表情を変えなかったシンガニが、目を見開いて驚愕した。

 

 

「……What a surprise(驚いた)……!報告は聞いていたが、予想以上に頭の回転が早い。そして――有能だ」

 

 

 心なしか、目が輝いているような……?

 

 

「俺の犬に……ライに勝手に首輪を着けた事を許すつもりはさらさらないが……その有能な頭脳に免じて、その件については多少、目を瞑るとしよう。……さて、話を戻すが、確かに君が言った通り、我々の要求を押し通す代わりに、君の大切な人達には手を出さない。……無論、それは君が我々に協力的だった場合に限るが、な」

 

「報酬、という名の人質ですね」

 

「そうとも言う」

 

「……で、俺に何をしろと?」

 

 

 さっさと本題に入るためにそう言えば、シンガニは……

 

 

「我々のボスの悲願――不老不死のために、我々が進めている研究に協力してもらう」

 

「不老、不死……!?……そんな事、本気で実現できると思っているんですか?」

 

「少なくとも、ボスはそう思っている……君や灰原哀……いや、宮野志保のような存在が現れてからは、特にね」

 

「っ……灰原にも手を出す気か!?」

 

「彼女は既に、我々の手中にある。……いずれ、彼女にも君と同じ処分と報酬を提示する事になるだろう。……君が捕らわれている事を知れば、きっと良い返事がもらえるはずだ」

 

「ぐ……っくそ……!!」

 

 

 やられた……!!こいつらは俺には灰原を、灰原には俺を……それぞれ、人質として利用するつもりなんだ!

 シンガニの言う通り、灰原は俺が捕らわれていると知れば、こいつらに従わざるを得なくなる……俺を、守るために……!

 

 

「このっ――卑怯者……!!」

 

 

 きっとこんな事を言ったって、何の効果もないだろう。……それでも、言わずにはいられなかった。

 そう思っていたら、思わぬ反応が返ってきた。

 

 

「――あぁ。その通りさ。俺は卑怯者だよ。子供相手に、こんな大人げない事をやっているんだから、な……」

 

 

 ……シンガニは、そう自嘲した。……演技には、見えない。

 

 

「……だから、せめてもの詫びとして、君と灰原哀の待遇を改善をしようと努めている。今、ラムとボスに交渉しているところなんだ。さすがに、君達を完全に解放する事はできないが……君達2人を会わせるぐらいなら、交渉次第でどうにかなりそうだ」

 

「…………本当に……?」

 

「あぁ。あくまでも交渉次第だが……成功したら、すぐにでも君達2人を会わせてあげたいと思っている」

 

 

 シンガニが、真剣な表情で俺を見つめている。……何故だろう。この男は黒の組織の幹部なのに……何故、俺は……

 

 

(なんで、こいつの事を信じたい、なんて思ってるんだ……?)

 

 

 相手は犯罪者で……おそらく、赤井さんを裏切らせた張本人だ。それなのに……!

 

 

「あと、もう1つ。――君と灰原哀を、元の姿に戻す方法を探す事についても、優先的に進めたいと考えている」

 

「何……!?」

 

 

 ――やっぱり、いくらなんでもおかしい!

 

 

「……分からない。……あんたは一体、何を考えているんだ!あんた達からすれば、俺はあんた達を壊滅させようとした組織の司令塔で、灰原は裏切り者なんだろ!?それなのに、なんで…」

 

「なんで、こんなにも優遇するのか?」

 

「っ、そうだ!」

 

「…………勘違いするなよ、江戸川コナン。我々が君達を優遇するのは、そうする事によって利益が生じるからだ。

 君達2人を会わせる事で、互いの無事を確認させれば、我々に対しても多少は協力的になるだろうし……それから、君達を元の姿に戻す方法を探る過程で、不老不死に関して何らかの手がかりが見つかるのではないか、という打算もある。

 だから、君達を優遇するんだ。そうする事でもたらされる、利益のために」

 

「…………」

 

 

 ……そうか。だからか――

 

 

「――というのが、建前」

 

「え?」

 

 

 建前、って……

 

 

「俺の本音は最初に言った通り……君達に対しての、せめてもの詫びだよ。子供に窮屈な思いを……つらい思いをさせてしまっている事への、詫びだ」

 

「な、なんでそんな事を気にしてんだよ、あんた!あんたは黒の組織の幹部……悪党なんだろ!?」

 

「――悪党である以前に1人の大人なんだよ、俺は。

 ……俺は、1つのデカイ組織の幹部だ。俺には同じ組織に所属する仲間や弟分や妹分達がいる。そいつらを守るためなら、何だってやってやる。……たとえ、子供を利用する事になったとしてもな。……だが、それは――大人として、最低な行為だと思っている」

 

 

 眉を下げて、申し訳なさそうな表情を見せている。……この人は、本当に悪の組織の幹部、なのか……?今のこの人はまるで、純粋に俺の事を……子供の事を心配している、ただの大人に見える。

 

 

「……これはあくまでも、俺個人の考え方だ。黒の組織の中では、俺のような奴は間違いなく異端だろう。だから、この本音をもっとらしい建前で隠しているのさ。……ここだけの話だからな。内緒にしておいてくれよ?」

 

「……今さらだけど、監視カメラは……」

 

「あぁ、それは問題ない。俺達がここに来る前に、あらかじめ止めておいたからな」

 

「……赤井さんは、いいのか?」

 

「ライはいいんだよ。こいつは死んでも俺を裏切らないから。……なぁ?」

 

「はい、マスター。俺は死んでもあなたの犬であり続けると、心に決めていますから。絶対に裏切りません」

 

「……と、まぁそうゆうわけだから、ライはこれを聞いても何の問題もない。……納得したかい、江戸川少年?」

 

「…………」

 

 

 そう聞かれ、黙り込んだ俺は……やがて、口を開いた。

 

 

「……聞きたい事がある。――あんたはどうして、黒の組織に入ったんだ?」

 

「…………」

 

「あんたみたいな人が……自分から臨んで黒の組織に入ったとは、到底思えない」

 

 

 俺は、そう考えていた。……そう、信じたかったのかもしれない。

 

 

「…………すまないな。それについては、知り合ったばかりで、敵組織の司令塔だった人間に……それも、子供に対して話せるような事じゃないんだ」

 

「…………」

 

「だが、少しだけ話せる事がある」

 

「!」

 

「――俺は元々、子供の頃からFBIになりたいと思っていた。FBIだった父親に憧れてな」

 

「え……!?」

 

 

 思わぬ言葉に、俺は驚愕した。……そんな人が、どうして黒の組織に……!?

 

 

「しかし――ある日俺の父親が、同じくFBI所属の、無能な人間や無知な人間……そういった屑共のせいで、死んだ。……詳細は省くが、俺が黒の組織に入ったきっかけは、間違いなくそれだ」

 

「……っ……」

 

 

 そう言った時のシンガニの瞳からは、光が消えていた。……まさしく、漆黒の闇のような、そんな瞳が虚空を見つめている。

 

 

「……おっと。時間が迫って来ているな」

 

 

 はっと、気づいた時には、シンガニの瞳に光が戻っていた。

 

 

「江戸川少年。……今この瞬間を逃せば、しばらくは俺達とも、他の誰とも会えなくなるが……その前に他に聞いておきたい事はあるか?」

 

「……では、あと2つだけ。……1つは、灰原を含めた俺の関係者について。……両親や、幼馴染に……みんなに、手を出してないでしょうね?」

 

「あぁ。誓って、そんな事はしていないし、むしろ、させないさ。大事な協力者が大切にしている人達だからね」

 

「…………その言葉を、信用しましょう。……しかし、あくまでも俺が信用するのはあなただけです。他の構成員達の事は信用できませんので、俺が協力するのはあなただけにしますよ。……いいですね?」

 

「……充分だ。……ありがとう」

 

 

 シンガニが、ほっとしたような表情で、笑った。……悪党とか、食えない男だとか……そんな印象を最初に抱いていたが、それは既に覆されていた。

 

 

「それで、もう1つは?」

 

「もう1つは……赤井さんに、聞きたい事があって……」

 

「……答えるかどうかは、質問の内容による」

 

「……俺が聞きたいのは――あなたが組織側についたきっかけと、理由です」

 

「……ホー……マスター。どうしますか?」

 

「構わない。お前が話したいと思ったところまで、好きに話すといい」

 

「……分かりました」

 

 

 ……それから、赤井さんは2年前のきっかけとなった出来事と、組織側についた理由について話した。

 

 FBIの上層部に嵌められて、危うく死ぬところだった事。事前に情報を提供してくれたシンガニのおかげで、生き延びた事。その後、シンガニに勧誘され、その手を取った事。赤井さんが指定した条件を、シンガニがクリアしたため、彼の要求を呑み、彼の飼い犬になった事。

 そして、シンガニの手を取った理由は……

 

 

「マスターだけが――シンガニだけが、ただの"赤井秀一"として、俺自身を見てくれる存在だったから。……だから、シンガニの手を取った。

 俺を化け物呼ばわりするような連中や、俺をフィクションのヒーローのようにしか見てこない連中とは違い、マスターだけは、俺自身を見てくれる……それが当時の……いや。今の俺にとっても、どれ程嬉しい事だったか……!!」

 

 

 そう言って、拳を強く握って語る赤井さんに対して、俺は……彼の心境を、強く理解していた。

 

 

 俺も、昔はそうだった。……まだ江戸川コナンになっていなかった頃、俺は自分の人間関係に対して物足りなさや、虚しさを感じていた。

 俺には、俺の事を理解してくれる家族がいた。……でも当たり前のように、両親は俺の事を1人の"息子"として見て、接してくる。……それだけでは、足りない。ただ単純に、"工藤新一"という1人の人間を見てもらえないと、この心は満たされない。……そう思っていた。

 

 しかし、江戸川コナンになって、この姿のままでも中身の"工藤新一"を見てくれる人達に出会い……その中に、両親が含まれていた事を知った時、俺は、目を覚ましたんだ。俺にはちゃんと、俺自身を見てくれる人達がいたのだと、気づけたんだ。

 それに対して……赤井さんの周りにはそんな人はいなかった。そんな状態で身の危険が迫った時に、たった1人だけの、自分自身を見てくれる存在が助けに来たら……そりゃあ、心酔するよな……

 

 

「…………そう、ですか。……俺はたまたま、江戸川コナンになった事で、自分自身を……"工藤新一"を見てくれる人が身近にいた事に気づけましたが……もしも、俺がコナンにならずに、高校生探偵を続けていたら……もしかしたら、あなたと同じような結果になっていたかもしれないな……」

 

「…………」

 

 

 俺がそう言うと、赤井さんは珍しく、きょとんとした顔で俺を見つめた。

 

 

「…………お前は、俺を罵ったりしない、のか?」

 

「え……むしろ、何故そんな事をしないといけないんですか?……確かに、あなたは俺達を裏切った。でもそれは、あなたが俺達よりも信頼できる人を……その人を見つけたからでしょう?俺達が、あなたが信じるに値する存在になれなかったから……だから、あなたは俺達を切り捨てたんだ。……俺が知っている赤井さんは、そんな人なんじゃないかなぁ……と」

 

「――――」

 

 

 ……すると、赤井さんは目を見開いて……そして、寂しそうに、微笑んだ。

 

 

「もしも、」

 

「?」

 

「もしも俺が、シンガニに出会わなかったら……その時は、シンガニよりも先に出会っていたお前こそが、俺自身を見てくれる存在になっていたんだろうな」

 

「?……っ……え、」

 

 

 ……赤井さんがシンガニに出会ったのは、組織に潜入していた頃だったはず。そんなシンガニよりも先に、俺が赤井さんに出会っていたなんて、そんなの――心当たりは1つしかねぇ……!!

 

 

「――覚えて、いたんですか……?10年前の、あの海での出来事を……!?」

 

「っ!?……お前こそ、覚えていたのか?」

 

「……思い出したのは、あなたに出会った後、世良にも出会った事がきっかけになって、それで……」

 

「真純が……そうか。……俺も、思い出したのは江戸川コナンになったお前と出会った事がきっかけだったよ。出会った時からずっと、既視感を感じていてな。……それから徐々に、思い出していったんだ」

 

 

 まさか、あの日の事を赤井さんが思い出していたとは……

 

 ……そうゆう事なら、言いたい事がまだある。

 

 

「……あの日、俺は生意気にも、あなたに対して"ワトソンぐらいにはしてやるよ"と言いましたよね?覚えていますか?」

 

「……あぁ。よく、覚えている。……あの時は、面白い子供だと思っていた」

 

「俺、あの日の事を思い出してからは……実はちょっとだけ、嬉しく思っていたんですよ。……あなたは覚えていなくても、今の共犯関係にある俺達は、まるでホームズとワトソンみたいだ、って」

 

「…………」

 

「……でも、その時にはもう、あなたはシンガニの犬になっていた。……知らなかったとはいえ、滑稽ですね。勝手にあなたを助手にした気分に浸っていた」

 

「…………」

 

「でも……それでも、俺は――!」

 

 

 気づけば、俺は涙を流していた。

 

 

「勝手な事だけど、分不相応だけど、俺は――あなたに、俺のワトソンになって欲しかった……!!」

 

「――――」

 

 

 子供のように――否、実際に子供だが――泣き叫んだ俺は、それから目を閉じて、赤井さんの言葉を待った。

 馬鹿馬鹿しいと鼻で笑われるか、ふざけた事を言うなと怒鳴られるか……それとも、失望されるか。

 何を言われても仕方ないと、覚悟を決めて待っていた……その時だった。

 

 

「――くくっ……ふ、ふ、ははははっ!」

 

「!?」

 

 

 赤井さんが、大笑いしている……!?まるで、10年前のあの時のように!

 ……視界の端で、シンガニが目を見開いているのが見えた。それから、俺の涙が引っ込んだ。

 

 

「はははっ!!……っ、そうか……お前は、10年経っても、そう思ってくれたのか……そう、か」

 

 

 ……そうして、嬉しそうに笑った赤井さんが、改めて俺を見た。

 

 

「だが……すまないな。俺はもう――お前を越える、"運命"に出会ってしまったんだ。だから、お前のその言葉に応える事はできない。……悪いな」

 

「っ……!!」

 

 

 ……分かっては、いたが……直接言われてしまうと、かなり傷つく。

 

 

「…………ライ。そろそろ時間だ」

 

「分かりました」

 

「……江戸川少年。では、しばらく経った後に、また来るよ」

 

 

 そう言って、俺に背を向けたシンガニについて行った赤井さんは……ふと、足を止めて、振り返った。

 

 

「お前と共に過ごした僅かな時間は……全てがそうだったわけではないが――悪くはなかったよ」

 

「っ、」

 

「それじゃあ――さよならだ、ボウヤ。……俺の、ホームズ」

 

「っ……う……ぅっ……!!」

 

 

 泣き出す俺に、別れを告げて再び歩き出した、その大きな背中に向けて……俺は、

 

 

「――さようなら、赤井さん……っ、俺の、ワトソン……!!」

 

 

 ――彼が振り返る事は、2度となかった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「さて、ライ。――工藤新一の救済は、不要か、否か」

 

「――否です」

 

「……まぁ、そうだよな。……幸い、彼は想像以上に有能な人間だったし、それに子供だし……もしも元の姿に戻れたら、1度だけ彼の家族や幼馴染に会わせてやってもいいかもしれない」

 

「……ありがとうございます」

 

「代わりに、救済が不要な奴ら……FBIや公安の人間は、拷問して情報を絞り出すか、または新しく作った毒薬等の実験台にするか、新人構成員達の勉強(・・)の練習台にするか……まぁ、人数は腐るほどいるし、使い道はいろいろあるな。

 アメリカと日本への交渉道具としては、ジェイムズ・ブラックと降谷零がいれば、それで充分だろう」

 

「はい」

 

「……そこは、躊躇いがないんだな」

 

「えぇ。……以前は、あのボウヤも他の奴らと同じだと思っていましたが……改めて話した事で、それが思い込みであった事を知りました。……彼には、申し訳ない事をしたと思っています。

 しかし、ボウヤが例外なだけで、俺が最下層の牢屋の前で言った事が全てですよ。――俺にとって、シンガニ以外の存在は、全てが不要だ……と。そう言いましたよね?」

 

「……そうだったな。――俺は、工藤新一を越える、お前の"運命"なんだって?」

 

「!!……はい、そうです」

 

「ふふ……そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それにしても、」

 

「?」

 

「――ホームズと、ワトソン……ねぇ……」

 

「……マスター?」

 

「…………俺、ホームズのシリーズ読むの、止めようかな」

 

「そんな!?何故です!?」

 

「自分の胸に聞いてみやがれ」

 

 

 

 

 

 

(お前達の関係に――嫉妬した、なんて。……絶対に言ってやらねぇ!)

 

 

 あと――"お前も俺の運命だ"って言ってやりたかったけど、しばらくは言わない事に決めた!

 

 

 

 

 

 






・狂犬の飼い主

 狂犬をお供に、いろいろと見極めに行った。結果、ジェイムズと降谷以外のFBIと公安は"救済不要"、コナンは"救済"すると決めた。

 自分でライに屑共を相手にするな、と言った癖に自分がぶちギレた。……だって、俺の愛犬の心の傷に塩を塗り込むような真似をするから、つい……
 しかし、その愛犬に本名を呼ばれた事で、正気に戻った。だがしかし、屑共に容赦はしない。てめぇらは使い捨て決定だ!

 組織の幹部としてやらなければいけない事だと分かっているものの、若い頃に抱いていた正義感の欠片がまだ残っており、大人として子供に最低な行為を働いてしまった、と精神的なダメージを受けている。

 "運命"と言われた事は嬉しかったが、コナンとライの関係に嫉妬した……なんて、絶対に言わない!!

 だが、後に愛犬に問い詰められ、その理由をポロっとこぼし、自滅する事になる。


・狂犬

 飼い主と共にいろいろと見極めに行った先で、飼い主の事や大事な"首輪"の事を馬鹿にされて、激おこ。牢屋の中にいなかったらその場でぶち殺していたところだ……!
 本名を呼ばれて正気に戻ったが、今度は飼い主の方が自分のためにぶちギレてしまい、焦ればいいのか、喜べばいいのか……いや、とりあえず止めよう!と結論付けて実行した。

 コナンも所詮は他の奴らと一緒だろう、と思い込んでいたものの、それが間違いだったと知る。……しかし、俺は既に"運命"に出会ってしまったんだ。すまない、俺のホームズ。

 コナンを救済する、とオリ主が決めた事に、ほっとした。しかし、突然オリ主がホームズのシリーズを読むのを止めると言い出し、焦る。何故です、マスター!?

 後に、根気強く問い詰めたら、その理由が自分とコナンの関係への嫉妬だった事を知り、途端に上機嫌になる。俺のマスターがかわいい。


・切り捨てられたFBI

 最後まで、ライが裏切った理由を察する事はできなかったが、ライが正義側に戻る事は2度とない、という事だけは理解した。
 "もう手遅れだ"と言われて、号泣する。


・別れを告げられた名探偵

 シンガニの人心掌握術に、見事に嵌まった。……もっとも、シンガニは今回だけは本心を話していたため、意図的に掌握しようと考えたわけではない。

 ライに別れを告げられ、号泣。……ライがシンガニに出会っていなければ、彼らは名実共に"ホームズとワトソン"のような関係になっていたことだろう。

 ――さようなら、俺のワトソン……





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。