Morfonicaは俺を巻き込むな 作:ねこちゃん
「え!?じゃあ今の人が八潮瑠唯なのか!?」
結局あの後チャイムが鳴って下校時間になったからか、それとも生徒会の仕事なのか知らないけど、話の最中だろうが時間通りに離れて行ってしまった。ロボットかな。結果俺だけが意味もなく目立ったしまったんだけど。どうしてくれるの八潮。
「うん、どうして柊くんの所に来たんだろうね」
「待っていた、とかなんとか言ってなかった?」
「お前らは関係ないの?」
俺達は先程起こった出来事を話し合い、つくしの借りたという教室へ向かっている。無駄に広いな……月ノ森。
「ないよ!それに私、八潮さんに初めてちゃんと会ったから…」
「それにしゅーくんの事、知ってそうだったけど」
「知らない知らない。あんな綺麗な人忘れないって」
本当に堂崎柊は知らない。まさか回想したほとんどが現実であったことを。
「だろうね……」
「胸………おっきいもんね」
そこは関係ないです。ああ!そんな目しないで帰ってきてー!呆れないでください、そういうお年頃なんです。
「ま、まあ八潮瑠唯については追々考えるとして、今日は空き教室に行こうか」
「その必要は無いわ」
気持ちを切り替えようとした次の瞬間。当の本人、八潮瑠唯が登場した。テストの結果の貼り出された時といい、俺に話があるのは間違いない。そこで俺は追々考えるとは言ったが、せっかくなので向こうの提案に乗ることにした。
「少し時間を貰ってもいい?」
「わかった。ちょっと行ってくる……場所を変えようか」
そうして俺は八潮と庭園に向かう。
「いってら〜」
「八潮さん、やっぱり堂崎君のこと何か知ってるのかな」
「さあ……」
「ほら!私達は練習しましょう!」
場所は移動して庭園、目的地に辿り着く前までに余計な会話はひとつもなかった。時間はそろそろ日が落ちてきそうだ。話とは一体なんだろうか……。いいところまで来た……そして俺らは対峙する。
「八潮……瑠唯。キミは何者だ」
「貴方……その変な格好に喋り方は誰に影響されたの」
今の柊の見た目は染められた黒髪と流通していない学ランのボタンを閉める事無く開けている。褒められた格好じゃない。
「そんなことは今はいい。俺のことを知っているって事でいいのかね。本当に申し訳ないが俺はアンタの事を
「……なら
「……もう誰も俺の事を教えてくれないんだ。誰も知らない」
演じてる事はある。でも昔を思い出そうすればするほど吐き気がする。まるで胃と心が繋がっているかようだ。
「でもこれでいいんだ。これなら日常を送れる!もう弦巻を気にすることも無い!!!」
「呆れた……言い訳をするにしてももっとマシな事言うと思ってた。そんなの昔の貴方なら当然のように笑って乗り越えたわ」
「弦巻なんて……昔なんて……八潮が望む俺なんてどこにもいない」
「…………」
八潮は喋らない、俺も喋れない。話すことがないから、弦巻終はトラウマを抱えているから。そんなの……格好悪くて普通じゃないから。
家からも愛されてないなんて知られたら友達出来ないし、外ではいっつも仮面を被って、足掻いて……生きて。ずっと辛かった。
「…………取引しましょう、堂崎柊」
「だから、君の望むことなんて出来ないって」
「私は弦巻終じゃなくて堂崎柊に話しかけているのだけど」
「…………」
分からない。八潮の伝えたい事がさっぱり分からない。それに今の情報量じゃあ八潮瑠唯という人間について詳しく分からない。
「私は貴方が過去と向きあえる協力をする。その代わり貴方は私の手助けをしてくれるだけでいい」
「お前にメリットがないだろ。なんでこんな事するんだ」
「そうね……罪滅ぼし、かしら」
「は?」
「なんでもないわ。つまらない事言ったわね」
独り言のように呟いた八潮は、少し悲しげな顔をしていた。俺の見間違いじゃ無ければの話だが。
「それで、やるの?やらないの?」
「……出来る限りの協力ならやろう」
「わかったわ。これで私達は今日から協力関係ね」
八潮瑠唯。てっきりよくもテスト1位で私の上取りやがったな表出ろやと言われるかと思ったけど、大丈夫だったようだ。
「八潮っていいヤツなんだな。マジ天国へ行けるよ〜」
「それはどういう意味?」
「俺の月ノ森で初めて出会った人の真似さ。ちょっと似てなかったかな」
「それをする意味は?」
「えっ!?だってほら面白いだろ?」
「貴方ってギャグの才能ないのね……」
「はぁ!?お前にその面で『可哀想な子……つまらないのに気づかないのね……」って顔されるのすげー腹立つ!」
俺が笑いながらキレかけていると、はいはい無視無視って感じで八潮が俺の手に一つの紙切れを渡してきた。
「……何これ」
「私の電話番号とメッセージアプリのID。これで貴方に手伝って欲しい事を伝えていくわ」
え、八潮は俺がこの提案を受ける前提でこの紙を用意してたってコト!?そう思うとめちゃくちゃ可愛いんですけど!
「わかった、俺も夜寂しくなったらかける」
「やめて」
俺は八潮の話が終わったと思い、背を向けるそこでまた肩を掴まれた。クソっ!つくしなら身長が足りないから肩を掴めないのに!
「まだ話は終わっていないわ」
「後何かあるのか?」
「貴方に送る最初の依頼。広町七深の友人になりなさい」
普通に考えたら婚約者→友人という元カノ的なグレートダウンだ。しかし俺はこの依頼に妙な納得感を覚えた。そりゃそうだ、普通を知らない人に普通に考えたら、なんて通用する訳がない。
「今から話すことは広町さんの過去。広町七深は昔、あらゆる物、あらゆる技術で天才な才能を持っていた。今とは違うわね。誰よりも特別な存在だった」
「…………続けて」
「けれど非凡な才能を持った広町七深はいつの頃からか普通になってしまった」
「また普通か……」
「成長とともに平凡な能力に落ち着く人もいる。貴方はその逆ね。いやそれとももっと違う才能か」
「俺の事はいいから、詳しく聞かせてくれ」
「広町さんは普通のフリをしているだけ。彼女は本当の自分を知られるのが怖いのよ。貴方と一緒ね。違うとすれば貴方は普通のフリなんて全くしていないけれど」
「俺は道化師ですよーすみませんでしたぁー」
「このままだと彼女は絶対ボロを出すわ。優秀でありたい人間が優秀過ぎると嫌われるなんて皮肉な話よね」
「だから私には尚更理解できないのよ。才能を磨くこの月ノ森で自分の才能を隠す必要なんてないでしょう」
「でもそうしないと生きられないならそうするだろう。本人しか分からない悩みに勝手に首を突っ込んでいいものなのか」
「そうね……私には分からない。それは私が普通とか普通じゃないとかそういう問題ではなくて、根本的な部分が違うのよ。だからこそ貴方なら分かる」
「……あとで俺の頼みもちゃんと聞けよ」
「答えは肯定でいいのね」
「この問題は俺が解決してやる。八潮瑠唯、これからも頼むぞ」
「瑠唯でいいわ、遠慮の無い関係でいきたいの」
「年上なのに八潮さん、って言ったらそれこそ隠しすぎよ」
「瑠唯ね……了解。じゃあまた今度」
広町七深の情報を手に入れた。この話は本当なのだろうか……瑠唯の奴が嘘をつくタイプだとは思えないが、自分の目で確かめてみよう。
「普通だって……笑っちゃうよな。そんなのアイツらにとってはどうでもいいのに」
それが七深の悩みの種なら解決してやろう。俺なら……いやこれは俺しか出来ない依頼。瑠唯と別れて空き教室へ戻った……。
☆♪
「うぃー、戻ったぞー。どういう状況?」
「あ、堂崎君。おかえり。今は透子ちゃんがスタジオ借りたいって言ったんだけど、それは無理だって二葉さんが言った所だよ」
俺は瑠唯の言ったことをずっと考えていた。瑠唯は唯一、俺と七深の本当の姿を知っている。その瑠唯が俺に頼んだのだ。つまりこの問題は並大抵の人間じゃ解決出来ませんよってことだ。
「お前……透子、そりゃ無理だって。ガールズバンドの人気知らないのか?」
「えー!でもやりたくね!あの設備、あの響く環境!」
「やっぱりガールズバンドブームのせいだよね」
「楽器背負ってる高校生、街でよく見るもんねー。放課後の時間はスタジオの取り合いってことかぁ」
「あ、そうだ。バンドをやるからには何か目標を決めない?」
「目標ね。あった方がいいんじゃないか。モチベーションを保てる一つの工夫だな」
間違いではない。ただ最初から高い目標を設定してはいけない。簡単なやつからクリアしてって自信を付けていくのだ。そう難しい目標を設定するわけ_____。
「じゃあ目標は10000人ライブだな!」
「透子ぉぉぉぉぉぉ!!!お前何してくれてんだぁぁぁぁぁ!!ギターぶっ壊すぞコラぁぁぁぁ!!」
「なんでえ!?」
「10000人ライブかぁ……とりあえずそれにする?」
「……………」
「どうしたの?柊くん、広町さんの顔に何かついてるの?」
「いや、何も」
「なんでだよ!広町も同じこと言ったんだからベース壊せよぉー!あたししゅうにギター壊されたくないって!」
「はいはーいありがとうございまーす。じゃあ当面の目標は月ノ森の音楽祭ね」
「聞けよ!!!」
「月ノ森音楽祭……!いいね!私もそれがいいと思う!」
俺はある程度つくしに目標を伝えたら、つくしは七深と一緒に倉田さんに月ノ森音楽祭について教えている。透子と会話しながら七深を深く観察する。分かるのは今日も可愛いところか。ってそれ関係ないやないかーい!!!
「しゅうー!しゅうくーん?もしもーし!」
「ギターなんて壊れたって俺規模で考えたらミクロンミクロン!」
「マネするなぁぁぁぁああ!!!」
本当この桐ヶ谷透子は騒がしい。一緒にいて飽きないやつではあるんだが、雑な所も目立つ。もし本当に桐ヶ谷透子の銅像が学園に建ったらイタズラしてやろう。そうしよう。例えば銅像と透子の身体の感度が連動するとか。うわめっちゃ楽しそう。
「わ、私もいいと思うなー!音楽祭!いい目標だね〜!」
「でも、それすごい人ばかりばっかり出るんじゃ…」
どうやら話は少し進んだようだ。10000人ライブとか全く、透子は仕方ないやつだな。家は呉服屋らしいし、今度服について付き合ってもらおう。
「当然でしょ。なんたって月ノ森のイベントだもん」
「まあみんなは負けないさ。誰にも引けを取らないと思う」
「そ、そんなうまくいくかな……」
「練習さえすればね」
俺は練習を見てはいるが、頭の中では七深との関係を変える策をひたすら考えていた………。