彼ら彼女らの物語は終わらない   作:田んぼ二キ

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1.きっと平塚静にも春が訪れる.........多分.........知らんけど。

国語教師の平塚静は額に青筋を立てながら、俺に愚痴を並べ立てた。恩師との久しぶりの邂逅もこれでは感動も何もない。まあまだ一か月も立っていないのだが……。

 

 

「なぁ、比企谷結婚出来る条件ってなんだと思う?」

 

「少なくとも、受験生を連れまわす教師は絶対に結婚出来ないと思います」

 

「ぐっ、やはり彼女が出来た男は違うなぁ……結婚したい」

 

 

俺史上クラス分けガチャに失敗した週の土曜日、スパムのごとく来ていた先生のメールを無視していると、今日の朝拉致られて一日中ラーメン巡りやら、男受けする服選びやらに付き合わされた。仮にも教師だよねこの人。早く誰かもらってあげて!

 

落ち込むアラサーは見てられない。すると天啓の案が舞い降りてきた。

 

 

「先生なら、職場の出会いとかあるんじゃないんですか?」

 

「ああ、いたよ。顔よし、気配りよし、生徒受けも良くて私と同年代の先生がね」

 

「なら」

 

「私が赴任して一週間で捕まったがね。彼には下着泥棒の一面もあったようだ」

 

 

やばい、なんでこの人男運こんなに悪いの? ゼーレのシナリオに記されてんの?

 

もし俺が十年早く生まれて十年早く出会っていたら……

 

 

「ふっ」

 

「ひーきーがーやー」

 

 

俺の乾いた笑いに反応して拳を頭に押し付けた。

 

 

「痛いです痛いです! 先生」

 

「独身のアラサー女性を馬鹿にしたことを後悔させてやろう」

 

 

楽しそうに頭にぐりぐり攻撃をしていたが先生は言い終えると、ため息をついた。ダメージ受けるぐらいなら言わなきゃいいのに。

 

 

「違いますよ。前にもこんなことがあったなと」

 

「前にも?」

 

 

頭から拳をゆっくりと外しながら、俺が言った言葉を反芻した。

 

「あああったなちょうど場所も同じだ」

 

 

言って、周りを見渡す。腰に手を回す姿は自然だ。やっぱりこの人いちいちかっこいんだよな。

 

 

「俺変わりましたかね?」

 

「ふっ。君は十分変わったよ。以前の君ならそんな台詞は出ないだろう」

 

 

対岸から吹く潮風が、髪をたなびかせる。平塚先生は片手で髪を抑えながら小さく笑んだ。

確かに俺はこんな言葉を言う人間ではなかった。そもそも先生が俺みたいなめんどくさい生徒に真摯に対応してくれたから今の俺がある。あの日から俺の人生が始まったといっても過言ではない。きっと大学に行って、嫌々ながらも働いて、いろんなことにケチつけるろくでもない大人になっていた。

 

 

「そうですか」

 

「そうだよ、だから立ち止まる必要はない。君はこのまま成長していけるさ」

 

 

俺はこの先どうなるのだろう。志望の大学はいくつかあるが、実際の未来が思い描けない。

 

 

「先生は自分の進路どうやって決めました?」

 

「私は当時、単純に物事を考えていたからな。ラーメン屋か教師に絞っていたんだ」

 

 

女子高生がラーメン屋……どんな学生時代を過ごしたらそんな思考に至るんですかねぇ。今女子高生がラーメン食べるアニメもあるしそれは普通なのか、そうなのか。

 

 

「筋金入りっすね」

 

「好きでもない仕事は続けられないよ」

 

 

俺は少し茶化して返すと、先生は真っすぐ俺を見つめながら言った。

 

 

「いくら収入が高くても、好きでもない仕事は続けられないよ」

 

 

繰り返し俺に言い聞かせるように言う。いやもしかしたら自分に言ったのか、真意は分からないが平塚先生は目元を綻ばせた。

 

 

「だから私と同年代の人がフリーターをやっていたりする。世間ではこの歳になってもとか負け組だとか言われるがね。比企谷も気にせず自分のやりたいことをゆっくり探していきたまえ」

 

「自分のしたいことですか……」

 

 

俺がしたい事。一番は雪ノ下のこと。二番は彼女のこと。どっちも同じなんだよなぁ。うちの彼女可愛すぎる件ついて。

 

 

「歳を取ると、ついつい説教じみてしまうなぁ」

 

 

俯いて考えていると、先生はわざとらしく笑った。

 

 

「将来のことを考えるのは大事なことだが、とりあえずいま出来ることをやってみようか」

 

「そうっすね。まだ高校生ですし」

 

「婚期だけは逃さないようになはっはっは」

 

 

笑えねぇ……早く誰かもらってあげて!

 

 

「そういえば、比企谷昨日雪ノ下の家に行ったらしいな。陽乃から聞いたぞ」

 

「普通気に入ったからって娘の彼氏を家に招きますかね……」

 

 

雪ノ下と一対一ならまだいいが、家族ともなるとハードルは一気に上がる。だって魔王はるのんと大魔王がいるんだぜそれだけでやばやばなのに雪ノ下父もいたからなぁ、じつに濃い三時間だった。

それに迎えに来たのあの人だったし。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「比企谷君ー迎えに来たよ」

 

「なんで雪ノ下さんが……」

 

 

俺なりに覚悟を決めて、小町コーデに身を包み玄関の戸を開けるとそこには陽乃さんがいた。

 

 

「これは比企谷君のためにもなるんだけどなぁ。とりあえず車に乗ってよ」

 

 

その真意を測りかねて、俺は無言のまま車に乗った。車には運転手と陽乃さん、そして俺の三人。なんであの子いないんですかねぇ。

 

 

「比企谷君にはそろそろ覚悟を決めてもらおうと思ってさ」

 

「覚悟ならもう決まってますよ」

 

 

ちゃんと答えたつもりだったが、陽乃さんはふっと噴き出した。

 

 

「そんなかしこまったものじゃないんだけどなあ。でも比企谷君には難しいかも」

 

「なぞなぞかよ」

 

 

なんなのまじで……家に入る前から緊張感マックスなんだけど。

 

陽乃さんは腕組みをしながら片目だけを開けた。

 

 

「比企谷君。うちは四人家族、このことを前提条件に考えてみて」

 

 

普通に考えて雪ノ下、陽乃さん、雪ノ下の母親、雪ノ下の父親の四人。

 

 

「あれですか、雪ノ下さんにぶん殴られる覚悟ですか? それならもう決まってますよ」

 

 

娘の彼氏が来るのだ。父親ならぶん殴って当然だ。俺も小町の彼氏が来たら親父と一緒にぶん殴ると決めている。

 

 

「うーんとね、比企谷君。私の母のことは何て呼ぶ?」

 

「え? まあ普通に雪ノ下さんとかですね」

 

「じゃ雪乃ちゃんのことは?」

 

「雪ノ下……」

 

 

今日は雪ノ下家に突撃晩御飯なわけだが、仮に食卓で名前を呼ぶ機会があれば……。

 

いやまって早くない? 早いよね? 清い交際をしたことないから知らんが、下の名前は小町以外呼んだことがないよ。ほーんだからこの人来たの? 優しくない? 頭でも打った?

 

 

「ほらほら私のこと雪乃ちゃんと思って呼んでみてよ!」

 

「あの指でほっぺぐりぐりするのやめてくださいよ」

 

 

もしかして、雪ノ下だけじゃなくて家族全員下の名前で呼ばなきゃいけないの?

 

 

「じゃまずは母を呼ぶのでもいいけど……早くしないと家に着いちゃうよ」

 

 

やっぱこの人魔王だわ。

 

 

―――――――――――――――――

 

「まあそのあとも色々ありましたが……」

 

 

本当に色々ありました。一気に外堀が埋まった気がする。あっとりあえず専業主婦の夢は消えました。

 

 

「ではその頬の傷は勲章かね?」

 

「いやこれはかまくらに引っ掛かれた傷ですよ」

 

 

そういうと平塚先生は今日一番の笑顔で笑った。同僚教師のことが尾を引きづっていた先生だが、吹っ切れたように笑う。

 

可愛いじゃねえかこんちくしょう。

 

 

 

早く誰かもらってあげて!

 

 

 

 

 

 

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