~序章・零~流浪人~
…気づけば、そこにいた…
「ゴクゴク…ふう…」
水筒のふたを閉めた後、僕はため息をついた。
「あれから、何年だろう…」
あの運命の日から、ずいぶんと月日がたったはず。
はずなのに…
「なぜだろうな。全然、消えないや…」
何年も、何年も、歩き続け、自分の世界を広めたつもりだった。
いろいろ見て、聴いて、感じて、楽しく過ごした。
「はあ…」
仕方ない。やることは決まっている。
そう思った僕は、ベンチから立ち上がり、グッと背伸びをした。
「さて、次はどこへ行こうかね…」
…これは、とある楽園に迷い、幸せを求めに歩く、一人の流浪にの話。
「ゴクゴク…ふう…」
○月×日、日曜日。天気は晴れ。
今日も平和な幻想郷。
これまでにさまざまな形で異変が起こる、いわゆる「異変磁石」と言えるほどの場所では、とても珍しく、ありがたく思える出来事であった。
…たった一人、除いては。
「最近、退屈だわねえ…」
ここは、博麗神社。見た目は普通の…いや、普通以下にに貧乏な神社だが、実はこの幻想郷と現実世界の境にある「博麗大結界」を支える、外見では見えない、貴重な場所。
その神社を率いる「楽園の巫女、博麗霊夢」は、食べかけのせんべいと飲みかけのお茶を手に、巫女らしくもなく「彼女らしい」だらしない寝方で、憂鬱と戦っていた。
さすがの彼女も、ボロ負けだったが。
「なんかあいつは研究ばっかだし、奴らも寄ってこないし、参拝客も来ないし。」
いや最後のはごく普通だろう、と突っ込む者もいただろうが、彼女はいま一人。致し方ない。
「平和もいいけど、こう長くちゃ、ね。」
こない返事を期待せず、霊夢はお茶をすする。
と、
「グルルルル…」
何かがうなる声がした。
「…?」
霊夢は、ふと、音が鳴った方向にあった、赤い鳥居を見た。
見た目は昔からあった、博麗神社の鳥居。しかし…
「グルルル…グオオ…」
確かに…「何か」があった。
「やれやれ…野獣か何かが迷い込んだのかしら?」
霊夢はだらけきった体を起こし、いつもの御幣を手に、鳥居へ向かった。
「どうやらそっちはだいぶやる気みたいだけど…後悔することね。」
御幣を振り上げ、そして…
「ちょっと、退屈しのぎになってもらうわよ!」
岩をも砕く勢いで、野獣の頭にたたきつける!
シパァーーーンン!!
「グホォ!!」
「…え」
あっけない鳴き声に、霊夢はキョトンとした。が、すぐに全てを悟った。
野獣ではなかった。ようやく神社への長い階段を登りきった、「人」であった。
「グゥオオオオ…」
うなり声…じゃない。腹の虫が、その人から鳴り響く。腹ペコの状態で、よくあの急な階段を登れたことを、
もちろん、人型の妖怪である可能性もある。霊夢の知り合いのほとんどがそうだし、油断させて食べようとすることもありうる。(霊夢相手では、バカがやることだが。)
でも、霊夢にはわかった。別に証拠があったわけじゃない。なんとなく、目の前で倒れているのは、ただの害のない人間である。
さすがの霊夢も、気づかなかったが。
この、力尽きて動けない人間が
幻想郷にとって重大な意味を持つことを……
「…さあ、掃除でも始めるか「いやちょっと待て、ほっとくな。餓死させる気か。」