忠犬と飼い主~IF~もしもオリ主とルパン三世が過去に出会っていたら? 作:herz
・コナン視点。
・ルパン一味は出てきません。
・前編と後編に分かれています
荒垣さんと赤井さんの護衛任務当日。俺は蘭とおっちゃん、園子、少年探偵団と共に、鈴木次郎吉さんの自宅へと招待されていた。
ちなみに、今回は灰原はいない。彼女は、例の作戦中に見つけたアポトキシン4869の資料を使って元の体に戻る薬を開発するために、今も研究し続けている。俺は、そんな灰原に対して息抜きも必要だから、と連れ出そうとしたのだが……
「……今回は、あの人と顔を合わせる事になるんでしょう?……なら、行かないわ」
と言って、彼女は断った。……あの人、というのは間違いなく、赤井さんの事だろう。作戦が終わった後に、灰原には赤井さんの事も含めて事情を説明したのだが、1度深まった溝を埋める事はやはり難しいようだ。
赤井さんも彼女に無理をさせないために、極力近づかないようにしているから、結局は現状維持しかできない。……これに関しては、時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。
閑話休題。
「おぉ!良く来てくれた!」
「久しぶりね、次郎吉おじ様!」
「こんにちは、お邪魔します」
「「「こんにちはー!!」」」
「おぉ、園子も蘭君も、久しぶりじゃな!子供達も相変わらず元気じゃのう」
「こんにちは!」
「どうも。園子君から、あなたから私に相談がある、と聞いたのですが……」
「キッドキラーに毛利君も!良く来てくれた!……そう。実は名探偵として有名な君に、ある事を相談したくてな……だが、その前に……君達の後ろにいる青年は?」
「――初めまして、鈴木次郎吉さん。安室透といいます」
「おぉ、君がそうか!毛利君に弟子入りしているという……」
……そう。今回は何故か、降谷さん…じゃない。安室さんも同行していた。既に彼がついて来る事は、次郎吉さんにも連絡済みである。
安室さんは、あの鈴木財閥の相談役がおっちゃんに相談したい事があるというのだから、きっと大事に違いない。最近は同行もできていなかったため、久しぶりに毛利先生の仕事振りから多くの事を学びたい……という理由から同行を申し出た。
……というのが、建前。
本当の目的は、FBIの捜査官達が、任務中に何かやらかすのではないかと危惧し、万が一何かがあった場合はそれを阻止するため。……確かに、FBIには日本で勝手に捜査をしていたという前科があるからな。納得できる理由だ。
……しかし、実は他の理由もあるんじゃないか、と俺は考えている。彼はおっちゃんに話を通す前に、俺に同行したい事を伝えてきたのだが、その時……
「……荒垣さんには"あなたなら大丈夫だと信じている"と言った手前、彼らの仕事を見張るような真似はどうなのかと自分でも思うけど……"ゼロ"としては、念のために彼らを見張る必要がある。
……いや、別に荒垣さん達を心配してるとか力になりたいとかじゃないから…ってコナン君?何でそんな生暖かい目で見てくるんだ!?」
……と、言っていたからだ。……ハハ。素直じゃねーよなぁ、この大人……
多分、この人はあの日荒垣さんに無視された事も結構気にしてるんじゃないか?
……その後、俺達は応接間――さすがというか、無駄に豪華な部屋だ――に通された。
その際、まずは相談したい事から、という事でおっちゃんと安室さんは次郎吉さんと共に別の部屋へ。この時、少年探偵団の3人はその相談したい事の内容を気にしていたが、次郎吉さんが気をきかせて最近話題の新作のテレビゲームを用意していたため、すぐにそちらの方へ興味を示した。
では俺は、というと。素直に待つ事にした。今回は安室さんが話を聞いてくれるから、後でその内容を教えてくれるだろうし……それに、次郎吉さんの相談内容については、予想がついていた。
(きっと、ガルシア邸に送られた脅迫状についてだ)
だからこそ、大人しく待つ事にした。……そんな時。俺は園子と蘭が話している内容が気になった。
「……へぇー、じゃあ今日はそのソフィアちゃんが来るのね?」
「そうなの。あの子とは小さい頃に何回か遊んだ事があるだけで、それ以来は全然会ってないから……ソフィア、私の事覚えてるかしら……?」
"ソフィア"……アーロン・ガルシアの娘の名前だ。園子は過去に会っていたのか!
「ねぇ、園子姉ちゃん。そのソフィアって子はどんな子?」
「あら、ガキンチョ。興味あるの?まぁ、そうね。ソフィアは昔からかわいい子だったし、今はもっとかわいくなってるはずだわ。12歳だから、ガキンチョとは少し年の差があるけど……」
「いや、そんなんじゃないから……」
ったく、こいつは……すぐにそうゆう事と結び付けたがる……
それから、ソフィア・ガルシアについて聞いてみたところ、彼女は頭が良く、好奇心の強い子供だったらしい。園子と会話した中で分からない日本語があれば、すぐにその疑問を解決しようと質問してくるし、よく難しい内容の本を読んでいたり、たまに園子も分からない難しい言葉を使ってきたり……
「……そう考えると、あの子、ちょっとだけ子供の頃の新一君に似てるかも」
「え、新一に?」
「えぇ。……あ、でもあの子の方が素直で良い子だったわよ?お姉様、お姉様って私の後ろをついてくる姿は、本当にかわいかったわ……」
「あー……新一、小さい頃から生意気だったから……」
「そうよねー」
……悪かったな。素直じゃない生意気なガキで!
「すまん、遅くなってしまったな!」
と、その時。次郎吉さん達が帰って来た。
「あ、おじ様達。話は終わったの?」
「うむ。終わったぞ」
「どんな事を相談してたのー?」
「気になります」
「そうだそうだー」
「すまんな、子供達。君達に教える事はできない。これは大人の話なんじゃ」
その言葉に、一斉にブーイングを送る3人。次郎吉さんやおっちゃんがそれを宥めていて、見かねた蘭と園子も加勢する。
それを尻目に、俺は安室さんとこっそり会話をしていた。
「……安室さん、どうだった?」
「うん。……相談内容は、やっぱり例の脅迫状に関係する事だった。ガルシア氏とその娘が日本に滞在している時に何かがあったら、その解決に協力して欲しい、と言われたよ。どうやら次郎吉さんは、ガルシア氏から相談されていたらしい。今回の一件で誰か頼れる人はいないか、と」
「それで、小五郎のおじさんに相談を?」
「そのようだ。……それと、蘭さんや園子さん、それに子供達や君を呼んだ理由だけど……これに関しても、ガルシア氏から頼まれていたらしい」
「どうゆう事?」
「ガルシア氏は、娘のソフィアさんが今回の一件で不安になっているのではないかと心配して、それを和らげるために友人を作る機会を与えたい、と言っていたそうだ。それにどうも、ソフィアさんには友人があまりいないらしい。
園子さんは以前、ソフィアさんに会っているらしいし、その友人である蘭さんとも仲良くなれるはず、という考えから。
少年探偵団の3人は、その明るさでソフィアさんを元気にしてやって欲しい、という理由で。
そして君は……子供ながら大人顔負けの知識や頭の回転の早さがある点が、ソフィアさんと共通している事から、仲良くなれるのではないか、という考えから。それぞれ招待されたようだ」
「……何だか、凄く娘さん想いの良いお父さんって感じだね」
「あぁ。……それがどうも毛利さんの琴線に触れたみたいで、彼は快く引き受けていたよ」
「……そっか」
おっちゃん、蘭の事を凄く大事にしてるしな。その気持ちに共感したんだろう。
「それで、ガルシアさん達はいつ来るの?」
「予定ではそろそろ来るとの事だが……」
「失礼します。……アーロン・ガルシア様、ソフィア・ガルシア様がご到着されました」
応接間の扉が開き、次郎吉さんが雇っている使用人がそう言った。
「おぉ、来たか!では、出迎えるとするかの。君達も一緒に来てくれ」
そう言われた俺達は、次郎吉さんと共に使用人の先導でガルシア氏達の元へ向かった。
―――
――――――
―――――――――
向かった先にいたのは、金髪碧眼の中年男性に、金髪碧眼の少女。そして執事服を着た老人。それから……
(赤井さんだ!……ん?荒垣さんは?)
中年男性の後ろに赤井さんがいたが、荒垣さんがいない。その代わりに若い男性がいるが……って……
(……え?……えっ……!?)
ま、まさか……!?
「……コナン君!ちょっと……!」
その時、後ろから安室さんにこっそりと呼ばれたため、近づいてひそひそと話をする。
「……見たかい?あれ」
「……うん。女の子の後ろにいる若い男の人なら、見たけど……」
「…………僕の見間違いかな?その若い男が――荒垣さんに見えるんだが……」
「…………いや。見間違いじゃないと思うよ。僕にもそう見えるし……」
「…………」
「…………」
僕と安室さんは、揃ってもう一度荒垣さんを見た。
髪をオールバックにしていて、銀縁の眼鏡を掛けており、柔和に微笑む荒垣さんは――
(――何で、執事服を……!?)
何故か、執事になっていた。
「いや、何で……!?」
「一体何がどうしてそうなったんだ荒垣さん……!?」
驚き過ぎて大声が出そうになったが、安室さんと2人でどうにか耐えた。
だが、そんな俺達を他所に、次郎吉さんが彼らに声を掛けた。
「アーロン!ソフィア君!ブラッドも、一年振りだな!」
「久しぶりだね、次郎吉さん」
「お久しぶりです、次郎吉おじ様!」
「お元気そうで何よりです」
「なーに、まだまだ若いもんには負けていられんさ!……ところで、見知らぬ者達が2人いるようだが……?」
「あぁ。紹介するよ。……まず、私の後ろにいる人が、赤井秀一君。今回、我々の護衛をしてくれる人で……FBIで1番の実力を持つ捜査官なんだ」
「FBI……!?」
「FBIって、アメリカの……!?」
「そう。Federal Bureau of Investigation……アメリカの連邦捜査局に所属している人だ」
「……例の件が理由かの?」
「……あぁ。そうなんだ。私の知り合いのうちの1人が、FBIの上層部の人でね。その人に相談してみたところ、忙しかったにも関わらず、彼を護衛としてつけてくれたんだ」
「そうだったのか……いやしかし、その上層部の人間が推薦するくらいだ。余程腕のいい捜査官なのじゃろう。……赤井君、だったかな?私の友人とその娘の事を、よろしく頼むぞ」
「えぇ。彼らの事は、私が必ずお守りします」
「「「か、カッコいい……!!」」」
少年探偵団の3人が、キラキラとした目で赤井さんを見つめている。……確かに、堂々としている赤井さんはカッコいい。
「ちょっとちょっと、蘭!あの人超カッコいいわよ!?名前は日本人だけど目は緑色だし、ハーフかしら?……ちょっと、蘭?どうしたの?」
「え?……あ、あぁ、そうね。カッコいい人だよね……」
「……蘭、もしかして旦那がいながらあの人に惚れちゃった?」
「ち、違うわよ!というか新一は旦那じゃないし……」
「あら?私は新一君だとは一度も言ってないけど……?」
「なっ!?……もう、園子……!!」
……と、向こうでは蘭と園子が話している。……そういえば、蘭はアメリカで赤井さんと会った事があるんだったな。それを思い出していたのか?いや、そのはずだ!……惚れたわけではないはず!きっとそうだ!!
「……それで、もう1人は?執事の服装という事は、新しい執事を雇ったのか?」
「あぁ、実はそうなんだよ。元々、ソフィアが日本人の執事を欲しがっていてね。それで最近有能な執事を見つけたので、すぐに雇ったんだ。まだまだ若いが、執事としての技能はブラッドのお墨付きだ」
「ほう!ブラッドのお墨付きか!それはそれは……君、名前は?」
「――初めまして、鈴木次郎吉様。仲井信二郎と申します。現在は、ソフィアお嬢様の専属の執事を勤めております」
そう言って、ニッコリと微笑む荒垣さん……否、仲井信二郎さん。
…………
(――いや、あんた誰だよ!?)
普段の荒垣さんだったらそんな丁寧な言葉は使わないし、オールバックにだってしないし、眼鏡だって掛けないし、ニッコリとしたキラキラな笑顔なんて見せないし、そもそも名前違うし!!
……いや、待てよ?あの笑顔、どっかで……
「…………偽名、か。まさか、別人になって捜査を続ける気なのか?確かに、その方がFBIである事を悟られないだろうし、カモフラージュにはなるが……」
(――あ、なるほどこの人だ)
今は降谷零の顔でぶつぶつと呟いている安室さんが普段見せる笑顔と、仲井さんが見せた笑顔が重なった。
口調は別として、多分表情のベースは安室さんのそれだろう。
「彼は私の自慢の執事なんですよ、次郎吉おじ様!」
「おぉ、そうかそうか。良かったな、ソフィア君」
「はい!」
「そう言っていただけるとは……とても光栄です、ソフィアお嬢様」
「あら。ソフィーでいいと言っているじゃないですか、シンジ」
「い、いえ……そうゆうわけには……」
「私がそれでいいと言っているんですよ、シンジ」
「しかし、お仕えしている方を愛称で呼ぶなど、不敬にあたります……」
「……シンジ」
「うっ……も、申し訳ありません……」
「ソフィアお嬢様。そのあたりで許してやってください。まだまだ新参者なので、からかわれてもうまく対処できないのです」
「……もー……仕方ないわね……」
「……ほっ……」
……本当に……普段の飄々とした荒垣さんとは全く結び付かない立ち振舞いだ。さすがFBI捜査官。演技力もプロ級だな。……もしかして、赤井さんの沖矢昴としての演技力も、荒垣さんから教わったのか?
「んー……安室さんと似たタイプのイケメンかしら?結構若いわね」
「安室さんよりも少しだけ年下に見えるね……」
「そうね。20代半ばかしら?」
残念。その人の実年齢は四十路に近いんだ。……もっとも、仲井信二郎として設定している年齢は、結構若いのかもしれないけど。
あとで聞いてみよう。
その後。立ち話もなんだから、と先ほどの応接間まで戻る事になった。そこでいろいろと話をしていく中で、ソフィアさんと少年探偵団の3人と蘭は、園子を通じて仲良くなっていた。もちろん、俺も。
それから、赤井さんと俺と安室さんの関係について、話題が移った。
「……えっ!?ガキンチョと安室さんって、赤井さんと知り合いなの!?」
「うん。ある事件に巻き込まれた時に知り合ったんだ。……ね?安室さん」
「えぇ、まぁ非常に……非常に!不可抗力ではありますがね」
「おや。俺と知り合った事に不満があるようだな、安室君」
「大ありですよ!」
「それは残念だな。俺はボウヤと君にまた会えて嬉しかったが……」
「気色悪い事を言うな、黙れ!」
「あ、安室、さん……?」
「……珍しいな。安室がそんな態度を見せるなんて……」
安室さんの赤井さんへの態度を見た事がなかった面々は、その豹変に驚いていた。
「あ……す、すみません!つい……この男に関してはどうしても歯止めがきかなくなってしまって……」
「へぇ、そうなんですか……」
「相性、ってやつか……?」
「えぇ、まぁ……そんなところです」
「俺は嫌いではないがな」
「貴様には聞いていない!」
「あ、あははは……」
本当に、相変わらずだよなこの2人は……
一方、仲井さんはというと……
「……ほう……うまいな。さすが、ブラッドのお墨付きというだけはあるのう……」
「ありがとうございます」
「本当においしいわ、このアールグレイ……」
「あぁ。素晴らしいね。とてもおいしいよ」
「お嬢様、旦那様も、ありがとうございます。光栄です」
「…………ふむ。まぁ、及第点ですね」
「は、はい!精進します」
「あら、ブラッドは厳しいわね……」
「ははは。それでこそ、我が家の家令だ」
……すげぇ……全く違和感がない。完全に執事に成りきってる……!さすがの荒垣さんも、彼らと出会って数時間で執事に成りきれるはずがないし……もしかして、経験した事があったのか……?
……ちょうど、赤井さんが1人になっていたので、こっそりと荒垣さんが仲井さんになった経緯を聞いてみる事にした。
「赤井さん……荒垣さんに何があったの?」
「それは僕も聞きたいですね」
「安室さん」
同じ事が気になっていた安室さんも、赤井さんに聞きにきたようだ。
「…………実は、な……」
赤井さんによると……荒垣さんは、ガルシア氏の提案で執事になる事になったらしい。
最初は荒垣さんも断っていたようだが、ソフィアさんの日本人の執事が欲しいという願いを、3日間だけでも叶えてやりたいという、ガルシア氏の熱意に負けて、ああなったようだ。
幸いにも昔、短期間だけだが潜入捜査中に執事になっていた時期があったらしく、その作法に関しては、本当に執事のテイラーさんのお墨付きをもらえたのだという。……現役の執事のお墨付きって……すげぇな荒垣さん……
そんな荒垣さんは、最初は乗り気ではなかったらしいが……これはカモフラージュに使える、という考えが浮かび、今では真剣にやっているのだとか……
「それにしても……和哉さんの執事姿はとてもよく似合っている。素晴らしい。そうは思わないか?……いやしかし、むしろ俺の方が和哉さんの従者になりたい…」
「「あー、はいはい」」
赤井さんは相変わらず荒垣さん信者だ。こればっかりは変わりそうにない。
安室さんと顔を見合わせて、互いにやれやれと首を振った。
「あ……そういえば、次郎吉おじ様。ルパンはどこに?」
「「「――ルパン?」」」
現役警官3名――なお、1名を除いて職業を偽装している模様――がその名前に反応した。全員が訝しげな表情を見せている。
あー……そりゃあ思わず反応しちまうよな。あの大泥棒と同じ名前なんて。
「おぉ、そうだったな。ルパンも久々に会えれば喜ぶじゃろう。今連れて来るから、少し待っていてくれ」
そう言って、次郎吉さんが退出すると、すかさず近くにいた赤井さんと安室さんが俺に聞いてきた。
「ボウヤ、ルパンというのは……?」
「さすがにあの大泥棒ではない、とは分かっていますが……」
「ルパンっていうのは、次郎吉さんが飼っている犬の名前だよ」
「「犬?」」
声が揃った瞬間、安室さんが嫌そうな顔をした。
「……確か、次郎吉さんは怪盗キッドを目の敵にしているんだよね?……そんな人のペットの名前が、大泥棒の名前って……」
「あ、ははは……一応、ルパンは怪盗キッドを目の敵にする前から飼われていたはずだから……」
「……その後に名前を変えるわけにもいかない、か……」
2人揃って苦笑いをしている。多分、俺も同じ顔をしているのだろう。
と、その時。扉が開き、次郎吉さんと共にルパンが入ってきた。
「ワンッ!」
「うわ!……っはは、分かった!分かったから舐めるなって!久しぶりだな!」
「随分懐いているな……っと、俺もか?」
「っおっと。僕にもですか?人懐っこい子ですねぇ……」
俺の顔を一頻り舐めてから、赤井さんや安室さんの元へすり寄り、それからおっちゃん、蘭、園子、少年探偵団、ガルシア氏、テイラーさん……と1人ひとりに挨拶をしてから、最後にソフィアさんと仲井さんの元へ向かったのだが……そこで、異変が起きた。
「ワウ?…………ッ!ウゥゥゥ!!」
突然、ルパンがソフィアさんに向かって唸り始めた。
「えっ!?」
「こ、こら、ルパン!何をしているんじゃ!!こっちへ来い!」
「グルゥゥゥ!」
「っ、お嬢様!私の後ろへ!」
飼い主の次郎吉さんの言う事も聞かず、ずっと唸り続けている。
それを見た仲井さんは、ソフィアさんを自分の背後に隠した。
「ル、ルパン?どうしたの?……わ、私よ、ソフィア!」
「ガルゥゥゥ!」
「ひっ!!」
ソフィアさんが呼び掛けても、唸るのを止めない。……おかしい。ルパンはこんなに唸るような犬じゃなかったはず。それこそ、唸るのは敵に対してか、もしくは何か危険がある時ぐらいで……
(――逆に言えば、それほどの何かが今のソフィアさんにはある、という事か?)
まさか、とは思うが……誰かがソフィアさんに変装している、とか?
そんな事を考えていた、その時だった。
「……赤井様。お嬢様の事を頼めますか?」
「え、……あ、あぁ。了解」
いつもとは違う呼び方に戸惑ったのか、少し動揺を見せたが、赤井さんは仲井さんの言葉に応えて、ソフィアさんの側に移動した。
「では、お願いします」
それから仲井さんは、未だに唸り続けるルパンの前に立ち、口を開く。
「――ルパン、待て」
瞬間。ルパンは唸るのを止めて、仲井さんへと視線を移した。
「――座れ」
ルパンは素直に座った。……仲井さんから目を離さない。
「――良い子だ」
そう言って仲井さんが褒めると、ルパンはブンブンと尻尾を振って、喜びを露にしている。
その様子に全員が唖然としていると、仲井さんがソフィアさんの方へ振り向いた。
「ソフィアお嬢様。こちらへ」
「え、えぇ……」
赤井さんの後ろにいたソフィアさんが仲井さんに近づくと、再びルパンが唸る。しかし、
「待て」
仲井さんがそう言うと、ピタリと止まった。……すげぇ。
「お嬢様、手を……」
「は、はい」
ソフィアさんの手が、仲井さんの白手袋の上に添えられる。そしてそのまま、仲井さんがルパンの前で跪いた。……ちょうど、2人の手がルパンの鼻先にある。
すると、ルパンがその匂いを嗅ぐ仕草を見せて……
「ワウ?…………ワンッ!ワン!」
まるで、先ほどの様子が嘘だったかのように、ソフィアさんに懐き出した!
「わっ!……ルパン……ルパン!良かった……!!」
……この一連の流れは、まるで映画のワンシーンのようだった。今まで唖然としていた俺達はそれぞれ感嘆の声をあげる。
「おいおい……すげぇな、お前!若いのにあんな堂々とした様子で……!」
「
「素敵!カッコ良かったわ!!私も真さんにあんな事されてみたい……!」
「まるで映画みたい……!」
「いやぁ、お恥ずかしい……ありがとうございます……」
照れた様子を見せる仲井さんだが、先ほどルパンを制していた、あの堂々とした姿は、間違いなく普段の荒垣さんが出ていた。……今はそんな様子は全く見られない。とんだ演技派捜査官だ。
「いやー、素晴らしい躾じゃった!」
「いえ、そんな……むしろ申し訳ありませんでした。次郎吉様。あなた様の愛犬に対して失礼な事を……」
「いやいや、構わんよ!……それにしても仲井君。もしや、君も犬を飼っているのか?実に堂に入った躾じゃったが……」
「……いいえ。飼っていませんよ。ただ……」
「ただ?」
「――得意なんですよ。犬の躾」
そう言って、こっそりと横目で見た先には……
「……おい、言われているぞ狂犬」
「事実だ」
「……お前、それでいいのか……?」
ついには安室さんにまで心配され始めた赤井さんがいた。
「はっはっはっ!!頼もしい執事だな!……ん、おっと。もう昼時か。……アーロン。これから観光に行くのか?」
「あぁ。そのつもりだよ」
「そうか。……もし、ソフィア君や君にその気があるんじゃったら、東都水族館に行かないか?園子や蘭君に、毛利君。子供達4人も一緒にな」
「東都水族館……確か、鈴木財閥が新しく建設した水族館だったね。レジャー施設もあるという……」
「そうじゃ。……どうかの?」
「そう、だな……」
「お父様!私、行きたいです!」
「ソフィア?」
「新しいお友達と、一緒に遊びたいです!」
ソフィアさんの言葉に、子供達3人が同意し、園子と蘭も少し遠慮しつつそうしたいと伝えた。俺は、ソフィアさんの気持ちも分かるが、ガルシア氏の気持ちも分かる気がする。
ソフィアさんは多分、昔の俺と同じで周りから遠巻きにされていたんじゃないかと思う。有名人や金持ちの子供っていうのは、大体がそうなんじゃないかな。周りから嫉妬されるか、もしくは媚を売られるか。……さっき安室さんから聞いた話では、彼女の友人は少ないみたいだし。……それに、例の脅迫状の事もある。
彼女はその不安を、新しくできた友達と遊ぶ事で和らげたいのではないか?
それに対して。ガルシア氏は確かに、ソフィアさんに友人ができる事を望んでいたが……脅迫状の事もあるため、不特定多数の人がいるような場所にはあまり行きたくないというのが本音ではないだろうか?
彼女や、自分自身の安全を考えれば、得策ではない……そんな事を考えている気がする。
そこへ、仲井さんがガルシア氏の側に寄り、耳打ちをした。……するとガルシア氏は頷き、次郎吉さんに返答する。
「分かった。行こうか」
「おぉ、そうか!」
「ありがとうございます!お父様!」
ガルシア氏の言葉に、ソフィアさんや子供達は喜びの声を上げた。……一体、仲井さんはなんと言って説得したんだろうか。
「では、東都水族館に行く前に……うちで全員昼食を取っていきなさい!うちの料理人が作る料理はうまいぞ!」
……という事で、俺達は次郎吉さんの家で昼食を取る事になった。
次郎吉さんの案内で、おっちゃん達が部屋から出ていく中、俺、安室さん、赤井さん、仲井さんだけが部屋に残った。
「……執事服よく似合っているよ、仲井さん?」
「それはそれは……光栄ですよ、江戸川様」
「う……今はそれ止めて!凄く様になってるけど普段と違い過ぎて変な感じがする!!」
「っははは!いやー、悪い悪い。お前の反応が面白くてつい、な」
「もー……」
ようやく荒垣さんに戻ったので、先ほどガルシア氏になんと言ったのか、聞いてみた。
「あぁ……それはな。むしろ人が多い場所の方が、もしも脅迫状を送ってきた奴がいて、こちらに何かしようとしても、人目がある場所ではそう簡単に行動に移せないはずだ、って言ったんだ。それから、俺と秀一が責任を持って必ず守る、と伝えた」
「……なるほど。それで頷いてくれたんだ」
「あぁ。……秀一、悪かったな。勝手に護衛のやり方を決めちまって……」
「いえ。あなたは先ほど自分が決めて良いのかと聞いてきてくれましたから。問題ありませんよ」
「まぁ、そうだが……一応礼儀としてな」
「……ちょっと待ってください。あなた達、一体いつそんな事を話していたんです?ここに来てから会話らしい会話をしたのは、先ほど荒垣さんが赤井を呼び寄せてソフィアさんを守らせた時ぐらいじゃないですか」
確かに、安室さん……いや、降谷さんの言う通りだ。俺から見ても、彼らの間に会話らしい会話はなかったはず……
「なに、どうという事はない。目で会話しただけだ」
「「…………は?」」
「和哉さんが目で"俺が決めてもいいか"と伝えてきたから、"構いません"と返しただけだ」
「…………いやいやいや!?」
そんな事、できるのか!?そんなテレパシーみたいな事……
「複雑な会話は無理だが、意思表示をする事ぐらいは可能だ」
「……普通はそれさえも無理だって事は分かっているが……長年の付き合いのせいか、こいつとはそれができるんだよなぁ……何故か」
「これこそ師弟の……いや、飼い主と犬の絆だ」
「…………」
「……とりあえず、赤井。ドヤ顔するな。ムカつく」
…………うん。考えても無駄だな!
その後。俺達は今後の方針を軽く話し合い、それから応接間を出て次郎吉さん達と合流した。
「――それにしても、"ルパン"ねぇ……あの野郎、あの時少し怪我してたみたいだけど……大丈夫だったかな……まぁ、今も報道されまくってるし、大丈夫だったんだろう……」
……と、荒垣さんが呟いていた事を、俺は知らない。