Morfonicaは俺を巻き込むな 作:ねこちゃん
貧困家庭で家族のために必死に働く大学生。上司の月島まりなに毎日シゴかれている。
裏の日常_____ソレは突然やってくる。
バンドの練習の終わり、いつもなら日が沈むまではやるけれど今日はみんなの予定が合わず、紗夜は生徒会。あこと燐子は用事があっていないので、この場にいるのは俺と友希那とリサの三人。
(あれから大分上達したよな……)
ガールズバンドパーティまであとわずか。柊はRoseliaというバンドは自分の中で最強。とそこまで思うぐらいには盛り上がりを期待していた。至ってシンプルな感想だが、意外とシンプルな物程良かったりする。
(ワクワクしてきた……!)
そして俺は目の前にRoseliaのポスターが貼ってあるのに気づき、眺めていた。CiRCLEというライブハウスに、こう身近な人達が映っているのは感慨深いものがある。近くにはスタッフの月島まりなさんがカウンターで何らかの作業をしており、最近入ってきたという新人スタッフが掃除をしていた。
新しく来たスタッフさんとは面識は無く、いつも仕事熱心で帽子を深く被った外見をしている。俺がRoseliaのポスターを見続けている事が気になったのか話しかけてきた。
「君、いつも来ている高校生だよね。ガールズバンド好きなの?」
「はい、好きですよ」
「へぇ〜やっぱり君もガールズバンド好きなんだね。今の流行だもんねー」
俺と新人スタッフさんが世間話をしているとまりなさんもこちらに気づきこちらにやって来た。
「Roselia、サポーターの柊くんイチオシだもんねー!あと
「あ、はい!すみません!」
まりなさんが急かすと、焦ったように新人スタッフさんは仕事に戻った。
俺は俺で自分の仕事をやることにした。
「楽器の調整……良し。ステージもさっき確認しておいたし……このぐらいかな。ん?」
知識のない俺はネットで得た情報を頼りに裏方の仕事をこなしていた。そこで視線に気づき、横を見ると合わせ終わった友希那とリサが何やら小さな袋を持って来ていた。
「柊、ちょっといいかしら」
「友希那、リサ。お疲れ様」
「おつかれ〜。ちょっと今日はプレゼントがあるんだ〜」
心なしか笑顔な友希那と背中に腕を隠しながら何かを持っているリサが来た。
「ドッキリなら嫌だよ」
「違うって!日頃の感謝のお礼。ね、友希那」
よく言うよ。この前プレゼントとか言って渡してきたのビリビリグッズじゃないか。リサとあこちゃんのイタズラだったけど。素直に喜べなくなったからやめて欲しい。
そして取り出したのはRoseliaの文字の書かれている青い薔薇の絵のリストバンド。
「これは世界に6つしかないRoseliaのリストバンド。この6人で頂点へ向かったという証。アナタにも貰って欲しい」
「ありがとう……友希那。ずっと大事にするよ」
「あれー?何かアタシと反応違くない?」
「リサはこの前のプレゼントの記憶を思い出した方がいいよ。それでもありがとう、仲間って感じがするよ。大事にする」
「……そうね。柊、もっと自分を大事にした方がいいわ」
「え……何言ってんだよ。俺は__________」
俺は_____裏切り者。
意識は表へと戻る。
「ハッ!?はぁ……はぁ……」
昨日作ったばかりの簡易ベッドから目覚めると、熱い動悸が激しい。開放感のあるアトリエには窓がたくさん付いており、そこから暖かい日の光が差し込んでは照らしていた。そうだ、俺は昨日からこのアトリエに住み始めたんだ。
(過去という観たくもない夢を見たな……)
首を横に向けてアトリエ全体を見渡す。ふにっと柔らかいモノに触れたと思ったら横で寝ている七深の身体だった。七深を起こさないように俺は身支度を整える……起こさないように……?
「ううおわあああぁぁぁぁ!!?」
「んぅ……どうしたの?しゅーくん……」
「なんでここにいんだよっ!!!!!」
この広町家のアトリエは実際の家とは少し離れた場所に存在する。俺はアトリエに必要最低限の荷物を置いて住まわせてもらっているが、七深は自分の家に自分の部屋があるはずだ。
「しゅーくんが寂しくて眠れないかなーって」
「頼んでない」
「それに婚約者ならこれが普通だと思って」
「普通じゃない……はぁ」
七深がどうして俺に入れ込むのかがわからない。弦巻としても広町と関係はなかったはずだ。親父がなにかしてたらわからないけど……。
「俺はそんな褒められた人間じゃない。七深は何か勘違いをしているよ」
「そうかなぁ。自分を犠牲に妹を守るなんてそうそう出来ないよ」
「……それを勘違いって言うんだよ、どこで聞いたのか知らないけどさ」
俺は自分の力の無さを見せた様なもの。非情な現実では、楽しんだ者勝ちなんだってな。まさかそれを証明する人間がいたなんて思いも寄らなかったのだが。
広町七深は俺の長所だけを知ってるだけなんじゃないか。お見合いした時に嘘プロフィールに釣られて実際に会ったらアトリエに住み着く人間のクズですどうもありがとうございました。みたいになってしまう事が本当に不安で仕方がない。
「だからだな俺は……やべ、そろそろ時間だ。ほら、さっさと学校行くぞ。練習するんだろ」
「あ、うん。今日は一緒にお弁当食べようね」
そうして制服に着替え始める。なんだかもう七深が俺のことを色々と覚えてしまったのが同棲を強調しているようで恥ずかしい。
七深が俺のネクタイを慣れない手つきで結んでくれる。俺が自分の身なりを大事な場以外で整えない事すらわかっている。
(ペットというか……そんな扱い?)
よく広町の家族は俺を受け入れたものだ……と初めてこの話を聞いてから今でも不思議に思っている。
☆♪
「なあなあ見てくれよしゅう!あたしのギター。クールだろ!」
七深と登校すると、俺を発見した有名人。桐ヶ谷透子は両手で黒のギターを抱えながら突っ込んで来た。月ノ森のお嬢様方って怖い、欲しいと思ったなら楽器ぐらい、ぽんって買える。おにぎりかサンドウィッチを悩むぐらいの感覚。
「俺はそのギターがお前の物になる前から見てるから知ってるって」
大体昨日見せてきただろ。SNSでも投稿してたし。
SNSは俺は苦手なのであまりやらないが無理やり透子に登録されたのでニュースをチェックがてら開くと、こいつのトークがうるさい。
だがそれと同時にたくさんのコメントや高評価が付いている辺り、人気者なんだなぁと実感が出てくる。
「そんな事言わずにもっと見ろって!ほらほら!」
ギターを俺の前に見せつけるせいで顔が近い。透子は本当に一つ一つに喜怒哀楽を感じるから見ていて飽きない。
「あの……見るのは顔じゃなくてギターだって!」
「ああ、ごめんつい見惚れちゃって」
「えっ!?」
「お前のその可愛い顔にな!あーっはっはっは!」
「……ッ!しゅうのバカァァァア!!!」
やっちまった。頭を少し掻きながら失敗したと思考する。ああやってイジっていたのは丸山彩だけだった。
(なんでこう俺って資格もないくせに人試す様な真似しちゃうかな)
このノリが無意識に出てきちゃうって、信用できる奴だって頭では分かっていても心のどこかでは信じられてないのかな……透子も七深もつくしも倉田さんも。どこか無理をしている俺に気を使っているだけだ。
(きっとこのままじゃ下らない事に巻き込んじゃうかもな……そうなる前に)
「こらっ!今暗い事考えてたでしょー。広町の目はごまかせないよ〜?」
「……どうしてそう思った?」
広町七深。俺は段々彼女が怖くなってきた。今のやりとりを見て?少しの間で?おっとりとしていて実は自分の全てを見透かされてるかもしれない。
「そのチャラい喋り方した後って少し思い詰めてる顔してる。今日は少しそれが長かった」
「……七深ってメンタリズムの天才だったりする?」
「えっ!?いやーこれぐらい普通だよ!普通!」
「確かに広町の言ってることわかる気する。しゅうって初めて会った時から無理に明るくしてたってか、うーん」
調子を整えて帰ってきた透子が俺の不自然さについて言及する。七深を含めて俺の席に集まってきた。ギターはしまったらしい。自慢したかっただけなのか。
「ズレているって言いたいのか?」
「ッ!?」
「そう!それ、多分八潮なら『動物が身を守る防衛本能ね』みたいな事言いそう」
うげーと明らかに嫌そうな顔する透子。苦手なのか。
「八潮って誰?」
「八潮瑠唯。容姿端麗、学業優秀、スポーツ万能。その上、中等部の頃から生徒会のメンバーなんだよね」
「へぇー、女性版の俺じゃん」
「そういうのいいから」
「すいません」
七深の解説に茶々を入れるとさっきの事を思い出したのか透子に怒られてしまった。
「しゅうには縁のない女性だよなぁ〜ぷふっ」
俺は所詮、頂点には立たない人間だと言いたいのかコラ。てめーギターぶっ壊すぞ。次の日には何事も無かったかのように戻ってきそうだけど。
「まぁまぁ、本人に直接そんな事言ったらかわいそうだよ」
「あの七深さん、それが地味に一番傷つくっス……」
クラスメイト達は俺をからかう事に特化されているのか。助けてくれつくし。こういうのはお前の役目だろう。もちろん学級委員長的な意味ではない。
こんな友人達と今日も一日授業を受けていく……。
退屈だ……退屈過ぎる……。流石に3年が1年の授業受けるとか辛すぎ……。もう……眠い……飯になったら起こしてくれ透子……。
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裏の日常は進み始める……。
今でも明確に思い出せる……ソノ記憶。アレは俺の初恋の人が死んだ後から始まった。今でも終わったのかすらわからない。ただ一つ言えるのは俺とRoseliaは一瞬にして関係を断たれた。
俺はライブの支度をするために友希那達と別れた。自分には関係のない裏方の仕事もあったが、いい経験にはなるだろうと引き受けていった。やっぱりガールズバンドは人気になっていく、それ程までに魅力的なんだと俺は何故か自分が嬉しくなる。
そんな日の暗い帰り道。突如誰かに俺は後ろから首を絞められる。いや絞められた事に気づくのに時間がかかった。なんで?どうして?俺はひたすら脳に疑問を浮かばせていった。だからどうなるってわけでもないのだが。
「なーんだ。君、Roseliaがいないとなぁーんにも出来ないじゃないか」
(やめてくれ……)
「Roseliaの皆、可愛いよね〜〜君が入れ込むのもわかるよ……大事ならわかるよね?弦巻くんさぁ、彼女達の前から消えてよ。ね?」
(どうせハッタリだろ……Roseliaの事を信じる!)
こんな時に思いつくのは……俺の祖父は俺が嫌いということ。
あの人は……俺を消すために力と権力を振るう人だった。
《堂崎ってアレだろ?弦巻の権力で自分に不都合な事を隠蔽してるらしいぜ》
《マジで?うっわ〜確かに根暗っぽいって思ってたけどやっぱそういうやつなんだ》
(そんな事していない!!!)
酸素が薄れて意識が遠のく。弦巻の広めた嘘が、噂が、現実を隠して覆う。
それはこの世の中も俺の頭の中も同じで結局は理不尽という感情だけが残る。
「アハハッ!そういえば妹のこころちゃん、お兄さんの事心配してたよー。最近家に帰ってないらしいじゃない」
(!?こころに手を出すな!)
《妹の弦巻こころさんはあんなにも優秀なのに……》
《こころちゃんって可愛いよな……一緒に居て心休まるってか。兄貴は正反対だけど》
(黙れッ……!!)
「勿論、しばらく身を隠してくれるよね。得意分野だもんねぇ君の。い〜〜っつも現実から逃げてる」
《巻き込まれるこっちの身にもなれっての不良貴族が》
《やはり
(…………………)
「沈黙は肯定と見なすよ。じゃあね、
その言葉と共に俺は崩れてしまった。物理的も精神的にも……。誰かもわからない人は消えていった。
広めた訳でもないのに事実無根の噂が不自然に自分の周りを駆け抜けていく。人殺しなんかしてない。見捨てたのは俺じゃない……。
何をどうすればいいのかわからない……。
長考の末に俺はその日からRoseliaではなくなった。正確には身を隠すことにした。それにこの世の中はイメージが大事だ。俺がやらかして問題起こすのはまだいい。一番駄目なのはそれでRoseliaに迷惑が掛かることだ。イメージが悪くなってしまったら俺は生きていけないかもしれない……。
こんな事して得があるのはただ一人。あのジジイ……!
(情けない……情けない……情けないッ!!!)
過去を捨てず、引きずられないで先へ進める前向きな人間が羨ましい。
「……もっと立派な人間になってやる」
ボソッと決意を呟いた。その声は俺にしか聞こえない、俺を肯定するための自己暗示だった。
弦巻終とは……堂崎柊の本名で、醜い部分の自分。外では堂崎柊という仮面をつけて生活している。