彼ら彼女らの物語は終わらない   作:田んぼ二キ

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11.つまるところ鶴見留美は大人の階段を登っている

会うのはこれで3度目。一度目は弱々しく、けれども自分の芯を持っている女の子。二度目はその芯を上手に扱い振舞いながら前を向くようになった女の子。そして三度目はえ? 何でここにいんの? 通報案件?とでも言いたそうな目をした女の子。

実際にそれを体現するかのような問いを放つ。

 

 

「八幡、何してるの」

 

 

ボールがポンポンと跳ねる音が妙に留美の雰囲気とは離れている。けいかのように一回りも離れているのならともかく、中学生というのは身体は別として精神的には大人と言っていい。特に留美はその容姿も相まってその傾向が高いように思う。まあ彼女のことをそのように論ずる材料としてはいささかというかほとんど知らないことが多い。そも一年近く過ごしてきた同級生でさえ知らないことの方が多い。まあ無駄に材木座に関しての知識は増えたというか勝手に入ってきたのだが。てか材木座って誰すか?

でもこうして会えば世間話ぐらいはする仲になったのだろう。話そうぜ久しぶりによ……。

 

 

「見りゃわかるだろ。石拾ってんだ。お前は?」

 

「留美」

 

「お、おう。で留美は何やってんだ」

 

 

俺の答えにというよりか、呼び方に納得がいかないようで呼び直しを命じてくる。こいつの目には何か底知れない凄みがある‼ 

嘘です完全に委縮しました。今の中学生ってこんなに怖いの? カツアゲされたら普通に差し出すまである。

 

 

「部活見学」

 

「ほーん」

 

 

周りを見れば、留美と同じように練習には混じらず、コートの前で話しながら座っている姿が見られた。恐らくは新一年生なのだろう。時折留美の方を見ては話し込んでいるように見える。そこに悪意はなく、仲のいい友人のからかいのように思えた。

それにしても中学校の部活に対する熱は異常だ。入る入らないの選択肢があるはずなのに、半ば強制で入らされる。そして帰宅部の者に対してやれ部活やっていないのにテストの点が低いだの、大会で疲れたみたいだから宿題減らそうかでも比企谷は普通に出してねだのと入部=当たり前みたいな空気が存在する。そして中学の大会では休みにしてくれればいいのに俺のような帰宅部はなぜか出席してひたすらプリントを解くという無駄な時間もある。

まあ高校では奉仕部に入っているので部活自体にそこまで悪感情はないものの、そういった見えない圧力は相変わらず好きになれなかった。

 

 

「留美はどこの部活に入るか決めたのか」

 

「いや、まだだけど」

 

「そうか」

 

 

うーん会話が続かない。多少は経験値が増えていると自負していたのだが、ゴールのない会話はやはり難しい。コミュ力に定評のある由比ヶ浜なら他愛もない話の一つや二つポンポン出てくるのだろう。あいつの場合は自発的にも自然にも情報が入ってくる。友達が多い人間はその分情報を持っているわけで逆に情報通は友達が多いと言える。こんなどうでもいいことは思いつくのにどうでもいい会話は出てこないのが俺たちコミュ障ですはい。

 

 

「そういえば留美はなんか趣味とかあんのか?」

 

 

大抵の場合好きなもの続けていることを部活にするものだ。それまでの経験や自信があるから、入るハードルは一気に下がる。ただし仕事てめーはだめだ。好きなことを仕事にすると、好きだった一面だけではなく様々な角度からの視野があるため、続かず、そして嫌いになるというある意味本末転倒な自体に陥ってしまう。ヘンシュウシャさんはシメキリ迫るの辞めようね!

 

 

「まあ、趣味とかはないけど気になっていることなら一応は」

 

 

少し頬を染め、目じりを下げる。普段一色やら小町やらのあざとさ全開の仕草は見慣れているせいか、こういった年頃らしい表情を見るのは案外グッときました。はい。

少しは心を開いてくれた......ということなのだろうか。かつては自分のいる世界に絶望し、諦めるほうが楽だと達観していた彼女の面影はもうない。俺のやったことが全てだとは思わない。ただのきっかけ、とっかかりそれからは留美が自力で望み、努力した結果なのだ。

 

 

「演劇とか……」

 

 

さらに恥ずかしそうに身をよじりながら留美は言った。うーんこの子自覚がない分たちが悪いな。いろはすに指導してもらわなきゃ悪い虫が付きそうだ。というかもうついている可能性がある。

 

 

「なるほどな」

 

 

俺が知る限り、十二月にあった合同クリスマス会。あそこで留美には主役をお願いしてもらっているのだ。俺がやったことは決して無駄ではなかったらしい。いかったいかったとついおじいちゃん化していると、俺たちの方へと向かう足音が聞こえてきた。

 

 

「ごめん八幡ボール来なかった?」

 

「戸塚か、いやこっちの方には来てないな」

 

 

視線で留美にも問うと、首を横に振った。戸塚は留美を認めると、背丈に合わせてかがんだ。

 

 

「久しぶり、留美ちゃんだよね。戸塚彩花です」

 

「お久しぶりです、戸塚さん」

 

「留美ちゃんはテニス部なの?」

 

「いえ、まだ部活には入ってないのですが、悩み中です」

 

 

留美が考え込むような顔をして笑う、戸塚もそれにつられて微笑む。うーんここは天国かな。とっさに対応が変わる留美を見て、違う一面を見た気がした。中学生になれば、縦社会のいろはを嫌でも身につけなければならない。敬語はもちろん、口答え反論抗議は一切認められていない。あれれー八幡も先輩だよ。

 

 

「なあ戸塚演劇部ってあるか?」

 

「あったと思うけど……何で?」

 

「あーそれは」

 

 

ふいに袖を掴まれる。留美は俺の方を向きながら、首を振った。自分で言うということなのだろう。

 

 

「その私、演劇に興味があって、それで……」

 

 

戸塚は得心がいったような顔をして、留美に向き合った。

 

 

「演劇部だった友達がいるんだけど、直接聞いたほうがいいよね。留美ちゃんのことその子に教えていいかな」

 

「うん、じゃなくてお願いします」

 

「お願いされました」

 

 

かがんだまま真っすぐ留美を見据える戸塚。それに対して留美は若干緊張混じりで答える。身長の差はあれど、もう一人の人間として見ているのだろう。ああこういうとこだ、戸塚のあふれ出る優しさは。だから偏見や色眼鏡で見ない、ちゃんと向き合って初めて評価している。友達と呼べるのがこいつでよかったと改めて思った。

 

 

「ん。あ、八幡もう今日の練習は終わりだから。帰ろ」

 

 

ああだから、戸塚がボールを拾いに来ていたのか。待てよ、帰ろと戸塚は言った。俺は一緒に戸塚の家に行くのか? 初めてのお呼ばれ……。

 

 

「比企谷、それ貰うよ」

 

「本牧か、戸塚はどこ行ったんだ」

 

「お前がニヤニヤしている間に一年生のとこに戻ったよ。というか絵的に犯罪者だからな」

 

「ばっかお前。俺は戸塚でニヤニヤしてんだよ。言わせんなそんなこと」

 

「それはそれでまずいと思うけど……」

 

 

いかんいかん、もう俺も高校三年生になる。戸塚を見てニヤニヤしそうなときは顔を隠すようにしないと……解決してないんだよなあ。

 

 

「よかったな留美」

 

「別に八幡何もやってないし、それに頭撫でないで」

 

 

つい頭を撫でてしまったが、留美は心底嫌そうにそれを拒否した。

 

 

「おお、すまんついな……」

 

「八幡ってたらし?」

 

「ばっかちげえよ、むしろ女子には近づかないようにしてるし、そもそもそんなことすれば通報されるのは間違いない」

 

「ふーん」

 

 

不機嫌な様子というか、終始そんな感じだったように思う。でもこれで、心の片隅にあった俺がしてきたことの清算が終わったのかもしれない。いつまでも保護者づらで「お兄ちゃん」は気持ちが悪い。そのことを自覚しなければならない。

 

 

「実妹なら問題ないな」

 

「比企谷、せめて学校の名前が出るようなことはするなよ……」

 

 

俺の独り言に冷めた目で見つめる本牧。自然と突っ込んでくる辺り、良い奴なのだろう。ただ……

 

 

「おい、まて通報するな。あれだからホントの妹だから」

 

「比企谷、犯罪者は全員そう言うんだ。お前だけじゃない」

 

「小町のこと見なかったの? 似てないけど兄妹だから」

 

「いや中学生に手を出そうとしてたじゃないか。ああそうか雪ノ下さんに言ったほうが……」

 

「それだけはやめてくださいお願いします」

 

「はちまーん」

 

 

俺が土下座しようとすると戸塚が小走りでやって来た。

 

 

「大丈夫だ戸塚。俺は絶対悪には屈しない」

 

「それはちょっとよくわかんないけど八幡このあと暇?」

 

「ああ暇だけど」

 

「じゃあさちょっと付き合ってくれないかな?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

三期始まったんだが? ぬるぬる動いているんだが? えもえものえもなんだが?

うーん今週はあの四話ですね。

なるべく更新急ご。

 

 

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