忠犬と飼い主~IF~もしもオリ主が黒の組織の幹部だったら?   作:herz

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・FBIの上層部やジェイムズさんへのヘイト表現あり。

・ジェイムズさん視点。最後の方にオリ主とライ視点(会話のみ)。

・ジェイムズさんが酷い目にあってます。

・いろいろと捏造あり。オリジナル設定満載(特に、オリ主の父親について)。

・IF②を読んでおくと分かりやすいと思います。

・ライよりもオリ主の方が目立ちます。

・シリアス。




IF⑧復讐劇、開幕 後編

 

――SIDE :ジェイムズ・ブラック――

 

 

「――あんたにとって、赤井秀一はどんな存在だ?」

 

 

 突然、私が1人で閉じ込められている牢屋の前にやって来たシンガニが、鉄格子の向こうから開口一番にそう問い掛けた。

 

 

「質問の意図がよく分からないのだが……」

 

「いいから――答えろ」

 

 

 その有無を言わさない口調に、私は仕方なく答えた。

 

 

「……彼は、我々FBIを導いてくれるエース――英雄(ヒーロー)だ。例え何があっても確実に生還する、無敵の捜査官だ。私は彼の事を、誇りに思っている」

 

「…………」

 

「そんな彼を――我々の大切なエースを奪った君を、私は絶対に許さない」

 

 

 必死に怒りを抑えながらそう言うと、シンガニは――ぞっとする程に冷たい目で、私を見る。

 

 

「……なるほどな。――てめぇがあの日から(・・・・・)何も学んでいなかった事は、よく分かった。てめぇは今でも何も変わらず、無知で、愚かな男だ。……それを再確認する事ができただけでも収穫だな」

 

あの日から(・・・・・)……?」

 

「…………いずれ分かる。――その時に思い知れ。クズ野郎」

 

 

 そう言って、シンガニは私に背を向けた。

 

 

「――ライ。今の話聞いたか?」

 

「…………はい。聞きました」

 

「っ、赤井君!?」

 

 

 物陰から、赤井君が姿を見せた。どうやら、今まで気配を消して隠れていたらしい。……何故か、チョーカーを身に付けていた。

 

 

「……ごめんな。こんな話聞きたくなかっただろう?」

 

「いえ……やはり、俺にとってマスター以外の存在は不要なのだと、俺も再確認する事ができましたから……結果的に良かったと思っています」

 

「……そうか。……じゃあ、行くか。分かってはいたが、こいつは何も変わってなかった。当たり前だが待遇改善はあり得ない」

 

「異議無しです」

 

 

 シンガニが出口に向かい、赤井君がその後を追う。私は慌てて赤井君を呼び止めた。

 

 

「待ってくれ、赤井君!君は、君は何故――」

 

「今の俺の名はライだ。俺が本名で呼ぶ事を許す相手はマスターのみ。――気安く呼ぶな」

 

「な、」

 

 

 私が言葉を失っている間に、彼はシンガニと共に立ち去ってしまった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ……あの日以降。私は黒の組織の構成員に拷問を受けるようになった。しかしFBI捜査官として、米国の情報は絶対に明かさなかった。……幸い、奴らは肉体的な拷問のみに押さえている。体はボロボロだし顔も腫れているが、これぐらいなら……なんとか正気を保っていられる。

 

 そんなある日、いつも私の拷問を担当している組織の構成員の男が、牢屋にいた私の体を鎖で拘束し、口には乱暴にガムテープを貼り……それから私を引きずるようにして牢屋を出た。……一体、何をするつもりだ?

 

 

 その後。構成員の男は私を連れて、ある部屋に入った。

 

 

(――赤井君!!)

 

 

 そこには赤井君と……シンガニがいた。シンガニは見るからに高級なアームチェアに足を組んで腰掛けており、その斜め後ろに赤井君が立っている。

 

 

「……ありがとう。ご苦労様」

 

「は、はい!……これは、どちらに置けば……?」

 

「そうだな……とりあえず、俺達の足元に」

 

「了解しました!」

 

 

 まるで物のように扱われ、私はシンガニと赤井君の足元に投げ出された。床に叩き付けられ、その痛みにうめき声を上げる。

 

 

「では……終わったらこれの回収を頼むから、それまでは持ち場で待機していてくれ」

 

「はい!失礼します」

 

 

 ……男が立ち去ると、シンガニは足元にいる私を見下しながら口を開いた。

 

 

「……今から、俺はFBIの上層部の会議中にハッキングを仕掛け、割り込もうと思っている」

 

「!?」

 

 

 何だと!?一体何のために……!?

 

 

「くくっ……俺の目的が知りたいか?……俺はな、手始めにFBIの上層部を――あの無能なクズ共を、1人残らず絶望させてやりたいんだ」

 

 

 一瞬嘲笑ったと思えば、次の瞬間には無表情に変わっていた。しかし、その漆黒の瞳だけはギラギラと輝いている。……その差が、恐ろしく感じた。

 

 

「さぁて……始めるか、ライ。お前も奴らに言いたい事があれば、好きに言っていいからな」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「ん。……既にセキュリティ自体は突破してるから、あと数分で済むだろう」

 

 

 そしてシンガニの言う通り、パソコンを使い初めてから数分後……向こうと回線が繋がった。シンガニが英語で話し出す。

 

 

『――初めまして、FBIの上層部の諸君。……俺は黒の組織の幹部。コードネーム、シンガニだ』

 

 

 案の定、画面の向こうから上層部の者達の騒ぐ声が聞こえた。……その中で、代表の1人が口を開く。

 

 

『……どうやってハッキングを成功させたのかどうかは、ひとまず置いておく。……まず、何故組織の幹部である貴様と共に、我々の同志である赤井秀一がそこにいるのだ?』

 

『同志、だと……?っは、よくもまぁそんな事が言えたものだ……』

 

『全くですね――2年前、任務中の不慮の事故と見せ掛けて、俺を排除しようとしたくせに』

 

「――っ、!?」

 

 

 その言葉に、勢いよく顔を上げて赤井君の顔を見る。……彼はシンガニと同じように、冷たい目でパソコンの画面を見下ろしていた。……彼は嘘をついていないと、直感した。

 

 

『な、何の事だ!?』

 

『惚けるなよ。……ちゃんと証拠は残ってるんだ。てめぇらが、赤井秀一という有能な捜査官を亡き者にしようとした証拠がな。……それは2年前からずっと、厳重に保管してあるぜ』

 

 

 ……ざわざわと、上層部の人間が騒ぎ出す。……この様子からして、事実であるようだ。

 まさか、上層部の人間が我々のエースを罠に嵌めようとしたなんて……!!一体何故そんな事を!?

 

 

『そ、……っ、そんな事より!私は何故赤井秀一がそこにいるのかと聞いたんだ!答えろ!!』

 

『下手くそな話題転換だな。……まぁ、いい。せっかくだ。改めて名乗ってやれ』

 

『はい。……よく聞け、クズ共。今の俺はFBI捜査官の赤井秀一ではない。――俺の名はライ。シンガニの飼い犬だ』

 

『な、何だと……!?』

 

 

 ざわめく声が大きくなった。……裏切られる事は予想外だったらしい。

 

 

『どういうつもりだ赤井秀一!!貴様はFBIだろう!?何を血迷った事を……!?』

 

『血迷ってなどいない。俺は正気だ』

 

『馬鹿な!?我々や同志達を裏切っておいてそんな――』

 

『――先に秀一を裏切ったのはてめぇらだろうが』

 

 

 背筋が、凍った。……ドスの利いた声によって、向こう側もこちら側も静かになった。

 

 

『……てめぇらの無駄話はさておき、本題に入るとしよう』

 

『ほ、本題……?』

 

『まず、―――――――。てめぇは政治家の――――――から賄賂を貰ってるだろ?』

 

『な……!?』

 

『それから――――。浮気相手である女優の――――との間に子供ができちまったそうだな?』

 

『そ、それは!?』

 

『次に――』

 

 

 ……順々に上層部を名指して、相手の秘密を暴いていく。不祥事まみれだった。……その場にいた上層部の人間達は皆、異様に青ざめている事だろう。

 

 まさか、上層部がそこまで腐っていたとは……!?

 

 

『――というわけで、俺はてめぇら全員の秘密を握っている。その情報のいくつかは、ある人物が吐いてくれた。……ライ』

 

 

 シンガニが赤井君を呼ぶと、彼は私の体を無理やり起こして画面の前に引きずり出した!

 

 

『まさか……ジェイムズ・ブラック……!?』

 

『そう――日本に送り込まれたFBI連中のリーダー格であるこいつが、いろいろと吐いてくれたんだ。拷問に耐えきれず、てめぇらの情報を売ったのさ』

 

「――っ、……っ!?」

 

 

 ……出鱈目を言うなと叫びたかったのに、口元に貼られたガムテープがそれを許さなかった。そうか、このために口にガムテープを……!!

 

 

『っ、この―――――め!!よくも余計な事を話してくれたな!?』

 

『ふざけるな!!何て事をしてくれたんだ!!』

 

 

 そんな罵倒が、一斉に浴びせられる。誰1人として、私を信じてくれない……!!

 

 と、その時。シンガニが手を叩く。

 

 

『はいはい注目!!』

 

 

 ……すぐに、上層部の人間達は静かになった。どう見ても、主導権は既にシンガニのものとなっている。

 

 

『……さてさて。これらのスキャンダルに関する情報――どうしようかなぁ?なぁ、ライ。お前はどうしたらいいと思う?どうしたら面白くなるかな?』

 

『そうですねぇ――あらゆる方法を利用して、全米にばら蒔くというのはどうでしょう?それなら面白くなるのでは?』

 

『ふは……!いいねぇ……さすが俺の愛犬!!いい事思い付いたなぁ、良くできた犬だ』

 

 

 ……2人の会話に焦ったのか、上層部の者達が必死に説得を始めた。……しかし、シンガニも赤井君もそれに耳を貸さない。

 

 

『な、何が望みだ!?金か!?金ならいくらでも払うから、それをばら蒔くのは止めてくれ!!』

 

『金もまぁ、組織のためには欲しいが……それは他にいくらでも当てがあるから、別にいらない』

 

『では我々はどうすればいい!?何を渡せば止めてくれる!?』

 

『――情報』

 

『何!?』

 

『さらなる情報を……てめぇらの汚い不祥事よりも役に立ちそうな情報を寄越せ。例えば、FBIの機密情報とか、米国自体の機密情報をな。

 ――より良い情報をくれたら、そいつの情報だけは拡散しない……かも?』

 

 

 ――そんな悪魔の言葉を、彼らは鵜呑みにしてしまった。続々と、互いに競い合うように機密情報をべらべらと口にする。……おそらく、“より良い情報をくれた者のみ“という言葉が、シンガニの策略だったのだろう。

 自身の保身だけを考えて、我先にと機密情報を披露する。――嗚呼(あぁ)……

 

 

(上層部は、自分の事しか考えない奴らばかり――誰も、私と私の部下達を助ける事を考えてくれない……!!)

 

 

 我々は、こんな奴らの下にいたのか!!……そういえば、赤井君も奴らの被害に遭っていたようだし……何故もっと早くに気づけなかったんだ……!!

 

 

『……なるほど……いやぁ素晴らしい情報をありがとう。全てありがたく使わせてもらおう。……ところで、1つだけ真実を教えてやろう。

 

 ――ジェイムズ・ブラックはまだ、何1つとして情報を吐いていない』

 

『…………な、何だと!?』

 

『で、では我々の情報はどこから!?』

 

『そんなの素直に教えるわけがねぇだろ。……それにしても傑作だな!どれだけ拷問されても何も吐かなかった忠誠心の強いこの男を、他ならぬ上層部の人間が罵倒し……さらにはその上層部の人間達が、自身の保身だけを考えて自ら機密情報を吐いてしまった――何も情報をバラさなかった、この男の目の前で』

 

『――――』

 

 

 ……モニターに映る上層部の人間達の表情が――絶望に染まった。

 

 

「……くく、ふふ、くふふ――っ、ははははっ!!ひひ、あっははははは――!!」

 

 

 思わず、息を呑んだ。……常に涼しげな表情で、時に余裕のある笑みを浮かべていたシンガニが――狂ったように、笑っている。

 

 

「ふは、はは、ひひひ……っ!!――嗚呼(あぁ)、」

 

 

 

 

 

 

「――最っ高だなぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 ……それは邪悪で、凄絶で、身の毛のよだつ程に――美しい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

『……そうだ。てめぇらのその表情が見たかった!その醜い顔が絶望に染まり、さらに醜くなる様子を、ずっとずっとずーっと前から見たかったんだ!!

 

 ――俺の親父が、てめぇらを含めた無知で無能で愚かな人間達のせいで死んだと知った時からなぁ!!』

 

「!?」

 

『な、……何だって……?何の事だ!?我々は貴様の父親など知らない!!人違いじゃないのか!?』

 

 

 この男の、父親?……一体誰なんだ?

 

 

『……まぁ、分からなくても無理は無い。俺の容姿は母親によく似ていて、親父の見た目とはかなり掛け離れているからな……名前を言わないと分からないだろう』

 

 

 そう言うと、シンガニは無表情でモニターを見据えた。

 

 

『……俺の本名は、和哉。――荒垣、和哉』

 

「――――」

 

 

 アラ、ガキ?――荒垣?…………そんな、まさか、――まさか……っ!?

 

 

『そして俺の父親は、生前はFBIの敏腕捜査官にしてエースと謳われた男――荒垣(あらがき)心哉(しんや)だ!!』

 

 

 ……その名を聞いた瞬間。上層部の人間達は言葉を失った。

 

 

 ――荒垣心哉。20年以上前にとある任務中に亡くなった、FBIの敏腕捜査官。――私の、上司だった人だ。

 

 

 無愛想だったし、なかなか気を許してくれない人だったが……その実力は本物だった。それから、彼には不器用な優しさがあった。

 多くの者は彼の無愛想な面しか見なかったが、私や他の少数の捜査官達は彼の優しさを知り、彼を強く慕うようになる。

 

 ……彼は、ありとあらゆる技術や知識を身に付けていた。

 どれか1つを極めるのではなく、全体的にバランスよく鍛えるというのが彼のやり方だった。万能型である彼は、どんな任務であっても大いに活躍していた。……そしていつの間にか、我々FBIのエースに――英雄(ヒーロー)になっていった。

 しかし、そんな彼の活躍を妬み、無駄な対抗心を燃やす者達が多くいた。私は他の少数の捜査官達……当時の私の先輩や後輩達と共に、彼を庇った。彼は我々の大事なエースなのに……その彼を貶す者達の気持ちが理解できなかったし、どうしようもない怒りを感じた。

 

 そんなある日、彼は単独でとある任務に就き――結果、帰らぬ人となった。

 

 信じられなかった。彼は我々のエースで、英雄で、無敵の男だったはず。それが何故、任務に失敗してしまったのか。……彼が担当したのは重要な極秘任務だったらしく、上層部以外にその任務について把握している者はいない。

 ……まさか、その任務中の彼の死に上層部の人間が関係しているのか……!?

 

 

 その時。上層部の人間の1人が、慌てた様子で口を開く。

 

 

『ま、待て、待て!思い出したぞ!!奴が結婚していたという情報は無かったはずだ!!』

 

 

 ……そういえば、そうだ!彼が結婚していて……ましてや子供もいたなんて、聞いた事が無い!!

 

 

『俺は両親が結婚する前……正式に籍を入れる前に日本で生まれたのさ。そして、親父はその事実をひた隠しにしていた。……あの人は有名になったせいか、いろんな奴らから狙われていたからな。外部からも、内部からも。

 だから俺とお袋を守るためにその存在を隠し……いろいろと落ち着いてきたら、アメリカに呼び寄せようと考えていたそうだが――そうなる前に親父が死に、お袋もその後を追って自殺した!!てめぇら上層部の人間と、親父の周りにいた雑魚共のせいで!!』

 

『ひっ――!?』

 

『てめぇらが優秀な捜査官である親父に醜くも嫉妬し、そんな親父を排除するために、無理やり例の任務を受けさせた事はもう知っているぞ!!』

 

 

 シンガニは椅子から立ち上がり、まるで獣の咆哮のようにがなり立て、恐ろしい目付きで画面を睨んだ。

 

 

『20年以上前……てめぇらは親父にとある極秘任務を言い渡した。それは――ある犯罪組織を3日で壊滅させろ、という任務だった。

 親父は任務開始日の数日前に突然言い渡され、詳しい情報を与えられず、事前準備もまともにできず、その犯罪組織の事をほとんど知らない状態で、送り込まれる事になった。

 もしも断ったら、所属しているチームの捜査官達を危険な目に合わせると脅迫した上でな……!!』

 

「……っ!?」

 

 

 何だと!?上層部は彼にそんな卑劣な真似を……!?

 

 

『今の俺から見れば無能で無知で愚かでクズで雑魚だが……そんな奴らであっても、親父にとっては大事な仲間だった。……心優しい親父はその任務を引き受け……その結果――

 

 ――ジェイムズ・ブラック!!てめぇらのようなクズ共なんかを守るために!俺の親父は死んじまったんだ!!』

 

「――――」

 

 

 …………あの人……荒垣さんの息子から憎悪を向けられるのは、正直、きつかった。シンガニは本気で、私を憎んでいる。……しかし、

 

 

(――何故、ここまで憎まれるのだろうか……?)

 

 

 少なくとも私や、他の少数の捜査官達は彼を慕っていた。決して悪感情は持っていなかった。それなのに――

 

 

『――何故憎まれるのかさっぱり分からない、なんて思ってるだろ?』

 

「――っ!?」

 

 

 心を読まれた!?

 

 

『……本当に無知で、クズだな……あの人は上層部の目を盗み、何とかしててめぇらに助けを求めようとしていたのに……てめぇらはそれに全く気づかなかった!気づこうともしなかった!!――親父は無敵のヒーローなのだと、本気で信じていたから!!

 

 ――その無責任さが親父を絶望させたのだと、何故気づかない!?それも親父が死んじまった原因の1つなのだと、何故分からない!?』

 

 

 怒りで血走った目が、私を射抜く。

 

 

『……親父が信頼していたとある人物が、親父の死後に俺とお袋に日記を渡してくれた。……親父の、直筆の日記だった。そこには親父の日々の様子が書かれていた。当然、上層部に妬まれていた事や、例の任務を遂行する事になった経緯についても記録されていた。

 

 その日記を読んで知ったんだ。――あの人が、日に日に追い詰められていた事を。

 

 親父はてめぇらの無責任な信頼によって追い詰められ、精神的に弱っていた。

 そんな時に例の任務を受ける事を強制され、仲間達に助けを求めてもそれに気づいてもらえず……“荒垣さんなら大丈夫だろう“、“荒垣さんなら死ぬはずがない“、“荒垣さんはヒーローだから“……そんな言葉を掛けられ――ついに、絶望した』

 

 

 歯を食い縛り、唇が切れて血が流れても構わず、私を睨み続ける。

 

 

『親父の日記の最後にはこう書かれていた。……俺とお袋の事を、いつまでも愛している。――弱くなってしまった俺を許してくれ、と……!!』

 

「――――」

 

『俺と共に日記を読んだお袋は、その数日後に自殺した!!その時心に決めたんだ!!――どんな手を使ってでも、FBIの上層部と親父が所属していたチームの人間全員に、復讐してやると!!』

 

「――――」

 

 

 ……そんな、シンガニの悲痛な叫びによって――私の心に、罅が入った。

 

 

(――荒垣さんがそんなに追い詰められていたなんて、知らなかった……!!)

 

 

 ……そうだ。知らなかった。知らなかったんだ!!

 あの人はいつも涼しい顔をしていたから、まさか私達の言葉があの人を追い詰めていたなんて、想像できなかった!!

 

 

『――知らなかった、なんて考えは言い訳にしかならねぇぞ』

 

「っ、」

 

『何故なら、てめぇは――!!』

 

『――マスター。そこから先は俺から話します。……その間に、少し休んでください』

 

『…………分かった』

 

 

 ……赤井君にそう言われて、シンガニは大人しく椅子に座った。それからすぐに、私は赤井君に胸ぐらを掴まれる。

 

 

『……なぁジェイムズ。……マスターのお父様の話を聞いて、何も気がつかなかったのか?』

 

「…………っ?」

 

 

 気づく?……何の事だ?

 

 

『…………そうか。気づかなかったか――残念だ。やはりてめぇはマスターの言う通り、ただのクズだった』

 

「っ!?」

 

『仕方ねぇから教えてやるよ……!!』

 

 

 胸ぐらを掴む手に、さらに力が入った。苦しい……!!

 

 

『今、マスターが話したお父様の境遇と、FBIにいた頃の俺の境遇は――よく似ているだろ!?なぁ!?』

 

「――っ!?」

 

 

 そう言われた瞬間、先ほどの彼の言葉の意味を理解した。……赤井君の言う通りだった。

 

 荒垣さんも赤井君も、FBIのエースで、英雄(ヒーロー)だった。多くの人間に嫉妬され、私を含めた少数の人間には慕われて……それから、

 

 

(――嗚呼(あぁ)……!!)

 

 

 そうだ!2年前に赤井君も上層部から極秘の任務を命じられて、1人だけで任務に向かって……!?

 

 

(まさ、か……!?)

 

 

 あの任務が、上層部の策略だったのか!?赤井君を、荒垣さんのように排除しようとしたのか!?

 

 

『……理解したようだな。俺が置かれていた状況を。

 

 そう。俺も2年前にマスターのお父様と全く同じ状況に置かれた。てめぇらを人質に取られ、任務を受ける事を強制された。……そして向かった先で死にかけたが――マスターに命を救われた。

 かなり後になってマスターから全ての事情を説明してもらい、自分の父親の二の舞になって欲しくなかったから俺を助けたのだ、という真実を打ち明けられて驚いたが……それよりも――マスターのお父様が、俺と同じように無責任な信頼を向けられていた事に驚いた』

 

「――――」

 

『マスターのお父様の気持ちが、痛いほど理解できたよ。俺も、周囲の人間に無責任な信頼を向けられて、無敵のヒーローだと思い込まれて――苦しんでいた……!!

 

 そんな俺を、マスターが――シンガニが救ってくれたんだ!!』

 

「――――」

 

 

 ……なんということだ。私は、私は――!?

 

 

『……これで良く分かっただろ?ジェイムズ・ブラック』

 

「っ、」

 

 

 シンガニが再び口を開く。そして――

 

 

『――てめぇは親父が亡くなったあの日から(・・・・・)何も学んじゃいなかった。……危うく秀一を――てめぇらの言う英雄(ヒーロー)を、もう一度殺すところだったぞ?

 

 俺が気づかなかったら――秀一は間違いなく死んでいた!!』

 

 

 ――私の心に、止めを刺した。

 

 

 

 

 

 

「――――――っ!!」

 

 

 私の悲鳴は、口元に貼られたガムテープによって意味の無い声に変換される。……それでも私は叫び続けた。そうするしかなかった。

 ――既に罅が入っていた心は、簡単に割れた。

 

 

「…………あーあ――呆気ない。もう壊れちまった……」

 

「どうします?」

 

「その辺に捨てとけ。あと、お前は俺の後ろに戻って来い」

 

Yes,master(はい、ご主人様)

 

 

 ……悲鳴を上げ続けている私が床に投げ捨てられた後も、話が続く。

 

 

『……いや、申し訳ない上層部の方々。ずっと放って置いたままだったな。……改めて、素晴らしい情報をありがとう。これらの情報は、全て有効活用させてもらおう』

 

『…………き、気に入ってもらえたようで何よりだ。そ、それで我々のスキャンダルに関する情報は――』

 

『あぁ、それか。――それなら全て、明日中には全米に広まるぞ。良かったな!明日にはマスコミ共がてめぇらに群がるぜ』

 

『――は……?』

 

『くっ、はは、ははははははっ!!話を聞いて無かったのか!?俺の目的は――てめぇら上層部と、親父と同じチームにいた人間への復讐だぞ!?それなのに、せっかく手に入れたてめぇらの不祥事に関する情報を、あっさりと捨てるような真似をするわけが無いだろうがぁ!!』

 

『な、あ、』

 

『いいか、良く聞け!――これは、序章に過ぎない。俺は今後もありとあらゆる手を使い、てめぇらに復讐し続ける。――親父が味わった以上の絶望を、その身で嫌というほど思い知るがいい……!!

 

 存分に苦しみ、喚き、醜く泣き叫んで俺の両親と秀一に――懺悔しろ!!』

 

『ひっ、』

 

 

 

 

 

 

『無知で無能で愚かでクズな雑魚共よ――てめぇら全員、楽に死ねると思うなよ?』

 

 

 

 

 

 

 ――悪魔の狂った嗤い声が響き、私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

――SIDE:飼い主と狂犬――

 

 

「……お疲れ様でした、マスター」

 

「…………和哉」

 

「はい?」

 

「今だけは、和哉って呼んでくれ」

 

「……和哉さん」

 

「……秀一」

 

「はい」

 

「――もう、後に引けない」

 

「……そうですね」

 

「俺は、親父達のいる天国には行けないだろう。――確実に地獄行きだ」

 

「……はい」

 

「――ごめんな」

 

「――――」

 

「俺はお前を――地獄まで道連れにする」

 

「…………俺は言ったはずだぞ、和哉さん。あなたがどんな選択をしたとしても俺は……俺だけは、あなたの側にいる。何時までも、何処までも――赤井秀一は、荒垣和哉と、共に在る」

 

「――――」

 

「そう、あなたに誓おう」

 

 

 

 

 

 

「……そこは、神に誓う、じゃないのか?」

 

「俺の神は荒垣和哉ただ1人です」

 

「あ、そう。……じゃあ、そうだな……何時までも、何処までも――荒垣和哉は、赤井秀一と、共に在る」

 

「――――」

 

「と、今は亡き俺の両親に誓おう」

 

「そこは俺に誓ってください!」

 

「俺にとっての神は両親だ。――お前は俺の飼い犬だろう?ライ」

 

「……そうでしたね。えぇ、その通りです。――俺はシンガニの飼い犬。名前は、ライ」

 

「――Good boy(いい子だ)

 

 

 

 

 

 





・復讐を開始した飼い主

 降谷が日本を愛する警察官だったのかどうかを確かめるために、勧誘(偽)してみた。結果的に降谷が精神攻撃にも耐えきって断ってみせたので、満足。
 今まで日本を守ってくれた警察官に対して感謝と罪悪感を抱いていたため、深く頭を下げた。――今まで日本を守ってくれてありがとう。そして、ごめんなさい。

 降谷に対してはほんの少し慈悲を与えたが、ジェイムズに対して慈悲は与えない。ジェイムズの心に止めを刺すために、FBI上層部との会話を強制的に聞かせる事にした。そして――復讐が始まる。
 上層部の秘密を暴露し、ジェイムズに罪を擦り付けた後、言葉巧みにさらなる情報を手に入れた。それから上層部に真実を明かし、彼らの絶望した顔を見て……豹変。

 ――最っ高だなぁ……!!(ゲス顔)

 そこから始まるスーパー★シンガニタイム(狂)!!ずっと俺のターンだぜ!自身がかつての敏腕捜査官の息子である事を明かし、今までに無いほど感情を爆発させ、憎しみを剥き出しにする。
 途中で狂犬にバトンタッチしてスーパー★シンガニタイム(狂)は一旦終了。ライのターンを眺めながら休憩し、ここぞというところでジェイムズに止めを刺した。あーあ――呆気ない。
 その後、復讐対象者に向けて、宣戦布告。――てめぇら全員、楽に死ねると思うなよ?(ゲス顔)

 降谷と話した後も、宣戦布告の後も、ライの言葉を聞いて泣きそうになった。きっとこいつなら本気で一緒に地獄へ落ちてくれるんだろうなぁ……

 何時までも、何処までも――荒垣和哉は、赤井秀一と、共に在る。


・飼い主の復讐の始まりを見守った狂犬

 オリ主が降谷を勧誘(偽)した時、内心は焦っていた。まさか、飼い犬を増やすつもりですか……!?しかし降谷がそれを断り、オリ主が本気で勧誘するつもりがなかった事を知り、安心。
 オリ主の弱音を聞き、本心を話す。何処かへ逃亡するもよし、死ぬのもよし。どちらにせよ俺はマスターについて行(逝)く。

 オリ主の復讐の序章を特等席で観賞できてご満悦。上層部の人間達が絶望していく様子を楽しんで見物していた。
 そして、オリ主の豹変に最初は驚くも、その邪悪で、凄絶で、身の毛のよだつ程に美しい笑み(ゲス顔)に見惚れた。
 あなたこそ最っ高です!!まだそんなにも素晴らしい表情を隠していたんですね!?脳内に永久保存しておきます!!

 スーパー★シンガニタイム(狂)を見て、今までに見た事の無いオリ主の表情を見る事ができて喜んでいたが、両親を失った悲しみと憎しみを全力でぶつけている様子に、胸を締め付けられた。マスターをここまで悲しませたクズ共を、1人残らず蜂の巣にしてやりたい。
 オリ主に少し休憩してもらおうと、バトンタッチした。ここからは俺のターン!……それにしても、マスターのお父様の境遇と自分の境遇がよく似ていて驚いたな……もしや、俺が気に入られたのは俺がお父様に似ていたからか……?

 オリ主の宣戦布告後。オリ主の言葉を聞き、改めてその側に居続ける事を誓った。荒垣和哉は俺の神。異論は認めない!!

 何時までも、何処までも――赤井秀一は、荒垣和哉と、共に在る。


飼い主(悪魔)の誘惑に打ち勝った公安

 一度心を壊されSAN値ピンチになった状態で勧誘(偽)されたが、見事に打ち勝ってみせた愛国心溢れる立派な警察官。そしてオリ主の感謝の言葉に面を食らった。結局何しに来たんだこいつ……!?
 諸伏の兄とコナンに手を出される事はないと安心したが……部下達の今後を考え、無力な自分を呪った。


・呆気なく壊れた狂犬の元上司

 拷問を受けながらも情報は絶対に吐こうとしなかった、こちらも愛国心溢れる捜査官。

 オリ主の復讐の序章を、次々と明かされる新事実に振り回されながら見ている事しかできなかった。
 罪を擦り付けられ、オリ主のゲス顔を見て恐怖を感じ、亡くなってしまった元上司の息子に憎しみを向けられ、元部下からも本音をぶつけられ……最後にオリ主に止めを刺され――SAN値直葬。





 降谷さんとジェイムズさん、本当に申し訳ありませんでした!!

 特にジェイムズさん!!前々回のネタの時といい今回の時といい本当にごめんなさい!!私はあなたの事は決して嫌いじゃないんです……(´;ω;`)by作者





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