彼ら彼女らの物語は終わらない   作:田んぼ二キ

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3.由比ヶ浜結衣の友達指数は測れない

昨日の大雨で、桜は散り葉桜となっていた。小町は電動自転車。俺は相変わらずママチャリを漕いで学校へと向かう。っべー明らかに差があるっしょ。小町を荷台に乗せて好奇の目にさらされるよりはましなのだが。

最短ルートを教え、いかに寝ていられるかを教示しようとしていた俺にとってはいささか出鼻をくじかれた感は否めない。

それでもまあ兄妹そろって家を出るのは、久しぶりでなんだかむずがゆい。

一体後何回こうしていられるのだろう。そんな寂寥の想いに応えてくれるのかいつも比企谷小町はそこにいた。

 

 

「出る時は一緒ね。これ小町的にポイント高い!」

 

 

高校の制服に身を包み、少し背伸びした俺の妹。いくつになっても性根は変わらない。

 

 

「はいはいポイント高い。ほれいくぞ」

 

「待ってよお兄ちゃん」

 

 

いずれ追い抜かされるのなら、一足早く前にいよう。いつも彼女にとって誇れる兄でいるために。

 

 

「お兄ちゃんお先ー」

 

 

まあ当然ながら電動自転車に勝てるはずもない。うん人生の先輩としての威厳は保とう……料理も出来て、コミュ力があり、おまけに一年生にして部活の部長。あれ? 勝てるとこなくね? 俺の妹が可愛すぎる上に完璧な件について。

 

まだお兄ちゃんの方が上だよね。そんなことを思いながら漕ぐ足を速めた。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

俺のクラスは、海老名さん葉山。そして違うクラスにそれぞれ由比ヶ浜と戸部、三浦と戸塚と川崎となんとも言えないばらけ方をしている。それでも葉山グループが顕在なのは、葉山の力と三浦の根気強さで成り立っていた。これで葉山の言う通りになったのが少し腹が立つ。

それでも俺の昼食に変化はない。いつものようにベストプレイスへと向かう。唯一変わったことと言えば、たまに人がいることだ。

 

 

「やっはろー」

 

「おう」

 

 

由比ヶ浜はたまにこうして俺と飯を食う。これが浮気かのラインは雪ノ下も知っているので大丈夫だ。そもそも雪ノ下がクラスの人と食べるようになったため、こうして由比ヶ浜がベストプレイスへと訪れる。

 

 

「今日は小町ちゃんのお弁当?」

 

「お互い早かったからな俺は主に飯炊き担当だ」

 

「お米研ぐだけじゃん」

 

「由比ヶ浜お米研ぐのに洗剤とか使わないんだぞ」

 

「し、知ってるもん、使ったのは最初だけだから……」

 

 

洗剤使って洗っちゃったのか……冗談で言ったんだが。

 

 

「それより、さっきから携帯の通知鳴っているけどいいのか?」

 

「ああ、これね」

 

 

由比ヶ浜は申し訳なさそうに携帯を見せる。

 

 

「クラスの人達……主に男子だけどね」

 

「いや見せなくていい」

 

 

ちらりと見えた画面には過去の俺のようにどうでもいい会話で気を引こうとする努力が見られた。

 

 

「なんかいろんな人から来てて」

 

 

困ったように笑う由比ヶ浜。恐らく三浦と違うクラスになったことで、気軽に声を掛けられる環境になったのだろう。おまけに由比ヶ浜は優しい女の子だ。いやでも会話を続けてしまう。閉鎖的な空間ともいえるその場所では由比ヶ浜はさすがに無視することは出来ない。対面なら言えないこともネットを介してなら言える。

 

 

『由比ヶ浜さんって血液型何型?』

 

『三限目寝てたー? 俺も寝てたー(笑)』

 

『土曜日部活なくて丁度休みなんだけど良かったら遊び行かない?』

 

 

なんだよ良かったらって良くないって言えば一生黙るのかよ。妄想とはいえさすがに由比ヶ浜が可哀想に思えてくる。

 

 

「大変だな、どうでもいいやつとも話さんといかんとは」

 

「ううんそんなにかな。それに一か月も経てばそのうち減ってくると思うから」

 

「そんなにうまくはいかんだろ。高校生なめんなよ」

 

「ええ、私怒られてる?」

 

 

由比ヶ浜はおっかなびっくりしておどける。おっかなびっくりって今日日聞かねえなあ。高校生に限らず男はワンチャンワンチャンを心に住み着かせている。大学生ともなれば昇華してツーチャンツーチャンを飼いだす。何言ってんの俺。

 

 

「大丈夫だって、へぇとかほーとか言ってれば興味なくすし。それに私が選んだ道だから」

 

「それって……」

 

 

俺が問いかけようとした瞬間、俺の視界は塞がれた。

 

 

「だーれだ?」

 

「戸塚か? 戸塚だな? 戸塚だよなぁ」

 

 

俺が答えると、ゆっくり視界が開けてきた。

 

 

「なんでもう分かっちゃうの八幡」

 

 

戸塚は頬を膨らませながら、腰に手を当てていた。

 

 

「戸塚の声ならすぐにわかる」

 

 

俺は平静を装って言う。

あはれすぎる。なにこの生き物。俺をあはれ死にさせる気かそうなのか。もうどうなってもいいありったけのあはれを俺は感じた。

 

 

「さいちゃん今日は自主練しないの?」

 

「うん実は昨日からグラウンドの工事してて」

 

 

戸塚が俺の隣にきた。戸塚が俺の隣にきた。戸塚が俺の隣にきた。戸塚が……。

 

 

「もうすぐインター杯なのに大変だね」

 

「しょうがないよ。でもせっかく一年生が入ってくれたのに申し訳ないけどね」

 

 

俺の心のオアシスがなくなるのか……。

 

 

「じゃ運動部の人に頼んでみようか?」

 

「由比ヶ浜さんいいの?」

 

 

ぱぁと目を輝かせて戸塚が喜んで聞く。

 

 

「それぐらいいいよ。じゃ放課後奉仕部に来て」

 

「ごめんねそんなこと頼むつもりで来たわけじゃないのに」

 

「いいって、私さいちゃんのこと応援してるし」

 

「ありがとう由比ヶ浜さん。また放課後に八幡もバイバイ」

 

「お、おう」

 

 

あはれに気を取られているとあれよあれよと話が進んでいた。というかもう戸塚はいなかった。

 

それにしてもこいつ大丈夫なのか?

 

 

「由比ヶ浜?」

 

「連絡先ならフリマの時に交換したから大丈夫!」

 

「いやそっちじゃなくて、また男子からしつこく来るんじゃないのか?」

 

「さっきも言ったじゃん」

 

 

立ち上がった由比ヶ浜はスカートを抑えながら俺に向きなおった。

 

 

「これが私が選んだ道だから。それに優しい女の子の方が誰かさんの好みでしょ?」

 

「誰かさんね」

 

「うんそうだ」

 

 

由比ヶ浜がクラスに戻り、差をつけて俺も教室へと戻る。通りかかる彼女のクラスは、彼女を中心に人がいた。由比ヶ浜は優しいだけじゃない強い女の子だと俺は知っている。

 

というか人多いのによく会話が成り立つな。ひょっとして聖徳太子なのか?

 

あんな出来事がなければ俺と彼女は出会わなかったのだろうか? 一度問いたその質問に答えてくれる人はいなかった。

 

 

 

――――――――――――――

このやる気が仕事でも出ればなぁ

ということで第三話でした。

 

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