彼ら彼女らの物語は終わらない   作:田んぼ二キ

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10.俺が大志に同情するのはなにかおかしい

ホームルームの時間になると、戸塚が入口の近くでおろおろとしていた。あまり待たせても申し訳ないので、机の物を手早く片付ける。

 

 

「あ、八幡よっす」

 

「よっ」

 

 

戸塚のマイブームか、最近は片手を挙げながらしかも満面の笑み(ここ重要)で挨拶を交わすようになっていた。戸塚はいつものジャージにテニスラケットを背負っている。ここ最近部活が出来ないせいで制服を着ていた戸塚。やはり戸塚にはジャージが似合っている。いや戸塚だけには限らないのではなかいか。休日に平塚先生が高校生時代のジャージを着ていてもグッとくるし、ガハママが由比ヶ浜のを着ていても良い。ひょっとしてジャージ人生の最強アイテムなのでは? 

 

 

「今日からだな」

 

「うん八幡ありがとね」

 

「今回俺は何もしてねえだろ。相手校との交渉は小町と戸塚がしてたし、そもそもこのアイデア出したの雪ノ下だし……」

 

 

自惚れではなく本当に何もやってはいない。俺がやったことと言えば、せいぜい晩御飯ぐらい。それにしてもあれから二日でよく了承してもらえたものだ。戸塚の学生時代の縁と小町の交渉力のおかげだろう。

校門へ行くと、既にテニス部の連中と小町がいた。

 

 

「お兄ちゃんほんとに付いてくるの? やることないと思うけど」

 

「開口一番いらないもの扱いしないで。お兄ちゃん泣いちゃうよ。高校三年生が大人げなく泣いちゃうよ。それにほらあれだよ。後見人とかボディーガードとかやることあるし」

 

「その二つはだいぶ違うと思うけど」

 

 

そう突っ込んできたのはジャージ姿の男。そもそもここにはジャージしかいないため判別は難しい。最強アイテムにも弱点があるらしい。勉強になるなる。

 

 

「えっと、比企谷もしかして俺のこと忘れてるの?」

 

「ちょー覚えてるから。なんなら前世からの付き合いまである」

 

 

いたいた中学にもこういうやつ。俺たち友達だよなって言って掃除を任すんだよな。それで修学旅行の班決めの時、グループに入れてもらおうと思ったら冷たい目で見るんだよな。

実際今も呆れたような視線を向けている。良かったぜ、小町と戸塚についてきて……。

 

 

「……本牧?」

 

「やっぱり忘れていたのか……」

 

 

よくよく見れば、生徒会一色の奴隷もとい副会長の本牧であることが分かる。それにしてもなぜここに。

 

 

「なんでいんの? 生徒会も一枚噛んでんの?」

 

 

忘れていたことを悟られないようにたたみかける。そもそも一色のミスだし、予算も増額してしまったので建前上いるのかもしれない。

 

 

「比企谷は知らなかっただろうけど、俺軟式テニスの部長。それに対外とはいえ生徒会は一々干渉しないし」

 

「お前部長だったのか……」

 

 

そういや軟式テニス部の部長知らなかったな。こいつだったのかよ。俺が驚いていると、本牧は下を向いてため息をつく。

 

 

「まあそういう事だから今日はよろしく頼むよ」

 

「そんなこと言われても困る。俺決めたんだよ学生の間はなるべく働かないと」

 

「そんな覚悟聞かされても……」

 

 

本牧はさらに冷たい目を向けてきてそれから小町へと視線を動かした。

 

 

「見れば見るほど、兄妹とは思えないよな」

 

「当たり前だろ。俺と違って人当りもいいし、料理できるし、なにより可愛いし、出来が良いんだよ」

 

「自慢げに自分を卑下するやつ初めて見た」

 

 

相変わらずジト目で睨む本牧。真面目に突っ込んでくるあたり良い奴なのだろう。まあ合同クリスマス会の時もなんだかんだやっていたしな。

 

 

「本牧先輩そろそろっす」

 

「ああ、川崎か……じゃ比企谷また後で」

 

「お、おう」

 

 

そう言って小走りで列に戻る。ナチュラルに小町と戸塚のいる先頭にいくあたりコミュ力もあることがしれる。部長なら当然なのだろうけれど。

 

 

「比企谷先輩も今日はよろしくお願いするっす」

 

 

列が動き、俺もその後をついていく。大志は呼びに来ただけだと思っていたのだが、変わらず俺の横にいた。

 

 

「お前も列戻れよ……」

 

「戻ってもいいっすけど、それだと比企谷先輩一人で可哀想じゃないっすか」

 

「ばっかお前。ぼっちのほうが何かと都合が良いんだよ」

 

 

川崎家教育行き届き過ぎない? 普通一人でいる先輩に話しかけようとはしないだろ。

 

 

「帰れよ、友達と話して来いよ。ただし小町は駄目だけどな」

 

「比企谷先輩たちが来るまでに話したんで大丈夫っす。小町さんはまぁ少しあしらわれている気がするんで話しかけるのはハードル高いっす」

 

「我が妹ながらそこらへんは徹底してるんだよなぁ」

 

「お兄さんさえよければ、ぜひ小町さんの……」

 

「お兄さん言うな」

 

 

目的はこれか。ここまで正直だといっそ清々しいまである。ならこいつに対して心から答えるべきだろう。そうすればきっと大志も変わるはずだ。俺は後押しする気持ちを込めて肩に手をかけた。

 

 

「小町は寡黙な男が好きだからな。自分から話しかけたり、接触しないまま三年間を過ごし卒業後も一切連絡を取らないようにすれば大丈夫だ」

 

「いや完全に関わりないじゃないっすか。付き合うどころか、クラスメイトとしても認識されませんよ!」

 

 

最初こそ、「寡黙っすか……」と納得しかけていたものの、最後の方には気づいていた。

 

 

「そんなことないぞ。最近はハードボイルドの漫画読んでるみたいだし」

 

「それにしてもっすよ、ちなみにほんとに小町さんそんな漫画読んでいるんすか?」

 

「いや俺が読んでるんだけど」

 

「まったく参考にならないっすよ……」

 

 

大志も呆れた様子で俺を見る。本牧に続いて二人目。いや小町を含めれば三人か。一日にこんな呆れられることある? 材木座といい勝負なまである。

そのまま道中小町を中心とした話題が続く。聞けば聞くほど、小町のあしらい方が一流であることが分かる。というかこいつのメンタルどうなってんの? 聞く限り十回は断られている。 

そんなこんなで進むこと、三十分。ようやく目的の学校に着いた。最後の方は俺が慰めるような感じになっていたが、グラウンドに着くと他の一年生と合流して準備を始めた。

いきなり手持ち無沙汰になってしまう。まあもともとそのつもりだったのだが。石でも拾おうかと思った矢先戸塚がとてちてとやってくる。

 

 

「八幡ほんとに今日やることないと思うよ」

 

「ん、気にすんなよ石でも拾ってるから」

 

「そっか、じゃまた後でね!」

 

 

戸塚に別れを告げ、俺は一人コートの隅で石を拾うことにする。念のためついてきたとはいえ本当にやることないのか……。それはそれで寂しい気もする。

俺はあまり考えないように石拾いに徹した。それにしてもこうして他校に足を踏み入れるのは人生で初めてと言っていい。

 

 

「ここが戸塚が通っていた()()()か……」

 

 

その事実に感慨深い気持ちになってしまい、つい独り言が漏れる。雪ノ下が考え、小町がたどり着いたのが中学生との練習試合だ。部活をしていない俺でさえその力量の差は分かる。単純に呼び方が違うだけでなく、歳も三歳離れている。戸塚たちにとっては練習相手にすらならないのではないか、そう思っていたのだが。

 

 

「中学生には見えんな」

 

 

レギュラー組は早速試合をしているが、傍から見れば実力はほとんど変わってないように思える。それもそのはずこの中学校のテニス部は県大会常連なのだという。総部高は万年一回戦を勝てるかどうかのレベルだが、相手は中学生。どちらにとってもいい練習相手になるだろう。

二年生を含めた下級生はコート横で、基礎練習をしていた。一年生同士、二年生同士と構図から見ればおかしな話だが、存外うまくやっていた。

ここまでスムーズにいったのは戸塚のコネクションもあるが、ひとえに小町の尽力が大きい。戸塚とともに総部高テニス部を説得し、中学校にも自分が中心となって交渉にあたっていた。

 

 

「石少ないのね……」

 

 

バケツでももらってこようと思ったが、両手に収まるレベル。日頃からやっているのかもしれない。

それでもえっちらほっちらやっていると、こんな隅に誰かの足音が聞こえてきた。小町だろうか、そう思い見上げると、見覚えのある顔があった。

 

 

「八幡そこじゃま」

 

「ああすいません……ん」

 

 

投げかけられた声とその顔は随分と久しぶりだった。

 

 

「ルミルミ」

 

「留美」

 

 

いつかのようなやりとり。あの時と違うのは伸びた髪を一結びに携え、少し大人びた女の子になっていたことだ。

一度雪ノ下のテニス姿を見ているから余計にそう思うのだろう。

俺は心の奥底にしまい込むと、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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は?仕事の時間管理難しくない?やる事多すぎぃ

というか引越しとか諸々やらんといけんしむむむ

ってことで今月は厳しいかもです( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )

ではではおやすみなさい

 

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