奉仕部が新体制となってからはや二週間。部長は小町、副部長は雪ノ下という布陣である。前門の小町、後門の雪ノ下。ははーんさては最強の布陣だな?
どうでもいい考えを巡らせながら、特別棟へと向かう。
本来なら部室のカギは小町が持ってこなければならないが、あいつもあいつで忙しい身分らしく変わらず雪ノ下が一番乗りになることが多い。
今日も今日とて行ってみると、雪ノ下が一人お茶請けの支度をしながらいそいそと動いていた。
「うす」
「ええ」
出会い頭に悪態をつくことはなくなったが、こうして短い挨拶を交わし合う。互いに喉を震わせながら、相手の出方を待つ。最初の一言が出てこない。
『最近クラスの連中と飯食ってるみたいだな』
『ええ、今まで誘われていたのだけれど……思ったよりも楽しいわね』
『ほーん俺と会った頃と比べると随分丸くなったな』
『そうね……あなたと会って本当によかったわ』
俺の中の雪ノ下は微笑を浮かべる。やばいうちの彼女可愛すぎない? どこに出しても恥ずかしくないよ、いやどこにも出さないんだけどさ。
雪ノ下の紅茶を飲む。会話ってこんなに難しいものだったか。由比ヶ浜や小町が居れば、普通に話せるのにいざ二人きりになるとなかなか話せない。
雪ノ下も同じなのだろうか? そう思い、ふと雪ノ下を見れば視線がぶつかった。
「どうしたの?」
「いや、その、とくになんでもない」
「そう」
それきり手元の文庫本に戻った。俺も彼女も話上手ではないし、そもそも会話が少ない。ほんとに付き合ってる? というか正式に付き合いだして、一度だけしかデートしたことがない。その一回もプロムの会場選びだったからなあれひょっとしてデートではないのでは?
やはりこういう誘いは男からするべきなのか、いや男女共同参画やらで男女平等は確立されているはずだ。未だに残る固定概念を払拭すべく俺は誘わないことにした。あらやだ一生デート出来ないじゃんテヘペロ。
「……んっ」
突然雪ノ下が艶めいた声を出す。脳内会議をとりやめ、彼女の方を見れば調整を間違えたらしく今度はわざとらしく咳ばらいをした。
「……この間は姉さんが迷惑かけたわ」
「ああそのことなら気にしてない。むしろ酔ってたほうが楽だったし」
上手く言葉が出てくれたことに安堵する。
「やっはろー」
彼女は何か言い淀んでいたが、由比ヶ浜の挨拶にかき消された。
「由比ヶ浜さんこんにちは」
「うんゆきのんやっはろー」
「由比ヶ浜いい加減その挨拶やめろ。だから新入部員入らないんじゃねえの?」
「そんなことないし!」
むきーと言いながら由比ヶ浜は怒る。
正直こんなへんてこな部活に入る新入生がいるとは本気で思っていない。認知も少ないし、おまけにハードルが高すぎるのではないかと思う。学校一の才女に、親しみやすい年上の先輩、入りびたる生徒会長。これが全員美女というのだから俺だったら入らない。
「雪ノ下さんやっはろー」
「おい由比ヶ浜この挨拶最高だな。これで大学行けるぞ」
「やっぱ反応違くない?……そんなんで大学行けるわけないし」
由比ヶ浜の後ろから、うさぎのようにちょこんと顔を出したのは戸塚彩加。動物は飼い主に似るという言葉を地で行く戸塚。
総武高では、生徒の自主性の幅が広い。そのため学校の公式な服であれば部活の恰好をして授業を受けてもいい。そのため戸塚はほとんど部活のジャージを着ていることが多かった。修学旅行でも着ていたから、俺はずっと戸塚女の子説を推していたのだが、今日は部活がないからか制服を着ていた。どちらの制服か、それは言うまでもない。
由比ヶ浜は雪ノ下の隣に座り、戸塚は彼女らの正面に座る。いつも依頼者が座る席に。
「実は由比ヶ浜さんに部活の件で相談していたんだけど……」
「ああ、昼休み言ってたやつか」
「うん」
戸塚は申し訳なさそうに目を伏せる。本来ならこういったことは部長である戸塚の役目だ。少し罪悪感にも似た感情を抱いているのかもしれない。
「戸塚君の依頼って?」
「テニス部のコートあるだろ? 今工事中だから他の部と交渉して練習できる場所を貸してもらおうとな。由比ヶ浜が」
「その一言であなたが仕事をしていないことが分かったわ」
「ごめんね由比ヶ浜さん」
居心地が悪そうに身体をよじる。
「いや、戸塚そんなつもりで言ったわけじゃないから安心して俺に任せろ」
「やったの私なんだけど……」
「やっぱり八幡は優しいね」
少し笑顔を見せてくれた。この笑顔プライスレス!
良かったあのまま元気なかったらうっかり死んじゃう所だったぜ。
「いやいや何言ってるのお米ちゃん。夢見がちじゃない? 先輩の妹なのになんでそこまで期待持てるの?」
「あんな兄の下で育ったからこそ、夢見てみたいんですよね。それにあんな兄でも雪乃さんみたいな素敵な女性を彼女にしているわけですし。いろは先輩には一生訪れないとは思いますが……」
「その言い方むかつくんですけど、やっぱ先輩の妹だ……」
小町は一色とレスバトルしながら教室に入ってきた。ほんとこの子たち仲いいのか悪いのか……あと小町ちゃんあんな兄って二回も言わなくても良くないですかね……。
「あ、戸塚さんこんにちはー」
「こんにちは小町ちゃん。あと遅れたけど入学おめでとう」
「はわわわーお兄ちゃんやっぱり戸塚さんはお――」
「言うな小町、何も言わないでくれ……まだ現実を受け止めきれてないんだ」
「ほんとこの兄妹何なの」
俺たち兄妹の熱のこもった芝居を一色は一蹴した。それもつかの間、一色は頬を膨らませる。なぜか知らんがご立腹らしい。
「というか先輩。先週の金曜日何してたんですか? 私誕生日だったんですけど」
「あーいろは先輩その日誕生日だったんですねおめでとうございます」
「うわー全然心こもってないし」
「兄ならその日雪乃さんの実家に行ってましたよ」
最初に一色が食い気味に、戸塚が指をくっつけてぱあと笑顔を浮かべ、由比ヶ浜は垂れた前髪の間からちらちらと覗き、そして雪ノ下は顔を赤らめた。
「ごめんお兄ちゃんこれアフレコだった?」
「いや別にいいんだけどさ」
「一色さんあなたの誕生日は今日祝おうとしていたの、遅くなってごめんなさい」
「私の誕生日なんてどうでもいいです! なんですかご両親に挨拶とか早くないですか。結衣先輩まずいですよ」
そのまま焼いてかない? とか言いそうな雰囲気の一色。あれ絶対挨拶じゃなくて外堀埋めに来てたよなぁ。
「ヒッキーが家に来たの二回だから、そういった意味なら勝ってるかも……」
「二回? どういうこと比企谷くん」
一回目は、雪ノ下と一緒に行ったが、二回目に関しては認知していない。一色問題児すぎない?
「一色の誕生日が違う日だったらウエルカムレッツパーリナイだったんだけどな」
「何ですか、口説いてるんですか早めに生まれていたら先輩たちと同級生になって夕陽が沈む校舎裏で告白したんですね。来世に期待しますごめんなさい」
「また振られるのかよ……え、今の振った?」
そんな応酬をしながらも、雪ノ下は俺に鋭い目つきだ。ぶっちゃけ怖い。だがそんなところも可愛く思えてくるのは不思議だ。
「ちょっといい? 大志が相談があるみたいなんだけど」
「姉ちゃんいいよ一人でやるから」
次は川北姉弟が入ってきた。川北は弟の肩に手を載せているが、それを大志は振り払う。今まで見てきた光景とは少し違う。思春期なのかもしれない。それとも小町がいるからか……まあ好きな女子の前では恥ずかしいよね分かるわかる。
いいぞ大志このまま話を続けてくれ。
「あっえっと、他の人の依頼が先っすよね。ほら姉ちゃん行こうよ」
しまった、川北家は教育が行き届いているんだった。まずいこのままだとまた修羅場みたいになってしまう。
「まて大志……お前確かソフトテニス部だったよな」
「はいそうっすけど」
なら依頼の内容にも検討はつく。
「お前の依頼グラウンドに関することか?」
「義兄さん……」
大志の目が輝く。
「うるせえ、義兄さん言うな。前は中学生だったから直接手は出さなかったが今は高校生。もう大人の部類だ。自分の言葉にもう少し責任を持たせてやろうか……」
俺は社会の厳しさを教えるため拳を鳴らしながら近づくと。後ろの姉さんは鬼の形相で言った。
「ぶっ殺されたいの?」
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アニメ見ていて思ったのですが戸塚いつもジャージなんですよね。修学旅行でもジャージって家庭の事情を勘繰るレベル。
三期でようやく見れると思ったのですが……
誰か制服戸塚描いてくれませんかねぇ(他力本願)
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