Morfonicaは俺を巻き込むな 作:ねこちゃん
《二年前》
普通の中の普通。外見、能力、性格。全てにおいて平均という凡才。堂崎柊には過ぎたるものが二つあると言う。もちろん親父ではない。
一つは湊友希那と今井リサという可愛く、そして優秀な
そしてもう一つはこの穏やかで楽しく過ごせる仲間達。
友希那やリサの力になりたいと付き合いはじめたガールズバンドというものは、側から見てつまらない人生を送っていた柊にとってやりがいのある、そしてこんなにも心を豊かにする凄いものなのだと思っていた。
真剣な眼差しで歌う友希那。楽しそうにやるリサ。練習じゃなく本番のようにやる紗夜。激しく演奏するあこ。一生懸命で綺麗な演奏する燐子。
(よしっ!いける!!!)
彼女達の演奏を聞いて、俺はガールズバンドパーティ。通称ガルパ。女子の高校生達のバンドを集めて演奏の質を披露し合う大会。その大会に通用する事を確信する。
Roseliaは結成してそんなに経っているわけではないが、質の高い練習を積み重ね、今この演奏を聴いているファンの俺が贔屓目に見なくてもそう思えるのだから仕方ない。
「いい感じだな!みんな、そろそろ休憩にしよう!」
演奏終わり、俺の一声でみんなは各々休憩に入った。そこで俺は用意していた飲み物とタオルを全員に渡す。
「調子はどう?」
「ええ……まだまだ上へは目指せるけれど、最初の頃に比べればかなり上達したと思うわ」
そう自信に満ちた顔で言う湊友希那。友希那がここまで言うってことはどこに出ても恥ずかしくない。学生にしてはレベルが違う。前奏や歌い始めで圧倒できるかもしれない。
「やっぱり柊さんが来てからバンドがまた楽しくなったよね!お兄ちゃんって呼んでいい?」
テンション上がりまくりなこの子は宇田川あこちゃん。あんなに演奏したというのにこの疲れ知らずめ。元々俺はあこちゃんと燐子ちゃんとはネトゲのフレンドというやつだ。しかもリアルで会ったのは偶然に。
「それは俺が(社会的に)ヤバイし、(萌え)死ぬからやめようね!」
「ええぇーー!」
そんな残念そうに叫んでも無駄だ。というか呼ばせたいのは山々だけどそんなことしたらRoseliaだけでなく、お姉さんからも怒られてしまう。まだ会ったことはないが。
「ふふっ…」
その光景を見ながら微笑ましく笑っているのは白金燐子ちゃん。この2人とは趣味が合っているのですぐに仲良くなれた。
「そういえば燐子ちゃん、俺の想像以上にピアノが上手かったね。勿論素人感想だけど」
あははと笑いながら感想を伝えてみる。前々から練習をしていたが、ちゃんと感想を伝えるのを忘れていた。何様だよってなるけどそのために自分がいるんだ、ちゃんと感想欲しいとと釘を刺されていたので要望通り職務を果たす。
忘れていた辺り、堂崎柊の本来の性格の適当さが出ているが。
「ほ、本当ですか!……柊さんにそう言って貰えると……嬉しいです」
親友が喋っているというのに、ねえーあこはー?と少しやかましい。はいはい勿論上手いですよ。実際生演奏の聞き比べなんて経験が無いので分からないが、曲として出来上がってるなら上手いのではないだろうか。一つがズレているならかなり不協和音になりかねない。多分。
「だから自信を持って、燐子ちゃん。ゲームだって俺より上手いんだからさ」
「ありがとう……ございます」
Roseliaはプロ並みの演奏をしていることから、たまに燐子ちゃんは自信を無くすことがある。俺の人を褒めるセンスの無さをここで活かす時が来る。
「堂崎さん。少しいいかしら」
ネトゲっ子どもの相手をしていたら、横から声をかけられた。
「氷川さん、どうしたの?」
氷川紗夜さん。Roseliaの中で唯一面識がなく、真面目すぎるその性格から自分とは住む世界が違う。とまでは言わないが俺みたいな熱くない男に合わない程、ギターに熱血を注ぐ少女だった。
「どうしたの?じゃないでしょ!私が何回もギターの練習に誘っているじゃない!なのに今日、イベントクエストあるからパスじゃないわよ!」
そう。彼女を知らない人は勘違いしないで欲しいのだが、本当はもっと冷静で落ち着いた綺麗な人なのだ。少なくとも俺が初めて出会った時に抱いた印象はそれだ。
彼女がしているのは数日前の話だろう。氷川さん曰く、俺にはギターの才能があるとかなんとか……。いやいや昔カッコつけてギター買ったけどさ。2日でやめた俺に何ができるって言うんだ。むしろその話をしてどこに才能を感じたんだ。
「い、いやほらさ。その日はたまたま
氷川さんは俺がRoseliaに来る時に、俺をギターで試した。今まで遊び感覚のバンドばかりでプロ気質の氷川さんには合わなかったらしい。そこで俺は成る程、こりゃ友希那と合うわけだと思って気楽でいたら目の前で弾けと。確かに、実力のない人に指導はされたくないだろうけど俺は
(終わった…)
筆記だけで合格出来る試験にいきなり本番当日、実技もありますと言われた気分だった。公開処刑会場はここですか?ほら友希那とリサは苦笑いだけどあこちゃんと燐子ちゃんめっちゃ期待してるやん。目キラッキラやん。
そうして俺はボロッボロの演奏を披露した。やめて、気を使わないでくれごめんなさい。練習してなかったんです。テキトーに弾いてオーディションに合格するなんてそんな人いるわけないだろ。いないって。
(こりゃ不合格だな……)
その時、偶々氷川さんの耳は調子悪かったのだろう。下手だけど才能はあると言う、小学生が落ち込んでる時にかける言葉みたいなこと言われた。ダイヤの原石とか磨けば光るとか……やりたくないとは一言も言えなかった。
それから氷川さんは時間がある時に携帯によくメッセージをくれるようになった。ごめん今日は左足擦り剥いたから出来ないとか返していたが、最近流石にバレた。本当はそれで騙されちゃう氷川さんが可愛かったのだが。
「紗夜〜柊の事ナンパしてるの〜?」
「い、今井さん!違います!私は堂崎さんに、ギターを知って欲しくて!」
氷川さんがあまりにも俺にしつこいのでリサがよくイジりに来る。助かりはするが、フォローするのは俺なんだぞ。
「でもダメだよ!柊はアタシのモノだからね〜」
そう言ってウィンクをしてくるリサ。は?って言いたくなるが俺含め、お姉さん気質の彼女にそんなこと言われてしまうと、照れることしができない。悲しい男の運命。
「ちょっ……堂崎さん!」
俺関係無いし。というように俺は上を見る。ていうかみんな休んで?
(あぁー、今日の夕飯どうしよう。リサにでも作ってもらおうかな〜)
ボーッとしてるとやんややんやと音楽娘っこが騒いでいるが耳を通り過ぎていく。ふと友希那を見ると落ち着いていた。もう慣れたと思っているのか余裕だった。友希那を見ていると、彼女に誘われた時を思い出す。
友希那やリサがやれ音楽やれバンドとゴリ押ししなければ、俺は引きこもってゲームや読書をする人間だったのだ。
知識はないし、腕があるわけでもない。なんなら才能すらない凡才だった。
それでもRoseliaはこんな俺を、外見は一見不良で凡才な俺を受け入れてくれた。幼馴染を遠くから見ているだけの自分を連れてきてくれて居場所をくれたのだ。
「ありがとな、みんな」
ボソって呟いて今日という日常が流れていく。
この幸せがずーっと続きますように。