彼ら彼女らの物語は終わらない   作:田んぼ二キ

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5.こうみえて一色いろはも成長している

「かわ……川北さん。いえ何でもないですよへへ」

 

「川北?」

 

 

いかんいつもは直前でちゃんとした名前を思い出していたんだが……。どうやら間違えていたらしい。しかしそのおかげでかわ……川崎は怒りの矛先を見失っているようだった。

 

 

「こほん。まあとりあえず大志お前の話を聞こうじゃないか」

 

「は、はぁいいっすけど」

 

 

二人は由比ヶ浜に椅子を用意されちょこんと座った。さりげなく小町の正面に座る大志。しかしすぐ近くに俺がいるのでいざとなれば目を潰せる距離にいる。もっともそんなことをすれば、今度こそ川崎にやられるわけだが。

八人ともなれば、長机一つでは少々狭い。まあ話を聞くだけなら大丈夫だろう。ちなみに廊下側には俺、角を挟んだ左側には小町、一色、由比ヶ浜の順に座り俺の正面には雪ノ下が、それから時計回りに戸塚、川崎、大志が座っている。

 

 

「えっとすね、グラウンドの件なんすけど、どうも四月いっぱいまで使えないらしいんすよ」

 

 

テニスコートがあるのは、一か所のみ。硬式テニスの戸塚が使えないというのだから必然的に軟式テニスもコートは使えない。

 

 

「俺はよく知らんが、そんな急に工事しないといけなかったのか? この時期に」

 

 

三年生にとってはインターハイも近い。その上一年生にとっても部活選びという貴重な時期なのだと思うのだが。

 

 

「実を言うと、予定では二月十四日から行うはずだったんだ」

 

 

俺の素朴な疑問に苦笑いを浮かべながら戸塚が答える。

 

 

「でも、あの日小町ちゃんや大志くんなら覚えているかもしれないけど大雪が降ってね。そのせいで搬入が遅れたらしいんだよ」

 

 

小町や大志にとっては高校の受験日。まだ記憶には新しいだろう。しかし俺たちも覚えている。あの日、雪ノ下は決意を固め、由比ヶ浜は答えを提示した。そして俺は彼女のやり方を否定した。俺たちはようやく答えを出すために一歩を踏み出した。互いが互いを思いやるばかり紆余曲折してしまったのだが。

 

 

「今月いっぱいに終わるということは工事自体は三週間ぐらいですよね。いくら雪が降ったとはいえ遅れすぎじゃないですか?」

 

 

小町が指をほっぺにやりながら言う。これが一色だったらあざといが小町がやると可愛くなってしまう。妖精さんかな? 小町の発言のおかげで俺も意識を戻す。由比ヶ浜も雪ノ下も同じだったようでぴくりと体を震わせた。

 

 

「……そうね。小町さんの言う通りそこまで工事が遅れているのは妙だと思うわ」

 

「その理由がちょっと言いにくくて」

 

 

そう言うと戸塚は伏し目がちに一色を見る。

 

 

「あーそういえば」

 

 

っべー、これやばやばでは? え、ちょっと待って……などと犯人は独り言を言っており情状酌量の余地はないと思われます。

 

 

「一色お前まさか……」

 

「いや違うんですよ」

 

「そう言う人ほど、よく聞いてみれば何も違っていないのよね。誰かさんとは言わないけれど」

 

「なんでお前隙あらば俺狙うの? スナイパーゆきのんなの?」

 

 

あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

一色を責めていたと思ったら俺が責められていた。何を言っているのかわからねーと思うが催眠術だとか超スピードとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

俺の中のポルナレフが語っていると一色はおもむろに携帯を取り出した。

 

 

「あー私です。えーなんですかそれ。うんうん……それは私が行かなきゃ解決出来ませんね。忙しいなぁ」

 

 

どうやら緊急の用件らしい、今一色に起こっていることが。

 

 

「それじゃ皆さんそういうことなんで、私は失礼しますね。ではでは」

 

 

言いながら急いで荷物をまとめ出した。

 

 

「おい一色。お前の携帯着信音鳴らないのか?」

 

「や、やだなーバイブですよ。ぼっちの先輩は着信なんて来たことないから分からないでしょうけど」

 

 

早口でまくし立てその場を去ろうとする一色。そんな彼女に追い討ちをかけるように由比ヶ浜は言う。

 

 

「でもいろはちゃんの携帯画面真っ暗だったよね、誰と話してたの?」

 

 

一瞬時が止まったような静寂。そこから堰を切ったように言葉が飛び交う。

 

 

「いろは先輩耳いいですね。私結構近くにいたつもりでしたけど全く聞こえませんでしたよ」

 

「一色……あんた高校二年生にもなって言い逃れとか」

 

「一色さんさすがっす自分騙されました」

 

「うわぁー引きます。いろは先輩、腐ってても真面目な人だなと思っていたのに」

 

「ほんとに用事あるなら行ってもいいよ。僕は気にしないから……」

 

 

川崎は引いたように、大志は無邪気に目を輝かせ、小町はここぞとばかりに、そして戸塚は一色をまだ信じていた。

 

 

「あなた達、一色さんをそれ以上責めないで」

 

 

ぴしゃりと静まる。こういう時雪ノ下は心強い。目を閉じ何かを考えている。やがて微笑を浮かべると一色に言った。

 

 

「大丈夫よ。一色さん」

 

「雪乃さん……」

 

 

さしもの一色も目に涙を見せて、雪ノ下の名前を呼んだ。なんなら百合物語が始まる勢い。

 

 

「私は信じているわ。だから正直に着信履歴を見せてちょうだい」

 

 

やめて!一色のライフはもうゼロよ!

予想はしていたがもうちょっと配慮をですね。この子大丈夫かしらん?

さぞ泣いているかと思いきや笑っている。

 

 

「冗談ですよ冗談。本気で、こんなことしてませんよ」

 

 

肩ぺしぺし叩かないで! 俺でなきゃ勘違いしちゃう。大志なら間違いなく告白して振られている、振られちゃうのかよ。

 

 

「ヒッキー……」

 

「比企谷君」

 

「……比企谷」

 

 

由比ヶ浜と雪ノ下ならともかくなんで川崎さんまでジト目に? なんか新たな扉が開きそう。ジト目の女の子最高では? すぐに材木座に知らせなきゃ!

思い立ったが吉日ということわざもある。俺は手元でスマホをシュパッと操作する。

 

 

「この子、変なものでも食べた? 情緒不安定すぎない……おっと」

 

 

スマホに初代プリキュアのOPが流れ出した。俺は耳に当てながらそれを止める。

 

 

「材木座か……そりゃちーとまずいな」

 

 

もちろん着信などかかっていないが、周りの反応を見ずに荷物をまとめる。一色の言う通り、俺に着信が来ることはまれだ。だからこそこの場面で電話が来たことを誰も怪しまない。一色の小細工がばれたばかりだし、それに着信音も鳴らしている。そして何より、一時離脱したい。由比ヶ浜家訪問の話もまだ済んでいないからだ。

 

 

「すまん、材木座が呼んでいる」

 

 

こういう時に材木座! あれ、こういう時にしか役に立たない?

 

 

「……ヒッキー」

 

 

由比ヶ浜さんハイライト消えてますよ、作画班はよ。

 

 

「あなたね、この期に及んでそんなことを……」

 

 

まずいなぜかばれている。

 

 

「おかしい、この方法で三回ほど成功しているのだが」

 

「私や由比ヶ浜さんが気づいてないとでも?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

この子たち気づいていたの? 恥ずかしすぎる。早くお家に帰りたい……。

 

 

「お兄ちゃん、妹として情けないよ……」

 

「そうですよ先輩。男としても情けないです」

 

 

もとはと言えば、お前のせいだと思うが。先輩に対してもずけずけ言う感じ。出会った頃からすると考えられない。……うん嘘ですね最初からこんな感じです。はい。

 

 

「それで一色さん何をやらかしたの?」

 

「まあ戸塚先輩の言う通り、コートの工事は一旦中止になってしまったんですが。それからまた日程を決めたり、書類決済をしなければならなかったのですが……」

 

「……プロムのごたごたで失念していたと」

 

 

一色の言葉を引き取るように、雪ノ下が頭に手を当てて言う。

 

 

「はい、その後も合同プロムで……戸塚先輩、大志くん」

 

 

おもむろに立ち上がり、腰を曲げる。

 

 

「言い訳みたいになってしまったんですけど、今テニス部が練習できなくなっていることについて生徒会長として謝罪します。申し訳ありません」

 

 

発端はともかく、合同プロムを開いたのは俺だ。責任というなら俺にもある。俺も一色にならい、立ち上がった。

 

「戸塚、大志俺からも、すまなかった」

 

「八幡……」

 

 

机を眺めながら、戸塚の消入りそうな声を聞いた。またイスが動く音がする。

 

 

「それなら私も……ごめんなさい」

 

 

声でわかる。それにしてもなぜという疑問が浮かぶ、顔を上げて雪ノ下の顔を見やった。

 

 

「いやお前は関係ないだろ。一色はともかく」

 

「いえ一色さんをサポートしていたのは私よ。それに合同プロムなら私にも責任があるわ」

 

「俺の勝手な一存で考えたことだ。そもそも論なら俺に責任がある」

 

「同意して行動した時点であなたと同じだわ。この件に関していえば……」

 

「ふ、二人とも」

 

 

まだまだ雪ノ下は何か言いそうだったが、戸塚はそんな俺たちを見て笑った。

 

 

「付き合っているのに全然変わらないね」

 

 

最初は小さなものだったが、やがてこらえきれないと言った様子で笑う。

 

 

「さいちゃんの言う通り、変わらないよねこの二人」

 

「こいつららしいね」

 

 

俺は静かに席に座った。女性陣楽しそうですね、僕はといえばもう帰りたいです……。サウナでばれた時よりも恥ずかしい。

戸塚はひとしきり笑いが終わったのか、目元を拭った。

 

 

「確かに今練習できないことは辛いけど……謝罪の気持ちならもう貰っているから」

 

「え? そうなの?」

 

「うん今年のテニス部の予算1.5倍になってるんだ」

 

 

プリキュアもびっくりの癒しの波動。さては四人目のプリキュアだな? 最近は男のプリキュアもいるし。

 

 

「いろはちゃん、それってしょっけんらんよう? ってやつじゃないの?」

 

「ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ」

 

「普通に犯罪なんだよなぁ、誰だよこの子にこんなこと教えたの」

 

「お兄ちゃんなんだよなぁ」

 

「うわ、やっぱこの兄妹似てる! この腐り具合とか特に!」

 

「似なくていいところが似ているのよね」

 

「俺はそんなところも素敵だと思うっす」

 

「おい大志。貴様まだ……」

 

「あんたね……」

 

さすがに二度目は見逃されず、川崎の軽いげんこつを食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

七月に俺ガイル放送されるみたいですね!

コロナなんであんまり期待はしていませんが……そもそもまだ完結後の余韻に浸りたい自分もいまして……

うーんとりあえず読み直すか。

 

@1oRurJEWKFLjEnA

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