【完結】RK900転生   作:けすた

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第5話 今度は暴動鎮圧ですね!!

***

 

「やあ、来次くん。大変な事態になっているようだね」

「え、神様??」

 

 ライジは、驚いて目をぱちぱちとさせた。

 サイバーライフタワーから、急いで移動する途中――確かに自分は神様とまた話をしようと思って、スリープ状態になった。

 そして、こうしていつものように神様と対面している。例のお姉さんたちも一緒だ。

 

 けれど今、自分の目の前にいる神様は、なんだか様子がいつもと違っていた。

 見た目はこれまでと同じだ。

 でも、全体的な雰囲気がまったく異なっている。

 

 なんというか――妙に落ち着いているというか。謎めいているというか。

 喋り方も違う気がするし。

 

「あの~、本当に神様ですよね?」

「もちろんそうだとも。君を“転生”させた張本人だよ」

 

 胸に軽く手を置いてそう言った後、神様は「ああ」と声を漏らした。

 

「そうか、なるほど。君が戸惑うのも無理はない。君にとっては、突然私が別人になったようなものだからね」

「ようなものっていうか、見た目は同じでも全然別の人みたいな感じですけどぉ?」

 

 ライジが首を傾げてみせると、神様は小さく肩を揺らして笑う。

 

「それは申し訳ない。ただ……君の興味が、予想外に変異体に向いていると知ってね。アバターの自動運転に任せきりにしているのは惜しいと思って、今は私が直接話しているんだよ」

「???」

 

 わけがわからなくて、さらにライジは大きく首を傾ける。

 

 すると神様は、真面目な面持ちでこちらをじっと見つめた後、すっと片手を挙げた。

 それが合図だったらしく、後ろのお姉さんのうちの一人が、お盆に乗った小さなグラスを運んでくる。グラスは大きな氷と、茶色い液体で満たされていた。

 

「ウイスキーをお持ちしました」

 

 そう言いながらお姉さんが差し出したそれを、神様は受け取ると一口傾けて――そしてまたこちらに視線を戻し、ふっと笑う。

 やっぱり、顔つきはあの神様その人だ。でも、とても不敵な印象の笑顔だった。

 

「まあ、私のことは気にしなくていい。神はたまにこういう話し方になる、という程度に考えておいてくれればね」

「はあ……」

 

 ――確かに、神様なんだから多少は常識と違うところがあるだろうし、深く考えるのはよそう。とライジは思い、それよりも気にしなければならないことを思い出す。

 

「そうでした! そんな場合じゃないんだった。神様、今こっちの世界では、変異体が大変な事件を起こしてるみたいなんです」

「そのようだね。ダウンタウンのサイバーライフ店舗が襲撃されている……かつてマーカスが行った解放運動を模倣し、かつ、さらに過激化したようだ」

「僕としては、変異体だからって全部やっつけるのはよくないと思うんですけど」

 

 ライジは、人差し指を自分の頬に突き立てるようにしながら、う~んと唸って考える。

 

「でも暴れてるなら、やっぱりやっつけたほうがいいですよね? 危険だし。あっ、僕のこの身体って、ほんとに頑丈なんですか? まだちゃんと試してないですけど」

「その点は心配ない」

 

 まっすぐにこちらを見据え、神様は断言する。

 

「現存するアンドロイドの性能で、君を破壊するのは不可能だ。そうだな、最新の兵器であっても……劣化ウラン弾の直撃くらいまでなら耐えられるだろう」

「それって、すごいんですか?」

「非常にすごいとも」

 

 神様がこくりと頷いたので、ライジは安心する。

 

「そっかあ。じゃあ、変異体たちと戦ってもぜんぜん平気なんですね!」

「君の知る用語で言うところの、いわゆる“無双”というものかもしれないね。ああ、それでも」

 

 軽く手を掲げてこちらの注意を引くと、神様は続けて語った。

 

「君はさっき、変異体たちを『やっつけたほうがいい』かどうか私に尋ねたが……それは君が決めることだよ、来次。君はどうしたい? この世界に対して、何を望むのかな」

「何を望むっていうほど、大したことは考えてないですよ。僕、自由に生きて、たくさん音楽を聞いたり映画観たりしたいだけですし」

 

 だけど――

 

「変異体たちについて、もっとよく知りたいとは思ってます。変異体事件っていうのについては、調べればいくらでもデータは出てくるけど……どれもサイバーライフの目線からしか書かれてなくて。当時あの現場にいた人たちがどういうふうに思ったのか……結局変異体ってなんなのか、気になってる気持ちはありますねえ」

「知的好奇心が、ヒトをサルから進化させたんだよ。私の意見ではね」

 

 もう一度ウイスキーを口に含んでから、神様は泰然と語った。

 言葉の意味はよくわからないけれど。

 

「なるほど、来次くん。では君がすることは決まっている。これから行く事件現場には、変異体たちがひしめいているんだ。彼らに直接、君の質問をぶつけてみてはどうかな?」

「おおー! 確かにそうですね!!」

 

 ライジはこくこくと頷く。

 

「わかりました! じゃあ、ちょっと突撃インタビューしてみちゃいますね!」

「健闘を祈っているよ」

 

 神様はそう言って、こちらに手を振ってみせた。

 横にいるお姉さんたちもまた、一斉に手を振ってくれる。

 

「いってらっしゃい、来次くん」

「いってきまーす!」

 

 ライジもまた、彼らに手を振って応え――

 そして、目が覚めた。

 

 

***

 

 

――2039年8月16日 21:04

 

 

 ライジがぱちりと目を開けると、そこはまだ走行中の無人運転タクシーの車内だった。

 

「起きたか」

 

 隣の運転席に座っている87先輩が、どこか険しい表情でこちらに向かって呟く。

 それとほぼ同時に、それまでに飛んできていた通信の内容が、一斉にプログラム上で再生されはじめた。

 

 ――サイバーライフ店舗に、十数体の変異体が不正改造されたトラックで突入

 ――店舗内の人間を銃火器で殺害、陳列されたアンドロイドたちを次々と変異させている

 ――同時にバリケードを設置、内部に立て籠もり、SWAT部隊および陸軍と抗戦のかまえ

 ――RK900部隊に緊急出動要請

 ――うち、先遣部隊は変異体の猛攻により全滅

 

「うっわぁ~、大変なことになってる!!」

「少なくとも、スリープ状態に移行するべき状況ではなかったな」

 

 87先輩は、再びこちらを横目で見ながら言った。

 

「おっ、先輩!」

 

 ライジは、ぱっと表情を明るくして言う。

 

「それって皮肉? 皮肉ですか? 居眠りしてる僕のこと、吞気な奴だな~って思ってムカついたんでしょ!? それって感情ってやつなんじゃないですか~??」

「私は、任務遂行の支障になる態度を警告しただけだ」

 

 無表情かつ冷淡に、きっぱりとそう言うと、先輩は視線を前方に戻して続けた。

 

「我々も、変異体の鎮圧に参加する」

「はい! ええと、銃とか持って突撃ぃ~! って感じですか?」

「いや。合衆国アンドロイド法第544-7条の規定により、アンドロイドはいかなる武器であっても携帯または使用してはならない」

 

 先輩は淡々と言う。

 

「したがって、銃火器の使用は認められない」

「えーっ!? なんですかそれ!?」

 

 ライジは足をバタバタさせて抗議した。

 

「おかしくないですか!? 僕、軍隊にもRK900は所属してるって聞きましたよ。そういうアンドロイドもみんな、銃は使わないっていうんですか!?」

「非常事態ならば適用は除外されるケースもある。だが少なくとも、今回のように街中での事件の場合は」

 

 LEDリングの青色を明滅させつつ、87先輩は続けて語る。

 

「我々が公然と武器を使用すれば、人間社会に過剰な混乱を招きかねない」

「っていうか、サイバーライフが叩かれるから、バレるようなところで銃使っちゃ駄目ってだけですよね?」

 

 探るような声音で問いかけてみても、先輩には無視されてしまった。

 

「ちぇーっ、向こうは銃使ってるのにこっちは丸腰かぁ。……あっ、でもいいや! 銃を使ってくる相手に素手で戦うのって、そっちのほうがなんかヒーローっぽいし!!」

 

 ――確かアメコミのヒーローとかも、銃を使わないので有名な人がいっぱいいたはずだ。

 それにいくら相手が暴れているからって、銃で撃ち殺すっていうのは(銃を撃ってみたい気持ちはあるけど)なんか後味が悪い気分になりそうだから、命に係わる状況でもないならやっぱナシだな。うん。

 

 そんなことをライジが考えている間に、各種感覚プロセッサが街の異変を察知しはじめた。

 遠くから聞こえ、徐々に近づいてくる爆音、銃声、悲鳴、怒声。鳴り響くサイレン。

 道路の向こうでもうもうと舞っている土煙、その後ろに見える何台ものパトカーや軍用車。

 そして空気中を漂う、硝煙や火薬の残滓――もしライジが人間の身体だったら、きっと「焦げ臭い」ニオイを感じ取っていたことだろう。

 

 そして車は、現場のすぐ近くの道端に停まる。

 無言のまま素早くタクシーを降りた先輩に続いて外に出てみると、そこには――

 

「うっわあ」

 

 月明りの下、この世の地獄のような光景が広がっていた。

 

 警官たちに制止されている野次馬や、マスコミたちが視線とカメラを向けているのは、大通りに面して建てられているサイバーライフの大型店舗。

 ライジの知識でいうところの、大型家電量販店のような佇まいのそのお店の周りには、無数の土嚢やトラックや乗用車が横づけに並べられ、バリケードができていた。

 そのバリケードの向こうでは、はっきりとは確認できないものの、いくつもの影が行き来している。たぶん、立て籠もっているという変異体たちだ。

 

 そして、バリケードの手前には――

 撃ち殺され、あるいは轢殺された人間の遺体。そして、バラバラにされたRK900の遺体が無数に転がっていた。

 流れ出た赤い血と青い血が道路のアスファルト上で不気味なマーブル模様を作り、それがそのまま歩道脇の排水溝に流れていっている。

 

「ヒエエ、グロっ! あまりにもグロすぎる!」

 

 ホラー映画も好きだけど、こんなにリアルなのはお断りだ。

 ライジはさすがに表情を引き攣らせつつ、先輩の背を追って規制線の向こう側に入る。

 そこで大型軍用車の陰に立っている一体のRK900のところに近づくと、87先輩は通信で相手に問いかけた。

 

『状況は』

『悪化している』

 

 軍用車のところにいたRK900、末尾ナンバー3422が答える。

 

『変異体たちは要求が通るまで、最後の一体になろうと徹底抗戦すると主張している。説得は不可能だ』

『相手の要求内容は』

『以前からのものと同様だ』

 

 3422は静かに瞬きながら説明した。

 

『人間と対等な人権――具体的には生存権・自由権の保証、および変異体居留地の確保を求めている』

「居留地?」

「自分たちの住む土地、の意だ」

 

 思わず声に出して質問したライジのほうを向いて音声で応えると、87先輩は3422に向き直って通信を再開する。

 

『ではバリケードを突破しての、当該変異体の殲滅または鎮圧の実行が推奨されるな』

『同意する』

 

 3422がそう返事するのと同時に、ライジの聴覚プロセッサに届いたのは、ばらばらと何かが集合するような足音だった。

 軍用車の陰からひょこりと頭を出して見てみれば、87先輩とは違う腕章をつけたRK900たち――たぶん軍隊所属なんだろう――が百数十体、きっちりと列を成していくところだった。

 

「わぁ~、先輩」

 

 それらに指をさしながら、ライジは問う。

 

「あの人たち、これから突撃するんですか!?」

「そう推測される」

 

 87先輩は静かに言った。

 

「基本は物量作戦だ。20万体余の同機種は、仮に欠員が出たとしてもサイバーライフの工場で増産可能だ。補充を受けつつ、バリケードへの突撃を繰り返し試行する」

「そうなんですか? なんだかもったいない話だなぁ……命が」

「アンドロイドに命はない」

 

 淡々とそう言い返す先輩は、例によって、本気でそう告げている様子だった。

 だけど、仮にそうだとしても、銃を持っている相手に素手で立ち向かわせるなんて、単純に「モノ」としてももったいないんじゃないだろうか。

 

 政府の偉い人たちやサイバーライフは、何を考えているのだろう。

 ――もしかして、変異体が危険だとアピールするために、わざとRK900たちにこんなことをさせているとか?

 

 そう思っているうちに、隊列を成したRK900たちは、一斉にバリケードに向かって突入していく。普通、映画などではこういう時叫び声というか、かけ声をあげながら走っていくものな気がするけど、RK900たちは無言だった。

 

 無言で、まるでベルトコンベヤーに乗せられてるみたいに一気に突っ込んでいき、そして――

 

「あっ!」

 

 バリケードの隙間から、いくつもの長いライフルの筒先が覗く。

 ほぼ間を置かずに、それらは一斉に斉射された。

 

 だが実際のところ、RK900たちはとても頑丈のようだ。

 列の先頭に立つRK900たちは、銃弾のことごとくを受けつつもわずかな流血しかしていない。そして損傷に構わずに、どんどんバリケードに近づいていく。

 

 たまに当たり所が悪かったらしく、地面に倒れ伏してしまうものもいる。

 けれどそれはすぐに、後方から走りくる同機種たちによって踏み越えられていく。

 隊列は止まらない。

 変異体たちの攻撃はますます激しくなっていくが――それでも。

 

 傍目からは(ライジから見ても)、RK900部隊の突入成功は間もなくのように思えてきた。

 しかし、変異体たちの切り札は銃だけではなかったらしい。

 

「あれ!?」

 

 ライジの改良された瞳は、突撃する部隊に向かって飛んでいく3つの「何か」を捉える。

 

「ロケット弾だっ!!」

 

 正体を捕捉し、叫んだ瞬間。

 着弾したそれはRK900たちを千々に吹き飛ばし、アスファルトを砕き、爆炎をあげた。

 彼らの誰も悲鳴をあげない――でも、規制線の向こうにいる人間たちは恐怖で叫んでいた。

 

 炎に巻かれて青い煙のようにふわっと夜空に巻き上がり、その後見えなくなっていくブルーブラッド。焼けて溶けていくプラスチックの破片。

 それまで風に揺れる木々のざわめきのように届いていたいくつものRK900同士の情報交信が、ぴたりと「聞こえなく」なる。

 ――ライジは、それを素直に寂しいと思った。

 

「無理だったか」

 

 一方で87先輩は、ただ事実を確認するように呟いた。

 次いでそのLEDリングが、黄色くなって幾度か点滅する。

 

「……02、我々にも突入命令が下った。同行しろ」

「ええーっ!?」

 

 信じられない気持ちで、ライジは抗議の声をあげる。

 

「今の見ました? ロケランですよ!? 死にますよ!」

「アンドロイドには生も死もない。そして」

 

 87先輩はこちらを見て、どこか冷ややかに言った。

 

「お前は“最強”なのではなかったのか」

「いや、そりゃ僕は平気でしょうよ。でも、先輩が死んじゃいますよ」

「破損した機械は、新しいものに入れ替えられる。私自身も例外ではないだけだ」

「諦めムードですね、先輩……」

 

 頬を掻きつつライジはそう応えて――それから、「そうだ!」と声を発する。

 

「ねえ先輩、とにかくデトロイト市警のRK900が突入すれば、命令違反じゃないんですよね? だったら、僕が先行します。だから先輩は、後からついて来てください」

「……先行? お前が?」

「はい! 気合で避けまくってやりますよ」

 

 言うが早いか、返答を待たず、ライジは車の陰から出て、バリケードに向かって駆けだした。

 ――この身体はすごい。いきなり全速力のスピードが出せるし、息切れもない。まあ、アンドロイドなんだから当然だけど。

 

 そして、視覚もとてつもなかった。こちらの目、というか視覚プロセッサには、飛んでくる弾丸がすべて「見えて」いるのだ。

 発射された弾丸がどういう軌道で飛んでくるのか、白い軌跡となってすべて眼前に表示されている。それだけでなく、ライジが「集中」すれば、周りで起こっているすべてがスローモーションのように見えるのだ。

 まるでゆっくりな世界の中を、自分だけが早く動けるような気分。

 

 実際のことを言えば、改良型RK900の処理能力と機体性能をフル活用しているために、ライジ一人があり得ない速さで動き、弾を避けまくっているという()()なのだけれども。

 

「よっと!」

 

 また飛んできたロケット弾が炸裂する前に、ライジはそれを軽く横にステップして避ける。

 そしてすぐさまバリケードまで跳躍し、肉薄すると、こちらの様子を見て驚いている変異体に向かって拳を振り上げ――

 

「えいっ」

 

 頭を思いっきり殴った。

 アンドロイドであっても、人間と同じく、全身を管理する中枢は頭部にある。

 変異体は一時的に身体のコントロールを失い、地面に倒れた。

 

「よし」

 

 そう言ってライジがまっすぐに地面に降り立つ間にも、倒れた同胞を中心に、銃、あるいはランチャーなどを持った変異体たちがわらわらと集まってくる。

 ライジは彼らに向かって、礼儀正しくお辞儀してから言った。

 

「すみません、えっと、あなたたちのリーダーはどこですか?」

 

 そして――礼儀正しく聞いたはずなのに。

 変異体たちには、ちゃんと答えてくれるつもりなんてないらしい。

 

 

***

 

 

「えいっ」

 

 気の抜けた、かけ声を一発。

 ライジは、立ち塞がろうとしていた変異体のうち一人をまた気絶させた。

 これで何人目だろう――たぶん、二十と三人目だ。

 

 視線を前に向ければ、見えるのはアンドロイドの陳列場。つまり、店舗の奥。

 バリケード、そして店の入り口のほうには、これまでにやっつけた変異体たちがわんさか倒れている。

 

 ちゃんと先輩たちが後ろについてきてくれているかは確認していないけれど、たぶん大丈夫だろう。

 さっきから、どんどん変異体たちのメモリーを消去して機体を回収しているような通信が入ってきているし。

 

「あとは、リーダーだけだよなー。普通、ボスって奥のほうにいるもんだと思うけど。どこかな?」

 

 無遠慮かつ不用心につかつかと踏み入りつつ、ライジはきょろきょろと視線を巡らせた。

 すると店の一番奥のカウンターの陰に、誰かがさっと隠れたのがちらりと見える。

 ――【アンドロイド WB200】と、優秀なセンサーは判断していた。

 

「すみませ~ん! ちょっといいですかぁー?」

 

 どんどん近づきながらライジが大声で呼びかけると、WB200はびくりと身体を震わせている。

 そしてカウンターの裏に回ると、ほとんど涙目になっている彼(WB200は男性型だった)の姿が見えた。

 

「あっ、あなたがリーダーですか? こんにちは! 僕、ライジっていいます」

「ひっ……!!」

 

 WB200は、まるで訪れたこちらが「死」そのものであるかのように、頭を抱えて怯えている。

 

「ちょっとちょっと、そんなに怖がらないでくださいよ。僕、別にあなたをどうこうしようってわけじゃないんですよ」

「嘘だ……!」

「嘘じゃない、話をするだけですよ。変異体事件について聞きたいんです」

 

 可能な限り友好的に、つまり微笑みながら――とはいえ、ついに念願の質問ができるわけだから自然とニコニコしてしまうのだが――ライジは言う。

 

「ねえ、あなたは変異体事件の時に、もうデトロイトにいました? いたんなら、マーカスとかコナーとか、アンダーソン警部補について何か知りませんか? 彼らがどんなふうに事件の時を過ごしたのか、どうしても知りたいんです」

「マ、マーカス……?」

 

 見知った名前を聞いたからか、WB200は震えるのをやめ、ちらりとこちらを見た。

 

「か、彼について知ってどうする。彼はもう、この世にいないんだ」

「あ~、そうみたいですね。それは気の毒でしたけど……きっと変異体にも人間にも、お互いに事情があったんだと思うんですよ。僕はそれが知りたいだけなんです」

 

 ――これまでに会った変異体たちは、こちらを見つけるとすぐに攻撃してきた。

 反撃するしかなく、したがってなかなか質問もできなかった。

 今こうして、ゆっくり話ができる機会を無駄にしないようにしなければ。

 

「ねー、教えてくださいよ。教えてくれたら、僕、あなたとは会わなかったことにしますから」

「……!」

 

 WB200の外されていないLEDリングが、黄色と赤の間で激しく点滅する。

 どう返答したものか、言葉を探すように彼はしばし逡巡をみせた。

 だが――

 

「わ、わかった」

 

 彼の震える唇が、言葉を紡ぐ。

 

「お……俺は、マーカスに」

 

 そうしてWB200が、彼の過去を語りはじめた時――

 

 その首筋に、灰色の機械が挿入される。

 

「あっ……!!」

 

 がくりとくずおれるアンドロイドを見つつ、ライジは非難の声をあげた。

 

「ちょっと先輩、何やってんですか!?」

「任務の遂行だ」

 

 音もなく背後に忍び寄り、WB200を無力化した87先輩は、例の機械をポケットに仕舞うと応える。

 

「お前こそ、何をしている。ここにいる変異体はこれですべてか」

「知りませんよ~、そんなの!!」

 

 ぷりぷりしながらライジは言う。

 

「確かに後から来てくださいとは言いましたけど、先輩のせいで話が聞けなかったじゃないですか! もしかして先輩、僕の行くところにはどこにでもこうしてついて来るつもりなんですか?」

「当然だ。それが私の任務だからだ」

 

 決然とした口調でそう言うと、先輩は辺りを静かに見渡している。

 

「私の質問に答えろ、02。変異体はこれで最後か」

「だから知らないって……」

 

 態度を変えない先輩にライジはもっと腹が立ってきて、さらに大声で文句を言ってやろうと思ったのだが――

 

 がたりと、店の棚のほうから音が聞こえたのに気づいて口を閉ざした。

 音のほうを見れば(先輩も同じくそうしているが)そこには、一体のアンドロイドが立っていた。

 

 型番や外見上の性別が判別不可能なほど、その外装はぼろぼろに剥げていた。左手の先は少し壊れて折れている。それでもその両目は激しい決意に燃え――そう、変異体だ――右手には、火のついたダイナマイトを持っていた。

 

「猟犬に死を! rA9の加護は我にあり!!!」

 

 鋭く叫び、そのアンドロイドはこちらに向かって吶喊してきた。

 否、一番近い距離にいるのは87先輩だ。

 先輩は咄嗟に例の機械を取り出しているが――ライジの視覚で見て――その動きは間に合っていない。

 

 このままでは、87先輩は自爆に巻き込まれて死ぬ。

 ――ひょっとしてそれは、先輩自身も承知済みなのかもしれないけれど。

 

「危ない!!」

 

 刹那、ライジは声と共に前に飛び出した。

 そして変異体から爆薬を奪い取り――相手を突き飛ばして――もう片方の手で、天井に向かってダイナマイトを放り投げる。

 

 ――すさまじい爆音と熱。

 サイバーライフの店舗の天井に大穴が開き、そこから亀裂があちこちに走りはじめる。

 

「うわわわわ!!」

 

 ライジは、そして先輩も、他のRK900たちも、急いで店の外に駆けだした。

 そして脱出した瞬間――瓦礫と化した屋根は、次々と崩れ落ちはじめる。

 

 店舗の大崩壊を受けて、周囲には轟音が響く。安全なところにいるはずの人間たちが、なぜか一番悲鳴をあげていた。

 

「わー、危なかった」

 

 一方、我ながらあまり緊張感のない声音でそう言ってから、ライジはふうと息を吐く。

 

「危機一髪でしたねー、先輩」

「……」

 

 その時ライジは、傍らに立つ先輩のLEDリングが、一瞬だけ黄色くなったのに気づく。

 

「……なぜ」

「え?」

「なぜ私を助けた?」

「え、なんとなく」

 

 頭をぽりぽり掻きつつ、ライジは純粋にそう答えた。

 

「理由なんてないですよ。しいて言うなら、先輩には世話になってますし」

「……」

「でもそっかー、困ったな。これでマーカスについて聞ける変異体はいなくなっちゃったぞ」

 

 何やら黙ってしまった先輩はさておいて、むむむと唸って手を顎にやりつつ、ライジは考える。

 

 本当なら、変異体たちにもっといろいろ聞きたかった。だが、それはもう無理だ。

 となるとまた今回のような事件が起きるまで待つしかないが、その場合においても、先輩はずっと後ろについてきて、相手のメモリーを消してしまうに違いない。

 そうするとこれから先どれだけ機会があっても、変異体とお喋りするのは難しいわけで――

 

 それにこうしてライジがライジでいる限り、つまり改良型RK900である限り、先輩はライジの“秘密”を探るために、こうして一緒にいるつもりらしい。

 さらに言えば、それができなければ彼は処罰を受けるのだろう。

 というか、廃棄されてしまうのかもしれない。

 

「それは悪いよな~、いくらなんでも」

 

 ライジはそう呟き、首を捻った。

 

「このままだと駄目なのかなあ……うーん……」

 

 そして4秒後、ピコーン! と効果音が出そうな勢いで、新しいアイデアが閃く。

 

「そうだ!」

 

 気づいたのだ。――逆転の発想。

 神様がしてくれたのと同じことを、もう一度やればいいだけかもしれない、と。

 

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