忠犬と飼い主~IF~もしもオリ主が黒の組織の幹部だったら? 作:herz
・オリ主の設定はIF短編①、②と同じ
・赤井さんがNOCバレしてアメリカに帰った後の話
・オリ主が赤井さんを口説く…もとい、黒の組織へ勧誘する
・赤井さん視点
・FBIに関しての多大な捏造あり!
・カッコいい赤井さんはいません
長くなったので、前編と後編に分けます。
仕事を終えて、なんとか日付が変わる前にセーフハウスに到着した俺は、愛車から降りる。……ふと、何者かの視線を感じた。
振り向くと同時に、夜闇に包まれた路地から足音が聞こえた。徐々に近づいて来ているようだ。念のため、懐にある拳銃に触れつつ警戒する。……やがて、足音の主が姿を現した。
「……っ!?」
その姿を目にした瞬間、俺はその場から咄嗟に飛び退き、距離を取った。既に拳銃はいつでも抜ける状態にしてある。
「――よぉ、ライ。……いや、赤井秀一」
「――シンガニ……!!」
何故この男がアメリカに……!?それも、ここにいるという事はおそらく、俺のセーフハウスがある場所を突き止めていたのだろう。一体、どうやって……!?
「くくっ……一瞬だが顔に出てたぜ。今、動揺したな?察するに、何故俺がここにいるのか。そしてどうやってセーフハウスの場所を知ったのか……と考えていただろう?」
「…………」
「無言は肯定と取るぞ。……しかし、お前がポーカーフェイスを一瞬だけでも崩すとは……それ程驚いたって事かな?」
「……っ……」
思わず悪態をついた。……これだから、この男は厄介なんだ……!こちらが一瞬でも気を抜けば、優れた観察眼でそれを見抜いてくる。ある意味、ジンよりも手強い。
俺はそう思いながら、周囲の様子を窺った。もしかしたら、シンガニ以外にも組織の人間がいるかもしれない。……しかし、
(他に気配は……ない、な)
周囲に人間はいないようだった。別の場所であれば狙撃される危険性あっただろうが、このセーフハウスの周辺には狙撃に向いている場所がない。……つまり、シンガニは1人でここに来ている。
……とはいえ、どこか別の場所で組織の人間が待機している可能性もある。気は抜けない。
「さて、赤井秀一。……少し、話さないか?もちろん、懐のそれには触れたままでいいぞ。距離もこのままの方が安心できると言うなら、そのまま話そう。……どうだ?」
「…………いいだろう」
本来なら、何か罠があると想定して断るべきだろう。しかし俺は、それよりも情報を得るためにその危険を冒すという選択を取った。
だが、この男の話を聞こうと決めた理由は、それだけじゃない。これは、俺の悪い癖とも言えるかもしれないが……興味があったのだ。この男に。
黒の組織に所属している数多くの者達から慕われる男。その数多くの者達の中には幹部に加えて、組織のボスも含まれているという。しかも、その筆頭はジンだ。
それだけでも興味深いというのに、この男は黒の組織の奴らの中でも珍しい、穏健派。無駄な殺人は好まないようで、犯罪者はともかく、一般人を殺す事はまずなかった。
そんな態度であれば、普通は組織の連中に疎まれるはず。しかし、シンガニはそうなる事がなかった。むしろ好かれていた。どうやってその立場を確立させたのか……実に興味深い。
組織に潜入していた時は大体がジンに妨害されて、シンガニと話せる機会が少なかったからな。この機会にどんな人間なのかを知りたい。……そう考えた。
「ありがとう。……まず初めに言っておくが、今回はボスから命令されてここに来たのではなく、俺の独断だ。同行者もいない。……それどころか、休暇を取ると言っただけで、どこに行くとは誰にも告げずにここに来た。痕跡も丁寧に消したから、今頃組織内では大騒ぎになってるかもしれない。……帰ったらジンに何を言われるかな……」
と、遠い目をしながらシンガニがそう言った。
「……大丈夫なのか、それ」
「…………最悪の場合、1週間くらいジンの家で監禁生活かな」
「大丈夫じゃないな」
割りと深刻だった。それに……
「……なぁ。本当なら聞きたくないんだが、もしも休暇を取った理由に俺が関係していると知られたら、どうなるんだ?」
「…………最悪の場合、1ヶ月監禁生活かな」
さらに深刻になった。……敵とはいえ、さすがに同情する。
「……で?それ程のリスクを冒した理由は何だ?……おそらく、お得意のハッキングで俺に関する情報を盗んだんだろう?ビュロウのセキュリティシステムは甘くない。逆に情報を抜き取られる危険性もあったはずだ。……そこまでして、俺の元に来た理由は、何だ?」
「……さすがだな。頭の回転が早い。……では、本題に入るとしよう」
すると、奴は真剣な表情で、こう言った。
「赤井秀一――俺はお前に、警告をするために来たんだ」
「……警告?」
「あぁ。……信じるか否かはお前次第だが、近々、お前は任務中に命を落とす事になるかもしれん」
「!?」
……何だと?
「数日後、お前は上層部からある任務を言い渡されるだろう。断れるなら断った方がいいが……そうするとお前の立場は悪くなるだろうし、もしかしたらそれ以前に人質を取られるかもしれない。そうなったら、受けるしかないだろうな」
「待て!一体どうゆう事だ?その口振りだと俺を狙っているのはFBIの上層部だと言っているように聞こえるが……!?」
「事実、その通りだ」
俺は言葉を失った。……シンガニは確信を持ってそう言っているようだった。
「どうやらそっちのお偉いさん方の大半は、お前の事が大層気に食わないらしい。といっても逆恨みだがな。お前が次々と功績を残していくものだから、その若さと天才的な才能に嫉妬したんだろう。任務にかこつけて"不慮の事故"で殉職した、という体で排除しようとしている」
「…………」
……確かに、上層部の人間に嫌われる事に心当たりはあった。以前から命令違反は度々やっていたし、態度が悪かったという自覚はある。
だからその分、成果を上げて黙らせてやろうという気は少なからずあった。それが裏目に出た、という事だろうか。……もっとも、シンガニが嘘をついていなければ、の話だが。
……だが、そう思いつつも俺は、この男が嘘をついている可能性は限りなく低いと考えていた。
ジンに監禁される云々のリスクは置いておくにしても、FBIのセキュリティシステムを抜けて潜入捜査官である俺の情報を手に入れるなんて、危険過ぎる。さらに、それを当の本人である俺に話してしまっている。わざわざ、自らの足で俺の元を訪ねた上で。
万が一。話が拗れて戦闘となった時、互いの戦闘能力を鑑みるに、いい勝負にはなるだろうが……有利なのは俺の方だろう。体格差があり、どちらも
つまり、自身が確保される可能性があると知りながら、俺に接触した。
(――ますます、この警告が真実味を帯びる)
しかしそうなると、どうしても解せない事がある。
「……もしも、その話が本当だったとして……何故、それをわざわざ俺に伝える?そうする事でお前にどんなメリットがあるんだ?」
「…………」
「NOCである俺を助けるような真似をして……一体、何を企んでいる?」
返答によっては、殺し合いも辞さない。……そんな心境のまま、いつでも戦闘を始められるように構えた。
そして、奴が口を開く。
「気に入らねぇんだよ。そうやって、無能な奴らが有能な人間を引きずり下ろそうとする様がな。……俺は、そうゆう雑魚共が大嫌いなんだ。虫唾が走る!」
「…………ホー……」
常に冷静さを崩さないこの男が、ここまで感情を露にするのを見るのは初めてだった。こいつの仮面はかなり厚い。それが剥がれるとは……
「そんな奴がいるから俺の親父は…ってそれはいい。今回、俺がこの情報を得たのは偶然だった。初めはこれを知ってどうしようかと迷ったが……最終的に感情を優先して動こうと決断し、ビュロウにハッキングを仕掛け、お前の居場所を調べ上げてここまで来た。……そこまでやってお前に警告した理由は、さっきも言ったように無能共のやり方が気に入らなかったのが1つ」
「ふむ」
「それからもう1つ。――俺、お前の事は嫌いじゃないんだ。むしろ、好ましいと思っている」
「…………は?」
今、何て言ったんだこいつは?
「ジンを相手にして物怖じもしてなかったし、遠慮もしていなかった。そうゆう奴は嫌いじゃない。
他の奴らは生意気だと言っていたが、俺は実力さえあれば別にそれでも構わないと思っている。それだけ度胸があるって事だからな。そしてお前は、その実力がある奴だった。……お前には個人的に注目してたんだ。おそらく、俺を含めた組織のスナイパー達の中でも、お前が1番優れていたと思う。
文句を言ってくる奴をその実力で黙らせているってのも良かった。あと、媚を売るような真似をしていなかった事もな。
できる事ならいろいろ話してみたかったんだが、その度にいいところでジンに邪魔されてな。他の奴らと話すぐらいならあまり邪魔しないくせに、ライと話してると高確率で邪魔してくるものだから……あいつも困った奴だよな……まぁ、お前ら2人は特に仲が悪かったし、仕方ないか。
そんなお前がNOCだと判明した時は、つい大笑いしちまったよ。怪しすぎて逆にNOCらしくないなと思ってたのに、見事に騙された。あの態度でよくもまぁ3年も潜り込めたものだ。……それだけお前が優秀だった、という事だろうな。
だからこそ、勿体ないなと思ったよ。お仲間のミスによってお前が潜入捜査を断念する事になったと知った時は。
お前の居場所を調べた時、ついでにお前の経歴も少しだけ見た。……実に優秀な捜査官だな、お前は。うちへの潜入捜査を任されたのも当然だ。
FBIに加入してから短期間で他のベテラン捜査官達よりも目に見える成果を上げて、個人の犯罪検挙率もトップクラス。スナイパーとしても近接戦闘員としても大いに活躍しているFBIのエース。さらには観察眼や推理力も優れているという。……素晴らしいな。それに…」
「
そんな褒め言葉の羅列に耐えかねてそう言うと、シンガニは素直に黙る。それから俺は、目の前に敵がいるにも関わらず、顔を片手で覆った。
(…………何故、何故俺が褒め殺しされているんだ!?それも敵組織の幹部に!!)
訳が分からなかった。顔に集まった熱が冷めない。
「……この程度の褒め言葉でお前がそこまで照れるなんて……もしかして、実は褒められる事に慣れてないのか?」
「
「なるほど、図星か」
「っ!!」
こいつ……!!
「だとすると……お前の周囲の人間は、お前の何を見ているんだか……」
「何を…」
「なぁ、赤井秀一。……お前、今の立場に満足しているのか?」
「は、」
「――お前のお仲間達は、ちゃんとお前自身を見てくれているのか?」
「…………」
――咄嗟に、答える事ができなかった。そんな事は考えた事がなかった。
今の立場に満足しているのか、だと?それは……どう、なのだろうか。それに、同僚達が俺自身を見てくれているのか、だって?…………それは……
と、その時。どこからか足音と話し声が聞こえてきた。……誰かが来たらしい。
「おっと、時間切れか。……じゃあ、俺はそろそろ行くとしよう」
「っ!!待て、まだ話は…」
「あぁ、そうだ!忘れるところだった。……これを置いていく」
シンガニは小さな紙袋を地面に置いた。
「この中には、俺が今回得た情報……お前にさっきまで話していた内容が詰まったUSBメモリが入っている」
「何……!?」
「中身を確認するかどうかは、お前自身が決めるといい。ウイルス等は入れてないが……信用できないなら最初から見なければいいし、見たいのなら対策をした上で見ればいい。……さっきも言ったように、この情報を信じるか否かは、お前次第だ。何なら、中身を見た後に改めて自分で調べるのもいいかもしれない。……じゃあな」
そう言って、シンガニは立ち去った。……本当なら、FBI捜査官として追いかける必要があっただろうが……俺はそうしなかった。それよりも、シンガニが置いていった物の中身を確認したいと思ったから。
ゆっくりと、小さな紙袋に近づき、それを手に取った。……軽すぎる。妙な音もしない。爆弾等が入っているわけではなさそうだ。
中身を見ると、そこには確かにUSBメモリが入っていた。それから小さなメッセージカードが1枚。
「"話を聞いてくれてありがとう。お前の無事を祈る"……か。……敵対している相手の無事を祈ってどうするんだ……」
そう呟いて呆れつつも、少しだけ嬉しく思っている自分がいる事に驚いた。
(……なるほど。確か、奴は組織の人間から"人たらし"と評されていたな)
まさか、俺でさえそれに呑まれかけたとは。……やはり危険だな。あの男は。
シンガニという男の危険性を改めて認知した俺は、ひとまずセーフハウスの中に入る事にした。……既に、日付は変わっていた。
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……それから数日後。俺は、とある廃墟で疲労困憊になっていた。
あの日、結局俺はシンガニから渡されたUSBメモリの中身を見ようと決断した。そして、その情報が真実である事も確認した。
それからはあえて、周囲にはその情報を教えずに過ごした。どこから上層部に洩れるかも分からなかったからな。真面目な態度で過ごす事も考えたが……それでは勘づかれるかもしれないと思い、止めた。
そんな中、昨日。上層部からある任務を言い渡された。その任務は事前に得ていた情報と一致していたため、これがそうなのだろうと、確信した。
そしてシンガニに警告された通り、これを受けなければジェイムズ達に危険が及ぶかもしれない、と遠回しに言われた。まさしく人質である。
また、ジェイムズ達にも根回しされていたようで、この任務は俺1人で遂行する事になっていた。……これで、彼らの応援は望めなくなった。
そして今日。とある廃墟に向かった俺は、決して小さくはない犯罪組織をたった1人で壊滅させた。……おそらく、事前に情報を得ていなければ、命を落としていただろう。それ程に激しい戦闘だった。
……始めた時は昼頃だったというのに、気がつけばもう夜だ。周囲では大勢の犯罪者達が気絶している。……生き残りがいないかどうかをよく確認した俺は、そこでようやく気を抜いた。
「っはぁ…………まずい、な」
気を抜いた途端、疲労を自覚したのか、体が急に重くなった。そんな体に鞭を打ち、ゆっくりと廃墟の外に向かう。
……携帯は戦闘中に壊してしまった。この廃墟の周辺に人がいない事も分かっているため、どちらにせよ助けを求める事はできない。ここまで乗って来た車を止めてある場所までは遠いわけではないが、この体でそこまで行けるかどうか……
「…………絶対絶命、というやつか」
そんな事を呟いたところで、ようやく外に出た。……そこで限界だったのか、足の力が抜ける。
あ、これは倒れるな。
なんて他人事のように思いつつ、地面に倒れ込む――その前に、誰かが地面を蹴る音が聞こえ、次の瞬間には何者かが俺の体を受け止めていた。
「――おっと!……ギリギリセーフ。……やれやれ。あの数の犯罪者を1人で片付けるなんてな……やっぱお前、すげぇな。最高だぜ」
何者かの声が、俺の事を称賛する。……その声を聞いたのを最後に、意識が途絶えた。